他の団長さん程ガチではありませんが、私もソヨゴちゃんのために頑張りますよ。
というわけで、今回はソヨゴちゃん入賞のために奔走するアクア団長達のお話です。
「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」
岩を叩き壊すような勢いで、私の頭上に激流が打ち付けられる。しかし精神を集中させれば痛みも冷たさも感じなくなる。滝行を始めたころは毎回死にそうになっていたのが嘘のようだ。
「……そこまで。アクア団長、良い顔になりましたね」
「お師匠様……恐悦至極に存じます」
滝から上がり、白装束からいつもの騎士団制服に着替える。
透き通るような心地好さを感じる。滝行は私の精神と肉体を至高の状態まで高めてくれた。
「あなたは最初は煩悩の塊のような人でしたが、ここで修行をして煩悩が消え去ったようですね」
「はい……」
これから戦争が始まるのだ。人気投票という名の戦争が。ソヨゴちゃんを入賞させるため、私はこのお寺で修行をすることにした。
修行は想像を絶する厳しさだった。何度も脱走しようと思った。それでも私は最後までやり遂げた。全ては愛する妻のため……。
「人気投票?頑張って下さいね。応援していますよ」
「ありがとうございます。死力を尽くして参ります」
辛く厳しい修行によって、精神も肉体も極限まで高められたのだ。他の団長に負ける気がしない。
そしてソヨゴちゃんの新衣装を……動く寝室を……むふ、むふふ……。
数週間後、いよいよ人気投票が始まった。
「アクア騎士団、行きますよ! 全てはソヨゴちゃんのために。ワン・フォア・ソヨゴ、オール・フォア・ソヨゴ!」
「行くッスよ、うちの副団長を入賞させるッス!」
「皆さん……ありがとうございます!」
「ソヨゴさんにも入賞の喜びを知って貰いたいですからねぇ。入賞は良いですよ~」
(ハツユキソウちゃん、いつになくドヤ顔……)
人気投票のルールはとてもシンプル。害虫を討伐するごとに投票券を貰え、それでお気に入りの花騎士に投票出来るのだ。(それじゃあ単純な人気は測れないだろう、というツッコミは無しで)
中には複数の花騎士に分けて投票する人もいるけれど、私は嫁に全ぶっぱと決めている。何たって入賞報酬は別衣装だ。動く寝室だ。命を懸けてでも手に入れたい!
「死にさらせぇぇぇ!」
「グワァァァ!!」
害虫達が木っ端微塵に吹き飛んでいく。人々の生活を脅かす邪悪な存在、生かしてはおけない。ついでに投票券も頂く。
「数km先に害虫の群れがあるし!」
「よし! 皆殺しにしましょう!」
既に千体以上の害虫を滅した。恐らくかなり上位のペースだろう。だからと言って油断は出来ない。どの騎士団長も自分の推しのため、死に物狂いで戦っているはずだ。
「おらぁぉ!」
「ギャァァァ!」
「タスケテェェェ!」
「向こうにも巣があるし! しかもかなり大規模の!」
「よし! ガンライコウちゃん、ダークデス砲用意!」
「了解したわ!」
ガンライコウちゃんの用意した大砲にエネルギーが充填されていく。
ダークデス砲。単純な殺傷能力は普通の兵器に劣るけれど、その最大の特徴は「生態系自体を腐らせる力」だ。その個体だけではなく住処すら腐らせ、二度とその場所に巣を作れないようにする、最大最凶の兵器。
「害虫達が炙り出されてきたわ!」
「うわぁ……あの数はちょっと気持ち悪いですねぇ……」
数百体といったところか。
恐らく各騎士団に追い込まれた害虫の残党が溜まっていたのだろう。
「皆さん、ここは私が先陣を切ります!」
「団長さん、流石に一人じゃ無茶ですよ」
「大丈夫……今こそ修行の成果を見せる時!」
修行によって精神を自在にコントロールすることが出来るようになった。今の私なら『アレ』を使えるはず……。
「ふぅ……ふぅぅ……!」
