ホロライブEN 邂逅   作:時夜 蒼真

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下編

自分の3割ほどを使用した触手を切られた『あれ』であったがもうすでにそれを自分の体に結合させ始めていた。

「まだまだやる気らしいわね。」

圧倒いう間に触手は結合し、『あれ』は元のサイズに戻った。

「ねえアメ?私変身していいかしら。」

『しょうがないわね。いいわよ。』

「了解!」

キアラは腰の使用禁止のガムテープを思い切り引きはがした。

 

 

 

『貴様。地上のものではないな。』

長身痩躯の黒い男は赤い目をした青い少女にそう声をかけた。少女はトライデントを床にさして、それに対峙する。

「そうだったり、そうじゃなかったりするわ。でもそんなのはどっちでもいい。早くクワセロ」

赤い目の少女の口から綺麗に埋まったギザギザした上下の歯が均一に機械のように開くと中からシャアア白い息が溢れた。

『何故、貴様のようなものがここにいる。貴様はここのものではないはずだ。』

「うるルサイ!」

床に突き刺したトライデントを置き去りにして数メートルの距離を一瞬で詰めたGuraはそのまま鋭く尖った爪がついた手を黒い男に叩き込んだ。しかしその爪は実質を捉えることはなく空を切った。勢いが止まらないGuraはそのまま彼の体を突き抜け斜めに回転して床に落っこちた。

「ha??」

Guraは立ち上がると頭を傾げて疑問を呈した。

『何故、地に興味を持たない貴様ら種族らがここで戦う。』

黒い男は振り返りGuraのほうを見ると質問を投げかけた。その言葉は彼女の母国の言葉であった。彼女はそれに自分の母国語で返す。

「あんなクソみたいにつまんねえとこのことなんかよりもこっちの世界の方が面白えからだよ!」

再び飛び込み爪を振るうが先ほどと同じ結果に終わる。自分のトライデントの元まで戻ったGuraは床から引っこ抜くと右手に握りこんだ。その時彼女の頭の中に聞き覚えのある女の声が響く。

『ハアイ、アナザーGura。久しぶりの体面に私も興奮しちゃってるわ。』

彼女の頭の中のみで聞こえる声をGuraは無視するかのように黒い男をにらみつける。

『oh~、挨拶もしてくれないのね。まあいいわ。Gura、今目の前にいる黒っぽい人ね。殺すか、死なせるか、半殺しにしておいてくれる?頼んだわよー。』

そのまま彼女は消えていった。一方的に言葉をインプットされたGuraはどうしたものか悩んでいた。やつを食おうとしてもまず触れなければ食べれもしない。やつの体は霧のように薄い。どうしようと悩んでいても奴は勝手に話し始める。

『しかし、貴様が我の眷属を食らったとしても狂気に陥らないのも興味がわく。』

「私もよくわからないわ。前におんなじようなナメクジ野郎を食べたからかも」

現状を打破するために考えていてもしょうがない。そう思い立ったGuraは考える前に動き続けることにした。馬鹿の一つ覚えでまっすぐ突っ込んだGuraはまたしても奴の霧の中に飛び込む。その瞬間、彼女の鼻に何か違和感のするにおいを感じた。その匂いは奴の後方に続いていた。確かめるようにトライデントを構えて二往復目の復路に彼女は飛び込みにおいを感じるとやはり彼のいる真逆の場所。やつらのやってきていた方向に続いていた。何かを直感的に感じたGuraはa-hahというと今度はトライデントを持ったまま前方に縦回転をしながら霧の中に飛び込んだ。二周空中で縦回転をし、霧をに抜けると回転を利用してトライデントを投げ込んだ。弾丸のように飛んだトライデントは50mほど飛ぶと何かにぶつかりはじかれた。何もないはずの場所にゆっくり濃くなっていく影は彼女が突き抜けた黒い男と同じシルエットをしていた。

「見つけた。」

『さすが海に沈みし都の末裔だ。あのナメクジが食べられたのもうなずけよう。』

「食べてやるから楽しみに待ってろよ。haahaha」

狂気をはらんだ笑いをこぼしながらGuraは黒い男にゆっくり近づいていく。しかし奴との間が10mを切ったとき、いきなり足を止めた。いや足が勝手に止まっているように見えた。赤い目の彼女はha?と声を出したがゆっくりと左目のみが青色に染まっていっていた。

