「a」
彼女が彼の前で初めて発した言葉はそれだけだった。白い髪に青いメッシュが入った髪は後ろでポニーテールで巻かれている。浮世離れした白く透き通る肌、青く光る目、そして牙のようにギザギザとした歯が少し垣間見える口。肩に白のフリフリがついた白いシャツの上にデニム生地の青色ジャンパースカートはか細い彼女の体を覆っている。足元は涼しげなビーチサンダルのみで夏を感じさせる。彼女の何もかもがどう見ても特徴的だが、今まで上げた特徴が全部色褪せて見えるほど頭の上の猫耳と、スカートの中から生えている海洋生物のような大きな尻尾が主張強く存在する。それらは一瞥しただけで彼女がこの辺りの人間?出ないことを物語っていた。日本の生活道路の十字路の真ん中で首を傾げながらる○ぶをクルクル回す彼女を通り過ぎる主婦の皆さんは怪訝そうな顔をして横目で見ていく。彼は散歩していた時にそんな状態の彼女を見かけた。見かけてしまったというのが正しいのかもしれない。そして声をかけたのだ。
「大丈夫?」
年下女児に話しかける。もし彼が20を超えていたらすぐ通報されていただろう。しかしながら彼はまだ中学生の終わり程度の年齢であるのでぱっと見どこかに知り合いのおにいちゃんに見える。そして上記の通り彼女は答えた。
「へ?」
彼が想定した反応よりも素朴な反応で彼の反応もそれにつられてしまう。彼女は口を大きく開けたまま少し上を見て完全にフリーズしていた。フリーズは五秒ほど続いた。
「…a- どうもー、サメでーす。」
フリーズから復帰するように話した彼女はフラットな発音の日本語でそう挨拶した。彼女の目の前でつられるようにフリーズしていた彼だったが自己紹介に反応して彼も動き出した。
「あ、どうも、えっと谷郷です。」
静から動へ。唐突な動きによって引っかかりのある自己紹介になった。彼女はそれを聞くとまた「あー」と声を出して何かを考えているようだった。そして彼に自分の持っているマップを見せるとある一点を指した。
「こーこ、どこ?」
彼がマップに目を近づけてみると彼女が小さな手で示した場所はこの街の中心的な駅の場所だった。駅はここから歩いて20分ほど、そこそこ遠いしこの辺りは複雑な街の構造をしており迷いやすい場所だ。土地勘のないように見える彼女であれば迷うのは当然のことだろう。
「駅ですか。それならあっちの方ですね。」
彼は四叉路の1方向を指さしてそう言った。彼女はどれほどその言葉を理解しているかはわからなかったがジェスチャーを見て大体いいいことはわかるようだった。
「あーthis way?」
英語でこっちなのかと彼女は聞いたが彼には何を言っているのかよくわからなかったが彼女が自分と同じ方向を指さしているのを見てどうやら伝わっているらしいということを理解した。彼女はthank youと言って一人でその方向に歩いていこうとする。彼はその後を追った。幼い女子を一人で歩かせるのは日本といえどままならない。それがどう見ても海外の人間であれば尚更だ。
「一緒に行こうか?」
後ろから声をかけるとサメと名乗った少女はあは?と振り向いた。
「えっと、、案内するよ。」
英語ができない彼はとりあえず日本語で説明する。その後、彼女の前に立って手招きをすると彼女はトコトコ後ろをついてきた。彼と彼女は横ならびになり、駅に向かって歩き始めた。歩きながら彼はほぼ初めての外国人相手にどう話を振ろうか悩んだ。簡単な日本語もしくは英語で聞けるようなものであり、なおかつ相手に不快な思いをさせないような質問を彼は悩みに悩んで質問を投げかけた。
「ウェアあーゆーフロム?」
カタコトでネイティブには程遠い英語がでた。ギリギリ意味が通じるかどうかの瀬戸際。どうやらどうにか伝わっているようでサメと名乗った少女はそれにうんうんと相槌を打ってくれている。
「Ατλαντίς」
「アトランティス?」
彼はその名前を聞いて昔読んだ本のことを思い出していた。かつて大西洋上に存在し、最先端の技術を持ち大都市を築いていたと言われているがなんらかの理由で海の底に沈んでいったと言われる伝説の島。それがアトランティスだ。もちろん伝説であるし、実在したと言う証拠は今までない。何かしら海外的なジョークなのかと彼は思った。何も話さずに歩くと言うのは人がいるとどうしてもなにか肩身の狭い気分になってしまうことに気がついた彼は拙い英語でわかるもう一つの質問をここで使った。
「はうあーゆー?」
初歩の初歩である質問であるが彼女はそれを聞いた時少し頭を傾げてからはっ!と何か気がついたような顔をした。そして自信満々にこう返した。
「まあまあ、です!」
してやったりと言う顔をしている。とても愛くるしい顔と声で元気一杯にまあまあと言われてしまった彼はまあまあってどう言うことなんだと思いながら、それよりも彼女が日本語が少しでもわかることに驚いていた。初めの自己紹介はまだしもなかなかまあまあって言える外国人はいない。
「日本語わかるの?」
「あーちょっと?だけ?」
今度は自信なさげに語尾に?をつけながら答えた。
「じゃあ、なんで、日本に、きたの?」
彼は足取りに合わせるようにゆっくり、分節を切りながら彼女に聞く。
「あー、sightseeing」
彼女があらわした観光という単語の意味を彼はどうにかわかった。昔海外に行くわけでもないのに読んだ海外旅行で使える英語10選に入っていたのだ。
「どこ回るの?」
「tokyo! osaka! kyoto!」
