IS〈インフィニット・ストラトス〉-IaI   作:SDデバイス

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 想いのままに

 

 怒りのままに

 

 ここに世界を解きましょう

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

「おー……」

 

 放課後のアリーナ。もうちょいで遮断シールドに引っかかる程度の高度にて。

 視界いっぱいに広がるのは雲ひとつ無い青空。そいつがなんとも実に爽快なもので。色んなことをすっかり忘れて、見入る。

 

「おー……――」

 

 そもそも何で前面青空いっぱいになってるかっつー話なんだけど。

 今まさに盛大にこれでもかと吹っ飛んでる最中だからなんだよね。

 自立飛行じゃ、ないんだよね。

 

「ぁあぁあああア゛――――――!?」

 

 ようさっきぶり、現実。

 一瞬呆けた事で制動と受け身のタイミングを完全に逃した。

 ぎょゥるん! みたいな捻れまくった軌道を描いた後に、頭から地面に墜落――いや違う突き刺さったわこれ。少なくとも首は完全に埋まってる。景色が滅茶苦茶に土の色。

 どうでもいいけど俺なんか定期的に埋まってねーか。

 

「うーわ()()。まだどっか数値狂ってんじゃない?」

『つってもデータ上は完全に元通りなんだよ』

「おっかしいわねー……?」

 

 ふよふよ近付いてきたのは、ついさっき俺をホームランした鈴@甲龍。声はたっぷり困惑まじり。加えて眉根を寄せて首でも捻ってそうな感じ。

 ただ、鈴の次の一言は打って変わって明るい声色だった。

 

「とりあえず半端もなんだし全部埋めとこっか!」

 

『何がとりあえず? おいやめろ本当に埋め――待て。待て待て待て甲龍のフルパワーで埋めにかかるのはマジでやめ土木作業みてーな音してんだけど! 嘘だろもう胴体まで埋まってんじゃねーか!?』

「一夏はお城とトンネルどっちがすきー?」

『やめろォ!!』

 

 言うまでもないが、俺はアリーナに埋まりに来た訳ではないし、埋められに来た訳でも無い。バカが考える現代アートみたいなオブジェにされに来たのでも断じて無い。

 じゃあ何しにきたかって、要は白式の『試運転』である。

 機体は直りましたと言われ、実際に展開したらピカピカ。あれこれ操作していて何かエラーが出ることもない。

 

 ――だが、シロが未だに応えない。

 

 目に見える範囲に異常はないが、目に見えない部分にデカイ異常が残っている。

 はたして今の白式は()()()()()()なのか。確かめるためには実際に動かして(一戦)みたが早い。だから鈴に声かけてちょっと付き合ってもらった訳ね。

 試した結果が、これだ。

 

「でも問題あんのはどう見たって機体側でしょ。あんたは()()()()()()んだから」

『あーまあ、そうだけどさ。ちゃんと動くんだけど、前より明らかに追従が遅いんだよな。その辺の()()がでかくてトータルの動作がすげー鈍ってる感じ』

 

 機体が操縦に付いてこない。

 動作自体は完全でも、動作が反映されるのが遅い。

 今まではほぼノータイム、違和感なんてかけらも無かったのに。そこが絶望的って言えるくらい悪化している。

 近接装備オンリーかつ接近戦で真価を発揮する白式に、この不具合はちょっと洒落になっていない。

 あと通常動作もだが、特に雪原の反応の悪さがマジで深刻に超やばい。いやマジでヤバヤバのヤバ。語彙力が消えるくらいにダメ。通常機動の技量がそこまででもない俺でも、使わないほうが機動が安定するレベルでヤババのバ。

 

「とにかくちゃんとメーカーに言って直してもらいなさいよ。ISってのはあんたと違ってデリケートなんだから」

 

 メーカー。メーカーねえ。

 白式の場合担当メーカー=製造元じゃねんだからややこしいんだよな。

 色々あって後回しにしてたが、結局白式は未だに()()()()()()()()()()()()

 だから『急に喋らなくなったんですけど……』って言っても『え、前まで喋ってたんですか……?』としか返ってこねえのな。

 頭の心配されるの今回で四回目なんだよこっちは。

 でもよく考えるとシロの存在を知っているのは俺だけだ。あれ? ほんとに幻覚だったのか? シロが俺の空想上の存在だった可能性が微粒子レベルでは確かに存在している……?