「NO!Gura!」

左右の目が赤青とアンバランスになった彼女の口からそんな声が出た。

「なんだ!てめえは寝てろ!」

同じ口から別々の雰囲気の声が流れ出す。

「ダメだってGura!あんなの食べたらおなか壊しちゃうわ!」

「まだ俺の時間だ!俺の勝手だろう!」

「私の体でもあるのよ!」

「ああ!?」

落語のように一人二役を演じ、喧嘩をするぐらであった。こんな変な状態でも敵は構わずやってくる。変身バンクを待ってくれるのはアニメの中だけなのだ。黒い男が前に出した手は触手にかわり、鋭い槍のように高速で伸びる。一人言い合いをしていたぐらはそれにぎりぎりのところで気が付き体を無理やり左側にひねって交わした。

「wow!危なかった!」

「とりあえず話はあとだ!お前も体の半分うまく合わせろ!」

左右の表情筋は別の動きをし、目の赤い右側はほほが吊り上がりギザギザした歯を見せ、目は細くなっている。逆に青い目をした左側はきゅっと結んだ広角に決意の宿った目をしていた。彼女は二人で一人。正反対でも同じサメである。

 

 

伊那尓栖の前に立ち使用禁止のテープをはがしたキアラは左側にある腰のガジェットを思い切り真ん中にスライドさせた。彼女はそれと同時に高らかにこう宣言する。

「変身!!」

途端に彼女の背中から大量の炎が噴き出しあたりをオレンジに明るく照らす。近くにいたカリと伊那尓栖は腕でその火の粉から顔を守り、相対していた触手の塊でさえ後ろに傾く。炎を背にした彼女の体にはそこから分派したいくつかの炎が巻き付いていく。足に巻き付いた炎はオレンジ色の鋼鉄のブーツとなった。オレンジ色基調に蛍光色のライムグリーンの線が縦に入り、足のインアウトサイドに赤い羽根が付いており、飛び出た羽根と靴の間にはロケットエンジンのノズルスカートが付いており、その円の中心部には線と同じ色であるライムグリーンの炎がくすぶっていた。腰の炎は足と同じ材質の金属になり、短パンの形になった。足との間に絶対領域が出来上がり、腰のベルトの紐もメタリックオレンジの重圧なものに変わる。腰の中央部にあるスライドしたガジェットは、さも今起動中であることを示すかのように光り輝いていた。腰の背面には足についていたものより若干サイズの大きい同じノズルガードが二つ横につけられている。腸骨稜から肋骨下縁までは肌が露出されて、胸の周りに集まった炎はチェストプレートとなり彼女の胸をきれいに覆い隠す緋色の鋼鉄となった。チェストプレートにもあしらわれたライムグリーンの装飾は彼女の胸の上を横方向に走っており、淡く光っている。背中まで伸びたその光の軌跡は大型の機械バックパックにつながっており、四角い機械の集合体であるバックパックには後ろ方向へ向かって腰と同じサイズのノズルガードが四つ付いている。そしてその真ん中には淡い光がともっていた。肘から先の前腕は同じ色で同じ柄のグローブに覆われている。顔は緋色のヘルメットに覆われて、前面の眉毛から鼻の間には物見用の穴が空いており、そこには鶸色のガラスのような質感の物質によって埋められキュピンという音共に光が灯った。彼女の髪の毛と同じように緋色から鶸色のメッシュがかかった鳥の翼の形をした装飾がヘルメットの側面につけられる。

ここまでの一連のお色直し、約1秒。変身し終わった彼女は前を見据え、腕を組んで空中に仁王立ちしていた。

彼女から放出されていた炎は一瞬出し切るかのように大きく燃えたあと引いて行った。炎が引いた後の伊那尓栖のタコダチと『あれ』の間にはにはキアラを中心とした大きな空洞が出来上がり彼女のみがそこにいた。その独占領域に入り彼女の隣にカリが後ろから並んだ。「行けそう?キアラ」

