黒澤明監督の「生きる」。大好きな映画です。
名作を汚してしまい申し訳ない……
今皆さんにご覧頂いているのがアクア団長の脳です。どうです? 煩悩煩悩に次ぐ煩悩。他は何も詰まっておりません。いっそ潔いくらいでしょう。
彼女はこれで生きてると言えるのか。花騎士にセクハラするだけの人生で、本当に満足なのか。今回のお話はそんなことを考えながらご覧頂ければと思います。
「あ~、やる気出ないです~……ソヨゴちゃんも遠征に行っちゃってるし……っと、もうお昼か」
花騎士にセクハラする以外の楽しみは、やっぱりお昼御飯ですかね。うちの騎士団の食堂はメニューが豊富なんです。
最近は肉そばにはまっていますね。甘い肉汁がそばの汁に溶け込んで、それはもう絶品なんですよ。汁まで残さず飲めちゃいます。
「おばちゃんっ! いつもの!」
「はいよ」
いつもの、で通じるくらいには毎回頼んでますね、肉そば。
「んっ……団長さん、奇遇ね」
席を探しているとガンライコウちゃんがお蕎麦をすすっていました。
「ガンライコウちゃんは普通のお蕎麦ですか。物足りなくないですか?」
「最近は難しい討伐任務もなくて部屋に籠りきりだし、このくらいで充分なのよ。花騎士なら健康にも気を使わないとね」
「そういうもんですかね。確かにガンライコウちゃん、最近一層太ももがムチムチしてきましたからね。むふふ……ぎゃっ!?」
太ももを触ろうとした瞬間、カラクリ鳥『ザンセツ伍号機』に頭をつつかれる。
「まったく……セクハラも程々にしなさい。それに、食事の方もね」
「食事?」
「毎回汁まで飲み干すのは感心しないわ。それに野菜も無いし。騎士団長なら健康にも気を使わないと」
「大丈夫! 食べたい物を食べるのが私の健康法ですから!」
(本当に大丈夫かしら……)
「あ~、いたたた……お腹痛い……」
「な~んか、最近お通じが悪い気がするんですよね~……」
(誰に喋ってるんだろ、私……)
ちなみに、どんなに可愛い花騎士だってトイレはします。そう、つまりソヨゴちゃんもこの便器を使ったことがあるということ。そう思うと何だか便器すら愛おしく感じてきますね。まあ、頬ずりする程ではありませんが……。
それにしても痛い。痛いのに出が悪い。何だろうこれは。
「ちょっとお医者さん行ってみようかな……」
街のそこそこ大きなお医者さんにやって来た。待合室にいるのはほとんど老人。この人達毎日通ってるのかな……。
「そこの方、もしかして腸の悩みですかな?」
げっそりとやせ細ったおじさんが話しかけてきた。何だろう、新手のナンパかな。
「まあそんなところです」
「まずいですなぁ……。私の友達も腸の病気なのですが、もう余命は幾ばくも無いそうです」
「え……?」
「もう手遅れと判断した場合、医者はこう言います。『軽い炎症ですね。すぐに治りますよ』と。そりゃあそうだ。先の短い患者をわざわざ不安がらせる必要はない」
ごくりと唾を飲む。
「そして、『消化に悪い物でなければ、何を召し上がっても結構です。特に気を付けることもありません』と言われます。こう言われたら終わりです。くれぐれもお気を付け下さい」
それだけ言うと、おじさんは離れた席に座ってしまった。最初は普通の小汚いおっさんに見えた彼が、今では死神のように見えます。
(ま、まさかね……私まだ二十代だし……)
そう思いながらも心臓の鼓動は止みませんでした。
「先生、どうですか……」
眼鏡のお医者さんを前に、私はからからの喉を絞り出して声を出しました。そして、
「軽い炎症ですね。すぐに治りますよ」
(あぁぁぁ! い、いやまだ確定してない。まだフィフティフィフティ!)
「な、何か気を付けた方がいいこととか……食べちゃダメなものとかないですか!?」
「消化に悪い物でなければ、何を召し上がっても結構です。特に気を付けることもありません」
(あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!! 終わった! 私死ぬんだ!)
「あ、ありがとうございました……」
「今の患者さん、凄くしょんぼりしてましたね……」
「そうだな……別に普通の炎症なのにな。まあ若い人だし、病気に慣れてないんだろう」
「そっか……私死ぬんだ……短い人生でした……」
公園のベンチに座る。今は花騎士達と顔を合わせる気になれない。
(あっ、あの幼女可愛いな……スカート短くてパンツ見えそう……デュフフ……)
その時、私の中に黒い考えがよぎった。
(どうせ死ぬのなら、あの幼女さらってもいいのでは……? いや、しかしそれは……)
『おいおい、お前は死ぬんだぞ。今更他人を気遣ってどうする?』
私の中の天使と悪魔がせめぎ合っている。今の所悪魔が優勢だ。というか、天使の姿が見えない。本当にいるの? 私の中の天使。
(いや、駄目です! 私が死んでも、妻のソヨゴちゃんは生き続けるしかない。私が悪に手を染めれば、彼女が悲しむ!)
