Ace Combat インデペンデンス・デイ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二話 破滅の前兆

 

 

カルフォルニア州

トラヴィス航空基地。

 

待機場にある電話機から繋がる先は何とアメリカ合衆国のホワイトハウスだ。大統領官邸も兼ね備える巨大な政府施設に私用で電話するなどと最初は恐れ慄いたものだが人間なれるもので電話対応してくれる警備の担当者とはほぼフリーパスですぐに大統領官邸へと直結してくれるくらいだった。

 

 

「やぁ、ラリー。休暇中に仕事を頼んですまないな」

 

「兄さんこそ、目の下の隈が消えて無い声がしてるよ」

 

 

数回の保留コールの後、出たのはトーマス・J・ホイットモア大統領。俺の血の繋がった兄だ。

 

どうやら向こうは仕事をしながら食事を取ってる最中で時折咀嚼音と飲み物を飲む音が聞こえてくるが兄の多忙さを知っているが故に気にしない。俺自身も道中で買ったバーガーをモリモリ食べているしな!!

 

 

「連日の支持率低迷の報道に参ってるだけさ。こっちは穀倉地帯の干魃対策に必死だっていうのに、都会人は税金の話にしか興味がないらしい」

 

「みんな、今を生きるのに必死ってことだよ」

 

 

当選時は若くフレッシュな政治施策を提案してきたトーマスだったが、議会や与党内部の派閥争い、圧力や内部工作を受けて方針を保守的なものに転換。すると今度は市民からのバッシングと支持率低迷の連日報道だ。

 

おかしくならない方が怪しい。

 

普段は気丈なトーマスもすっかり参っているように見えた。

 

 

「……たまにラリーが羨ましく思うよ。パイロットだった頃は、閣僚や官僚たちに気を配る必要もなかったし、こんな豪勢なディナーじゃなくてバーガーとポテトで騒げたものさ」

 

「兄さん……」

 

「すまないな、ラリー。お前にいらない心配をかけた」

 

 

電話越しに聞く兄の声はひどく弱々しく聞こえた。身内だからこそ見せる弱みでもあるのだろう。兄は昔からそうだ。責任感があるくせにそれを他人に委ねるのを苦手とする抱え込みタイプ。内部圧力で方針を変えた時も相当荒れていたが、今は荒れる気力すらないらしい。

 

 

「いっそのこと、全部投げて逃げちゃえば?」

 

 

俺は思わず、兄にそんな言葉をかけてしまった。

 

大統領という責務も、両親からの期待という名の重りも、政府からの重圧もすべて捨てて。

 

おそらく……あと数日で消し飛ぶ何もかもを投げ出して逃げてしまえばいいじゃないか、と。

 

それは、〝すぐそこに迫った〟未来を知るゆえに思ってしまうことだ。

 

本当なら、こんなことを兄に言うなど最低なことかもしれない。だが、幼い頃から兄として親しく交流していたトーマスがこんなにも弱り切ってある姿を見るのは精神的にもキツいものがあった。

 

だが、トーマスは電話越しで苦々しく笑うばかりで苦しくて辛いばかりの大統領の責任を放り出す気は無かった。

 

 

「それができれば苦労はしないさ」

 

 

捨てるには、もう多くのものを背負いすぎたのさとトーマスは言う。頼れる仲間や同僚。支えてくれる議員たち。そんな彼らを裏切るような真似などできない、と。

 

それでこそ、トーマス・J・ホイットモア大統領だと誇りにも思うし、それによって負うことになる心の傷も心配ではあった。

 

すると電話の向こうが途端騒がしくなった。替わるかい?というトーマスの声が遠くから聞こえたと思ったら、受話器から擦れるような音を立って女の子の声が聞こえてきた。

 

 

「ラリー叔父さん!!」

 

「パトリシア!元気にしてるか?」

 

 

トーマスと、ファースト・レディであるマリリン・ホイットモアの間に授かった一人娘であるパトリシア・ホイットモア。彼女とも随分会っていない。最後にあったのはトーマスが大統領に就任した記念式典だ。電話のたびに彼女はトーマスに替わってと強請るらしい。叔父さんが嫌われてなくてよかった。なんだったらジェシーおいたんって呼んでも……いや、だめだ。恐れ多すぎる。

 

 

「今日は夜更かししていいってパパが言ってくれたの」

 

 

だから通信テレビでカートゥーンを見るの、と楽しげに言って電話をトーマスに戻したパトリシア。うむ、マリリンからは夜ふかしはあまりさせないようにと常日頃から釘を刺されているトーマスは居心地が悪そうに

 

 

「マリリンがいないときだけさ」

 

と、小さく言い訳をした。

 

 

「オッケー、秘匿事項に追記しておくよ」

 

 

そう返すとトーマスは久しぶりに笑ってくれた。そこからもう少し話そうかというところで大統領官邸に秘書が入ってくる。電話の向こうで話し声が聞こえると、トーマスはやれやれと言った様子で受話器を耳に添えた。

 

 

「弟とのんびり電話をしている暇もないわけだ」

 

 

すると、こっちも同じタイミングでアーミーグリーンの制服を着た士官が俺を迎えにきていた。出入り口で待っている士官にアイコンタクトをしてもう少しで終わると伝える。

 

 

「では大統領。ファースト・レディのことはお任せを」

 