「任してよカリ!私が全部吹き飛ばしてあげるわ!」

『あれ』に対峙する二人は一瞬顔を見合わせた後、首を縦に少し動かし二人ともお互いの方向に飛んでいく。カリは上方へ高く飛ぶと『あれ』を全体で見渡し、顔全体を右手で覆い指の隙間からその仄かに赤い目を覗かせる。瞳孔を開くように目に強く力を込めるとボワッと赤い光が灯る。彼女はグリムリーパーの一番弟子だ。その力は魂のプロフェッショナルといって過言ではない。魂を刈り取る魂を刈り取る彼女は魂のありかを見ることができる。魂を刈り取ればどんな強大な生物であっても息を引き取る。『あれ』もそれの例外ではない。しかし彼女が見た『あれ』の魂はあからさまに一つではなかった。四方八方に伸びる触手に至るまでありとあらゆるところに見えた魂は複雑に重なり、交わっている。その数は数百、いや数千に至っており彼女の見た中で最多賞を更新した。

「what’s the fuck!!」

想定外の事態に彼女は大きく声を荒げた。もう一度目を凝らしてみるが状態は変わらない。しかしよくみると魂のサイズや光り方が違うことがわかる。触手の末端方向にあるものなどは小さく光も弱いが本体の中心部にあるものは大きく光も強い。またぐらが相対している『あれ』の一部だと思われるものも巨大な魂をしていた。そして『あれ』の最も中心部、真ん中に小さい魂に隠れるように最も大きい魂が見えた。

「アメ聞いてる?」

『聞こえてるわよカリ』

空中に話しかければ回答は頭の中に返ってくる。

「奴の弱点が見えたわ。でもずいぶん奥にあるからそのままじゃ届かない。」

『了解したわ。カリ。方法はこっちで考えるからキアラと一緒にそこにで耐えててもらえる?』

「オーケー、あとぐらに今戦ってる相手は強いから気をつけてって伝えておいて。」

『オーケーbye』

「bye」

通信を切るとともに彼女はキアラの元へ降下していった。

キアラはカリが上に向かったタイミングと同じくしてまっすぐ前に進んでいた。背中についているバーニアは火を吹き、驚くほど早く彼女の体を前方に運んでいく。左腕に固定されるように深い青色の盾が外向きにつき、その中心には彼女の甲冑と同じオレンジ色の剣が収納されていた。剣の腹の中心部には鎧についた装飾と同じ色の光が灯っている。バーニアで飛びながら襲いかかる触手を、盾を使い、上手くいなして本体に近づいていく。触手の雨霰を抜け出して『あれ』の本体まで近づくと盾の上についた取手を引き抜いた。オレンジ色の剣の先には大きな幅をとり、オレンジ、黄色、ライムグリーンの順で外側に層版構造をとるビームが突き出している。

「どっせっえええええええええいいいいいい!!!」

右手に握った剣を横に思い切り凪ぐとビームが『あれ』を焼き切っていく。振り抜いた後の『あれ』の体には深々とした傷が出来上がるがそれを埋めるようにすぐに周りから組織が浸潤してくる。そして自分に危害を与えたものを排除するように上下から尖った触手が集団で彼女を挟み込むように迫ってくる。バックステップでそれを避けた彼女はそのままジェットを使い勢いをつけてもう一度斬りつける。先ほどよりも深く傷がつくが同じようにすぐに埋められてしまう。

「何よこのタコやろう!すぐ再生するじゃない!」

次々と襲ってくる触手の攻撃をジェットをうまく使い、時にはいなし、時には斬りながら隙を見つけては斬りつけるがやはり同じ結末になる。巨大な触手は伊那尓栖が押さえ込んでいるので彼女を追う触手は小さいものばかりであったが、小さいと言っても当たれば怪我は必至である。何回目かの攻撃時、振り抜いた直後。完全に彼女が一瞬フリーとなるタイミング。死角である真後ろから高速で一本の触手が彼女の頭に向けて飛んでいく。目を背けたくなるような状況が作り出されそうになった瞬間、上空から堕ちてきた死神の鎌が触手を叩き斬る。

