ただ、私はテニス未経験者なので色々ツッコミどころがあると思いますが、まぁそこは愛嬌ということで……
「ついにこの日が来ましたか……」
最近春庭で流行の兆しを見せている球技、テニス。ラケットを使ってボールを打ち合うシンプルな競技だが、その中にも深い戦略・戦術が存在し、見る者を虜にする魅力がある。
そして騎士団でもその流行を取り入れ、騎士団対抗テニス大会が開催されることとなった。
「思い出しますね、血の滲むような特訓の日々を……」
「団長さん、春庭中を周って各地の猛者達と戦ってましたからね。まるで海賊みたいに」
「えぇ。それでこの異次元の力を手に入れました……負ける気がしません」
(仕事しましょうよ……)
「狙うは勿論優勝! そして優勝賞品の……」
「温泉旅行が狙いかね?」
「!?」
背後から聞こえてきた声に驚いて振り向く。そこに居たのは予想通りの人物だった。
「オリビア大佐……そのジャージ、やはりあなたも出場するんですね」
「そうだ。お前が温泉旅行とか、物凄い嫌な予感がするんでな。全力で阻止することにした」
ちなみにスポンサーの一つがヘチマちゃんの旅館だ。この前(私のせいで)半壊してしまったのを修復したらしい。
「やるからには大佐であろうと全力を出しますよ」
「望むところだ。死力を尽くせ」
そんなこんなで大会が始まりました。
「喰らえっ! ソヨゴ・スマッシュ!」ソヨゴ
「ぐぁぁっ!」
『ゲーム&マッチ ウォンバイ アクア騎士団』
「わあっ! 凄いです団長さん!」
(でも打球音が恥ずかしいような……)
ストレートで勝利した。幸先の良いスタートだ。
この大会はシングルス2つ、ダブルス1つの計4人で戦う。その中に騎士団長枠があるので、花騎士のみでチームを組むことは出来ない。身体能力で花騎士に劣る(一部除く)団長をどう使うかが勝負の分かれ道だろう。
「オリビア大佐の試合は隣の会場ですか……っ!?」
自分の試合が終わり、大佐の偵察で来たのだけれど、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「何スかあれ……花騎士が手も足も出ずに負けてる……」
ボロボロになってうずくまる花騎士。スコアボードには『5-0』という数字が刻まれている。一方的な試合だ。大佐が強いのは知っていたが、これ程とは……。
「ま、まだです……」
「止めておけ。怪我をするぞ」
「くっ……はぁっ!」
花騎士が何とかサーブを打つ。しかし、オリビア大佐のリターンは……
「何ですかあれ……ボールが渦を巻いてる!?」
渦巻きが花騎士の手元に到達する。花騎士もそれを何とか打ち返そうとしたが、
「ぐぅっ!」
ラケットが弾き飛ばされてしまった。
『ゲーム&マッチ ウォンバイ チームオリビア』
「ボールに掛かった強烈な縦回転が、手首からラケットを弾いてしまうんです。あれを打ち返すのは手首の構造上不可能でしょう……」
「そんな……どうやって勝てばいいんですか……」
「……」
そして遂に決勝戦。相手は勿論オリビア大佐のチーム。死闘になることは間違いないでしょう。
「大佐のチーム、今まで一つのゲームも落としてないらしいッス」
「大佐は勿論、彼女が集めたチームメイトも恐ろしい程強いですからね……」
「『暗殺者』の異名を持つスイカズラちゃん。脅威の身体能力と動体視力を持つスカシユリちゃん。そして参謀として招かれたブリオニアちゃん」
「か、勝てるんでしょうか……」
「あっ、相手チームが入場してきました!」
花騎士も大佐も凄い威圧感だ。流石優勝候補筆頭。ソヨゴちゃん達も冷や汗をかいて怯えている。
『では第一試合、シングルス2の試合を始めます。チームオリビアからは……』
そのアナウンスと共に観客が湧く。
「暗殺者だ! チームオリビア、暗殺者スイカズラをいきなり出してきた!」
「流石ですね、大佐。初戦の重要さを熟知している……ですが!」
コートに降り立つ純白の花騎士。長いツインテールが風に揺れると、バニラの芳醇な香りが鼻をかすめた。
「こちらも最強の花騎士で挑ませて貰います!」
「が、頑張って下さい、バニラさん……」
「大丈夫ですよ、皆さん。バニラは負けませんから!」
その力強い笑顔に、花騎士達の動揺も和らいでいく。やっぱりバニラちゃんを初戦にして良かった。
「バニラ……少しは楽しめそうかな?」
「ふふ、余裕でいられるのも今のうちですよ」
『ザ ベストオブワンセットマッチ バニラ サービス トゥプレイ』
「さぁ……行きますよ! はぁっ!」
「す、凄い速さです!」
バニラちゃんの跳躍力、そして類いまれなるパワーから繰り出されるサーブだ。普通の選手なら返すどころか反応すら儘ならないだろう。
「だがスイカズラなら」
「……ふっ!」
「軽々と返したっ!」
「たぁっ!」バニラ
「ふんっ!」シター
「い、いきなり凄い打ち合いです……」
(でもなんで打球音が自分の名前なんだろう……)
(確かに凄い。力任せじゃなくて、ちゃんとコートの奥深くに打ち込んでくる……なるほど、口だけじゃないみたいだね)
「それなら!」
「スイカズラさんが前へ! 攻めに転じた!」
「いや、見るッス! バニラさんのあの構えは!」
「ジャックナイフ!」
ジャンプをして高い打点から打つバックハンドの大技、それがジャックナイフ。
「バニラさん、スイカズラさんが前に出るのを読んでたんスね」
「ネット際では、バニラちゃんのあのパワーショットは受け切れない」
「それはどうかな?」
(スイカズラは極限級害虫を数多く葬ってきた屈指の花騎士。例えバニラが相手だろうと、力負けすることはあり得ない!)
