今年もよろしくお願いします
しかし新年早々変な回で申し訳ない……
「団長さ~ん、年賀状が届いてますよ」
ソヨゴちゃんが長いおさげを揺らしながら駆け寄って来る。天使だ……新年から天使が舞い降りた……。
「はぁ……はぁ……ソヨゴちゃん……私と新年の羽根突き(意味深)しませんか……」
「駄目ですよ、今はお仕事中ですし……。というか団長さん、顔赤いですけど大丈夫ですか……?」
気を取り直して、年賀状を読んでいくことにしましょう。しかし、それぞれ返事を書かなければいけないのが面倒です。どうせ同じような文面なんだから、毎年送ってこなくてもいいのに……。
「ふむふむ、これはオリビア大佐のですね。相変わらず文面が硬い……。こっちはヘチマちゃんで、こっちはスキラちゃん達からですね」
何だかんだ、仲の良い人達の年賀状を微笑ましく見ていると、『ある人物』からのものを発見してしまった。
「これは……カマボコ博士!?」
『謹賀新年
旧年中はお世話になりました
今年こそ春庭を余の手中に収めてみせましょう
寒い日が続きますのでご自愛下さい
カマボコ』
「律儀ですね……」
「そう言えば団長さん、実家には帰らないんですか?」
「実家……実家はちょっと……母様と色々あって……」
別に親が嫌いというわけではない。だからと言って帰りたくはない。特にソヨゴちゃんを連れて行くわけには……。
「ま、まぁ色々ありますよね……」
ソヨゴちゃんに気を使われてしまった。
しかし恋人同士なわけだし、いつかは母様達に紹介する時が来る。あんなケダモノ達に……。
と、その時だった。
「ごめん下さ~い」
突然空気が張り詰める。そこに居る人物に、私は目を疑った。
そ、そんな……何故彼女がここに……
「母様!?」
「あら、アクア。久しぶりね」
その一見清楚な着物姿も、優しく見える微笑みも忘れはしない。あれこそが私の母、人は彼女を『
「この人が団長さんのお母さんですか……?」
「そうです……」
「あ、あの……わたしソヨゴって言います。アクアさんの恋人で……」
「ソヨゴちゃん、あんまり近付いちゃダメぇっ!」
母様にお辞儀をするソヨゴちゃんを無理矢理引き離した。
「ふぇっ!? だ、団長さん、どうしたんですか?」
「母様は危険です。彼女の手の届く場所に行ってしまうとセクハラされますよ」
「そ、そんな。優しそうな人じゃないですか」
「見た目に騙されちゃダメです。アレは天使の顔をした悪魔ですよ!」
そう、その立ち姿は正に清楚誠実。そしてあの優しい笑顔、初見の人は必ず騙される。
しかし彼女はその界隈では伝説と呼ばれた人物。一般人が近付いたら、下手すると命を落とす危険もある。
「あらあら、アクアったら、母をアレ呼ばわりはあんまりじゃない?」
「ひぃぃぃぃ!」
(団長さんがあっという間に後ろを取られた……!)
「馬鹿ねぇ。いくら私でも、娘の恋人を奪うような節操なしじゃないわよ」
「どうだか……貴方の経歴を知っていると、全く信用出来ませんね」
ソヨゴちゃんを守るように抱き締める。この天使を悪魔の手に渡すわけにはいかない。
「団長さんのお母さんの経歴って何ですか?」
「彼女には妻が100人以上居ます。そしてその妻達に授けた娘の数は……最早測定不能です。500人は下らないと言われていますが……」
「え……? 本当に人間なんですか……?」
「まぁ、分類上は……」
しかも今の話は飽くまで『判明しているだけで』の話だ。実際はその数倍……いや、数十倍ではないかと予測されている。
中には実の娘や孫と交わるという、禁忌を犯したケースもあるとか。純真なソヨゴちゃんにそんな話は出来ないけれど。
「団長さんのお母さんって(色んな意味で)凄い人だったんですね……」
「まぁ、後付けの設定ですが……ちなみに私は35番目の妻の三女だそうです」
「いやねぇ、貴方のお母さんは37番目の妻よ」
「ひぃっ!」
またもや背後を取られてしまった。何だこの人は……気配が全く無い……。
「貴方と似た、美しく可憐な女性だったわ。貴方と同じで、右のお尻にホクロがあるのよ」
「凄い記憶力ですね……」
「当然よ。だって愛した人ですもの。ちゃんと全員覚えているわよ。声も肌の質感も、『味』もね」
優しい声色で発せられたそれらの言葉に、私は背筋が凍るような恐ろしさを覚えた。
「ところでアクア、結婚はまだなの? 子供は何人作る予定?」
「こ、子供って……」
ソヨゴちゃんが顔を赤らめる。あ、子供の作り方は分かるんだ。
「今はまだお付き合いしてる段階です。口を挟まないで頂きたい」