 

「さーってと。これ以上やんのも無駄だろうし、あたしは――」

 

 俺が自己の内面と対話を始めた横で、鈴が声を上げた。確かにこの状態で続ける意味はないし、切り上げるのが得策だろう。ただ帰る前に俺を掘り起こしてほし、

 

「セシリア――――! 戦ろ――――――!!!!」

 

 弾丸のように飛んでいく鈴。

 余波で掘り起こされると言うか吹き飛ばされる俺。

 ごろごろと転がる最中で、オルコットの悲鳴が聞こえた気がした。

 

「…………居たのかオルコット」

 

 アリーナの壁にぶつかってようやく止まる。

 防御機構はしっかり機能しているので痛みは無い。とはいえ機体が本当に万全なら、ぶつかる前に体勢くらいは立て直せているのだが。

 ふいに。

 再度空で埋まっていた視界に、影が割り込む。

 誰かが俺を見下ろしてい、

 

「僕もずっと居たんだけどね。全然気が付かなかったよね。別にいいんだけどね」

 

 シャルだった。

 満面の笑顔だった。

 すっげえニコニコしながら、俺に手を差し出している。

 しばし逡巡して、俺は機体を格納してから自力で立ち上がる。

 

「人の親切は素直に受けなよ」

「いやなんかシームレスに投げ技に移行しそうな気がして」

「…………」

「その手があったかみたいな顔やめろ」

 

 企み顔からアリーナの中央方向に視線を変えると、レーザーと衝撃波がこれでもかと飛び交っていた。

 やりあってる二人の口元も忙しないから、口撃の方もさぞ飛び交っているのだろう。

 

「機体、どう?」

「全くダメじゃねーけど良くはねーな」

「見ててそんな感じだったね。しばらくは修復に専念した方がいいんじゃないかな。半端な状態で動かすのは機体に良くないし、何より危ないよ」

「そりゃそーなんだけどな……」

 

 一理ある。

 というか百理くらいある。

 ただ問題なのは、修復の方法に目処が立っていないということ。

 今のままではこの先一生大人しくし続けることになりかねない。

 

「でも実際に動かして試したいとか、今日みたいに模擬戦する時は次から僕に声をかけて。いつでも付き合うからね」

「いや別にそこまで気使ってくれんでも。そりゃ空いてたら頼むかもしれんけど」

 

 断る理由はない。しかし逆にわざわざシャルを指定して呼びつける理由もない。その時空いてる誰かに頼めばいいだけの話だ。

 だがシャルはきょとんとした顔になった。そして、今まさに暴風雨みたいになっているアリーナの中央――正確には、そこで争っている二人を指差した。

 釣られて俺も二人(台風)を見た。

 指が今度はシャルの顔を指す。

 俺もシャル(女の子)を見た。

 

「白式の不調を加味してうまく()()()できるの、私以外に居る?」

 

 

「…………………………………………………………」

 俺、今たぶん、いや間違いなくめっちゃくちゃにしっぶい顔してる。

 沈黙したまま数秒経った。まずった。これ完全に失敗した。適当になんか返して茶化しとくべきだった。この場で無言は肯定になる。

 

「んふふ」

 

 俺が暗に認めてしまったのを見計らうように、満足げに笑う顔がそこにある。

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

「さあて。どーしたもんかなー」

 

 止む気配の無い嵐渦巻くアリーナを後にして、更衣室。

 着替えながら、そんな呟きが漏れた。

 

「機体、機体の修理かー」

 

 白式の不調は、一刻も早くなんとかする必要がある。

 授業くらいなら大変でも十分こなせるだろう――が、授業以上の状況では詰む。絶対に詰む。今の白式ではアブソリュートどころか無人機相手でも秒で詰む。

 

 それに、何より。

 足踏みしている時間が惜しい。

 俺自身の、残り時間がわからないというのに。

 

「当たりは付いてんだけど、その先がなー」

 

 目があるとすれば、白式を()()()人間を頼る事。

 ポイントなのは誰が作ったか『わからない』という点。

 誰にも知られずISを作れるという時点で、まず相当絞り込める。

 更に加えて、唯一の男性操縦者の機体を作ったという事実を明かさない――すなわち名声に興味がないということ。

 この条件を満たせるって時点で、答えなんて出てるよーなもん。

 

 それが誰かといえ――バガァ! と音を立てて天井の換気口の蓋が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 なんで?

