さてさて、どうなることやら。
「34番、釈放だ」
「はい……お世話になりました」
数ヶ月ぶりの青空だ。光が東から西へと広がっていく。私の光だ。私もこんな風に自由になったんだ……。
前回、覗きで捕まった私は獄中で過ごすことになった。そして刑期を終えて、こうしてシャバに出てこられたというわけだ。
「……皆に合わせる顔が無いです……」
その頃、ウィンターローズの大地を二人の花騎士が歩いていた。
「スキラ、今日もボロ負けだったね」
「う、うるさいわね! わざわざ言わなくていいの」
旅行に来ていたスキラとカゲツだった。
「しかし、折角ウィンターローズに旅行に来たのに、やることがギャンブルって……」
「カジノを見ちゃうと血が騒ぐのよ、ギャンブラーのね」
「そう……」
「そろそろお昼ね。近くにお店あるかしら?」
「ちょっと探してみようか~」
レストランを見つけたので、そこで昼食を取ることにした。
「メニュー色々あるのね」
「スキラはお子様ランチ?」
「こ、子供扱いしないでよ!」
(少し食べてみたいけど……)
二人が談笑しながら食事を楽しんでいるところに、一人の女性が姿を見せた。
長身の美人だが、どこかやつれた印象がある。
彼女は虚ろな目で店員を見つめると、
「ラーメンとカツ丼、それとビールをお願いします」
と注文して、スキラ達の隣の席に腰かけた。
(ロリがいる……いや、いかん。罪を重ねるわけには……)
(随分と雰囲気のあるお姉さんね……)
「お待たせ致しました」
料理が運ばれてくると、女性はその湯気を思い切り吸い込み、やがて犬のようにがっつき始めた。
「はふ……はぐ……んぐっ」
(行儀悪っ! いや、余程お腹が空いてるのかしら……)
「んっ……んん!? ごほっ、ごほっ!」
「だ、大丈夫!? ほら、水飲んで」
むせた女性に自分のお冷やを差し出すスキラ。
「あ、ありがとうございます……」
「へぇ~、お姉さん、騎士団長だったのね」
「はい……少し前までは……」
成り行きで二人の少女と仲良くなった。スキラちゃんとカゲツちゃん、二人とも花騎士らしい。
スキラちゃんは八重歯が可愛いロリで、カゲツちゃんはおっぱいがぷるんぷるん。あぁ、久しぶりにセクハラしたい……。
「辞めちゃったの?」
「色々ありまして……」
(深刻そうな顔……他人に言えない深い事情がありそうね……)
(覗きで捕まったなんて言えない……)
「アクアさん、これから予定あるの?」
「ありませんね……当て所もなくふらつくくらいしか……」
「それなら、わたし達と一緒に旅行しない? 地元の人がいた方が楽しいだろうし」
「お、お邪魔じゃなければ」
ナンパ!? ナンパじゃないか! まさか二人の美少女からナンパされるなんて、人生まだまだ捨てたもんじゃないなぁ。
「ウィンターローズはじゃがいもが美味しいんですよ。こんな風にバターを付けて」
「へぇ~」
「ここがかの有名な時計台ですね」
「ふむふむ」
「温泉も有名なんですよ。ベルガモットバレーの温泉とは一味違うでしょう?」
「ホントね」
「ふぁ~……今回の旅行は凄く楽しめたわね~」
浴衣姿で背伸びをするスキラちゃん。あぁ、生足。舐めたい。
「アクアさんのおかげだね。ありがとう」
「いえいえ、そんな! 私の方こそ楽しかったですよ」
「ねぇ、アクア。あなたさえ良ければ、ブロッサムヒルに来ない? うちの団長に紹介してあげるわよ」
「スキラも気に入ってるみたいだし、私もアクアさんが来てくれれば嬉しいな~」
「……嬉しい申し出ですが、私には妻がおりまして……彼女の意見も聞かなければ」
「そう……奥さんが……」
「と言っても、今も妻で居てくれているか分かりませんが……」
≪回想≫
「団長さん!」
冷たい手錠がかけられ、警察に連れて行かれる時、ソヨゴちゃんの声が背中から聞こえました。
「わたし待ってますから! 何年経とうと、あの騎士団で」
「ソヨゴちゃん……あなたみたいな良い子は私には勿体ない。もっとまともな人と所帯を持って、幸せになって欲しいんです」
「そんなこと……」
「でも……もし独り身のまま私を待っていてくれるんなら、鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを付けておいて下さい。騎士団に帰った時、ハンカチがなかったら諦めますから……」
「団長さん……」
「私は不器用ですから、彼女をちゃんと幸せにすることなんて出来なかったんです……きっともう、ソヨゴちゃんは私を待ってはいないでしょう」
私の話を聞いていた二人が俯く。流石に行きずりの二人に話すにしては重すぎたか……。
「……それなら、早く騎士団に行きましょう! 奥さんが待ってるかどうか、確認しないと!」
「だ、だからもう奥さんじゃ……」
「万が一待ってたら可哀想だよ~。駄目で元々って感じで行ってみようよ」
二人から唆され、私も段々とその気になってきた。
「え~い、ままよ!」
駄目で元々。当たって砕けろです!
