テイルズオブジアビスーReplicasDiaryー   作:さいころ丸

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ようやく、第二話目。話進むの遅い!


最初の夜

「私はーーーゲルダ・ネビリム。ネビリムでいいわ、そっちの方が好きな響きだから」

 

「・・・ルーク・フォン・ファブレ。俺はルークでいいぜ」

 

 名前を名乗るだけの、簡単な自己紹介を済ませる。

 

「・・・それで、ここどこなんだよ。バチカルの外か?」

「バチカル?ここはタタル渓谷、マルクト帝国よ」

「・・・はあ!?マルクト!?なんでそんなとこに俺がいるんだよ!?」

「いえ、それを私に訊かれても。貴方、キムラスカ人なの?バチカルのファブレってーーー」

「クッソー、きっとアイツが俺に何かしやがったんだ!畜生、どうやって帰りゃいいんだよ・・・!」

 

 ネビリムの問いに答えず、荒々しくも途方に暮れるルーク。落ち着いたり慌てたり忙しないが、断片的に見えてくる状況から考えるに、それも無理もないのかもしれない。訳もわからないまま、気がついたらキムラスカの首都からマルクトの辺境にいたのだ。

 その状況は余人から見れば虚言に思えるが、ネビリムは取り敢えずルークの話を信じた。今のルークの混乱ぶりは真に迫るものがあったしーーーネビリム自身、常人とはかけ離れた数奇な身の上という自覚がある。気がついたら異国だった程度の異常は、そういうこともあり得ると受け入れられる。

 

「ルーク()。少し離れたところに私が作った野営地があります。そこで今後のことを話し合いませんか?」

「野宿かよ。しょうが無え。分かった、案内ーーー」

 

 しろ、と言いかけたところでルークはおかしさに気づいた。余りに自然な敬語だったので屋敷の使用人に対する物言いをしかけたが、目の前の女は見ず知らずの他人の筈だ。

 

「・・・何でいきなり敬語で話すんだよ」

「バチカルのファブレ、それに赤い髪と緑の瞳ということは答えは一つです。貴方様はファブレ公爵家現当主、クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ公爵の嫡男、ルーク・フォン・ファブレ様。御母堂はキムラスカ=ランバルディア王国当代国王、インゴベルト六世陛下の実妹、ショザンヌ・フォン・ファブレ様。王位継承権を有する、紛れもない王侯貴族とお見受けしました。敬意を払って然るべき方です」

 

 歌うように語られる問いへの答え。流れるように語られる己のプロフィール。言葉の上では敬意を払われても、微笑みを浮かべながら話すその泰然とした姿に寧ろ気圧された気がして、ルークは噛み付くこともできず押し黙る。

 

「・・・もしかして間違えちゃったかしら。やだ、私ってば恥ずかしい?」

 

 口元に手を当てて戯けたような仕草。ネビリムが見せたその隙に、ルークは我を取り戻した。

 

「あ、合ってる。合ってるけど、タメ口で良いし呼び捨てで構わねえ!折角外に出れたってのに、屋敷ん中のような言葉聞くなんてウゼーったら無えぜ」

 

 腕を組んでふんと目を逸らす。強がりがありありと見て取れる態度だった。なんか可愛らしいな、と思ったところでネビリムは今のルークの言葉に疑問を感じた。

 

 ーーー折角外に出れた?

 

 まるで長らくどこかに閉じ込められていたような台詞。問いを投げかけようとしたところで口をつむぐ。話はここから離れからと提案したのは自分だ。まずはそれを優先し、少し意地で硬くなってるルークを解きほぐさねば。

 

「貴方がそう言うなら、そのように。どの程度の付き合いになるかわからないけれどよろしくね、ルーク」

 

 右手を差し出し、握手を促すポーズを取る。ルークはキョトンとした顔をしたが、

 

「お、おう。よろしくな、ネビリム」

 

 すぐに応じ、自分も右手を差し出してネビリムの手を握り返した・・・他人とこんなふうに握手したのなんて、いつ以来だろうと思いながら。

 こんなふうに自然と触れあえる機会が、外には有ったのか。

 こんなふうに自然と話しかけてくる人間が、外には居たのか。

 

 だとしたら、何故ーーー

 

「あの、ルーク?そろそろ手を離してもらえると・・・」

「え・・・ああ、わりい、つい・・・!」

 

