額から汗を垂らしながらも後ろを見ると彼女たちは先ほどとは服が変わっている。遠巻きから見て最も存在感があるのは伊那尓栖の後ろに存在する無数のタコの足のようなもの。一つ一つが人一人かそれ以上のサイズであり彼女の後ろを波打つようにうごめいている。そんな奇妙なものの前に立っている伊那尓栖の格好は体に密着する黒いミニドレスで腰回りを包むように白い羽が背中から回っている。左足のみに白いニーソックスが履かれており、上部を紫の紐で留められている。頭の上の髪飾りは金色に変わり頭の上には光輪が浮かんでいる。ぐらも夏を思わせる格好から青いパーカーに着替えており、パーカーのフードには耳のような形で両方の側面に魚のえらの形の突起が出ており、おなかには大きく開いた口のような柄が入っている。
「大丈夫ですか!?」
伊那尓栖が彼に声をかける。幸い彼の体にはけがはなかった。衝撃の痛みも時間に連れて弱くなっていき少しづつ体を動かせるようになった。彼は立ち上がり自分が向かおうとしていた方向を見るとそこには『なにか』がいた。名状しがたいその存在は外形をとらえることが困難であり彼が見てわかるのはそれが巨大であり、矮小であり、盲目であり、無貌であった。それ見ている彼はさっき黒髪の彼女に感じた恐怖、狂気の数十倍、いや数百倍の畏怖を感じていた。ぞっとするなんてものじゃない。想像を絶する恐怖は彼の体をむしばんでいく。
「あ、あああああ。。。。」
彼の意志とは別に口が開く。振り絞るような声が自動的に喉の奥から無理やり出ていく。頭で何も考えられない。彼の頭に響くのは狂え狂えという言葉のみ。反復横跳びのように反響するその言葉はだんだんと外形を失い言葉ではない言葉となる。それに比例するように彼は何もかもを見失っていく。あと一歩ですべてが虚無になり、狂気だけで満たされるというとき。いきなり今までのすべての感情が消えた。彼が顔を上げるとそこには先ほどまで後方にいた伊那尓栖とぐらがいた。
「あーだいじょうぶー?」
青色のパーカーを身にまとったぐらがしゃがんで彼の顔を覗き込んでくる。
「あ、ああ大丈夫」
彼は体中から噴き出している汗を少し拭って生唾を飲み込んで落ち着きを取り戻す。
「あれをあまり見ないでください。私たちの近くにいれば影響はほぼないはずですがあまりよくないので。」
伊那尓栖は『あれ』を見つめながら彼に注意を投げかけた。彼女にはあれに見覚えがある。具体的には彼女の後ろにいる何かの記憶の中にそれはいた。あれは狂気をもたらすもの。あの形の『あれ』は『あれ』を認知した人間を狂気に陥れる性質がある。
「これがsan値がピンチってことね。」
真面目な顔で一人でつぶやくが誰もくりとも笑うことはなかった。
正面にあらわれた『あれ』はゆっくりと移動を始めていた。周りにあるものをすべて破壊しながら進む『あれ』の後ろに残るのは瓦礫の山のみだった。
「早く逃げないと!」
立ち上がれるようになった彼は青色の彼女の手を引いて後ろに逃げようとする。しかしその腕は普通以上の力で後ろに引っ張られ動けなかった。驚いて後ろを見ると青色の彼女は涼しい顔でその細い手でがっちり彼の手を握っていた。
「私たちから離れないようにお願いします。危ないので」
伊那尓栖のその言葉で彼も悟り動こうとするのをやめた。それを見てぐらは手を離した。その時、彼女たちの頭の中に声が流れる。
『あーあー聞こえてるかしら?』
「アメ?聞こえているわよ」
「はーいアメー」
伊那尓栖は無難な返答を返し、ぐらが元気に挨拶をする。
『それはよかったわ。でっかいのはもう見えているわよね?』
でっかいのとはあのどでかい何かを指しているのだろう。
「そうね。私たちは今その目の前にいるわ。」
彼女たちの目の前に存在する『あれ』は周りを壊しながら彼女たちの方へ向かってきていた。目測で距離は300m、うごきはゆっくりであるので押しつぶされるまでには相当の時間がある。
