司波深雪にTSしてしまったのだが   作:からすみ

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かなり難産でした。 この次は入学編に突入かな。


第4話

ㅤ中学生になった私は、四葉の仕事を受けることも格段に増えた。そんな時は、達也も一緒についてくる。前までの私はそれを煩わしく思っただろうけど、今は嫌だとは思わない。自分の実力を存分に発揮するために、身の危険をきちんと守る。その為にガーディアンがいるのだ、と理解したから。

 

「――思い切り『ニブルヘイム』を使えばよかったのに。『凍火』で銃火器を全て黙らせてくれたのは助かったが……」

 

ㅤ今回の任務は、さる筋からの依頼であった。儀式魔法系のカルト集団を壊滅させ、資料や道具などを回収せよというもの。どうやら、その儀式魔法が神道系で、何者かがスポンサーの機密を持ち出したらしい。

 

「冷却魔法をかけて、敵を動けなくしたりはしましたわよ?」

 

「俺に気を遣わなくていいんだぞ?」

 

「もしお兄様と組むのでなければ、相克を気にしなければいけませんもの。これも練習なのよ」

 

ㅤ魔法は他人同士で重ねて発動できない。それぞれの干渉力で、拮抗してしまうからだ。相克を防ぐ為には、作用範囲を上手く調整しないといけない。魔法師というのは、意外に「空気を読む」というスキルが要求されるのだ。

 

「そうか」

 

「えぇ。……ところで、沖縄の話は聞いている?」

 

「母上と行くのだったか。俺も護衛として参加する」

 

ㅤ着いてくるらしい。まぁ、穂波さんもいるし。お母様にくっついてたら、彼をそれなりに自由行動させられるだろう。

 

「お母様の手前、粗雑に扱うわよ。ね、お・兄・様♡」

 

「あぁ。けど、普段から別に『ちょっと』とかでもいいんだぞ? 呼び方を無理しなくても」

 

「嫌ね、私は好きでやってるのよ」

 

「ならいいんだが。――黒羽殿とも現地で合流するのだったか」

 

「そうよ。文弥くんと亜夜子ちゃん、貴方に会いたがってるわ」

 

ㅤ黒羽の双子とは、訓練課程で一緒になることが多かった。

ㅤ特に亜夜子とは同性なのもあり、何度も一緒に辛い訓練を乗り越えた。最初はいがみ合いとはいかないまでも、互いに対抗心を燃やしていたのだが、そのうちライバル兼友達の立ち位置に落ち着いた。今は、休日に食事や買い物に行く仲だ。その度に彼女が達也の話を聞きたがるので、適当に「敵軍を一瞬で塵に変えた」だの「敵国の大型戦艦を撃沈させた」だのエピソードを捏造している。まぁ本当になるし良いだろう。

 

「大した人間でもないのだがな……俺は」

 

ㅤしれっとした顔でそんな言葉を吐く達也。「原作」ならば、私はそこで叱咤したのかもしれないが、ここでは無言のまま通した。

 

ㅤ素晴らしい人間になんてならなくていいのだ。ただ、普通の男の子になってくれたらいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ沖縄に行くということは、トラブルに巻き込まれると言うことだ。大亜連合が、沖縄に侵攻してくる。そういうことになっていた。だから、私は行くかどうか本当に最後まで迷った――しかし、やらねばならない。

 

ㅤそのXデーは、すぐやってきた。2092年8月11日。

ㅤ現地で黒羽家の皆と合流していたから、その時の私は、亜夜子、文弥……そして達也と共に朝食を食べていた。もちろん達也の同席について、深夜と貢はいい顔をしなかったけれど、双子達がゴネにゴネた為に許してもらえたのだ。

 

「警報!?」

 

ㅤテレビから。情報端末から。様々な場所からけたたましい警音が。不気味でイヤな音だ。

 

「何が起きていますの!」

 

「昨日までは何もなかったのに……」

 

ㅤ穏やかな時間は急変。他の場所でもそうなのか、どこかザワザワした空気を感じる。分かっていても、やはり不安はある。亜夜子の手を握り、意味もなく周囲を見回す。

 

「文弥、亜夜子! 深雪ちゃん!」

 

ㅤそこに、勢いよく貢が駆け込んできた。バカンス中だからか、いつものソフト帽の代わりにカンカン帽だった。こういう変なユーモアはあるのだが。

ㅤそして、達也のことは完璧に無視。清々しいおっさんだ。

 

「不安かもしれないがね、心配はいらないよ。真夜さんに連絡して手を回して貰ってもいるし、うちの連中がいるから安心だ」

 

ㅤそれにお前達も実力をつけているからね、いざという時の心構えだってあるだろう?と、貢は言う。わりと、茶目っ気も持ち合わせているのだ。達也のことは無視するけど。

 

「文弥、亜夜子。お前達は黒川について行って、先に脱出しなさい」

 

ㅤ黒川というのは、黒羽家で抱えている部下の一人だ。

ㅤ貢の言葉に彼女らは頷き、私達に「気をつけて」と言い残して出て行った。

 