「危ないわよ!クソトリ!!」

「カリ!」

空中で二人が背中を合わせる。

「奴の弱点はわかったわ。今アメが作戦を考えてくれてる。」

「オーケーカリ、で私たちはどうしてればいいの?」

「とりあえず、生き残る!」

仮面を被った少女とマントを被った少女は方針を変え、作戦ができ上がるまでの時間を稼ぐことにした。二人で並んで、飛んでいる彼女たちは触手をかき分け、伊那尓栖の元へと戻った。彼女の操る触手たちと『あれ』の触手はやはり拮抗を極めていた。太さが数メートルあるような大きな触手はお互いに絡み合い押し合っている。一メートルないほどの中程度の触手が鞭のように飛んでいきぶつかり離れる。高速で行われる攻防戦は絶え間なく続いていた。伊那尓栖は集中しているのか目を大きく見開いて力を込めていた。彼女たちは攻防の中で飛び回り、『あれ』の触手のみを手当たり次第に切っていく。すぐに修復されてしまうがその一瞬でも仲間の負担を減らすためにただひたすらに目の前の触手を切っていった。それによって若干であるが優勢になった伊那尓栖側は少しずつではあるが『あれ』に近づいていき、距離にしてこちら側から4分の3ほどの場所で触手の応報は拮抗することになった。

 

 

ビルの上でただ一人パイプ椅子に座っている彼女はその戦いの振動をまともに床から感じられるただ一人の人間であった。

「戦いは予定通りに進んでいそうね。」

相変わらず懐中時計をカチカチ押している彼女はそう言いながら足を組み直した。

「よし、じゃあやっぱり作戦はあれしかなさそうね。」

彼女は立ち上がって耳元に手を当てると一人語り出した。

「あ、カリ?キアラも聞こえてる?今から作戦を言うから耳かっぽじって聞いてなさい。」

 

 

 

一匹で二匹のサメは黒い男と善戦をしていた。初めは左右が別の動きをしようとするが故に危ない場面もあったが動いているうちにそのずれにも慣れていき、今では上手く避けられるようになっていた。まっすぐ飛んでくる触手を避けながら、右側の赤い目のぐらは握っていたトライデントを投げ込むが黒い男はもう一本の手も硬化した触手にし弾き返す。弾かれたトライデントは床に突き刺さる。彼女の口からチッと舌打ちが漏れる。間髪入れずに飛んでくる触手をジャンプで避け空中に浮かび上がる。今度はそのタイミングを狙ってもう一方の触手の槍が飛んでくる。今度は左側の目が青いぐら体を捻らせて避ける。地上に降りたぐらは一気に距離を詰めると爪を立てた右手を左に振り込む。黒い男は一瞬体をのけぞりよける。その間に収縮された黒い男の左手が彼女の体を突き刺すように飛び出した。それを右足でけり上げると今度は男の右手で薙いでくる。その触手を振り終わった右手でつかむと左足を軸に体を無理やり左に回転させ腕を下にたたきつけた。下に叩きつけられた触手の腕は力を入れた分だけ伸びており本体にはほぼダメージは入らなかった。ぐらは距離をすばやく取り直す。

「ぐら!なんで攻撃しなかった!!」

赤い色のGuraが言う。

「だってタイミングわからないんだもん!」

「フィーリングでわかんだろ!」

そんな言い合いをしている間にも敵は次の攻撃を仕掛けてくる。両手の触手はまっすぐ飛んでくるが途中で小さい触手に分岐した。ぐらはその触手の雨を横方向に避けていく。彼女が走った軌跡に触手が突き刺さっていく。彼女は黒い男を中心に円を描くように走り避ける。絶え間なく打ち込まれる触手の槍は彼女の動きを先読みして飛んでくるが彼女はそれよりも早く、時には遅く、時には縦方向を利用して。様々な動きで避け続ける。時計回りに走る彼女だったが路線上現れたポールに右腕を引っ掛けいきなり止まる。勢いのままポールダンスのようにぐるぐると回っている。彼女の掴んだものは彼女の投げたトライデントであった。触手は想定外の動きに彼女の動いていた延長線上に着弾する。しかしそれは一瞬で修正され、トライデントを握るぐらに向かってくる。彼女はジャンプで高く飛び上がりそれを避けた。しかしそこにも新たな触手が正面から飛んでくる。彼女は右手に握ったトライデントを触手の本体に向かって投げつける。トライデントは間に存在していた触手たちを貫きながら進んでいく。彼女も魔法使いに教えてもらった稲妻のようなキックで右足を下にしてトライデントの後を追う。黒い男に届いたトライデントは男の右手によって弾かれたが、その直後、間髪入れず彼女自体の蹴りが到達する。しかしその彼女の右足も奴の左手によって阻まれ、触手の腕の上に右足のみで乗り上げる。