『伊那尓栖にはそのでっかいやつの相手をしてほしいの。同じ規模の大きさを出せるのはあなただけでしょ?』
「胸は小さいけどね。」
ぐらが笑いながら皮肉る。
「わかったわ。でも今私たちのもとに一般人が一人いるのだけど。」
『その人の守備はぐらがやってもらえる?』
「はーい!ぐら頑張ります!」
『じゃあそういうことで。時期にタカモリもつくと思うわ。』
「そういうことで、ぐら。頼んだわよ。」
伊那尓栖がぐらを見るとぐらは胸を張って自信を表す。
「私に任してよ!完璧に全部倒してあげるわ!なんたってapex pledeterだもの!」
「それは頼もしいわ。じゃあ私行くわね。あとぐら、あなたもぺったんよ。」
それだけを言い残して伊那尓栖は空へ飛んで行った。ぐらはその背中にnooooo!と叫んでいたが聞こえないようだった。
一連のやり取りを頭の中に語りかける声もわからず、英語もわからない彼は茫然と立ち尽くしていたが伊那尓栖が空に浮かんで飛んでいくのを見てどうやら本当に彼女たちが普通の人間じゃないことを理解した。
「えっと、、さめちゃん?彼女はどこへ?」
「あー、I will protect you!」
自信満々の顔で胸を張り、手を置くぐらに彼はお、おーけー以外何も言えなかった。
ぐらと離れた伊那尓栖は『あれ』を挟んで反対側まで飛び『あれ』のせいで更地となった地の上に浮かんだ。どこからか紫色の本を取り出し宙に置くと彼女の眼前に本は浮かんだ。深い紫の単行本のほんのたびには「このネクロミコンがすごい!」とポップなセリフが書いてある。伊那尓栖がその本に手をかざすと本は一人でに開きバラバラとページがめくられていく。あるところで止まったページは青白い光を出した。
「さあ、来なさい。タコダチ達!」
それに呼応するように彼女の後ろに存在するタコのような触手は巨大に伸びていき、数も増えていく。伊那尓栖を中心に放射状に広がった触手はあっという間に『あれ』と同サイズになった。
『あれ』は向かっていた方向への進行を止め、反対方向を向いた。繊維質な巨大などろどろとした糸が大量に絡み合うように作られた体は様々な部分から恐竜の腕のようなものや爪が付いた獣の足のようなものが飛び出している。極めつけに頭のような上部の部分には赤く光る眼球が存在している。ゆっくりと彼女とその後ろのものに近づく。距離が30m切りそうなあたりで『あれ』も彼女も巨大な触手を相手に伸ばし、正面から当たった触手と触手は絡み合い拮抗した。
「くっ…!!」
下に伸ばした触手で体を無理やり固定し『あれ』の進行力をすべて受け止める。『あれ』もロックされて動けない中、無理やり吹き飛ばそうと触手に力を加えていく。
『伊那尓栖?大丈夫?』
伊那尓栖の頭の中にアメリアの声が響く。
「大丈夫よ。タコダチのみんなが頑張ってくれているから。」
高速で触手が伸びてはそれをはたいて落とすという攻防が巨大な二つの物体の間で繰り広げられる。
伊那尓栖が巨大な奴と対峙しているころぐらは彼のそばにたっていた。正面に向かってきていた巨大な『あれ』は逆方向の伊那尓栖に向かったが流動性の体から文化した二体の小型の『あれ』が向かってきていた。
『ぐら。聞こえる?』
ぐらの頭の中にもアメリアの声が響く。
「聞こえてるよ!」
『目の前から来てるのが見える?』
流動性を保ったその二体の小型の『あれ』は巨大な『あれ』よりも格段に速いペースでぐらのいる方へと近づいておりその距離はもう100mを切るようだった。
「ええ!目の前からどんどん来てる!」
『そうね。そしたらそれを倒しちゃっていいわ。ぐちゃっぐちゃにして五体満足で返さないようにしなさい。』
「おーけーアメ!」