 

 

「しまった! もうほとんど着ているではないか!!」

「ウゥワワ――――!!」

 

 目の前に。

 急にラウラが。

 垂れてきた。

 

 なんつうかバカみたいに単純に死ぬほどびっくりした。連動したリアクションも死ぬほど単調になった。マッハで襲ってくるホラーに人間は凝る事ができないのである。

 

「状況がぁ! なんも! わからん!!」

「うむ。これは信頼できる筋からの情報なのだが、なんでも裸の付き合い? をすると仲がより深まると聞いてな。確実に衣服を脱いでいるであろうタイミング(着替え中)を見計らって仕掛けたという訳だ」

「あーはいはい訂正にどこから手ぇつけていいかわかんねー! あとせめてドアから来いや毎度毎度! 一日に通るドアの数を縛って生きてんのかお前は!!」

「別件で出遅れたものでな。ちょっとショートカットした」

 

 バカみたいに跳ねくるった鼓動を必死になだめながらの俺。

 一方ラウラは完全ニュートラル。淡々と告げた後は、逆さまの宙ぶらりんから危なげなく地面へと着地した。

 相変わらず、こいつ、マジで、まーじで、頭に()()()()()()

 来るタイミングが一切わからないから、四割増しくらいでビビる羽目になる。

 

「いや。いやいやいや。待て待てなんで服を脱ぎ始める?」

「着衣状態をお前と揃えれば、脱いだ衣服分の効果が見込めると思ったのだが」

「そーゆーシステムじゃねーよ」

「そうなのか。そうか、ならば仕方ない」

 

 この後、寮への帰り道でしっかり訂正しておこう。でないと後がまずい。今後服を脱ぐタイミングでの奇襲に怯えながら生きていく羽目になる。

 とにかく止まっていた着替えを再開し、

 

「改めて全部脱いでもらうとしようか」

 

 残りの着替えを諦めて全速力で更衣室から飛び出した。

 下は完全に着てっからちょっとくらい何とかなんだろ!

 

 

 

 ▽▽▽

 

 アリーナ男子更衣室襲撃からおよそ20分ほど経過した後。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは自室にて思いを馳せていた。

 未だラウラに追跡されていると思い現在進行系で逃げ続けている織斑一夏を、ではない。

 近付く臨海学校に向け、先程クラリッサとの間で行われていた作戦会議の内容を思い返していたのである――

 

 

 

『まず水着の色ですが。隊長はご自分に似合いの色と言われ、思い当たる色がおありですか』

『ふむ。そうだな――黒、赤、もしくは銀辺りだろうか』

『さすが隊長。私も完全に同意見です』

 

 アドバイサーであるクラリッサとの意見の一致に、ラウラは満足気に頷く。

 それに織斑先生とお揃いの色であるし。

 

『なので隊長には白の水着を着ていただきます』

『何故!?』

 

 突如背中から刺されたかのような衝撃。

 ラウラは反射的な絶叫を抑えられなかった。

 

『隊長。決して私はふざけている訳ではありません。次に水着の形状、というよりかは水着を着用した隊長が目指すスタイルですが』

『そ、そうだな……水着は最カワとしても、私自身はあくまで屹然としているというか、冷徹さを保つべきだと思う』

『さすが隊長。しっかりと自身に適した在り方を見据えておられる』

 

 アドバイサーであるクラリッサとの意見の一致に、ラウラは満足気に頷く。

 織斑教官のような在り方こそが目標にして到達点である。

 

『なので隊長には『きゃるん』としていただきます』

『き ゃ る ん ! ?』

 

 真正面から顔面を金属バットでぶっ叩かれたかのような衝撃。

 ラウラは己の声が裏返るのを抑えられなかった。

 

『どうしたクラリッサ!? クラリッサ!? 私が今話しているのは本当にあのクラリッサか!?』

『そのクラリッサです。落ち着いてください隊長。いいですか――』

 

 慌てふためくラウラと違い、クラリッサは落ち着いていた。

 声にも感情にも一切の乱れはなく。とても冗談を言っているとは思えない。

 未だ動揺を残しつつも、ラウラは次の言葉を待った。

 