 ルークは慌てて手を離す。どうやら思いの外長く握りしめていたようだ。ネビリムの頬にはうっすらと朱が差しているーーーように見えなくもない。

 頭をボリボリと掻きながら視線を逸らすと、ふと耳を打つ異音に気づいた。

 

「何の音だ?」

「ルーク?」

 

 ルークはきょろきょろと辺りを見回す。やがて崖の方に視線を定めると、駆け足で寄っていく。崖側から数歩離れたところで足を止めると、その顔には驚愕とも感動ともとれる表情を浮かべた。

 

「これって・・・海、か?」

「ええ、そうよ。音って潮騒のことね・・・どうしたの?」

 

 ルークは時間が止まったかのように、眼下の海を見下ろしている。月明かりだけでろくに見えない漆黒の海なのに、そこに本当に美しいものがあるかのような面持ちで。

 夜の渓谷は危険である。安全を考えるなら、ここはルークを引きずってでも野営地まで連れて行くべきだった。

 

「これが、海・・・」

 

 それを躊躇ったのは、海を見続ける横顔が、ネビリムに染み付いた記憶の中の子供たちと重なったからだ。

 決して自分のものではない記憶。雪の街の一角で、未知を埋めていく興奮を味わっていた子供たちの横顔と。

 

「海を見るのは、初めて?」

 

 魔物への警戒に意識を割きつつ、ネビリムはルークに語り掛ける。

 

「・・・ああ。屋敷の外に出たことなんて、一度もなかったから」

「ルーク、それはーーー」

 

 直後、どこからともなく『ぐう〜』という間の抜けた音が聞こえた。音の出所は、ルークの腹部。見ればルークの顔は羞恥で真っ赤で、

 

「ぷ、くくっ・・・」

 

 思わずネビリムは吹き出してしまった。ルークは可愛らしく目を逆立たせてネビリムに向かって吠える。

 

「わ、笑うなっつーの!」

「ごめんなさい。そろそろ移動しましょう。私の野営地なら、今からでも多少の食事を出せるから」

「別に俺は腹なんか・・・」

「無理しなくていいから。こういう時は大人に甘えなさい」

「〜〜〜子供扱いすんじゃねえー!」

 

 ムキになったルークの態度に、ネビリムは微笑で答えて先は進む。それがルークにはなんだかくやしいものに感じられて、足音を荒立てながらついて行った。

 

 

 

§ § § § § § §

 

 

 

「お待たせ。口に合えば良いのだけれど」

 

 川辺の野営地でネビリムはルークに振舞ったのはキャンプの定番、ホットサンドだった。鉄板で加熱したトーストに野菜やチキンなどを挟んだ料理だ。夜の野宿でこそ似合う、高貴な貴族が口にすることのないであろう料理。どんな反応が返って来るかネビリムには未知数だったが、振る舞われたルークは好奇心に目を光らせていた。譜樹で作った岩のテーブルの上に出されたそれにルークは手を伸ばすが、直前になってネビリムが皿を遠ざけた。なんだと苛立たしげなルークにネビリムは涼しげな表情で、

 

「いただきます」

 

 と言った。それだけでルークはネビリムの意図を察した。ぐぬぬと歯を食い縛っているのは、子供扱いするなと吠えた所で説得力がないことを自覚している故か。これ以上は意地が悪いかと思ったネビリムは皿を再びルークの前に戻す。

 

「・・・いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

 ぶすっとした表情は、ホットサンドを一口口に運んでから霧散した。どうやらお気に召したようである。皿の上の料理はすぐに空になり、ルークはご満悦といった顔だ。

 

 「それじゃあルーク。貴方がここに現れるまでの経緯を、簡単にでいいから話して貰えないかしら。何か力になれるかもしれないわ」

 「おう。実はなーーー」

 

 そしてルークはタタル渓谷に現れる直前までの大まかな経緯をネビリムと共有した。

 バチカルのファブレ公爵家に現れた侵入者。それと切り結んだ剣の師匠。

 間に入ったルーク。直後に起こった発光。そして脳内に響いた声。

 

「ーーーて感じなんだよ」

「成程。事情は概ね理解したわ。多分、貴方とその侵入者との間で、第七音素(セブンスフォニム)が干渉し合って擬似超振動が発生したのね。バチカルからタタル渓谷までの跳躍なんて、他に考えられないから」

