芸術家提督ー英雄列伝 作:後世の歴史家(自称)
遅くなりましたが、本編です。
ーーー
発 艦隊司令部 宛 新提督並びに該当艦娘
各艦隊新提督とその所属艦娘は、六月二十日までに任地への移動を完了せよ。新提督の任地までの移動は、各艦隊所属艦娘によるものとする。
各艦隊は到着次第、直ちに泊地の運営・近海の哨戒を開始せよ。
初期備蓄資源は既に輸送を完了している…
ーーー
宿毛湾泊地
「軽巡大淀、渡邉提督の護衛を兼ねてお迎えにあがりました」
鎮守府にて離任の挨拶を済ました渡邉提督の前には、大本営でも面会した「大淀」の姿があった。
彼の新任地、三河湾泊地までの乗艦になるようだ。
宿毛湾の艦娘達の見送りを受けながら、大淀は泊地を出港する。
湾に響く汽笛は白い雲に吸い込まれていった。
ーーー
軽巡大淀 艦橋
新任地である三河湾に到着すると、彼の初期艦となる艦娘達が既に投錨していた。
一通り眺めた提督が大淀に問いかける。
「祝日でもあるまいし、満艦飾はちとやりすぎではないかね?」
答えて曰く
「提督の着任記念日ですからね。これくらいは必要かと。祝砲をおつけする事もできますが、どうされますか?」
との事である。
「やれやれ、一応汽笛を鳴らしてくれ」
大淀が投錨する頃、艦載機が頭上に何かを投下した。上空で弾けたそれからは、大量の”銀色をしたモノ”が降り注ぐ。
恐らく紙吹雪がわりに…と思い付いたのだろう。撒かれたのはチャフ(レーダー妨害用の金属が貼られた紙片など)であった。
「…大淀、流石にやりすぎじゃないか?」
提督の反応もやや鈍る。
「…ですね。後で隼鷹さんにはきつく言っておきます」
こうして一部想定外はあったものの、提督は無事到着したのであった。
ちなみに、このとき一部東海地域では、ラジオが”原因不明の電波障害”によって聴けなかったようだ。
新提督と彼の艦娘達のみが正確な事実を知っていたので、珍しく大本営は(彼らの知る範囲で)100%事実の発表をしたのである…
ーーー
鎮守府
三河湾泊地の建物は、ほぼ完成していた。
“ほぼ”であるのは、一部内装が整っていないためである。
工事中の妖精に提督が
「私の私室が未完成だったら、でいいのだが、ある程度防音機能を持たせられないかな。報酬代わりにこちらのカステイラを進呈しようと思うのだが」
と声をかけた所、四方八方を数多の妖精さん達に囲まれてしまった。中には背中に白く”マル憲”と描かれた紺色の制服を着ている者も居る。
彼にはその理由の見当がおおよそついたのだが、敢えて考えないことにした。
「これらは私の楽器なのだが、業務時間外に多少弾きたいと思っていてね。出来るだけ皆に迷惑を掛けないように…と思ったんだが、どうかな?」
妖精さん達は集まって話し合うと、了解と返してきた。
その中から例のマル憲妖精が進み出て、ニヤニヤ笑いながらこうのたまった。
「富山少将から、提督は”自称”音楽家だから、何かと注文をつけてくるかもしれない。まあ出来る範囲でやってやれ。このことはヤツには言うなよ。…と言われてたので、叶えましょう」
…この妖精はいまいち秘密とは何か、がわかっていないようだ。あるいは分かっていてふざけているのかもしれない。
どちらにせよ、彼の注文は彼の精神的疲労とカステイラとの引き換えに叶えられそうであった。
ーーー
大淀の、
「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります」
という半ば定型文化したセリフと共に執務室に入った提督は、彼の初期艦”勢”と挨拶を交わす。
「はじめまして、の方が多いかな…一応無事着任した新人の渡邉です。まあ、所属の全員で生き残ることを目標に指揮を取ろうと思ってる。”北の英雄”が少なくとも現在まで成し遂げているそうだ。難しくはあっても、少なくとも不可能では無いと思っています…と、このくらいかな。改めてよろしく」
