しかしこの世界、やたらとレズビアンが多いな……
赤青黄色のイルミネーションが街を彩っている。今日は12月24日、クリスマス。性なる日……。
「ふぅ……やっぱり今日はカップルばかりですね……」
浮わついた空気が苛立ちを誘う。右を見ても左を見ても恋人だらけ。腕を組んだり、頭を相手の肩に預けたり。ちくしょうめ……。
「しかしこちらにもソヨゴちゃんとハツユキソウちゃんがいますからね!」
彼女達の冷たくなった頬に頬ずりをする。
「団長さん、恥ずかしいですよ……」
毎年、クリスマスは騎士団でパーティーを開くのが恒例だったのですが……
「団長、今年はパーティー出られないッス」
「何なに? 何かあったんですか?」
「それはちょっと……ね?」
ヤドリギちゃんがバニラちゃんにウィンクすると、彼女は笑顔を返してきた。
「え……そこでカップル成立したの!? マジ!?」
「あたしはゼンマイさん達の所に呼ばれてるから」
「私はウサギノオちゃん達と過ごすし」
……というわけで、我々三人は見事に余ってしまったというわけです。
「悲しいですねぇ……」
「そういうこと言わないで下さい……三人で楽しみましょうよ……」
「やっぱりクリスマスになると、イルミネーションが綺麗ですねぇ」
ソヨゴちゃんの目もキラキラと光り出す。そんな彼女を見つめる私の眼光も、鋭く光り始めた。
「さて、それじゃあどこに行きますか、団長さん?」
「そうですねぇ……それじゃあまずはラブホから!」
「まだお昼ですよ! ……いや、夜になっても行く気はありませんけど!」
ハツユキソウちゃんが袖をパタパタさせ、真っ赤になって抗議する。
しかし私は知っているのだ。彼女が誰よりもエッチだということを。「ウィンターローズのHなウソ・ホント」なんて読んでるんだし、中々のむっつりスケベさんだろう。
「ラブホ……って何ですか?」
「ぎゃぁぁぁ! ソヨゴさんは聞いちゃダメです!」
「とっても楽しい所ですよ。三人で行きましょう」
「コラ、団長さん! コラぁ!」
そんな三人の様子を、蚊型監視カメラで見ている者がいた。悪の科学者、カマボコ博士だ。
「チッ、今日はカップル共が蠢いておるわ。アクア達も何だかんだ楽しそうにしおって……」
「あれ~、ご主人。もしかしてカップルに嫉妬してるの? 自分が恋人居たことないからって」
カマボコの作ったアンドロイド、アーティは八重歯を見せながらケラケラ笑った。
「だ、誰が嫉妬などするか! そもそも愚民どもの中に余と釣り合う者などおらんわ!」
「そんなこと言って~。ホントは彼女の一人二人欲しいくせに~」
「黙りゃ! ……ふん、だがバカップル共のエネルギーは利用させて貰うとしよう」
カマボコが指をパチンと鳴らすと、研究室の中に巨大なクモ型のロボットが入ってきた。
「おぉっ! 今週のビックリドッキリメカ!」
「人造害虫セイヨークよ! 街中のカップルから性欲エネルギーを吸い取ってくるのだ!」
「セイヨーク!」
ハツユキソウちゃんに猛反対されたので、まずは喫茶店で優雅なティータイムを満喫した。ラブホは夜になってからかな……。
「ここの喫茶店、味も雰囲気も凄く良かったです。覚えておかないと」
店名をメモするソヨゴちゃんをにやにやしながら見つめていると、街中のある異変に気付いた。
「……あれ? こんなにガラガラでしたっけ?」
喫茶店に入る前、街は若いカップルで賑わっていたはず。それはもう掃いて捨てる程に。
それが今ではくたびれた中年くらいしか居なくなってしまった。
「まさか……皆さんもうお楽しみタイムですか?」
「まだお昼ですよ!」
「お楽しみタイム?」
そんな時だった。
「セイヨーク!」
建物の上の方から声が聞こえた。そちらを振り返って見ると、
「っ!? あれは……害虫?」
そこに居たのは体長5m程のクモ型害虫?だった。しかし様子がおかしい。
普通のクモ害虫ならば糸を吐くはずだが、この害虫は逆に何かを吸っている。そして、
「ふははは!」
害虫の背中に乗ってバカ笑いをする少女が一人。
「カマボコ博士!」
「ふふ、これはアクア団長殿。クリスマスを満喫しているようで何よりだ」
「あなたこそ、素敵な恋人を連れているようですね」
「ふん、その減らず口もすぐ聞けなくなるぞ。人造害虫セイヨークの力で、クリスマスは悪夢に変わる!」
カマボコ博士の黒いローブがはためく。
「見よ!」
彼女が公園のベンチに座っている二人の女性を指差すと、害虫の視線は二人に注がれた。
「何をするつもりですか!?」
「見ておれ、今からあの恋人達の性欲を吸い取る!」
「セイヨーク!」
性欲を……吸い取る!? そんなことが可能なのか。疑問に思いながらカップルを見つめる。
「それでさ~(あ~、ラブホ行きたい)」
「そうなんだ、あはは~(下らねぇ話はいいから、さっさとヤらせろよ)」
楽しそうに話す二人の女の子。そんな彼女達の頭上に白い糸が現れ、害虫の口元に吸い取られていった。すると、
「あ~、何か冷めたわ……」
「あたしも。何であんたなんかとクリスマス過ごそうと思ったか分かんないわ」
そして二人は別れていった。
「そ、そんな……あんなに楽しそうに話してたのに……」
「ふははは、見たか! 所詮恋人共など、性欲を吐き出すことしか考えていない、下賤な者共なのだ!」
「そんなことありません! 人間の愛は性欲だけではないはずです!」
(団長さんがそれを言うんだ……)
「ならばこの状況をどう説明する? 性欲を吸い取ったら誰も居なくなってしまったぞ?」
「ぐぅ……」
信じたくない。人が性欲のみに動かされてるなんて。
……しかし、良く考えたら、性欲を吸い取られた人達は本当なら今頃ラブホでシッポリしてた人達なんだよね。
「何か……別に擁護しなくてもいい気がしてきた……」
「だ、団長さん! しっかりして下さい! もしこの人造害虫が動き続けたら、マズイことになりますよ!」
「察しがいいな、ハツユキソウよ。その通り。このセイヨークを量産すれば、春庭を滅亡させることも可能なのだ!」
滅亡……性欲……まさか!