彼女が右手を横に出せば彼女の身長よりも大きい水色のトライデントが握られる。上半身を前に傾け、片足を半歩下げて前の足に体重をかける。彼女は顔を下から前にゆっくりと挙げながらシャァーーと白い息を吐いた。前を向いて思い切り食いしばれば上下のギザ歯がきれいに並び、目が赤く光る。次の瞬間、彼女は高速で前方に飛んで行った。戦闘機も超えるほどの速度で飛んで行った彼女は右側を進んできていた『あれ』の側面に入り込んだ。
「ハァイ、マザーファッカー」
そうつぶやくとGuraは握っていたトライデントで『あれ』を横なぎに吹き飛ばす。吹き飛ばされた『あれ』は勢いに任せて民家の二階の壁を突き破り中に入り込む。それを追うように彼女は倒れている『あれ』の上に降り立ち、足で踏みつける。その顔は先ほどまで、にこやかに元気な受け答えをしていた彼女とは打って変わり、目は赤く光り、冷酷無比な表情になっていた。
「はぁあ、久しぶりに出番か。。あいつも今日は思う存分やっていいって言ってたし、、、すぐに倒れるんじゃねえぞ。」
にやりと笑った口からは肉食動物特有の鋭い多生歯性の歯が見える。踏みつけにされた『あれ』はまた動き出そうとするが彼女の踏みつけている強靭な足に身動きが取れない。彼女が足元にいる『あれ』に気を取られていると背後にもう一体の『あれ』が回り込み、彼女の背中に鋭くとがった触手を突き立てる。彼女はそちらを一瞥もせず真後ろにいる『あれ』にトライデントを突き刺した。
「バレバレなんだよそんなんじゃ。Hahaha」
高い笑い声がこだまする。触手を刺す前に自分が刺された『あれ』はもがいた後に体を完全に流動体に変えて下に落ちていった。彼女の足元にいるもう一体の『あれ』も彼女の足に触手を絡ませてきていた。
「おいおい、マジふざけんな。きたねえだろ」
足を思い切り持ち上げると絡みついた触手が離れていく。両足を持ち上げたすきに足元の『あれ』はするりとその束縛から逃げ出した。
「あ、逃げるな!」
先ほど突き進んでいた道に『あれ』は戻ると今度は立ち尽くしている彼の方へ向かって動き出した。
彼の眼前に見たこともない恐怖が襲いかかる。あと数mでそこ触手が射程圏内に入るではないかという距離まで彼に詰め寄る。小型と行ってもそのサイズは5mを超えており、彼の身長の3倍ほどの高さがある。前方を走る『あれ』の触手が伸びようとしたとき、『あれ』らの後方で空に光る赤いその目から放たれたトライデントが青い光となって前方を走る『あれ』を貫く。槍によって地面に縫い付けられて動けなくなった『あれ』の後ろからもう一体の『あれ』が現れる。地面に倒れ込んでいる仲間を足場にしてそのまま直線で彼に向かう。トライデントを射出した後もまだ宙に浮いていたGuraは大きく手を開くと空気を思い切り蹴り出し、尻尾でバランスをとりながら高速で彼の眼前まで来ていた『あれ』に近づくと勢いそのままに抱きつくような形で腕を締めると強張った手で流動性の高い体を引き裂いた。
『あれ』の体を突き抜けたぐらは足で地面に着地するとそのまま滑り込む。大量の粉塵を巻き上げた中でバラバラになった『あれ』は十数個の破片になって床に落ちた。しかしながら『あれ』はバラバラになった破片が集合し、形を戻そうとしていた。
「ハッハ、なかなかしぶといな。」
彼の前に立つ彼女は彼が後ろから見ても一目で別人と思うほどにまとう雰囲気を変えていた。何かを一人で話す彼女の言葉は英語で聞き取れなかったがその深く冷たい声色で彼女が変わっていたことを察知した彼は彼女に何も声を掛けられなかった。
「そろそろこのクソ人間を守るのも飽きちまったから…くたばってくんねえかな。」
冷酷にそう宣言したGuraは目の前で再生途中の『あれ』に片手を突っ込み一番上に存在する頭と思われる部分をつかみ、ねじ切り、引っ張りだした。飛び出したものは心臓のように拍動しながらも一つの目が付いている。それは名状し難い頭のようなものであった。集合しつつある『あれ』はそのスイカほどのサイズもある頭のようなものを取り返そうと多数の触手を彼女の手に伸ばしてくる。それをもろともせず、彼女はそのグロテスクなものを口元に持っていくとそのまま大きな口を開けて頬張る。
