芸術家提督ー英雄列伝 作:後世の歴史家(自称)
遅くなりました。本伝(?)の続きです。
戦艦霧島 艦橋
艦橋には不機嫌そうな顔をした男が1人。大湊の散田提督。世間には”北の英雄”で、海軍内では”北海の頑固ジジイ”で通じる。齢70を超えている筈だが、外見は50代後半といっても通じる。長く信頼を交わしてきた艦娘達のなせる効果なのだろうか…
彼の前には、彼のものではない懐刀がある。本来士官学校を出ていない老提督は持ち得ないものである。
霧島は、老提督の心境を表すように「高速戦艦」には似付かわない低速で航路を北に進む。
ーーー
大本営 大会議室
時は少し戻り、渡邉大佐が大本営へ呼び出される数日前である。
この日会議室に招集されたのは、海軍部作戦本部と各部門の中将以上の階級を持つものである。
会議の内容は部外秘、秘書艦さえも締め出された室内には、陸海合わせて三十名以上が集まっていた。
例年と異なるのは、ここに外務省の官吏が数名混じっていたことだろう。
この日の議題は何度目かの夏季大規模作戦についてであった。
「えー、お手元の資料に記載の通り、欧州海軍条約機構(ENTO)からの共闘要請を受けとりました。世界最大の海軍力を持つ日本として、欧州の救援を行いたいところでございます。大本営におかれましては、現状からの協力可否、そして作戦概要を検討されたく…」
欧州では今年に入ってから強力な深海棲艦によって防衛網を突破され、沿岸部を中心に甚大な被害を受けていた。それを受けて欧州海軍条約機構は共闘要請を行うことを決定した。書簡が六月頭に条約機構の本部、ベルリンを発ってからおよそ一週間。陸路日本までかなりの時間を要したが、衛星等を用いた長距離通信が機能しない以上致し方のないことである。
「海軍作戦本部としては、この救援作戦を実行する余力ありと考えるものである。各位には、我々が作成した作戦計画について討議頂きたい」
ねちっこい笑みと共に前向きすぎる発言をしたのは作戦本部長である。入室を許される多数の取り巻きと共に、”艦隊派”の2人を見遣る。
しかし、より早く反対を宣言したのは陸軍参謀本部であった。
「ならん。陸軍としてはこの派遣作戦に反対である。二ヶ月前に沖縄を失ったのをもうお忘れか。駐屯した我が軍将兵全滅の可能性すらあったほど近海の制海権が危ぶまれるにも関わらず、このような対外作戦を行うとは笑止。馬鹿馬鹿しいにも程があろう」
「では参謀長殿は、我が国が世界最大の艦娘戦力保持国としての責務を放棄すべき、と主張なさるおつもりで?」
異なる声が割って入る。
「話を飛躍させるでない。我が軍に対外派兵の余裕があるかどうかについて議論しているはずだろう。正義だ責任だと御大層な話をする前に我が国の現状を見つめ直してはどうかね?無論わしはこの作戦には反対じゃな」
「そもそも、欧州までの航路を用意出来ないでしょう。この春貴官が発令したルンガ沖作戦に失敗して以降近海の制海権が揺らいでいるのは、参謀長の言の通りだ」
会議の軌道修正を図ったのは、大湊の散田提督と呉の桂提督。どちらも中将である。
「我々は作戦本部です。実現不可能な作戦は立てませんよ。そう、各艦隊が我々の予定通りに働けば…ね。欧州までの航路は簡単です。ベーリング海峡を抜けて北極海を通過し、北からヨーロッパに突入する。南回りは無理でも、北からならば、かの大戦における激戦地は通りません。実施予定は今夏、よって海が閉ざされることもない。もっとも、宗谷が顕在した以上不安要素はないでしょう」
「いやならん。この作戦では近海が戦力の空白となるのは明らか。陸軍は反対する」
「おまけに、わしの転属以降北海も閉ざされている。ベーリング海峡までもが遠いじゃろう」
「そこで今回は多方面に派遣します。鹿屋を主力とし、建設予定の四泊地と沖縄の再攻略。大湊は単冠湾を奪還後、同地に一時的に前進、北方海域を再開放。佐世保、呉、横須賀はその間大湊に前進し、待機。宿毛、柱島は舞鶴と共に近海警備。作戦開始は前段となる沖縄、北方海域の攻略後。これならば陸軍殿も異論なかろう」