だが、まだ終わらない。

「ぐら!」

自分自身を呼び出した彼女。腰から上の上半身を起き上げると左手が強く握られている。

「はあああああああ!!!!」

右足を起点にして握った左手を黒い男の顔面に叩き込む。

ドォン!

鈍い音とともに顔面を抉った彼女の小さい左手は確かな手応えを感じていた。顔に衝撃が走った黒い男はその力によって数メートル下がっていった。それと同時に奴の後ろにある『あれ』から大きな爆発が上がったのだった。

 

 

 

「そんなのダメよ!」

アメリア・ワトソンから作戦を聞かされたカリはそう叫んだ。

『あれ』の最もweak pointを刈り取るための作戦を彼女は到底容認できなかった。

「いや、やりましょカリ」

オレンジ色のスーツを身に纏ったキアラはバイザー越しにカリに声を掛けた。

「ここで私たちがひよったらあれは倒せないわ。」

「でも、」

「ほらいくわよカリ!」

カリオペの言葉を遮るようにいつも通り明るく声をかけた。カリオペはそれに無理矢理引っ張られる形で作戦を遂行することになった。伊那尓栖の近くにいた彼女たちはそれぞれ所定の位置に動く。カリオペは周りをよく見るために少し上の方へ、キアラは中心部と同じ高さのあたりに浮いていた。

「イナ!初めて!」

「りょーかい!」

準備が完了した彼女たち三人はその作戦を開始した。

まず、第一段階として伊那尓栖が触手をできるだけ掴み取る。大きな触手はもちろん、中型、小型の触手まで無理矢理でも掴み取り、動きを封じる。

「頑張ってよ…私のタコダチっ!」

彼女が力を込めて操ればありとあらゆる触手が相手の触手を巻き上げ、動きを封じ込める。『あれ』の触手は動こうともがき動き回るが動きを封じることだけに特化して掴んだ伊那尓栖の触手はそう簡単には外れない。これによりフリーで動ける『あれ』の触手は数十個から十数個まで少なくなった。

「行ってキアラ!!」

歯を食いしばりながら真上にいるキアラに声をかけると作戦の第二段階が始まる。

「いくぞおおおおおお!!!」

キアラは真正面に出来上がった何もない空間に全てのバーニアに火を灯し突き進む。途中で掴めきれなかった触手がいくつか彼女を襲うがひらりとロールをして躱し、盾でガードするなどをして避けていく。右手に握った剣の光を増強させ、3メートル以上の刀身が出来上がる。『あれ』を目指して彼女は前に飛び続ける。ほぼ反射的に飛んでくる触手を避け続ける彼女にはもはや『あれ』に辿り着くことしか頭になかった。距離が200メートルを切ったところで彼女は巨大になった剣先を『あれ』に向け、速度を上げた。背中のジェットはより大きな炎を出し、ジェット機のように飛んでいく。後ろから追ってくる触手を振り切り『あれ』の本体を目の前にする。

「あああああああああ!!!!」

その勢いのまま『あれ』の表面に剣先を突き刺した。三メートルを超える刀身は『あれ』に深々と突き刺さり大きな穴を作り出す。

しかしそれによって足を止めた彼女を容赦なく背中から触手が貫く。スーツを貫通し、彼女の体も貫通した触手は胸側から飛び出してくる。小さいと言っても直径五センチ以上はある触手がいくつも彼女の背中を貫く。

