やっぱり害虫以外の悪役がいた方が、話の幅が広がりますよね
「ふっふっふ……」
紫色の液体が釜の中でぐつぐつと煮えたぎっている。それを見て妖しげな笑みを浮かべているのは、黒いローブを被った少女。
「見ていろアクア……余を辱しめた罪、何倍にもして返してやろう!」
少女の笑い声が、真っ暗な部屋の中に響き渡った。
「はっはっは~! あ~はっはっはあ”っ!? いだっ、顎、外れ……あ”ぁ”ぁ”ぁ”」
「はぁ~、平和ですねぇ~」
「お尻触らないで下さい……」
相変わらずのまったりとした空気の中、温かなココアに口を付けたその時だった。
「アクア団長に告ぐ。アクア団長に告ぐ」
突然目の前に透明な壁が現れたと思ったら、そこにローブを被った人物が映し出された。
「ぶーっ!?」
「だ、団長さん、床が汚れちゃいますよ」
「おっと。失礼しました」
まさか突然人が出てくるとは思わないでしょう。
しかしどうやら実体は無いようです。姿と声を投影する装置なのかな? ガンライコウちゃんなら分かりそうだけど。
いや、そんなことよりも、
「誰です! ソヨゴちゃんと私の愛の巣に無断で入り込んできたのは!」
「余は……カマボコ。悪の科学者、カマボコ博士!」
「ぶーっ!」
「団長さん、また……」
「だってぇ……」
まさか名前が魚のすり身だなんて思わないでしょう。親は何を考えてるんですか。
それに自ら悪を名乗る人初めて見ました。
「……で、そのちくわ博士が何の用ですか?」
「カマボコだ! この小娘が!」
彼女がローブを脱ぐ。そこには……。
「かっ……かっ……」
「団長さん?」
「可愛い~~~!」
どうしよう、めっちゃタイプだ。
黒髪ツインテールにジトっとした目。何より幼い顔立ち、ロリ体型! ソヨゴちゃんとタイプは(体型以外)真逆だけれど、これはこれでどストライクなのだ。
「か、可愛くなどないわ! そうやって余を動揺させようとしても無駄だぞ! 小娘! おバカ! あんぽんたん!」
顔を真っ赤にしてプンスコ怒っている。でも全く迫力が無い。それに語彙力も無い。可愛い。
「やはり貴様は許せん! 余の手で葬り去ってくれる!」
「あらあらそうですか~。頑張って下さいね~」
「ふふ、余裕でいられるのも今のうちだ。足元を見よ」
「そんな安い手には……みぎゃぁっ!」
「団長さん!?」
突然視界が真っ暗になった。そして身体が軽くなったのを感じる。もしかして私は今飛んでる……? いや、落ちているんだ!
「いやぁぁぁぁ……!」
「団長さ~ん!」
ソヨゴちゃんの声が闇の中に反響している。その声はだんだんと遠くなっていき、聞こえなくなっていった。
「というわけなんです! どうしましょう、ガンライコウさん!」
「まぁ落ち着いて。カマボコ博士……確か去年、F物質というものを発見してニャーベル賞を受賞した天才科学者ね。それと同時に悪い噂も絶えないわ。世界を征服しようとしているとか、人を悪魔に変える研究をしているとか」
「そ、そんな凄い人が相手なんて……ど、どうしましょう!」
動揺が隠せないソヨゴの頭を、ガンライコウの手は優しく撫でた。
「大丈夫よ、ソヨゴさん。団長さんは必ず助け出しましょう」
「でもどうやって「話は聞かせてもらったッス!」
ソヨゴが振り返ると、そこには完全武装した花騎士達の姿があった。
「み、皆さん……」
「敵の隠れ家にカチコミかけるッスよ!」
「何だかんだで団長さんは大切ですからねぇ」
「でも、どうやって団長さんを見つけましょう?」
「あたしに任せて。団長さんの溢れ出るロリコンエネルギーを探知出来る装置を急ピッチで作るわ」
「大まかな場所が分かれば、後は私が感知するし」
そのやり取りを一歩引いた位置から眺めていたハツユキソウは、こう思った。