「確かに、万全なようにもみえる。しかし…」
「今回は陸軍の動員予定はありませんよ。今まで通り内地を固めていただければ十分」
「………」
「ふん、わしが仕損じたらどうする?」
「”北の英雄”とまで謳われる貴官が敗北するとも思えませんね。まあ、もし仕損じたならば、提督もよいご年齢です。そろそろ後進に道を譲られては?」
「このわしに脅しをかけるか。小童。そもそもこの作戦は…
「他に疑問のある方はいませんね。この作戦に賛成の将官はご起立を」
にやけた顔の本部長が声を高める。
老提督を遮って行われた採決には、作戦本部と佐世保、舞鶴、横須賀、そして陸軍の一部が起立。ここに本作戦の決行が決まった。
ーーー
大本営 ガンルーム
窮屈さを感じさせない程度に狭い室内には、”群れない”2人の中将が杯を交わしていた。
それぞれの秘書艦も少し離れたテーブルに居る。
先程終わった会議に出席していた彼らは、片方は疲れた顔、もう片方はアルコール以外の理由でやや赤くなっていた。
「また無茶な作戦が行われますね。今回ばかりは陸軍も大反発すると思っていたんですがね」
ため息と共に切り出したのは桂提督である。海軍内で極少数派である”艦隊派”に纏められる彼は、先の会議の果て、作戦参加だけでなく艦隊の最先鋒をやらされる事になった。酷使されるであろう未来に待ち受ける可能性を思い、既に顔は暗い。
「”鼻ぐすり”の効いた”パイプ野郎”が多い。陸軍も首脳部の数人以外は既に中毒患者じゃ。わしらが消えれば海軍はしまいじゃ。内側を食い荒らされた巨木は倒れるのが道理じゃて」
こちらも極少数派にして海軍部エリートにとって最大最後のタンコブ、散田提督である。自衛隊時代からの叩き上げである彼は既に齢70。日本に50年貢献してきた宿将が中将と冷遇されているのは、組織の腐敗を示す例として十分だろう。
彼は昨年の秋まで単冠湾の提督であった。長い間1人で守り通した北方海域は現在敵の手中にある。作戦本部は長い間勢力図の変化しない北方海域は派閥員に”箔”を付けるのに手頃だと考えたのだろう。結果は全域喪失である。今回の作戦では奪還だけを求められていた。本人でなくとも”いいように使われている”と気付くのは容易であった。
「しかし、これから大変なのはお主じゃぞ。奴らの描いた設計図がありありと浮かぶが、あえて言うまい」
「…ええ、ええわかっていますとも。ですから老提督にお願いしたいことが…」
ーーー
「なあ、霧島。先程概要は聞いたが、この作戦どう考える?」
「もはや思惑を隠す気さえ無さそうですね。前回は死地に追い込むも、我々の共闘で生還。今度は完全に分断して先ずは片方から解体。反省を活かして作戦を組み立ててはいるようです」
「遠征は横須賀、佐世保の大将とうちの中将。前線で反対意見でもしようものなら有無を言わさず坑命罪。従えば捨て艦ならぬ、捨て艦隊か…」
「那智さん、あなたが必ず連れ帰らなければいけませんよ。いくら元気とはいえ、我々の司令官もいいお年です。私たちが消えれば、最後の野党が消えてしまいます」
「ああ、わかっているさ。しかしもしも、ということもある。その時は…」
「那智、帰ったらまた飲みましょう。秘蔵の一本、出しますよ」
「…そう、そうだな、私もとっておきを用意するとしよう」
「酔っ払い運転はダメですよ?」
「私は足柄ではない。その程度でやられはせん。貴様こそ、戦場でまいくちぇっく?とやらに気取られるなよ」
「金剛姉様とは違いますからね。私だってむやみやたらに暴走したりはしません」
「貴様の司令官風に言えば、暴走の定義が変わった…のだな。まあいい。…そろそろ帰るようだな」
「作戦後にまた飲みましょう」
「沈むなよ」
「那智さんこそ」
夕暮れの浦賀水道をひっそりと抜ける戦艦と重巡洋艦。一隻は北へ、もう一隻は西へと消えてゆく。
夏の大規模作戦発令まであと一月半…
最近あまり艦娘が出てない…
ちなみに、ここで出てくる”艦隊派”…かつての派閥とは別物です。
現実世界にも、パイプや鼻ぐすりに困らされることは多いですね…
今回もお読みいただき、ありがとうございました。