「というわけで、死んで貰います! 悪魔め!」
『ぐわぁぁぁ! だが忘れるな、お前の中に俺はいつも潜んでいるぞ!』
そうだ。セクハラなんてしている場合じゃない。もっと意味のあることをしなければ。誰かに喜んで貰えることをしなければ。それでなければ『生きてる』と言えない!
私は駆け出した。人生なんて長いものだと思っていたのに、今では一分一秒が惜しい。
「やるぞ! 私は絶対成し遂げてみせるぞ!」
「あのお姉さん、一人で何やってるんだろ……関わらないようにしよ……」
「遊園地を作る?」
「はい! 害虫がはびこる世の中ですし、子供達が楽しく遊べる場所が欲しいんです」
最初に相談に来たのはガンライコウちゃん。技術的なことは彼女に聞けば大丈夫だろう。
「また何か企んで……るって顔でもないわね。了解したわ」
「ありがとうございます!」
「では不動産屋と話を付けてきます。それと業者さんも見繕ってきます」
「今から? 急ぎすぎじゃない?」
「急がないといけないんです……今日は任務はないですが、緊急の用事がある場合は呼んで下さい。では」
それから色々なことがあった。
「ここはうちの土地じゃけぇのぉ! 嬢ちゃんには売れんのよ!」
「どけ、チンピラ!」
「あぁん! 痛い目見たいんか、てめぇ!」
「……ふふ……ふふふ……死ぬより痛いことってあるんですかね……」
(何笑ってんだこいつ……危ない奴だな……あんまり関わらない方がいいか……?)
「アクア団長が遊園地を……? 一体何を企んでいる!? 白状しろ!」
「誤解です~!」
「団長さん、大丈夫ですか? 最近疲れてるみたいだし、お休み取ったらどうですか?」
「大丈夫ですよ、ソヨゴちゃん……それに、今やらないと後悔してしまいますから……」
(団長さん、いつになく真剣な目。何かに取り憑かれてるような……)
「あっ、夕日です。夕日がこんなに美しかったなんて……今まで何度も見てきたはずなのに……」
涙が溢れて止まらなかった。それでも、私は進むしかない。止まっているわけにはいかない。
そして一年後。
「出来た……ついに出来た……」
遊園地は完成した。運営にはもう少し時間が掛かるらしいけれど、それまで私の命はもたないだろう……。だけど瞼を閉じれば浮かんでくる、この遊園地で楽しそうに遊ぶ子供達の姿が。
頬が暖かい。これは……涙だろうか。
私はこの一年、人生で初めて『生きた』。花騎士へのセクハラもたまにしかやらず、一生懸命頑張った。もう、何も思い残すことはない……。
試運転しているゴンドラを眺めながら、冷たいベンチに腰を掛けた。頬に冷たいものがちらりと当たる。雪が降り始めた。
寒い。それでもゴンドラから目が離せなかった。そして私の口が、懐かしい唄を口ずさみ始める。
いのち短し 恋せよおとめ
朱き唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
…………
………
……
…
「団長さん……」
花騎士達が発見したもの。それはベンチで冷たくなったアクアの姿だった。
「団長さんはもしかして、自分が死ぬのが分かっていたのかも。だから急いで遊園地を作ろうとした」
「団長さん、まるで何かに取り憑かれたようでした。自分の死が分かっていたのなら、その説明が付きます」
「団長さぁん……どうして死んじゃったんですか~! 目を開けて、またセクハラして下さいよ!」
ソヨゴの涙が他の花騎士達の涙を誘う。その場の全員が大号泣し始めた、その時だった。
「……はっくしょん!!」
「へ?」
「さっむ! 何で私生きてるの!?」
「だ、団長さん……団長さん!」
「うわっ、ソヨゴちゃん!? ……何だか知らんがとにかくよし!」
抱き着いてきたソヨゴをそっと抱き寄せるアクアだった。
その後、検査してみたら大したことない病気でした。(ゝω・) テヘペロ
「何はともあれ良かったですよ~」
「あっ、ソヨゴちゃん。あの時、セクハラして下さいって言いましたよね。証拠は押さえてあるんで」
「っ!?」
余談ですが、アクア遊園地は大盛況でした。しかし、たまに幼女を見つめている不審人物が現れるそうです。許せませんね。見つけ次第注意しなければ。
≪次回予告≫
「最強の花騎士、バニラちゃんが来ましたよ~!」
「あたしが来たからには他の花騎士は必要なし!」
「あんのメスガキ~! 絶対分からせてやる!」
「死ね……死ねぇ!!」
「バニラちゃん! ここは退かないとまずいし!」
次回、「最強の花騎士」お楽しみに
次回予告は毎回続けなきゃいけないか……割とこれ即興で考えてるんですよね……。
まあ、無理だと思ったら止めますw
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。