「・・・せぶんすふぉにむ?ちょうしんどう?」

 

 ルークは何を言っているんだという顔になる。一方、ネビリムはルークの反応にどこか思案気だ。

 

「ルーク。貴方、さっき折角外に出れたって言ったわよね。それに、海を見たのを初めてだとも。バチカルでどういう生活をしてきたの?」

 

 若干鋭さを増したネビリムの視線にルークは少しばかりたじろぐ。

 

「・・・どうもこうも。外は危ねえからってずっと屋敷ン中で暮らしてたよ。7年前、マルクトの連中に誘拐されてからな」

「誘拐・・・!?マルクト帝国が、ファブレ公爵家の嫡男を!?」

「ああ。お陰で言葉も歩き方も、親の顔も忘れたちまったんだよ。楽しみなんか、師匠(せんせい)との剣の稽古くらいなもんだ」

 

 語られたルークの身の上にネビリムは絶句する。すでに物心ついた人間が生まれたての赤児まで逆行するほどの記憶喪失など、()()()()()()()()

 

「7年前なら、先帝の頃?()()()()()は知っているのかしら・・・」

「ネビリム?」

 

 小声で何がしかを呟いているネビリムにルークが呼びかける。

 

「ごめんなさい、マルクト帝国がそんなことをしていたなんて、ちょっと信じられなかったから」

「信じられなくても事実だっつーの・・・そういやアンタ、マルクト人か?」

「・・・マルクトの、ケテルブルクという街の生まれよ。マルクト人は嫌い?」

 

 けっして嫌味を含まない笑みを浮かべてネビリムは問う。ルークは我知らずむすっとした表情で答える。

 

「マルクト人なんて初めて見るから、ちょっと興味が湧いただけだっ。つか、俺の話はもういいだろ」

 

 ルークは強引に話しを戻す。ネビリムは自分の荷物から地図を出した。オールドラントの全景が描かれている世界地図だ。

 

「そうね。貴方の帰還について話しをしましょうか。私たちがいるタタル渓谷はここ。イスパニア半島東部」

 

 ネビリムは地図中央よりやや東寄りの半島を指差す。そこから南西に指をずらしてある一点で止める。ルークの視線もその後を追った。

 

「バチカルはここ。この渓谷からほぼ南西にあるわ。最短ルートは南下してケセドニアへ向かい、港からバチカルへの直通便に乗る、というものだけど、こちらはお勧めしないわね」

「何でだよ。それが一番早いんだろ?」

「これを見て。今朝、行商人から買った新聞なんだけど、ケセドニア北部で数年振りにマルクト軍とキムラスカ軍が小競りあってる。数ヶ月はあの辺りは危険地帯よ」

「キムラスカとマルクトってそんなにやばかったのか?」

「国境の緊張状態は、十五年前のホド戦争開戦時より厳しいと言われているわ。こういうのは、今あちこちで起こってるわね」

「・・・他に帰り道(ルート)は無いのかよ」

「カイツールを目指す道ね。ローテルロー橋を渡って南下、間の街々を経由していく道程よ。少なくとも2ヶ月はかかるんじゃないかしら」

 

 タタル渓谷を起点に、鉤括弧を描くように指を走らせる。

 

「長えな。そっちの方がまだ安全なのか?」

「ケセドニアを経由するよりは、ね。でもこっちのルートだって賭けの部分はあるわ。マルクト側からすれば、貴方は不法越境を行ったキムラスカ王国の要人。それを隠しながら、マルクト国内を縦断するんだから」

 

 ルークは腕を組んで悩んでいる。ネビリムからすれば悩む必要の無い2択だが、判断材料が少ないルークは素直に頷けないようだ。

 

「明日、街道に出て辻馬車を探してみましょう。その時、ケセドニアへ行けるか聞いてみるといいんじゃないかしら。多分、勘弁してくれって返されると思うから」

「しゃーねーか。ふぁあ・・・」

 

 納得したところで、腹が膨れたか慮外の状況への疲れか、思わずあくびが出た。

 

「テントは使っていいから、もう休みなさい。見張りは私がしておくから・・・どうしたの?」

 