初期艦勢も続いて自己紹介する。
「わたしが白露型1番艦、いっちばーん!はい、1番艦の白露です。提督、よろしく!」
「僕は白露型2番艦、時雨。もう…誰も見送らなくていいのかな…これからよろしくね」
「はいはーい、3番艦の村雨よ。村雨のちょっといいところ、期待しててね?」
「こんにちは、夕立よ。よろしくお願いするっぽい!」
「五十鈴よ。水雷戦隊の指揮ならお任せ。私が勝利を導いてあげるわ。だからもっとしっかりなさい」
「長良型軽巡4番艦由良です。由良のいいところ、いっぱい見せられたらいいな。提督さん、これからよろしくお願いしますね、ね?」
「提督ぅ〜ひっさしっぶり〜。ちょっと見ない間に随分出世したんだねぇ〜。あぁ、あたしは隼鷹ってかみんな知ってるかぁ〜。今度美味いやつ差し入れてくれよ〜」
「あんたもう飲んでるわけ?本当に教導艦やってたとは思えないわね…んん、軽空母の飛鷹です。商船改装空母と侮らないでね。意外とやれるんだから」
「工作艦明石です。提督、今度もいっぱい開発したいなー…て、あ、ダメですか?早めにやらせてくださいよ〜って大淀、冗談だから、ほら怒らないで笑顔笑顔」
「提督殿、あきつ丸であります。陸戦隊ともどもよろしくお願いするであります。やはり海軍式の敬礼は慣れないものでありますねぇ」
「給糧艦の間宮です。台所はお任せください。毎食心を込めて用意いたしますね。甘味所も開いておまちしています。是非いらしてくださいね」
「提督、お久しぶりです。軽空母鳳翔です。不束者ですが、またよろしくお願いしますね」
「軽巡大淀、着任致しました。泊地の運営、艦隊指揮、資材資源の管理など、提督の補佐はお任せください。連合艦隊旗艦の名にかけて、明石さんからも資源を守り抜きます」
「大淀ったらそんな所で使うと艦隊旗艦の名が泣きますよ〜?」
「あら、明石さんは開発に積極的では無いようですね。資源の配分の優先順位は低そうですね」
「くっ資源を盾に取るとは…大淀ごめんーごめんだから開発資材ください」
…明石の反撃は失敗に終わった。
「改めてよろしく。今後の行動計画は後ほど通達させてもらう。とりあえずここでの生活の準備をしてください」
解散の前に大淀がこう付け足した。
「隼鷹さん、あなたが蒔いたチャフの所為で付近一体が電波障害に見舞われました。大本営がわざわざ”原因不明”と発表まで出しているんですよ?当分の間飲酒禁止令です」
陽気過ぎる飲兵衛は陸の上でもう何度目かわからない轟沈を果たした。
ーーー
深夜空母寮に静かに近づく影が四つ…
かちゃり……ドバーーン
隼鷹「な、なんだぁ〜〜⁉︎敵襲かぁ〜〜」
村雨「御用だ♪」
夕立「御用っぽい!」
白露「誤用だっ!」
時雨「姉さん……御用だよ」
隼鷹「こぉ〜んな夜更けになんだよ〜」
夕立「心当たりないっぽい?」
村雨「今も濃く淡く匂うお・さ・け。まだあるんでしょう?」
隼鷹「なんだなんだ〜。酒ならもう没収されたろ〜?」
時雨「提督が言ってたよ。”あいつはへそくり代わりに酒持ってるだろうさ”ってね」
白露「というわけで…夕立、行け‼︎」
夕立「くんくん…こっちから匂うっぽい。あっちからも…ここにもあるっぽい!」
ーーー
隼鷹「アタシの…酒が…ぜ、全部…」
村雨「というわけで、こちらは没収いたしまーす」
時雨「大丈夫、全部鳳翔さんに預けておくから」
白露「飲みたくなったら鳳翔さんのところでね」
夕立「っぽい?」
白露「ではでは、夜分にしっつれいしっました〜。ほらみんな、帰るよー」
部屋には再び轟沈した隼鷹の姿が残された…
いろいろとすみませんでした。