「達也くん。君は桜井くんのところに行って、対応を聞いてきてくれ。もしかしたら、あちらに真夜さんが連絡しているかもしれない」

 

「貴方の御命令を聞く必要はありますか? 自分の主人は「いいから行ってきて頂戴」

 

ㅤ私は口を挟んだ。ここで揉めていても仕方ない。

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

ㅤ彼は部屋を出て行った。誰彼構わず敵を作ろうとする無鉄砲さを何とかしてほしいところだ。

 

「貢叔父様、兄がごめんなさいね」

 

「いやいや。君から言ってくれて助かったよ」

 

ㅤ遠くから爆発音が聞こえる。そこそこ荒事には慣れているけれど、やはり普段とは違う何かを感じた。

ㅤしばらくすると、達也がこちらへ戻ってきた。

 

「国防陸軍の風間大尉のご好意で、シェルターを用意していただけるようです」

 

ㅤ来た。私がお母様達と琉球舞踊の観覧をしている間に、達也は軍の見学をしていた。きっと彼らは「見抜いた」に違いない。四葉までは辿り着かずとも、何かの素質を。

 

「なるほど。先程、真夜さんが『手を回す』と言っていたのはこういうことか」

 

ㅤ納得したように貢が頷く。推測するに、どうやら真夜が軍部に圧力をかけてもいたらしい。

 

「とはいえ、深雪ちゃんはどうする?」

 

「私は母と一緒に行きますわ。心配ですもの」

 

ㅤ深夜が心配なのは本当だ。娘にすら心の内を見せない母親だけれども、見殺しにしたら寝覚めが悪いなと思うくらいの存在ではあった。

 

ㅤすぐ深夜達と合流し、軍の迎えで基地まで向かうことができた。ただ、私達だけではなく、軍需産業の重役家族も一緒だ。同じく、コネで割り込ませてもらったのだろう。

ㅤシェルターを開けるまで時間がかかると、少し待たされることとなった。できるだけ早くして欲しいものね、と深夜が呟く。

 

「なんとなく嫌な感じがするもの。魔法的な何かではないけれど」

 

ㅤ精神干渉魔法に優れた魔法師は、勘が鋭い傾向にあると言われている。違和感を覚えることで他者の術式を破り、勘によって精神の特定領域に干渉する術者が、精神系を扱う魔法師の特徴だ。それゆえに、「虫の知らせ」を受け取る力を発達させているのだろう。

 

「――君達、魔法師かね?」

 

ㅤ静かな場所なので、小さな声で話していても響く。

ㅤスーツ姿の男――居合わせた家族の父親だ――が、ハンカチで汗を拭き拭き問うてきた。

 

「それでしたら何か」

 

「ちょっと外の様子を見てきてくれないか! その腕輪がある分、我々よりも安全だろう!」

 

ㅤ偉そうに命令してくる男。お願いをするにしても、もう少し言い方というものがあると思う。

 

「うるさいわね」

 

ㅤ私は一歩踏み出し、男を睨みつける。まさか言い返してくると思わなかったのか、彼は少し怯んだ。

 

「深雪さん、やめなさい。みっともないわ――達也。貴方、一度外に出て様子を見てきて頂戴」

 

ㅤ深夜に反論するかと思ったが、達也は私にアイコンタクトをしたのち、外に出て行った。ここで私が喧嘩を始めるよりは、平和に収めた方が良いと判断したのだ。今のアイコンタクトは、部屋の外でしばらく待って、ほとぼりが冷めたら室内に戻ってくるという合図だ。お母様の命令に対して、適当にサボることはよくあった。

 

「失礼します!」

 

ㅤ達也と入れ替わりくらいのタイミングで、4名の軍人が現れた。案内に来たのだろうけど、どこかソワソワしている。軍人特有の堅苦しい言動だからこそ、見えてくる綻びだ。わたしは目を凝らして、違和感の正体を確かめる。

 

(あれは、アンティナイト!)

 

ㅤ魔法師でなくても、魔法発動を阻害できるマジックアイテム。高価なそれは、一兵卒が手にできるものではない。不自然だ。

ㅤアンティナイトが目に入った瞬間、私は躊躇わずに軍人の一人に蹴りを入れる。魔法を使わなかったのは、事前動作でバレると思ったからだ。

 

「深雪様!?」

 

「障壁!」

 

ㅤ穂波の慌てた声に、一言のみ返す。深夜を守ることを刷り込まれた彼女なら、これだけで障壁魔法を出してくれる筈だ。

ㅤすぐ、私も「ニブルヘイム」を発動。敵の動きを止めるにはこの魔法が一番早い。

 

「凍てつきなさい!」

 

「…ッ! 死ねぇぇぇぇえ!!!!!」

 

しかし、敵の動きも早かった。私の「ニブルヘイム」が、温度上昇の情報すら凍てつかせるよりも早く、武器──対魔法師用ハイパワーライフルを乱射する。狙いが定まらないせいで、めちゃくちゃに銃弾が舞う。その射線には、私も入っていた。静かに目を瞑る。でも、諦めた訳ではなかった。

