初投稿です(大嘘)
今回は本編で暴れるあの人の話。
王の2つめ
世の中は退屈だ。
当たり前のような出来事が、当たり前のように過ぎ去っていく。特段これといった輝きも無く、もはや見慣れた鈍色の景色が今日も流れていく。
本や有難い御言葉には「そんな毎日にこそ価値がある」だとか、「当たり前を当たり前だと思うな」だとかあるけれど、そんなものは実際に失ってみない限り、上辺だけならばともかく本心では到底わかるものじゃ無いだろう。
ともかく私の毎日は退屈で、ありふれていて、何をするにしても特別な輝きを感じる事が出来ないでいる。
だから私は────、
"壊れてしまえ"と今日も願うのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「スメラギさん、また9月に」
「えぇ、皆さんもお元気で。」
学園の大きな正門前で、同じクラスの同輩達に別れを告げて迎えに来た自家用リムジンに乗り込む。
……突然の高級車で面を喰らいましたか?
でも私にはこれが日常なんです。
何せ私は市内の八割を牛耳っているとすら噂される「スメラギ財閥」の令嬢なのですから。
もちろん先程出た学園も、国内でも五本の指に数えられるレベルの所謂お嬢様学校、
「私立リット学園」と名付けられたあの学園は小高い丘……というよりは山の一角を丸ごと支配するように佇み、実際にその山全域が学園の所有物になって、厳重な警備体制が敷かれています。私達、名家の令嬢はそんな箱庭の如き学園に囲われた学生生活をおくるのです。
しかしそれも一段落、この学園にも夏季休暇というものがあり、明日からおよそ30日の連休となる。
この連休をどう過ごすかは当然ながら各々の自由であり、私は実家へ帰る事となるのですが……
「爺、今日も良いかしら。」
「かしこまりました、お嬢様」
運転手を務める執事に、一言告げるのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガンダムシーサイドベースIBO。
それは全国に幾つも展開された、俗に言うプラモ屋を中心とした店舗群であり、その対象ジャンルを「機動戦士ガンダム」シリーズに限定した、ある種のテーマパークとも言える大型施設だ。
そんな場所に一台のリムジンが停車し、それを見た人々は騒然とする。
当たり前だろう、少し離れた場所にはこのベースのシンボルマークでもある大型モニュメント「1/1ガンダムバルバトス立像」がそびえ立ち、周囲はリムジン等とは結んでも結び付かないような「ガンダムオタク」のテーマパークが広がっているのだから。
そしてそこから出てきた令嬢の姿に誰もが二度見をしてしまう。まるで少女漫画か何かから出てきたような外見をした少女が、迷うこと無く目の前のシーサイドカフェへと歩いていくのだ。
当の本人はそんな視線に気付きつつも、微塵も気に止める事無く、そのまま自動ドアのセンサーを受けて開いた扉から中へと入っていく。
「らっしゃ……あぁハノエお嬢様、いらっしゃいませ。本日はお日柄もよろしく……」
「何度でも言いますけど、そういうの止めてくださいません?無理をしているのが丸わかりですよ。」
「……サーセン。んでお嬢、今日もいつものコースで良いんですね?」
「えぇ、個室3時間でお願いします。 」
「んで情報は秘匿、と……はいはい、手続き完了ですよ。それじゃあコレと、コレ。何かあったらいつでも呼んでくださいね」
受付にて何やら親しげに話した後で2つの鍵を受け取った少女は、そのまま奥のGBNプレイルーム……を通り過ぎて、幾つかの個室が並ぶ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……さて、と。今日は此方にしましょう 」
個室を施錠してゲーミングチェアに座り、傍に置いた鞄に手を入れ探って…1つの携帯端末を取り出す。
それを数秒見つめ、眼前の筐体にセットする。
筐体上部に起動を告げる
黒く煌めくガンプラを筐体の読み取り機に置いて光を浴びせる。その間に私は備え付きのヘッドセットを被って、身体に余計な負荷が掛からないようにゲーミングチェアへ全身を預け…ログイン工程が始まった。
全身が解け、再構築されていく。
電子の海に意識が溶け込み、己が全く違う何かへと変質していく感覚に身を委ねる。
恐れることは無い。こんなものは幾度となく味わってきた感覚であったし、何より今回、
だから、恐れる事等何も無いのだ───、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
GBNセントラルロビー