彼女が元気よく答えた地名はどれも海外観光客の名物観光地であり、日本人では観光地兼大規模都市として名だたる場所であった。確かにその三つを回れば土産話だけで関税に止められるレベルの思い出を作れるだろう。ニコニコ顔彼女からは楽しみにしているということがひしひしと感じられた。彼はより一層彼女を同伴者のもとへ届けなければと心で小さく決意するのだった。
ある程度歩いていると先ほどと同様の見覚えのある状態である今度は黒色の少女が見えた。中学生ほどに見える彼女もまた四差路できょろきょろしているが彼の隣を歩いている猫耳としっぽのある彼女よりもずいぶんましな恰好ではあった。淡い紫のストライプのクレリックシャツは首元の襟だけが白く、その間にある黒色のリボンによく目が行く。そのクレリックシャツの上からきている黒色の大きなワンピースは膝まで伸びており、彼女の髪の毛もほぼ同じ位置まで伸びている。髪の毛の上には五つの四芒星が連なった黒い髪飾りがつけられており、頭頂部から後頭部に引っ掛けるように黒色のベレー帽をかぶっている。変わっているのはおっとりとしたかわいい顔の横に存在している二束の髪の毛ととがった耳だ。肩に掛けたピンク色の四角いバックは大きな単行本が一つ入りそうなサイズをしている。黒い彼女はこちらを見つけるとはっとした表情をした。
「a! ina~!」
一瞬自分を見ているのかと思った彼だが隣の彼女の反応でそれは杞憂であったと瞬時に理解する。トテトテと走って黒髪の少女に青髪の少女が近づいてく。二人がそろうと年が少し離れたいとこのように見える。
「where did you go, gura!?」
黒髪の少女はサメと名乗った少女を探していたようであった。
「a-,sorry ina. I played sounds game…」
青髪のサメ少女はバツが悪そうに眼をそらしながら答えている。黒髪少女の方はwhats!?みたいな反応をしているがサメ少女の方はそれを取り合う気はなさそうに横を向いてベロを小さく出している。
ひとしきりお小言が終わったのか黒髪少女は「はぁ」とため息をついて、サメ少女に手を出した。サメ少女もその手を握り二人仲良く手をつないで歩いて行こうとした。その一部始終を少し遠巻きに見ていた彼はきちんとサメ少女が同伴者に会えた安堵感と達成感を感じていた。あとは彼女たちを見送って自分は元の散歩に戻ると思っていた彼であったが、サメ少女がこちらを指さしているのが見えた。きっと今までの経緯を話しているのだろう。二人で手をつないで近づいてくる。こうなってくると一言挨拶程度しておかないといけない。目の前まで近づいてきた黒髪少女に目を合わせると何か背筋から変な汗が出るのを彼は感じた。そんな恐怖感とは裏腹に黒髪少女は丁寧に彼にお礼を彼に伝えた。
「あの、ぐらをここまで連れてきてくれてありがとうございます。」
黒髪少女は流ちょうな日本語とともに深々とお辞儀をした。彼もそれに対してあ、どうもと会釈した。
「えっと、お姉さんですか?」
黒髪の彼女をみながら彼はあからさまに家族ではなさそうであるがとりあえず聞いてみる。
「いえ、私は彼女の友達です。」
「あ、お友達なんですね。」
丸く優しい声でしゃべる彼女に彼はなぜか敬語になってしまった。そんか堅苦しい二人をよそに青髪のぐらとよばれた少女はギザギザとした歯を覗かしてニヒニヒと笑っている。
「what’s gura?」
「I’m nothing old sister.」
首を振りながらも彼女はニヤニヤ笑うのは止まらない。黒髪少女はそんな少女を横目に彼と話を進める。
「私は
「谷郷です。」
黒髪少女は伊那尓栖と名乗った。彼も自分の名前を名乗り返した。せっかく彼女の名前を知ったところだが彼にはもう特に彼女たちに用はない。挨拶もすましたので散歩に戻ろう。
「そしたらもう大丈夫ですかね?」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。Gura you must say thank you.」
「a- thank you.ありがとうー」
「いえいえ。それでは」
軽く彼女たちに会釈をして彼は今来た道を戻るように歩いていく。彼の背中に向けて黒髪少女はまたお辞儀をして、サメ少女は手を挙げてぶんぶん振っていた。
彼が歩きながら少し後ろを振り返り、前を向きなおしたとき、地震の前兆のような微弱の揺れが地面をたたく。その揺れは次の瞬間には地面を突き破るような突き上げる揺れに変わった。彼はたまらずアスファルトに膝をつくと、ゴゴゴゴゴという鈍い音が地面の中から聞こえてきていることに気が付いた。それはだんだん近づいており。それに合わせて揺れも強くなる。そして彼の目の前にアスファルトを吹き飛ばして超巨大な何かが飛び出してきた。
「うわ!」
彼は飛び交う粉塵を体を縮めて回避する。目をつぶってほこりが入らないように隠れているうちに地面から飛び出したなにかは20階建てのビルと同じサイズになっていた。ひっくり返した地面のかけらは周囲に降り注ぎ、車をつぶし、電柱をなぎ倒していく。彼の真上にも5メートルほどあるコンクリートの塊が落ちてきた。彼はそれに気が付かず頭を抱えている。彼の頭にコンクリの塊が当たり、スプラッターな映像が出来上がる瞬間。その場にとどまろうとする彼の踏ん張りよりも遥かに強い力が彼の背中を引き、後方に10メートルほど吹き飛ばされた。
「っ、、、ごほっ!ごほっ!!」
背中に感じた衝撃に痛みを感じながらもなんとか体を持ち上げて前を見ると、彼がうずくまっていたところにはいびつな形をしたアスファルトの破片が山積みになっていた。あと少しで自分が死んでいたかもしれないということを一瞬のフリーズの後に気が付いた彼は身の毛もよだつようだった。