「あら、随分と慎重ね。まぁ、アクアは姉妹の中では控えめだったし、仕方ないわね」
「控えめ……? 団長さんが……?」
「姉妹は皆あんな感じなんです……」
「うわぁ……」
「と、とにかくもう帰って下さい! ソヨゴちゃんに悪影響でしょうが!」
「あらあら釣れないわねぇ。反抗期かしら?」
母の背中を押して、強引に扉の向こうへ押し出そうとする。しかしその時、
『緊急連絡、緊急連絡。市街地付近に害虫の目撃情報あり。花騎士は至急現場に向かって下さい』
「……と、出撃要請です。行きますよ、ソヨゴちゃん」
「はい!」
「私も付いていくわね。授業参観みたいで面白そう」
「来るな!」
普通に付いてきてしまった……。
しかしこの母、我々の全力疾走に余裕で付いてきたな。しかも歩いて。化け物じゃないだろうか。
「化け物とは失礼ね。この程度、縮地法を使えば簡単よ」
「当たり前のように地の文に返答しないで! それに縮地法って何ですか!?」
「簡単に言えば、自分が動くのではなくて空間を圧縮する感じね。これによって行きたい場所に瞬時に辿り着くことが出来るわ」
「あ~、はい。良く分からなくなりそうなのでスルーしますね」
「いいですか? 母様は大人しくしていて下さい。私の許可なく動かないように!」
「はいはい、分かってるわよ」
「よっこらセッ○ス。ほらアクア、頑張りなさい」
下品な掛け声と共に、母様は椅子に腰掛けた。
……ん? 椅子……? 何故そんなものが外に?
「しかし座り心地の悪い椅子ね」
「お母さん、下! 下です!」
「下? ……あぁなるほど。やけに硬いと思ったら、害虫だったわけね」
「キシャァァァ!」
「団長さん、まずいですよ! 害虫がお母さんを襲おうとしてます!」
「まぁ大丈夫でしょう……」
「全く五月蝿い害虫ね」
母様は立ち上がると……
「ふんっ!」
「ギェァァァ!?」
害虫の脚を引っこ抜いてしまった。
「もぐもぐ……味は悪くないわね」
「害虫を……食べてる!?」
「もう何があっても驚きませんよ……」
その後、討伐任務は何事もなく終了した。
「じゃあ、また来るわね」
「もう来ないで下さい!」
「ふふ、可愛い子ね。ソヨゴさんにもよろしく……って、よろしくするのは貴方か」
「下ネタ止めんか!」
母を追い出し、力強く扉を閉めた。
「……ふぅ」
波乱の年明けでしたが、これでやっと平和な日常が戻ってきました。
私はあんなケダモノにはならない。母様を反面教師にして生きよう。そう誓って、ソヨゴちゃんとよろしくするために彼女の部屋へ向かうのでした。
「そう言えば、帰り際に何か渡されたな。これは……マムシドリンク!?」
≪余談≫
『ある学者の手記』
私は今、ある人物を調べている。
『
彼女の娘達は春庭各地に点在し、各国の重要な役職に就いている。最早春庭は彼女の一族が牛耳っていると言っても過言ではない、正に華麗なる一族。
だがその出自は謎に包まれている。いつどこで生まれたのか、親が誰なのか、そして名前すらも誰も知らない。
しかし近年出土した遺物、遺跡、また古代文献などを解読していて、私は『ある仮説』を立てた。
現在の人間は女性同士での生殖が可能だが、そもそもこれは本来の人間という生物の機能では無い。春庭でも太古の昔には男性と女性で生殖を行っていたという記録が残っている。
それなら何故、現代人は女性のみでの生殖が可能になったのか。ターニングポイントは一万年前とされている。
一万年前、『始まりの女』が春庭に降り立った。彼女は選ばれし10人の女性に自らの子を宿した。その娘や娘の娘達には、女性を妊娠させる機能が生まれながら備わっていたという。
そして、現代人の殆どは彼女達の血を受け継いでいる。だから女性同士の妊娠が可能なのだ。
こういった神話や昔話が各地で残されている。飽くまで作り話だと思われていたが、近年の考古学者には『始まりの女』は実在していた、とする者も多い。
遺跡や文献にそれらしき爪痕が多く残されているからだ。
そして私は、その『始まりの女』こそ『
聖母が世に認知され始めたのはおおよそ50年前。その間に彼女はハーレムを作り、その娘達を各国に散らばらせた。
しかし、同じようなハーレム女王の話は数千年前から幾度となく存在している。しかもその全員が、聖母と酷似した容姿の特徴を持っている。
実際、私の曾祖母が幼少期に、聖母と良く似た女性を(ここから何故か筆跡が変わっている)見たことはないらしいですよ。うふふ……。
何か壮大な話が始まりそうですが、作者の頭では無理(笑)
アクア母は何でもありなキャラとして書いています
ここまで読んで頂き、ありがとうございました