 ルークは憮然とした表情でネビリムを見つめている。ここまで世話になりっぱなしで何も返せていないのが居心地悪いのだ。

 ルークは屋敷の外に出た事がない貴族で、そこでは誰からも傅かれていた。

 だがそんな世間知らずでも、見ず知らずの、それもマルクト人からの無条件の厚意と献身が当たり前と思う程、「甘ったれ」ではない。

 正直なところ、さっきはああ言ったが「マルクト」という名詞がつく存在に偏見はあった。彼らの悪意の所為でルークは窮屈な生活を強いられたのだから。

 だが、ネビリムのこれまでの行動はそんな黒い偏見を和らげて余りあるものだった。

 

「・・・見張りは俺がするから、アンタこそ休んでろよ」

 

 だから、そんな提案が自然に出た。

 

「駄目よ。異常な状況の人間は、自分が思う以上に心身に負荷を抱えているものよ。明日からの長旅のためにも、貴方はここで休んでおきなさい」

 

 だがそんな提案を、ネビリムは理性で退けた。先程までの穏やかな雰囲気を一瞬で消してピシャリと言い放ったのは、本心からルークの体調を気遣っているが故だ。

 ネビリムの譲らないという視線に気圧されつつも、ルークにも意地がある。

 

「じゃあ、代わりばんこだっ。俺は寝るけど、2、3時間したら起こせよな!そしたら見張りは俺で、あんたが寝る番だ!」

 

 じゃないと俺は寝ねえと、ルークは啖呵を切る。ネビリムは数瞬キョトンとしながらも、仕方がないと苦笑して了承した。

 

「分かったわ。3時間したら貴方と交代させてもらうわね」

「ああ、約束だぞ」

 

 そう言ってルークはネビリムに向かって小指を突き出した。紛れもない、「指切り」の仕草だ。それこそに、ネビリムは今日一番驚いたという顔をする。

 

「なんだよ?」

「・・・何でもないわ」

 

 気を取り直して、努めて冷静に指を絡め合う。ルークは何でもなさそうにしているが、ネビリムの方は少しだけ自分の心音を意識していた。年頃の異性と指切りなんて、()()()初めてだったから。

 

「じゃあ、今は俺が休む。絶対起こせよ!」

 

 ルークはルークで照れた様子もない。指を解き、ネビリムの返事も聞かずにテントに向かおうとする。彼にとっては今し方のことは大したことではないのか。そう思ったネビリムは年甲斐もなく悪戯心を働かせた。

 

「ルーク、知ってる?」

 

 呼びかけられたルークは背中越しにネビリムを見遣る。

 

「指切りはね、元々は恋し合う男女の間で行われる風習だったのよ」

 

 大幅に端折った雑学(爆弾)をさらりと投げ込む。効果は覿面だった。ルークは顔を自分の髪よりも赤く染め、

 

「知るか!」

 

 と怒鳴ってテントの中へ消えた。その様子を微笑ましく見届けて、自分の調子が戻ったことを自覚したネビリムは既に己の役割に徹していた。

 

 1人の少年と1人の女の邂逅は、ひとまずそのようにして幕を下ろした。

 

 

 

 なお、結果から言えば。この指切りを破ったのはルークの方だ。

 ネビリムは時間通りにルークを起こし見張りを交代した。ルークは気張って見張を努めようとしたが、所詮は慣れぬ事、1時間で熟睡(ダウン)。目を覚ました切っ掛けは既に上り切った朝日と、ネビリムが用意した朝食の香りだった。

 充分休んだとネビリムは言うが、ルークの肩にかかった毛布を見れば、ネビリムの休憩時間など知れたものだった。

 ネビリムの微笑みにルークは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、

 

「・・・(わり)い」

 

 と、言うのが精一杯だった。




次回はエンゲーブの場面を描きたいです。あの鬼畜メガネとこのネビリムとの顔合わせで何が起こるか。
どうか震えてお待ちください。ティア?・・・ふふふ。

<補足>
ルーク:意外と描写が難しいキャラ。裏表のない、赤の他人からの善意に対してどう対応させるのが正解か、長髪時は少ないと記憶しているんですがどうでしょう?それから指切り。物語の中で行われれる男女の指切りって、良いよね。伏線の一つで済ますには惜しいと思います。

カイツールルート:原作では勘違いでしたが、本作では意図を以て選択。原作にも存在する、キムラスカとマルクト間の緊張状態を利用しました。ケセドニア北部の小競り合いも原作に元ネタあり。原作開始から三年前、鬼畜メガネが痛い思いをさせられた()と明言しています。
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