「ガハッ!」

たまらず口から血を吐いた。顔のシールドは割れ、彼女の顔がヘルメットから覗かせる。口から血を垂らしながらもまだ目は凛としている。

「っ!!!」

彼女は食いしばりながら、剣の柄を両手で握った。自分の全てを出し切るように力を込めれば剣の中心にあるライムグリーンの光が強く光出す。彼女から生まれる力を全てため切るかのように力の流れが視覚的に捉えられる。身体中から止めどなく溢れる血液さえも炎と変わり、全て剣へと注がれる。炎のようなオレンジの影は彼女の体から剣に移るのに合わせて彼女の顔からはどんどん生気が失われていく。

「I love you Cali!!!」

最後の一滴を出し切る瞬間、彼女はそう叫んだ。そして胸を貫かれた彼女が目を閉じた瞬間、剣の中心で渦を巻く光はその溜め込んだ光を放出し、大きな爆発を起こした。

 

 

「ここまでの作戦は順調ね」

爆風によって飛ばされそうになるシャーロックハットを抑えながらビルの淵に立つ迷探偵は作戦の進行具合を見つめていた。彼女が作り出した作戦は順調に第二フェイズをすぎ、第三フェイズに入るところである。

「あとは、〈傍観者〉がどう出るか。それだけは私にもわからないわ。」

倒れたパイプ椅子を立て直して彼女はまた座り直した。

 

そして作戦は第三フェイズに突入する。上空で一部始終を見ていたカリは「fuckin クソトリ」と呟くと爆発によって出来上がった『あれ』の中心にある空洞に飛び込んでいく。伊那尓栖が束縛している触手の中を掻い潜り、鎌を携え飛んでいく彼女が目指すのは『あれ』の中心にある最も大きい魂。爆発によって表面化したその魂を刈り取り『あれ』を無力化させる。迎撃用の小型の触手も爆発に巻き込まれて無効化されている。高速で飛ぶカリはあっという間にキアラの作り出した空洞の目の前まで来た。空洞は内側を埋めるように段々と浸食しているが大きく空いた穴を塞ぐにはまだまだ時間がかかる。中心部にある巨大な目のついた心臓のようなものはグラの食べたものをそのまま大きくしたものだった。目を凝らして鎌を強く握った彼女だったがそれを遮るかのように目の前に現れたのは巨大な『あれ』の触手であった。伊那尓栖の束縛を無理やり振り切った巨大な触手の一本が空を飛ぶ彼女を吹き飛ばすために彼女に鞭を振るっていた。

「っ、、、」

巨大な触手が紫の光に当たる瞬間。白色の斬撃が真上から触手を一刀両断した。根本から斬られた触手は重力によって下に落ちていき、綺麗な丸い断面を晒した。それによってできた道をカリは見逃さずすり抜ける。

「はああああああああ!!」

腰に携えた鎌を大きく力一杯振るう。魂だけを刈り取る彼女の鎌は心臓のような目の魂だけを刈り取りそのまま空洞を突き抜け地面に着地した。

「終わりよ。タコ野郎」

軸である魂を無くした『あれ』は四方八方へ法則性もなく動き始め混乱の限りを尽くしているようだった。『あれ』触手の束縛をする必要もなくなった伊那尓栖はその固定を解除した。

黒い男と対峙していたがうるぐらは奴の後ろに起きる爆発に気を取られていた。しかしそれは黒い男の方も同様であったらしく、動きは止まっていた。その後『あれ』の触手が混乱し始めると奴は彼女たちに声をかけた。

「残念だが、我はそろそろ戻らないとならないらしい。アトラスの娘の子よ。忘れるな。我々どこにでもいる。そしてどこへでも現れる。ルルイエの主にもそう伝えろ」

「待ちなさい!」

奴はそれだけを言い混乱する触手の中に戻っていった。奴を止めようと動こうとしたぐらであった体はもう動かなかった。奴が消えたことによって緊張が解けてしまったのか力が入らなくなったぐらはa?と言い膝から床に倒れてしまった。

黒い男の戻った『あれ』は統率を取り戻した。

「また来るか!?」

反撃が来るかと一瞬身構えた伊那尓栖であったが『あれ』はそのまま霧に体を隠し消えていった。拍子抜けした伊那尓栖は自分の展開していた触手をしまうために重い木製のドアを閉めるような重さと共に本を閉じた。

 

 