全神経を集中し、心拍数を急上昇させる。血管がビキビキと音を立てて浮き上がってくる。
「だ、団長さんの身体の周りに黒いオーラが!?」
「あれは……まさか!」
「ガンライコウさん、知ってるんですか?」
「えぇ……あれは恐らく第八の意識『阿頼耶識』!」
「あらやしき?」
「人間には七つの表層意識がある。眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識・末那識。その奥にある深層意識が、あの阿頼耶識よ」
「はぁっ!」
「ぶ、分身したし!」
「グワァァァ!!」
「凄いっ! 一瞬で十体以上の害虫が吹き飛んだ!」
「団長さんは今、無意識下で攻撃を行っている……」
「問答無用!」
逃げ惑う害虫を、分身体で包囲しながら攻撃を加えていく。一匹も逃しはしない。
「十体の分身が全て別々の動きをしてる!?」
「同時に複数の攻撃パターンを……あれが阿頼耶識……!?」
「そ、そんなの人間業じゃないッス! 無茶苦茶ッスよ!」
「普段のイメージのせいで忘れがちだけど、団長さんは戦闘の天才よ。生まれ持ったしなやかで強靭な肉体、奇想天外な発想力、そしてここ一番での集中力……それらは花騎士すら凌駕する」
「そんな天才だからこそ、無意識でもあらゆる攻撃を行えるんですね」
≪その頃、害虫陣営は≫
「くそ……花騎士どもめ、仲間を大勢殺しやがって……」
巣を破壊された者達が、薄暗い洞窟の中に身を隠していた。
「何でも俺達を殺した数で競ってるらしい」
「狂ってやがる……」
「おいっ、大変だ! 防衛線が突破された! 花騎士達がこっちに来る!」
その一報に、害虫達は騒然とし始めた。逃亡の準備をする者、不安に絶望する者、発狂する者。最早抵抗の意思を見せる者はいなかった。一体を除いて。
「や、やってやる……害虫の意地ってやつを見せてやる!」
若い蜘蛛型の害虫だった。家族や仲間を殺された激しい怒りは、彼に死の恐怖すら忘れさせた。そう、この時だけは……。
「どこだ、花騎士! 俺が相手になってやる!」
複眼に映った一人の女性。それを見た害虫は、戦いを挑んだことを心の底から後悔した。
「投票券は貰います……」
「うぁ……あぁ……」
それは人の形をした殺戮兵器。自分の上位捕食者。
害虫は蛇に睨まれた蛙のように、抵抗どころか逃げる意思すらも喪失してしまった。
(駄目だ……殺される……)
「ぎゃぁぁぁ!」
断末魔がウィンターローズの地にこだまする。次の瞬間、害虫の身体は四方八方に飛び散っていった。
「はぁ……はぁ……」
「だ、団長さん……大丈夫ですか?」
正直全く大丈夫じゃない。
阿頼耶識は体力も精神力も根こそぎ奪っていく禁断の技。人間の限界を超えた動きのせいか、既に血管が何本か破裂し、血が吹き出し始めている。
このままでは再起不能になる可能性もある。それでも……。
「私はこの戦いに命を懸ける!」
「団長さん……」
ソヨゴちゃんの頬に涙が伝う。そうだ、私はこの子を入賞させなければならない。彼女の動く寝室を見るまで、立ち止まるわけにはいかない!
「団長さん、他の騎士団長さん達の中間結果が届きました!」
ハツユキソウちゃんが持って来た一枚の紙に目を通す。
「……なるほど」
喜びも悲しみも必要ない。そこには事実があるだけだ。そして私は後半戦も命を懸けて戦う、それだけだ。
「皆さん、団長さんを援護します!」
「害虫を蹴散らすわよ!」
「行きますよ皆、私達の戦いはこれからです!」
各団長の命懸けの戦いはまだ始まったばかりだ。その結末は……あなた自身の目で確かめて欲しい!
皆さんは命は懸けないで下さいね。飽くまで自分の出来る範囲内で頑張りましょう。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。