「はっ!」シターー!
強烈なボレーがバニラちゃんに襲い掛かる。
「そ、そんな……バニラさんのラケットが弾き飛ばされた……」
「いや、見て下さい! ボールはまだ死んでない!」
トップスピンのかかったボールが相手コートの奥、ライン上に……
『15-0』
「中々やるね」
「まだまだ、こんなものじゃないですよ」
「ポッピン・ヴァニラ!」
「くっ!」
辛うじて返すスイカズラちゃんだったが、
「チャンスボールです!」
「はぁっ!」バニラ!
『ゲーム アクア騎士団 1-0』
「よしっ! まずはサービスキープです!」
「凄いッスねバニラさん。このまま決めちゃって下さい」
「勿論です!」
「バニラ! バニラ!」
バニラちゃんの健闘に観客席の雰囲気も徐々に彼女に傾いていく。
「たぁっ!」
「リターンゲームもバニラさん優位ッス!」
『ゲーム アクア騎士団 0-2』
「そんな……あのスイカズラさんが防戦一方なんて……」
ベンチでチームメイトを心配するスカシユリに、ブリオニアが至って冷静に話し掛けた。
「いや、彼女を良く見て。スイカズラさん、今凄く楽しそうだよ」
「本当に強いね……バニラ」
『強敵と戦いたい? それなら騎士団対抗のテニス大会に出てみろ』
『テニス大会……そこに私の求める敵がいるの?』
『あぁ。必ずな』
「大佐の言ってたこと、本当だったみたいだね」
「ポッピン・ヴァニラ!」
「はっ!」
「もういっちょ!」
「ふっ!」
「攻めに攻めてますね、バニラちゃん」
「それに比べてスイカズラさんは、暗殺者って呼ばれてる割りに地味なプレースタイルじゃないッスか?」
「まぁ確かに……」
(でも何でだろう。凄く嫌な予感がする)
『ゲーム アクア騎士団 3-0』
「よし、行けますよバニラさん!」
「はぁ……はぁ……」
「……バニラちゃん?」
おかしい。あのバニラちゃんが試合中盤に息切れなんて。
「一体何が……」
「さぁ……もっと楽しませてよ、バニラ!」
「くっ……!」
「スイカズラさん、ここに来て盛り返して来たのだ」
「いや、あれこそが彼女本来のプレースタイル。遂に始まるぞ、スイカズラ……シターの『暗殺テニス』」
『ゲーム チームオリビア 1-3』
「スイカズラさんの動きが急にキレ始めた……」
「それだけじゃありません。バニラちゃんの動きも……」
『ゲーム チームオリビア 3-2』
「暗殺テニス……?」
「スイカズラさんは暗殺者の家系らしいよ。だからそのノウハウをテニスにも生かしてるんだって」
(テニスも暗殺と同じ。相手の一瞬の隙を付いて……一気に制す!)