「あーーーーん」
一口に口の中に入れたそれを彼女はほほをぱんぱんにしながら租借する。彼は目の前で行われているあまりにも衝撃的な光景に背を向けた。ぐちゃぐちゃという音を立てて口の中でかみ砕かれて小さくなった『あれ』の残骸はゴクリ、という音とともに彼女の体の中に消えていった。
「ぷはあ、これまっずい。」
食した後とは思えない辛辣な言葉を第一声に持ってきた彼女をよそに頭のようなものを取り返そうとしていた『あれ』の残骸は力なく床に広がりもう動く気配はなくなっていた。目の前の巨体が消えるとその後ろの道にはあるはずの小型のもう一体の『あれ』はきれいに消えており、残っているのは道の中央に斜めに突き刺さったトライデントのみだった。
「a,???」
口の隙間から緑色の謎の液体を垂らしながら彼女はいつもの無邪気さに狂気を三乗した顔で首を傾げた。袖で口元をぬぐいながらてくてく歩いていき突き刺さっているトライデントを周囲のアスファルトごと引き抜いた。。
「どこ行ったのー?出ておいでー?」
彼女は歩きながらまるで飼い猫を探すのか如く声を出していた。その声に反応したのか彼女の前方に黒い霧の渦が巻いたあと、その中から長身痩躯の男のシルエットが現れた。男は上から下まで長い黒色の布のようなものを纏い、顔の外形は見えず、ただ黒い背景に黄色い双眼のみが浮かび上がっていた。ぐらはその男にHai fuckin menと声かけた。またしてもそれに対して反応はないかと思われたが今度はそうではなかった。
Guraが地上で猛威を奮っている頃、迷探偵アメリア・ワトソンはビルの屋上でパイプ椅子に足を組んで座っていた。彼女の右手には懐中時計が握られており、定期的に手持ち無沙汰を感じてはその頂上にあるペンダントの部分をダブルクリックしていた。彼女の立ち位置からは巨大なタコと『あれ』の戦いは全貌をとらえ、小さなサメの奮闘も見えていた。
「あーん、そろそろ彼女たちを呼ぶべきかしら。」
彼女は懐中時計から虫眼鏡に持ち帰るとそれを仲間たちの方へ向ける。戦う彼女たちを見ると望遠鏡のように拡大されて見える。伊那尓栖と巨大な『あれ』の間では高速で触手が交差している。伊那尓栖の顔を見ると汗が浮かんでおり食いしばっているのが見えた。
「伊那尓栖も限界そうだし。」
地上の方へ目を写せば小さい『あれ』と戦う小さなサメはどう見てもやりすぎだ。
「ぐらの方もめちゃめちゃね」
アメリアは自分で無茶苦茶にしていいといったがそれがあっていたのか少し不安になった。虫眼鏡を下ろすとhicとしゃっくりが出た。
「私もそろそろ辛いし。」
彼女はパイプ椅子から立ち上がってビルの縁まで行く。暗くなった世界の冷たい風が彼女の背中を通過してここが非日常の場であることを主張する。彼女は耳元に手を当てると誰もいない虚空に語りかけた。
「ふう、そろそろ出番よ。」
それに応えるように彼女の頭上を炎のような橙赤の光と黒紫の光が並行して背後から前方へ光の速さで飛んでいった。彼女はそれを見送るとパイプ椅子に座り直し、また懐中時計を暇つぶしにペンダントをカチカチと押すのだった。
伊那尓栖は単調であるが高度な触手戦を『あれ』との間で繰り広げ続けていた。最初は全ての触手を二体の中間地点あたりではたき落とすもしくは掴んで封じ込めていたが『あれ』の攻撃はだんだん速度もあがり、強靭になっていくが伊那尓栖の体力は長引けば長引くほど落ちていき、触手の動きもレイコンマ何秒単位で落ちてくる。
「くっ…どんどん力が落ちてくる。『我』の力がまだ出しきれないということか…」