「よろしく頼む、ラリー・L・ホイットモア少佐」

 

 

ふざけたように言ったら思いの外ノッて返されたので吹き出すと、トーマスは不満そうに「笑うなよ」とだけ言って電話を切った。

 

受話器を戻し、俺も呼びにきてくれた士官の後に続く。すでに着替えは済んでおり案内された先はヘリポート。コクピットに乗り込み離陸準備をしていると、ファースト・レディであるマリリンがやってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

マリリンによる大統領夫人演説の最中に、それは来た。ヘリポートで繋ぎっぱなしにしていた回線からノイズが走ったと同時に、大統領夫人演説の通信回線も異常をきたしはじめたのだ。

 

俺はすぐに、あらかじめ登録していた電話番号へと通話する。数回のコールの後留守電に繋がるが、構うことなくリトライ。回数が50を越えようというタイミングで相手はやっと電話に出てくれた。

 

 

「おはよーう!ディヴィットくん!」

 

「これはこれは……大統領の弟であるラリー・L・ホイットモア氏ではないですか」

 

 

うん、完全に声が不機嫌のそれだ。だが怯みはしない!俺は学生時代に知り合った野心を持たない天才、ディヴィット・レヴィンソンへ矢継ぎ早に言葉を吐く。彼が俺や兄であるトーマス……こと、ホイットモア兄弟を毛嫌いするには理由があった。

 

 

「まだ兄さんとコニーの事、根に持ってるのか?あれは誤解だってわかってるだろう?戦闘機訓練後にわざわざ講演会場に呼び出されて仲介役をやったのは誰か忘れたか?」

 

「……忘れてないよ」

 

 

ディヴィットには現在は離婚しているが、コンスタンス・スパノ……もとい、コニーという美人な嫁さんがいた。そんな彼女の仕事は政府高官。しかも大統領司書官だ。トーマスが大統領になる前から仕事上で支えていた彼女の姿を見て、ディヴィットはトーマスとの不倫を勘ぐったのだ。

 

結果、コニーと兄の身の潔白を証明するために軍事教練中だった俺が兄から直々に呼び出しを受けて仲介役となったのだ。今思い出してもクソッタレな思い出だ。痴話喧嘩は犬も食わないとはよく言ったものだ。

 

そんなことよりも、と俺は過去の因縁を頭から追い出してすぐにディヴィットのメールにある〝データ〟を送る。

 

 

「ディヴィット。衛星通信の電波が何かに妨害されてないか?」

 

「なぜ知ってる?」

 

「軍が動いている。俺は知り合いのアンテナ屋から情報を仕入れた。今はファースト・レディのタクシーやってる片手間でお前と一緒に作った解析機で……」

 

「待て待て、一緒に?ほとんど僕が組んだぞ?」

 

 

はっはっはっ、面白いことを言う。仲介に入ったのも何かの縁だと彼を慰めるついでにディヴィットが当時取り組んでいた暗号通信解析機の手伝いをしたのだが、まさかそう言われるとは考えていなかった。

 

 

「あー、まぁ言葉のあやだ。ちなみに俺も特許と開発費の資金調達とアイデア出しもやってるぞ?この議論で待機時間を全て使うことができるけど、さっきの話に戻してもいいか?」

 

「……わかった、続けてくれ」

 

 

眉間を揉むような仕草をするディヴィットの姿が目に浮かぶようだ。俺は触りのデータを送ったことを伝え、ディヴィットにメールを見るように伝える。うんざりした様子でメールを見ていた彼だが、すぐに息を呑むような音が聞こえた。

 

 

「この信号データだが、どうやら一定周期を持ってるバイナリーデータにも見える。ディヴィットの方でも解析できるか?」

 

「データは?」

 

 

やろうという言葉を言う前にデータを要求しますか。当時最新鋭の端末からデータが送信されたのを確認してから俺は「もう送った」、と伝える。

 

 

「オーケーだ。解析をしてみよう」

 

「頼んだよ、天才」

 

「おい!今度その呼び方をしたら……」

 

 

ディヴィットの言葉を聞き終わる前にさっさと携帯を切る。天才とは俺が彼と共に作業をこなしてきた最中で呼んでいたあだ名だ。心底ディヴィットは嫌がっていたが面白がって呼んでいるうちに慣れたようだ。今も言ったら怒られるが。

 

 

「お待たせ、ラリー」

 

 

通話を終えたタイミングで音声不良に陥った会場からマリリンが出てくる。どうやら不良はあったものの講演会は無事に終了したようだ。

 

 

「お疲れ様です、講演会はどうでした?」

 

「干ばつ被害よりも高速道路の補修の方が優先だろ?って言われたわ」

 

「……大変そうですね」

 

「これが仕事よ。次はロサンゼルスの市議会院にお願い」

 

 

そう言ってお付きのSPと共にヘリに乗り込む大統領夫人を確認して、俺もコクピットへと乗り込む。

 

だがヘリはロサンゼルスへ向かうことはなかった。飛行の最中、ディヴィットが脅威的な速度で解析を終え、すぐに安全な場所に行くよう指示を出したからだ。

 

そして俺と大統領夫人は空から稲妻と大気の摩擦熱による炎と共に現れる巨大な〝何か〟を目撃したのだった。

 

 

 

 

 

 

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