『ゲーム チームオリビア 3-3』
「お、追い付かれた……」
「序盤は防御に徹して相手のスタミナを削ぎ、中盤にギアを上げてゲームを取りに行く。これが『体の暗殺』」
「ぐぅ……!」
「バニラちゃんの攻めがどんどん消極的になっている……?」
『ゲーム チームオリビア 3-4』
「はぁ……はぁ……」
(またあのイメージが……必殺技が返されるイメージが……)
「そして第二の暗殺、『技の暗殺』」
「相手のどんな技も返球していくことで、相手は技を返されるイメージが脳内にこびりつき、そして自分のテニスを失っていく。所謂イップスだね」
「はっ!」
『ゲーム チームオリビア 5-3』
「次はバニラちゃんのサービスゲームですが……これを落とせばバニラちゃんは負ける……」
「ば、バニラさん……」
(追い詰められた……このサービスゲームは絶対に落とせない)
その時、バニラとスイカズラの目が合った。
「ふふ……」
(わ、笑ってる……余裕の現れってことですか……)
「はぁっ!」
『フォルト』
「そんな……バニラちゃんがサーブミスを……!?」
「あれこそが最後の暗殺、『精神の暗殺』。技を封じられ、身体もボロボロになった相手に自分の余裕を見せつけることで、相手はプレッシャーを増幅されていく」
「心技体、全てを暗殺されてコートに立っていた選手はいない。残念だけど彼女は……」
(結構楽しめたよ、バニラ。でももう終わりみたいだね)
「私は……」
『またバニラが問題を起こしたのか……』
『そう言えばアクア団長が戦力が欲しいと言っていましたね』
『丁度良い。あの小娘に押し付けよう』
『ごめんなさい団長さん……あたしもう花騎士辞めます……』
『大丈夫ですよ、バニラちゃん。この騎士団にあなたを嫌う人は誰もいませんから』
ボールがバニラちゃんの頭上に上がる。そして放たれたサーブは……
「っ!?」
(速いっ!)
「ダブルファースト!? ミスの許されない場面で何て強気な選択を!」
(いや、私を出し抜くために敢えて最初のサーブをミスした……!?)
何とかリターンしたスイカズラちゃんだったが、彼女が体勢を崩したのを、バニラちゃんが見逃すはずがなかった。
『15-0』
「よぉし!」
「バニラちゃんを見くびりましたね。彼女は最後の一瞬まで、決して諦めることはない」
(どうして……? 理解出来ない……。そんなボロボロなのに、どうして諦めないの?)
『ゲーム アクア騎士団 4-5』
「行ける……行けますよ、バニラちゃん!」
(……このサービスゲームをキープするだけで私の勝利が確定する。それでも……)
スイカズラの瞳にバニラの姿が映る。汗まみれ、傷だらけになりながらも、彼女の眼差しは未だに鋭さを保っていた。
(いいよ、バニラ。その諦めない心も私が暗殺してあげる)
そして始まったラリー。スイカズラはバニラの隙を付きドロップショットをネット際に落とした。何とか拾うバニラだったが、
「今度はロブ!?」
(人の心なんて、前後に揺さぶることで簡単に砕けるんだよ)
「はぁ……はぁ……」
それでもバニラはボールを追うことを諦めなかった。
(そんな……どうして……)
「あたしが諦めるわけにはいかないんですよ!」
『15-0』
「……」
何とか食らい付いたバニラだったが、スコアボードは40-15。無情にもスイカズラのマッチポイントを告げていた。
「最後まで諦めないで下さい……バニラちゃん」
「団長さん……あたし今、花騎士を辞めるって言った時のことを思い出してました」
『わたし、もっとバニラさんのこと知りたいです』
『バニラさん、これからもよろしくッス』
『バニラちゃん』
『皆さん……えへへ……』
「あの時、諦めないで良かった」
「たぁっ!」
「ここに来てバニラさんの反撃ッス!」
「……ふっ!」
「ロブを上げた!」
「でもあれだとアウトになるし!」
(くっ……力み過ぎた……私としたことが……)
その時、アクア団長が頬に当たる『ソレ』を感じた。
「そんな……風が……」
無情な向かい風によってボールが押し戻されていく。バニラも必死に追うが、スタミナの尽きた脚で追いつける距離では無かった。最早勝負は天に委ねられたと言ってもいいだろう。
「そうだ……入れ……入れぇ!」
そしてボールはバニラ側コートのライン上に……落ちた。
『ゲーム&マッチ ウォンバイ チームオリビア』
「はぁ……はぁ……皆さん、すみません。負けちゃいました……」
「バニラさん、凄かったですよ!」
「バニラちゃん、ナイスファイト」
「団長さん……皆さん……えへへ」
「どうだ、スイカズラ。楽しめたか?」
「……最悪だよ。大佐、この埋め合わせは必ずしてよね」
(まさか私が運頼りになるなんて……バニラ、次は必ず決着を付けないとね)
「アクア騎士団はまだ生き生きしているな。面白い。それなら次は『コレ』でどうだ」
『続いて第二試合、ダブルスを開始します。チームオリビアからはブリオニア・スカシユリペア』
「今大会最強と言われるペアだ!」
「流石チームオリビア。層の厚さが半端じゃないわね!」
『対するアクア騎士団は……』
「行きましょう、ソヨゴさん」
「はい、ハツユキソウさん!」
≪続く≫
この感じだと3話にまたがりそうだな……
ちなみにスイカズラは大佐がテニスで勝って仲間にしたという過去があるとかないとか
ここまで読んで頂き、ありがとうございました