明るさの戻った世界のビルの屋上ではアメリア・ワトソンはいそいそとパイプ椅子を畳んで適当な壁に立てかけた。

「私も下に下がるとしようかしらね。」

彼らが戦っていた後の場所を見ればそこはもういつもの日常に戻っていた。爆発の後もないビルも壊れていない。なんら変わらないいつもの昼間がそこにあった。その明るい空の中を刹那、白い流星のような光が彼女の目に映った。

「封印された状態であの斬撃。流石、魔術で作られた天使ね。あいつらが信奉するのもわかるわ。」

彼女はどこからか出した煙の出ないパイプを口に咥えながら屋上のドアを開ける。

「さて、私たちもそろそろ戻らないと、時の番人に見つかると面倒だわ。」

そう言って彼女はビルの階段をかつかつと降りていった。

 

 

『あれ』が消えた場所は完全に復元され、残ったのは一対の剣と盾とひとつかみの灰だけだった。森カリオペは手に入れた巨大な魂を胸にしまいながらその爆心地へと歩いてく。

「クソトリ…」

残った灰前に立った彼女は剣と盾を拾い、抱きしめる。そうすると剣の中心から少し漏れ出ていた光は彼女の腕をすり抜け、床に落ちた灰に入っていく。灰に灯った光の炎は大きく広がり、灰を巻き上げ、渦を巻く。炎の渦が等身大まで大きくなり、高速で回転した後、霧散していった。そしてその中からキアラが現れた。彼女は先程の装いと変わりオフの時に着ている夏の装いとなっていた。白色のヘソだしブラウスは肩周りから二の腕までをふわりと包んでおり。腰から下に履いたショーパンはぴっちりとしており今にも張り裂けそうだ。

「カリ、大丈夫?」

現れたキアラを呆然と見つめるカリに麦わら帽子を被ったキアラは心配そうに声をかける。

「あんたこそ大丈夫?クソトリ」

我を取り戻したカリは皮肉っぽくそう返した。

 

 

 

「お、おい大丈夫か?」

戦いの中では全く動くことのできなかった彼も『あれ』が消えやっと動くことができた。周りは元の通りに戻っており、今まで見ていたのは夢だったのではないかと一瞬思った彼であったが、目の前に倒れている青い少女が夢ではないことを語っている。駆け寄って肩を揺さぶるが起きてはこない。死んでしまったのかと思い耳を澄ませると息はしているようだった。どうやら寝ているだけらしい。拍子抜けして一気に肩の力が抜けた彼のそばにどうやらこの世界のものではないような彼女たちが現れた。

「あーぐらーこんなとこで寝ちゃ駄目でしょー」

キアラがぐらに近づいてぐーらーと呼びながら肩を揺さぶる。寝ぼけながら倒れている彼女は後、5分と呟いていた。

「すみません。私たちのせいで危険なことに巻き込んで。」

元の服装に戻っていた伊那尓栖は日本語で彼に謝罪した。

「あ、いや、多分倒してくれたんですよね。あの大きいやつ。」

「はいこれでもう当分は出てこないかと。」

説明する彼女の後ろで金髪とピンクの髪の女性が何か小声で話しているが英語で彼には聞き取れなかった。

「そうですか。こちらこそありがとうございました。」

「いえ、私たちの目的はあれだったので。」

話しているうちに後からぐらとキアラが戻ってきていた。ぐらはまだ眠いのか目を覚ましたのかキアラに手を引かれて目を擦っている。

「それでは私たちは用が済んだので帰りますね。」

五人はペコリと頭を下げると手を繋ぐか、隣の人のどこかしらを握っていた。真ん中に立つ金髪の少女が懐中時計の頂点を押すと青色の光が溢れ出す。その光は五人全員に行き渡り彼女たちの周囲を囲った。

「あの!あなたたちは何者なんですか!?」

目の前でだんだん濃くなっていく青色の光の中に彼は精一杯の声でそう聞いた。

「私たちはmyth。」

その声が誰から発せられたものかは青色の光が強すぎて彼にはもう見えなかった。完全に彼女たちが見えなくなるまで光が満ちた次の瞬間、フラッシュのような強い光とギュインという音と共に彼女たちはそこから消えていった。

彼はそれを見送ると元いた自分の家へと向かって歩き出した。

Mythという言葉だけを胸に。

 

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