 

(……だって、大丈夫だもの)

 

ㅤ金属の粉が、ぱさりと少しだけかかった。奇跡のような状況は、必然的に作り出されたものだ。

ㅤ目を開けると、凍りついた4人の軍人がバタバタと地面に倒れるところだった。その背後から現れたのは……達也。手のひらをこちらに向け、静かに立っている。

 

「お兄様!」

 

「……深雪、無事か?」

 

「えぇ。ありがとう」

 

ㅤ私は達也に駆け寄った。来てくれると信じていたが、やはりホッとする部分はある。そうでないと、私の身体は蜂の巣のようになっていた。

 

「礼には及ばないさ。お前を守るのが、俺の使命なんだから」

 

ㅤ分かっているのだ。今だって、私は達也の唯一持つ「感情」ありきで計算をした。自分の命が大事だから。けれど、彼の人間らしさは、そこからしか生まれない。私を守ることが、「司波達也」の人間性を引き出す方法……。仕方なかった、のだ。

ㅤそれなのに、涙が出るのはなぜだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身内の軍人が──まぁ、我々のことだ──を殺人未遂するという事態が起きてしまった。そんな不祥事の詫びという形で、私達は上位幹部用のシェルターに案内してもらうこととなった。

ㅤ壁一面に備え付けられたモニター全てが、外の様子を映し出している。映画のような情景だけれど、全て現実のもの。それをぼんやり眺めていた深夜が、急に私の方に顔を向けた。

 

「──深雪さん。貴女が言いつけを破って、『あれ』にあんな気安い態度を取っているとは思わなかったわ」

 

ㅤここに達也はいない。彼は戦場に往ってしまった。数十台もあるモニターのどれか、その向こう側に兄はいる。

 

「使い方を理解しただけですわ」

 

ㅤ私は静かに答えた。現に、「司波達也」を都合よく利用している。

ㅤ6歳で止まってしまった達也の感情。ある意味で純真なそれを弄び、上手く手のひらで転がしているだけ。

 

「使い方?」

 

「お母様は分かっていて? あの人は、兄は……全ての感情を失った訳ではないのよ」

 

ㅤそうなのだ。達也の感情は、全部なくなった訳ではない。「強い情動」を消されたのみで、薄くとも喜怒哀楽は残っている。

 

「だからどうだっていう……「幻肢覚」

 

ㅤ幻肢覚。手や足を失ったり、神経の損傷で感覚がなくなっても、手や足が未だあるように感じられること。これは身体の話だけれど、精神だって形があるのだから、まるで荒唐無稽な話という訳ではない。

 

「研究所の者に話を聞いたところ、彼は感情を失ったことを感覚的に理解できているそうです。だから、今自分が閾値を超えたストレスを受けているということを、脳が理解していないわけがないと」

 

ㅤならば、脳は「ストレスを受けた」と認識して、それをきちんと処理する。本当の意味で、精神的ダメージを受けない訳ではないのだ。脳内の伝達物質だけは、正常に作動している。

 

「私がそれに気づいたのは、亜夜子ちゃんに『あること』を教えてもらった時です」

 

ㅤ亜夜子は、達也に「極致拡散」のイメージを教えて貰ったと語った。本当に私以外に感情が無いのなら、そんなことをするだろうか。ストレスから逃れるべく、打算含みとはいえ自発的な行動をしているのだ。実際に「原作」でも四葉家内に理解者が欲しかった、少年らしい功名心がない訳では無かった、と達也の心情は語られている。

 

「彼が完全な心無き人形であれば、雑な扱いをすればいいでしょう。でも、そうではありません。――刷り込まれた行動原理に対して、感謝の気持ちを示してあげることが、暴走を防ぐ方法だと思いますわ」

 

ㅤ世界を滅ぼす魔法。それは達也の匙加減ひとつで決まるもの。だからこそ、人々は恐れた。臭いものには蓋を――彼をいないものとして扱う。そんな迷信じみたことで、恐怖から逃れようとした。それではいけないのだ。貴方は人間なのだ、と肯定してやらねばならない。

ㅤそう述べた私を前にして、深夜はたっぷり3分は黙っていただろうか。

 

「……好きにしなさい」

 

ㅤ結局、そう言い残して……。深夜は私の横を擦り抜け、部屋の端に移動した。彼女は適当なパイプ椅子に腰掛け、目を瞑ったっきり何も言わない。

 

(何がなんでも、私の行動を改めさせなかったということは……)

 

ㅤ頭に浮かんだ考え。あり得ないそれだけど、そうだったらいいなと思った。

 

 




中学生の時点で兄妹2人とも、原作でいう高校1〜2年相当の実力をつけています。
深雪は四葉の訓練を受けたこと、四葉の仕事をこなしていること。達也は深雪を守りながら仕事をこなさないといけないこと。そういう理由から、必要に追われて力を伸ばしているんですね。
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