多くのダイバーがスタート地点に設定するその場所にやってきた少女は、迷わずその場でメニュー画面を開き操作を始める。そんな姿を見た幾人かは、無粋にも連れ立ってそこへ近付いて行った。
「2人は不在…まぁ、平日ですし当然ですね。」
「やあやあ見目麗しいお嬢さん、お1人ですか?」
「俺たち今日すっごい退屈しててさぁ、ちょっとだけでも付き合って欲しいなーってぇ」
「慣れてないなら手解きだってしちゃうよォ?俺達これでもちょっと名の知れたダイバーだからさぁ」
その姿はそれぞれ異なるノーマルスーツに身を包んだ、所謂世紀末フェイスと呼ばれる顔立ちな3人組。誰がどう見てもろくな誘いでは無い文句に少女は1人ずつ見定めるかのように視線を巡らせて……
「えぇ、よろしければ、是非」
満面の笑みで、その言葉を返した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「操作系統のアップデート完了、不具合無し。……久しぶりに使いますが、問題は無さそうですね。」
あの後4人連れ立って移動した先で、3人を先に出発させて少女は1人コックピット調整を行っている。
3人とはこの後出撃すれば即開始の設定にしたフリーバトルを行う約束を取り付けているので、今のうちに異常が無いか確認を済ませたのだ。
「……さて、久々の狩りですよ。」
機体の操縦桿を握り、語り掛けるようにそう呟く。
その言葉に答えるように、愛機……HGガンダムバルバトスをベースに黒く染め上げられたガンプラはその瞳に光を宿し、その姿勢を中腰へと変える。
目の前のハッチが開き、発進シークエンスが進行する。幾つかのシグナルが赤から青へと変わって……
「バルバトス・オルタナティブ、往きます。」
少女の言葉と同時に、それは射出される。
降り立つ先は見渡す限りの荒野地帯、端まで行けば眼下には無限の自然が広がる巨大な台地。
機動武闘伝Gガンダムに登場した「ギアナ高地」が、今回のバトルフィールドであった。
「さて、先の方々は……」
陸に降り立ち周囲を見渡していると…機内アラートがけたたましく鳴り響く。
センサーが敵機の接近を示すそれは索敵機にも簡易的に表示され、戦局を知らせる。
そう……敵が13機連れ立っているという、異常な事態を知らせる索敵画面を、映し出した。
「はっはは、ごめんよお嬢さん!」
「けど俺らもDP稼ぎたいからさぁ!」
「だから大人しく俺達の肥やしになってくれ!」
湧き出る湧き出る敵の群れ。
3人組のジェガン、GN-X、クランシェを先頭に、量産されている機体、という程度しか共通点の無いMS達が迫ってくる。初心者ダイバーからすれば間違いなく、トラウマもののピンチだろう。
しかしそんな状況下において、
コックピットの中の少女は……
"獲物が増えた事"に歓喜して、
口角を吊り上げ笑っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ん?コレは…あぁ、成程」
「どうかした?」
時は少し動いて、セントラルロビー。
そこにログインして降り立った黒い服の男と、黒いフード付きジャンパーの少女は開いた画面のフレンド欄を見ていた。
2人は1つの画面を眺めながら、近場の共用ベンチへと腰を下ろす。少女の方は小さな背丈を補うべくベンチの上に立って、背の高い男の肩に掴まりディスプレイを覗き込んでいる。
「いや何、珍しく楽しんでるなって」
「んー……初めて見るガンプラ」
「嗚呼…サリィはハジメテだったか。アイツは、まだGBNが生まれる前に彼女が使ってた子なんだ。 」
「んー……そうなんだ。どうりで 」
「……何か聞こえたのかい?」
「うん。久しぶりだって、喜んでる。」
少女は画面を見ながら、そんな事を呟いた。
フレンド限定公開としてプロフィールに据え付けられたバトルアーカイブには、今ちょうど終わったバトルの結果が、映し出されている。
そこには……荒野に転がり1つずつ電子の海へ還っていく無数のガンプラと、その中央で唯一無傷のまま佇む、「紫焔を揺らめかせる」黒いバルバトスの姿を映し出して、終了を告げた。
Battle Ended
ここからキャラクター情報
[ハノエ・スメラギ]
少女漫画にでも出てきそうな黄金色のロングヘアが特徴的なスレンダー体型の女性。
対外的にはお淑やかな性格で、整った顔立ちや主張し過ぎない装いも相まってお嬢様然とした雰囲気を漂わせる。
[サリム]
ハノエ・スメラギの所有アカウント。
リアル姿にかなり寄せたダイバールックで、腰まで深いスリットの入った、CERO的にかなりギリギリのラインを攻めている黒のドレスを身に纏っている。
乗機はGPD時代に愛用した機体
「ガンダムバルバトス・オルタナティブ」