この触手たちの感覚は全て伊那尓栖に集まっている。そのおかげで彼女は全ての触手を完璧に操れるが、逆にそれは触手の疲労や痛覚も全て彼女が受けるということだ。人では目で追うこともできない攻防を続けていれば彼女の触手捌きにも荒が出てくる。何百、何千の交差の中、伊那尓栖の触手が一瞬緩んだ。『あれ』はその一瞬を見逃さなかった。直径五メートルほどの触手の束が先を尖らせて中央にいる伊那尓栖の体を目掛けて飛んでくる。飛んでくる触手の射線には防げるようなものは何もなくフリーとなって飛んでくる触手に対して伊那尓栖は小型の触手を大量に絡ませ、すんでのところで動きを止めた。拮抗した巨大な一つの触手と小型の大量の触手は動こうとしようとする力と動かせまいとする力によって拮抗していた。しかし単純な力比べでは疲労を負っている伊那尓栖が不利になる。
「ああああ…」
苦しそうに食いしばりながら伊那尓栖は力を加え続ける。その拮抗が起きている中、彼女の頭の中に声にはならない声が流れてきた。
『貴様は何故そこにいる』
何語かもわからないその言葉は音声として発せられたものではなかったが彼女にはなぜかその意味が理解できた。
「何言ってるの!?」
彼女はその声に伝わらないことを前提で叫んだ。
『もう一度問う、貴様は何故そこにいる。■■■■』
彼女の頭に再び流れた言葉の最後は再現不可能な音を呈していた。そんな鬱陶しさしか感じない声に彼女は再び声をあげる。
「私はここにいるだけ!なんでとかじゃない!『我』がここにいるのは彼女とともにあるからだ。」
彼女の発言に何か別のものが混ざる。彼女自身はそれに気がつく様子はなかった。
『我はこの世界をに狂気と混乱をもたらす。それは貴様にとっても有用であるはずだ。なぜ邪魔をする。』
「そんなことはさせない!我はこの世界に狂気をもたらすことはない。」
先ほどよりも彼女の言葉、声色に何か別のものが色濃く映る。彼女の広い額には四つの小さな目が、背中には小さな羽が生え始めていた。
『自己の目的を失ったか。愚か。』
「我は彼女ともにあると決めた。」
『人などの眷属に降るとは愚かを通り越して恥である。その人間ともども消え去るがいい。』
彼女に向かっていた巨大な触手になお一掃の力が入る。どうにか止めようと周りの触手がまとわりつくが強大な力が入った触手は止まらない。尖り、表面がドリルのように高速で回転した触手が伊那尓栖の体まであと数メートル。もはや止まる気配はないそれに彼女が覚悟を決めた瞬間。オレンジと紫の光が側面から尖り切った触手に衝突し、根本から触手を切り離した。空に浮かぶオレンジと紫の光は触手から離れると伊那尓栖のそばに浮遊した。
「イナ!大丈夫!?」
「どこか怪我ない!?」
伊那尓栖に詰め寄るのは二人。一人は朱色の短い髪の毛にセーラー服の腕と臍部分をちぎり取ったような形の体にフィットする朱色のトップスにミ カートの意味があるのかどうかもわからない丈のマイクロミ カートを履いていた。腰に巻かれているベルトの前方には青とオレンジの枠に明るい緑の光が光っているガジェットが付いているが上からガムテープが貼られ、「使用禁止」と書かれている。
もう一人は腰まであるピンク色の髪の毛の上に黒色のティアラから伸びる薄いベールが髪の毛の上に垂らされている。胸元と足に切れ間が入った黒色のロングスカートは体のプロポーションを存分にうき立たせ所々に入った金の装飾がゴージャス感を演出している。肩にかかった漆黒のマントの端端はちぎれて不均一な辺縁をなしている。手に握られた彼女の身長よりもある大きな黒い鎌は命を狩る形をしていた。オレンジの女性の名は小鳥遊キアラ、黒色の女性の名は森カリオペ。二人とも一伊那尓栖の友達であり仲間である。力比べをやめた伊那尓栖は、いきなりの脱力でゼーゼーと息を吐いていた。その顔には疲れ切ってはいるが安堵の色が見えていた。
「大丈夫。ありがとうカリ、キアラ。」
何回か息を大きく吸って吐いて呼吸を整えると彼女はまた前を向いた。それを見たキアラとカリは一瞬安堵した顔を見せた後に『あれ』の方向を向きなおす。