「うぅ~、やっぱり怖い~……」
騎士団はもう目の前なんだけど、どうしてもこれ以上進むことが出来ない。足が拒否している。
「コラ、アクア! しゃきっとしなさい!」
「だって~、現実を見たくないんですもん! ソヨゴちゃんが私を見捨てるなんて、そんな!」
「まだ見捨てたって決まったわけじゃないでしょ」
「いや、絶対無理ですよ~! こんな犯罪者なんて~! ソヨゴちゃんはきっと……」
≪妄想≫
「あっ、団長さん、帰ってきたんですか? でもごめんなさい。わたし、このお姉さんのお嫁さんになります♡」
「えっ……あっ、え……」
あまりの衝撃に言葉が出ない。ソヨゴちゃんの隣にいるのは、明らかに遊んでそうな浅黒い肌の金髪女性だった。
「ほら、見て下さい、わたしのお腹を。この人の赤ちゃん出来ちゃってるんですよ♡」
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”~~!!」
≪妄想終わり≫
「ぎゃあぁぁぁ! ソヨゴちゃん~~!」
「ひゃぁっ!? ど、どうしたのよ、いきなり奇声あげて」
「すみません、取り乱しました……」
でもどうしても踏ん切りがつかない。ソヨゴちゃんが他の人と幸せになってるんならそれでいいのに、それを許せない自分もいる。私はわがままなのかも知れない。
「でも寝取られる感覚って気持ちいいな……癖になりそう……ぐへへ……」
「?」
「え~い、つべこべ言わずに行ってきなさい! そらぁ!」
「ぎゃっ!」
尻を蹴っ飛ばされた。転んだ先では騎士団の城内が見えて……
「あっ……」
ハンカチだ。黄色いハンカチがはためいている。
「うぅ……ソヨゴちゃん……」
涙がとめどなく溢れた。
まさかソヨゴちゃんが待っていてくれるなんて……。
「あっ、スキラちゃん、カゲツちゃん……」
「ほら、奥さんが待ってるわよ。行ってあげなさい」
「……はい!」
「アクアさん、また会えるといいね~」
「そうね。今度は一緒にパルファン・ノッテにも行きたいし」
「ソヨゴちゃん、皆~! ただいま~!」
「……」
「あれ~、随分静かですね~。愛しの団長が帰ってきたんですよ~」
その時、私は初めて気付いた。自分の両腕が拘束されていることに。いつの間に……。
「丁度いい時に帰ってきたわね、団長さん。新作のからくりが出来たから実験体になって欲しいのよ」
「えっ、え……? ガンライコウちゃん、冗談……ですよね?」
いや、目がガチだ!
「わぁ~、ガンライコウさんの新作楽しみだなぁ~」
「何でも、今回は電流で痴漢を撃退するだけではなく、廃人にしちゃうらしいですよ」
「便利ッスね~」
「思いっ切りぶっ放すし」
「ちょっ、皆、待っ「スイッチ、オン」
「ぎえぁぁぁぁ!」
「皆さん、団長さんが帰ってきたって本当ですか?」
「ええ、今ここに」
ソヨゴが見たもの、それは黒焦げになったアクアの姿だった。
「……げほっ」
「団長さん!?」
「もう、皆酷いですよ~!」
「これでも出力抑えたのよ」
「皆の信頼を裏切った団長の方が酷いッスよ」
「うっ! そ、そう言われると何も言い返せませんが……」
「で、でも刑務所で罪を償ってきたわけですし、もういいじゃないですか。ね、皆さん」
あぁ、こんな状況でも頑張って庇ってくれるソヨゴちゃん、マジ天使。
「まあ、副団長のソヨゴさんがそう言うなら……」
「次はないし」
「はい……肝に銘じます……」
というわけで、色々ありましたがアクア騎士団、これにて復活致します。これからも春庭のために精一杯頑張りますよ~。
「待て、アクア! いい話風に終わろうとするな! これから貴様を再教育する!」
「た、大佐! 勘弁を~!」
「ならん!」
「うぅ~、もう覗きはこりごりです~……」
というわけで、やたらとパロディの多い今作。
ちなみに私は「幸福の黄色いハンカチ」より「遥かなる山の呼び声」の方が好きだったりします(どうでもいい情報)
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。