『隊長は同年代の他の生徒たちよりも遥かに高い戦闘能力を有しておられます。しかしながら外見は遥かに幼い少女です。その幼さは決して弱点ではありません。むしろ武器となりましょう。その武器を最大限に活かすために、あえて白を用いるのです。更にワンポイントで紫を加え、微笑ましさに留めた『背伸び』感を演出します。何よりも白の映える少女性、いずれ至る女性という将来性を秘めた紫。この相乗効果により今の隊長の外見上の魅力は完璧なものとなるでしょう。だが、まだです。そこできゃるんとするのです。普段は質実剛健を体現する隊長が年頃の女の子らしくあろうとする。そのギャップには隊長が想像する以上の破壊力が生じます。完璧に出来る必要はありません。むしろ多少不完全な方が良いまであります。慣れぬ仕草に戸惑いながらも、振る舞う姿を相手の網膜に叩きつけるのです。隊長は少女としては未熟。しかし未熟とは可能性。故に隊長が少女であること、女の子であろうとする行いを止めることはこの世の誰にも叶いますまい。無論容易な事ではないでしょう。苦難もありましょう。羞恥もありましょう。戦いとは違う痛みもありましょう。それらすべて秘める必要はありません。動揺も恥じらいも痛みも好意も何もかも『貴方のためだけに生じた感情』として標的へまとめて叩きつけてやるのです」

 

 ちなみに、ドイツ側(黒ウサギ隊)では。

 直立不動で日本のラウラと作戦会議を続けるクラリッサを、周囲の隊員達が固唾を飲んで見守っていた。

 

『さすがは黒ウサギ部隊の副隊長……!』

『伊達に日本のマンガやアニメを愛好してはおられない……!』

『なんて冷静で的確な判断力なんだ……!』

 

 ちなみに本当にどうでもいいことではあるが。

 彼女達は勤務中であるので、今この瞬間にも給料が発生している。

 

『ハッ!?』

『ふ、……』

「副隊長殿が……』

 

『『『血を流しておられる…………!』』』

 

 直立不動かつド真顔で、興奮しすぎて鼻血を流しながら作戦会議を続けるクラリッサの姿を、日本のラウラは知る由もなかった。

 まあ見えてても感心するだけかもしれないが。

 

『こ、言葉の意味は全くわからんが…………お前ほどの戦士が、そこまで言うならば。私も覚悟を決めよう……!』

『隊長……!』

『クラリッサ……!』

 

『ご武運を……!』

『ああ……!』

 

 

 

 

 

 

「やはりクラリッサに相談したのは正解だったな……」

 

 頼りになる副官とのやり取りに思いを馳せながら、ラウラは何度も頷く。

 ただ思考より帰還し、目を開けたラウラに瞳に映るのは――辛い現実だった。

 

「フフフ……」

 

 クラリッサに出来るサポートは水着の手配と振る舞いのアドバイス。

 物理的な距離がある以上、それが限界なのだ。そう、届いた物資を用いた()()()()はラウラが単独で行わねばならない。

 

「ダメだ……ッ!」

 

 姿見の前でラウラは崩れ落ちた。映るのはどう見ても結んだとは言えない、爆心地のような有様の髪型。一般的な女子的感性が低いラウラでも『あ、これはダメなやつだな』と判るくらいの完璧な失敗であった。

 

 そう!

 

 戦闘能力全振りのラウラには!

 

 身だしなみや最低限のおしゃれが!

 

 で き な い の で あ る ! !

 

 

「わ、私は……こんなにも……こんなにも、弱い……! 私はいつもそうだ……失敗する……やりとげられない……誰も私を……誰も……」

 

 打ちひしがれた敗残兵の如きラウラが地べたで身悶えている。ただ髪を結ぶだけの行為に20回以上失敗し、ラウラのメンタルは限界を迎えていた。

 さて。

 この寮の一室はラウラ・ボーデヴィッヒに割り当てられた部屋である。

 しかし一人部屋ではなく、ルームメイトが存在する。

 

(…………えぇ、何これ)

 

 ルームメイト――シャルロット・デュノアは無様に転がるラウラを眺めながら、死ぬほど困惑していた。シャルにとってのラウラ・ボーデヴィッヒは好戦的な危険人物という印象が強い。実際にラウラが好戦的であったし、危険な振る舞いもあった。下手に干渉すれば噛みつかれるのでは、という懸念は決して間違いではない。

 しかしながら今目の前にいるラウラは弱りきっていて。

 ならばその時点で、シャルロットの取る行動は決まっていたのだろう。

 

「――はい。できた。こんな感じでいいのかな?」

「お、おお……!」

 

