芸術家提督ー英雄列伝   作:後世の歴史家(自称)

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ようやく時が進みました。

今回は会話中心です。なんとなく世界観を掴んでもらえたらと思います。


第五話 富山少将

療養中の宿毛泊地提督にかわり敗戦処理を押し付けられた渡邉大佐の姿は、一片の紙切れと共に執務室…ではなくその屋上にあった。

 

「シユウヨウシコウ ノ テンタツアリ

シキユウ タイホンエイ マテ シユツトウ サレタシ」

 

平文に直せば

 

「重要事項の伝達あり 至急大本営まで出頭されたし」

 

である。

わざわざ電報を使うことに、いささかの疑問を感じなくはないが、恐らく大本営も混乱していたのだろう。軍専用回線で来た以上、迷惑電話ならぬ迷惑電文…ではなく正式な呼び出しである事は間違いない。

 

しかし、艦艇の修繕も大部分を終え、休みを寄越せ!という艦娘のブーイングを受けながら遠征をこなしていた彼からすれば、呼び出される理由がわからない。

 

考えてもわからないものは致し方ない。というわけで執務室に戻ってみれば、新たな通達が待っていた。

いわく

 

「正装を用意されたし。滞在は数日を見込む」

 

だそうで、時の秘書艦とともに悩んだそうである。

ちなみに、この通達は平常通りFAXだったようだ。

 

「大都市東京」という名は当時まだその魅力を失ってはいなかったようで、護衛兼輸送役を決めるのに一悶着あったようだが、

 

「大佐、ようこそー!!しばらくのあいだ、よっろしくー☆!」

 

…最終的にある軽巡娘で決まり、その日の夕方頃には大佐は船上の人となった。

 

本人が心躍るためか最大全速で進み、予定より早く到着した。ところが大本営で言い渡されたのは待機だった。

 

 

かの大戦においても、当時も、大本営は究極の"お役所"である。都合の悪い時の常套句に「担当が不在」というものがあるが、今回の場合は「元帥達が定時で不在」だった。

 

「やつらには言葉についての"新しい辞書"が必要だったな。権力があるうちに作っておけば良かったものを」

 

とは数ヶ月後に艦隊司令長官となる、当時中将だった散田提督の言である。

 

 

 

「しかたがないので、とりあえず食事にしよう」

 

という建設的な提案をしたのはどちらだったか。

補給を済ませた那珂と共に食堂を訪れると、1人の人物が待ち構えていた。

 

 

「渡邉中ーーもう大佐だったな。渡邉大佐、久しぶりだな。二ヶ月ぶりか。元気…そうではないが、まあ許容範囲か。で、時の秘書艦様と仲良く逢引か?」

 

「な、那珂ちゃんはー、みんなのアイドルだからー…えっと…」

 

「気にするな、先輩はからかっているだけだ」

 

「先輩…?」

 

「…富山少将、お人が悪いですねぇ。至急、という言葉に踊らされて来ただけですよ。食を確保できそうなのが唯一の救いですがね」

 

「先達の悪いところを学ぶのだけは得意な連中だからな。お陰で"した"が迷惑する。まあそんな事はどうでもいい。後で俺の執務室に来い。奴らの"グレーな腹"と面白いネタ、出してやる。ブランデーでいいだろう?」

 

「そいつは結構ですね。彼女さんのツマミ付きとは杯が進みそうです」

 

「ちょ、お前なんで知っている⁉︎」

 

「そうですか、先輩にもついに春が…いやーめでたい。では、少将どの、後程お伺いいたします」

 

 

 

ーーー

 

富山少将 執務室

 

 

トントン

 

「入れー」

「よくきたな。香取、済まんがこいつんとこの那珂としばらく外して貰ってもいいかね?」

 

「うふふ…了解です。さ、那珂さん、こっちへ」

 

「…那珂、済まんな。終わり次第迎えに行く」

 

「那珂ちゃんはー、アイドルだからー、しっかり空気も読めるんだよー☆ というわけで、大佐ーまったねー☆」

 

 

 

 

「…いつ気づいた?」

 

「はい?」

 

「だから、俺がくっついている事だ。いつ気づいた?」

 

「一月前に来た時ですかね。先程鎌かけたら確定しました」

 

「全く、相変わらず困ったやつだ…と これでいいか?」

 

では、再会を祝して

「「乾杯」」

 

 

「…早速だが本題に入ろう。今回の呼び出しだが、メインはお前さんの異動だ。それも世間的に見れば栄転だ。要するにお前さんの研修を仕舞いにして提督をやらせよう、ということだ」

 

「まだ始まって二ヶ月半ですよ?気の早いサンタでさえ六ヶ月も早く来たりしません。どういった吹き回しですか?」

 

「今回の作戦で在職の司令が2人消えた。とても横須賀と呉では太平洋側をカバーできないのが現状だ。特に大洗は殉死した上に未だダメージを復旧できていない。運営もかなりやばかったようだ」

 

「どの位です?」

 

「お前さんが先月シメたのと同じくらいだ。まったく、資源は底をつき、資金は何処に消えたかわからない。艦娘に手出ししてないのが救いだな。もっとも手を出したら妖精が袋叩きにしてしまうがな」