(いや、いくら何でも都合良過ぎるでしょ。そしてロリコンエネルギーって何だろう? って、団長さんがいればツッコむだろうなぁ……)
そしてハツユキソウは考えるのを止めた。
「……うっ、ここは……」
気を失ってたのだろうか。気が付くと真っ暗な部屋の中で、椅子に縛り付けられていた。
「ふふ、気が付いたか」
カツンカツンと足音が響き、先程の黒髪の少女が現れた。
「あなたは……はんぺん博士!」
「カマボコ博士だ!」
「何処です、ここは!? 何が目的ですか!?」
「ここは余の秘密の研究所。ここで貴様は「まさかエッチな拷問を……」
「違わい!」
「貴様はやはり癪に触る。あの時から変わっていないな」
「あの時? 知り合いでしたっけ?」
「忘れたとは言わさんぞ! あれは20年程前の話だ……」
…………
………
……
…
余と貴様が初めて出会ったのは、ウィンターローズ王城だったな。二人ともまだ幼かったが、余は科学の、貴様は戦闘や戦術の天才児として、当時のウィンターローズ女王に謁見した時のことだった。
「わたしはアクア。あなたは?」
「私は……カマボコ」
人見知りだった余にとって、同年代の子がいたことは何より心強かった。貴様も積極的に話し掛けてきたしな。
「そっか、可愛いねカマボコちゃん。ホント可愛いね~」
「?」
少し変な子だなとは思ったが、当時子供だった余には分からなかった。貴様の変態性が。
「ねぇカマボコちゃん。まだ女王様へのお目通りまで時間があるし、一緒に遊びませんか?」
「いいけど、部屋の外には出ちゃダメだよ」
「大丈夫大丈夫。わたしが良い遊びを知ってます」
「どんな遊び……ひゃあっ!?」
余の服の中に突然アクアの手が入ってきた。
「な、なんでそんなとこ触……」
「ふふ、ここをくすぐると気持ちいいんですよ。ほらほら」
「にゃっ……やめ……あっ」
「あぁっ、ペタンペタンのお胸最高……エクスタシー!」
まだ性の知識の無かった余を、貴様は何度も何度も弄くり回してきた。余の腰が立たなくなるまで。
「ふぅ~……ふぅぅ♡」
「あぁ、カマボコちゃん最高! 結婚しよ、結婚!」
「結婚!? だ、ダメだよぉ、私達まだ子供だから」
「愛に年齢と性別は関係ないんですよ!」
「ふぇぇ……」
「ただまぁ、色々と都合もありますから、大人になったらにしましょうか」
「ほ、本当に結婚するの……?」
「当然! 美少女ハーレムを作るのがわたしの夢だから、いつかカマボコちゃんも入れてあげるね」
「う、うん……?」
余はつい頷いてしまった。当時の余は友達も少なかったから、スキンシップ過多の貴様のことが少し好きになってしまったのも事実だ。
それから余は貴様を待っていたが、結局貴様が迎えに来ることは無かった。そして最近になって、貴様が花騎士と婚約したというニュースが流れてきた。
そして余は知ったのだ。貴様は所詮口から出任せを言ったのだと
…
……
………
…………
(そう言えば、当時は可愛い子皆に結婚を迫っていたような……)
「そしてとうとう貴様と再会することが出来た。嬉しいぞ」
「ということは……私のお嫁さんになりに来たんですね! カマボコちゃ~ん!」
「シャラップ!」
「ぶべっ!?」
小さなお手々でビンタされてしまった。
「誰が貴様なんかと結婚するか! 余の目的は貴様への復讐、そのために余は悪の道を進んできたのだ!」
「そ、そんなぁ……」
「さぁて、それでは復讐の時間だ。まずは指を一本ずつ切り落としていく」
「結構ガチのやつ! 感度3000倍とか、そんなのじゃないんですか!?」
「両腕を馬に縛り付け、そのまま両側から引っ張る、というのもあるぞ。どっちがいい?」
「どっちも嫌です~。助けて花騎士達~」
(ん? 花騎士達……?)