 鏡に映るラウラの髪型はシンプルなツインテールに変わっている。

 先程までの元の容姿の良さでも相殺できない極限無様状態とは違い、シンプルに可愛いといえる仕上がりだ。

 

(一応恋敵になるんだけど……ま、いいや)

 

 経緯は一切不明なれど、ラウラは一夏への好意を示している。

 そんな相手のおしゃれの手伝いをするのは、賢いとは言えないのかもしれない。それでも鏡に映るラウラがあんまり目をキラキラさせているものだから。

 

「あ、あの……他にも試してみたい髪型がいくつかあるのだが、た、頼んでもいいだろうか……」

「いいよ」

 

 鏡越しにそう問うてくるラウラに対して。シャルは笑顔で応える。

 賢くなくとも、きっと間違ってはいないはずだと思う。

 

「すごいなお前は。まるで魔法のようだ。どこで研鑽を積んだのだ?」

「研鑽ってほどでもないけど。僕は子供の頃に…………お母さんが教えてくれたんだよ」

「…………そうか。母がいれば、教えてもらえる事なのだな、これは」

 

 シャルはラウラの出自を知らない。

 けれども複雑な出自であることを今察した。故にそれ以上深入りはせず、銀の髪を扱うことに専念した。ラウラはシャルの心情を察したのか、気にしてすらいないのか。ただされるがままに髪を任せている。

 違う方向性ながら、思いを馳せるのは互いに母という存在について。

 静かな時間が、しばし流れた。

 

「シャルロット。お前に頼みがある」

「どうしたの、急に深刻そうな顔して」

 

 ラウラが沈黙を破った。

 その表情は先程までとうってかわって、まるで戦士のような顔つきだ。急な変化に戸惑うシャルに対して、ラウラはめちゃめちゃ深刻なトーンで告げた。

 

「私に女子力を教えてくれ」

「なんて?」

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

「あれ? ここどこ? ………………え、マジでどこだここ!?」

 

 やべえ超迷った。

 人間って本気で焦ると、思った以上に周囲が見えなくなるらしい。学園内の今まで来たこと無いエリアに迷い込んでしまったらしい。見覚えのある建物が一切ねーな。

 ただ迷っただけならば、まだマシだったけどさ。

 俺、着替え中に飛び出してきちゃったんだよね。

 だからISスーツに制服のズボンっていうすげーちぐはぐな格好してんだよ。最初は上裸だったからスーツ出したんだけど、そうすると思った以上にズボンが浮く。

 

「まーしゃーねーな。誰かに道聞こーっと」

 

 いざとなったら、通信で知り合いの誰かに迎えに来てもらえばいいのだ。後でいじられたりデカめの借りにされたりしそうだから最終手段とするが。

 

「あれ、鍵かかってんな」

 

 一番近くにあった建物の入口にきたはいいが、横のパネルにロックを意味する表示が出ている。IS学園には一般生徒が入れない箇所も結構あると聞いてはいた。もしかしたらここら辺がそういうエリアなのかもしれない。

 

「入れなくてもいいんだけど中に誰か居ねえかな。インターホンとか付いてないのこれ?」

 

 パネルを適当にペシペシする、と。

 短い電子音と共に――ロックが解除された。

 

「え?」

 

 目の前の扉が音もなく開く。

 生徒なら入れる場所だったのだろうか。とりあえず誰か居ないかと中を覗き込んでみる。結構な広さのあるその場所は、作業場と研究室を足して4をかけたような様相。

 要するに相当とっ散らかっている。何に使うのかさっぱりわからない工具や設備、辛うじてISの部品とわかるもの。

 全体的に乱雑だが、少し奥には特に物が積まれ山のようになっている一角があった。恐らく何らかのちゃんとした部品なのだろうが、知識のない俺には瓦礫の山にしか見えない。

 

「誰――と、考えるまでもなかったな。そこのパス持ってるのは、僕以外には一人しか居ないんだ。君だよね、入ってくるのは」

 

 瓦礫の山から、声がした。

 周りを押しのけるようにして突き出た腕が、そのまま周囲の部品をかき分けるように押しのける。埋まっていた誰かが、ひょっこりと顔を出した。

 

 唐突だが。

 俺には特に親しい友人が二人いる。

 一人は昔馴染みの凰鈴音。

 そしてもう一人は、中学で知り合ったやつ。

 

 

「やあ一夏。久しぶり」

 

 

 名前を藤倉統。

 『今』の俺の、唯一の男友達がそこに居た。

 

 

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