「全人類から性欲が失くなれば……人口が増えずに人類は滅亡する!?」
「そうだ! つまり春庭は余が掌握したようなもの!」
そんな恐ろしい機械だなんて……性欲って侮れないな……。
「そんなことはさせません! はぁっ!」
ハツユキソウちゃんの氷柱が害虫へ向かう。しかし、
「とぉっ! ご主人の邪魔はさせないよ!」
「アーティちゃん!」
人造花騎士のアーティちゃんによって氷柱は弾かれた。
「良いぞアーティ! 勝ったらクリスマスケーキを食べさせてやるからな」
「やったー! ご主人大好き! 天才科学者、悪のカリスマ!」
「ふふ、そう褒めるでない」
マズイ。害虫とアーティちゃん、両方を相手にするには戦力が足りない。
「くっ……」
ハツユキソウちゃんもソヨゴちゃんも段々と押されている。
「アーティよ、花騎士を足止めしろ。その隙に奴らの性欲も吸い取ってやる」
「OK!」
アーティちゃんと交戦していたソヨゴちゃんの頭上に白い糸が現れた。
「ソヨゴちゃん、避けてぇ!」
「もう遅いわ! セイヨーク!」
「セイヨーク!」
「性欲たったの5か……ゴミめ」
ソヨゴちゃんから吸い取られた性欲を計測し、カマボコ博士はそう呟いた。何の数値なんだろう……。
「次いでにハツユキソウの性欲も奪ってやれ!」
「セイヨーク!」
「ぎゃあぁぁぁ! 止めて下さい~!」
問答無用で吸い取られる性欲。そして……
「性欲……8000以上だと! ふふ、大人しそうな顔をして中々……」
「うぅ……」
顔を真っ赤にするハツユキソウちゃん。
許せない。女の子を辱しめるなんて(ちょっと興奮してきたけど)。
「セイヨーク! 次は私の性欲を吸ってみなさい!」
「セイヨーク!」
「ふふふ、遂に観念したか」
私の頭上に白い糸が現れ、セイヨークに吸い取られていく。何か、意外とスッキリして気持ちいいかも……。
「流石アクアだ。性欲が簡単に1万を越えおった」
「……ん? 10万……20万……ま、まだ上がるだと……」
次第にカマボコ博士の声色に余裕が無くなっていく。
「セイ……ヨーク」
「もう止めろセイヨーク! このままではオーバーヒートする!」
「セイ……ヨ……アァァァ!」
「セイヨーク!」
断末魔をあげながら、セイヨークの身体は激しく爆発する。爆風によってカマボコ博士とアーティちゃんは吹き飛ばされた。
「私の無限の性欲を吸い取れると思いましたか?」
「くそ……覚えておれよ!」
現れたジェット機に回収され、カマボコ博士たちは撤退していった。
「ふぅ……何とかクリスマスを守れましたね」
その日、セイヨークが吸い取ろうとしたアクアの性欲の一部は、白い結晶となってウィンターローズ全土に降り注いだ。
「わぁっ! ママ、お外に白いものが降ってるよ!」
「あら、本当ね。雪とは少し違うけど、凄く綺麗……」
うっとりと窓の外を見つめる母親。その脳裏に浮かんできたのは、若かりし日の自分の姿。
「思い出すわね……あなたを身籠った日のこと……今日と同じホワイトクリスマスだった。あの日ママとママは……」
「ね、ねぇ◯◯ちゃん。私、何だか身体がムズムズしてるんだけど……」
「うん、私もだよ。あの白いのに触ったからかな?」
「……ねぇ、この後私の家に来ない? 今日はママもママもいないから……」
「婆さんや、今日は何だか元気がみなぎっておるぞ」
「偶然じゃな、婆さんや。儂もじゃよ。……どうせだから、久々に……」
その翌年、ウィンターローズは空前のベビーブームに見舞われたのは想像に難しくない。
アクア団長の性欲はブラックホール並。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。