「そう言えば、私が連れてこられてから何時間経ちました?」
「5時間程だが、それがどうした?」
「それだけあれば充分ですね」
「何を言って……ぬぉっ!?」
爆発音が聞こえてきた。計算通り。
「くっ……花騎士め、もうここを見つけおったか……だが問題ない。返り討ちにしてくれる!」
「どうですかね? うちの花騎士は優秀ですよ」
≪10分後≫
「すみません、捕まりました……」
「えぇ……」
「この基地、世界花の加護を無力化するバリアを張ってるみたいね」
「加えてロボット兵が強いのなんの……」
あれ? これ割りと絶対絶命では? もしかして最終回なの?
「ふふふ、では花騎士を先に処刑するか。貴様らに恨みはないが仕方ない。恨むのなら団長を恨むのだな」
「くっ……」
まずい。これはホントにまずい。花騎士達を死なせるわけには……まだセクハラしたいことが山程あるのに!
「処刑用ロボット、入れ」
カマボコ博士が指をパチンと鳴らすと、10m程の大戸がギギギと開いた。しかし、
「……ん? どうした?」
何度指を鳴らしてもロボットが入ってくる気配が無い。
「故障か?」
カマボコ博士がそう呟いた瞬間だった。
「探しているのはこのガラクタかね?」
「っ!? 何者だ!?」
一人の女性が部屋に入ってきて、バラバラになったロボットのパーツを放り投げてきた。
(だ、誰です……? 光が強くて見えない……)
「くっ、戦闘用ロボット! 全機出撃!」
十体程の巨大ロボットが彼女を取り囲む。
「まずい! あたし達でも勝てなかったロボットよ! 普通の人が勝てるわけ無いわ!」
八方からバルカンが掃射される。硝煙の臭いが部屋いっぱいに広がった。
「ふっふっふ! これでは蜂の巣だな……え?」
カマボコ博士は言葉を失った。一瞬にして全てのロボット兵がバラバラに分解されてしまったのだ。
「な……な……!」
(少しずつ姿が見えるようになってきた……それにあの身のこなし……まさか……)
「オリビア大佐!」
「世界花の加護が発揮出来ないとは言え、こんなガラクタに手こずるとは……まだまだ訓練が足りんぞ、花騎士達」デェェェェン
やっぱりオリビア大佐だ。しかも防弾チョッキにライフル二丁と、背中に刀。完全武装した彼女を見るのは久しぶりだ。
「オリビア……まさかあの『戦場の悪魔』か!?」
戦場の悪魔……現役時代の大佐の二つ名。世界花の加護もなく極限級害虫を葬り去っていた様子を見て、恐れおののいた人々からそう言われるようになった。
「カマボコ博士、ついに尻尾を見せたな。貴様の身柄を拘束させて貰う」
「ふん! 出来るものならやってみろ!」
オリビア大佐が彼女に近付いたその時、ジェット機のが彼女の真上に現れた。そしてそれは人型のロボットに変形し、彼女を抱えて飛び去ってしまった。
「アクア! 貴様との決着、次は必ずつける! 精々怯えながら待っているが良い! ふっはっはっあ”っ! 舌噛ん……いだぁぁぁっ!」
「オリビア大佐、助けて頂きありがとうございました」
「……」
「大佐?」
「今回でお前達の弱点が分かっただろう。花騎士は世界花の加護に頼りすぎている。基礎の基礎からやり直しだ。まずは100kmダッシュ!」
「ぎえぇぇぇ!」
(皆、大変そうだな~)
「アクア、お前もだ! 行ってこい!」
「わ、私もですか!? ひぇぇぇ!」
走り去るアクア達の姿を、オリビアは真剣な眼差しで見つめていた。
(強くなれアクア、花騎士達。どんな強敵が来ようと、絶対に負けるな……死ぬな)
この眼差しは厳しくも優しい、慈愛に満ちたものだった。
特殊能力もなく、ただひたすらに強いキャラが好きだったりします(通りすがりのサラリーマンとか)
オリビア大佐も異常に強いという設定はあったのですが、やっと戦闘描写にこぎ着けましたね。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。