 

 

当時、杜撰な運営状況の泊地は多かったようだ。初期は艦娘にまで"手を出した"輩がいたようだが、今は妖精による制裁が阻止している。実際にお縄になった某提督は憲兵隊の聴取に対して

 

「早くに大人しく出頭すればよかったと後悔している」

 

と証言した記録がある。詳しい内容は言わなかったようだが、かわいい姿をしてなかなか酷い仕打ちを見舞ったらしい。もっとも自業自得だから致し方ない。

 

とにかく、運営はよくわからなかったらしいが、艦娘の守護者としてはまことに頼もしき者たちだったようだ。

 

 

「そいつは置いておいて、防衛網の強化を図って新泊地を建てたいらしい。で、その指揮官候補だが、現在のところ警備艦隊司令か研修生になる。ところが、作戦本部に遊んでいる奴は警備艦隊付きしかない。誰かいい候補はいないか…という次第で先日"轟沈を出さなかった"お前さんに白羽の矢が立ったのさ」

 

「仕事が増えるのはごめん被りたいですね。ところで、何故そんなにお詳しいんです?」

 

「モノの流れを見ていればわかるさ…とカッコつけたいところだが、妖精さんたちのおかげだ。提督は辞退したが、今でも仲良くやっているのでね」

 

「なるほど、何握らしたんです?」

 

「実は舶来物のカステイラを…阿保言うな。んな事はやらん。バカで見栄っ張りな"お上"に危機感を抱いたから、だそうだ。まあとにかく明日辞令が出るだろう。もう一度明日来い」

 

「わかりましたよ。まだ隠している情報は明日もらいに来ますよ。で、面白いネタとはなんです?」

 

「せっかちだな。ちょうど4日前、横須賀が沖ノ鳥島を押さえたのは知っているだろう。その時の話だ」

「お前さんの詳報によると海は赤く、艦載機は白く、奴さんの作戦能力も高かった。間違い無いな」

 

「ええ、奇襲を行い、待ち伏せを計画してました。なんとか逃げ切りましたがね」

 

「ところが、横須賀によると海の色も艦載機も通常通りで、さらにろくな艦隊行動も取れなかったようだ」

 

「お前さん何かやらんかったか?」

 

「いえ、指揮を代わっただけですよ」

 

「大洗の艦娘が言っていたそうだが、帰路どこからかラッパの音がしたそうだ。なんでも心に染み入る調べだったらしくてな、皆で泣いたらしい」

 

「………」

 

「お前さん、また吹いたのか…」

 

「トランペットはサブですがね。帰りに大洗の主力が居ないと知ってつい…ね」

 

「何を吹いたんだ?」

 

「今はもう使われない弔歌ですよ。アホな指揮官の所為とはいえ残念で」

 

「そいつが引き金かもしれんな。へたすりゃ研究班に目をつけられる。変な連中にとっ捕まらないよう気をつけろよ」

 

「VIPではありませんからね。ほどほどに気をつけますよ」

 

「まあいい。今日伝えられるネタはこれで全部だ。恐らく泊地準備の差配も俺がやることになるだろう。失言には気をつけてな。終わり次第連絡してくれ」

 

「わかりました。また明日来ますよ。お楽しみを邪魔しても申し訳ありませんからね。那珂も来たようですし帰ります」

 

「相変わらずの耳の良さだな。まあいい、気をつけて帰れよ。今日は海の上の方が安全だろう。またな」

 

 

「大佐、たっだいまー☆ あんまり遅いと、那珂ちゃんおこだよー?」

 

「すまんすまん、では一旦ひきあげるとしようか」

「少将、失礼します」

 

 

ーーー

 

 

「やれやれ、骨が折れそうだ」

 

「少将、お疲れ様です。お水でもお持ちしましょうか?」

 

「紅茶がうれしいな。それより熟練見張り妖精達にアイツの警備をお願いできるかな。陸戦隊もできれば」

 

「かしこまりました。それにしても…うふふ…随分と気に入っておられるんですね」

 

「面白いやつだよ、あいつは。お前さんも現在進行形で、"過去最高レベルの問題児軍団"と呼ばれた連中を知っていただろう?」

 

「ええ、教官達に毛嫌いされていた生徒さん達ですよね」

 

「そうだ。実際軍団と呼ばれる程はいなかったがな。講義中に反論する、指導すれば論破してくる、その上演習の勝率もいい。にもかかわらず学科試験は毎回ボーダーより5点上をキープ」

「しかも"研修生でも労働者"と言って組合まで作りおった。実際少額だが給与は出ているがね。世紀末的に暴れていた連中だ」

 

「では渡邉大佐が率いていた…と?」

 

「メンツをまとめていたのは今年飛び級した提督研修所の永井だ。アイツは頭で軍団を支えてた。教官のほとんどは気づいていないが、1番厄介だったのはアイツだ。俺も教務補佐をやっていた時に迷惑を被ったものだ」

「それは置いておくとして…さて、かわいい後輩のフォローを考えておきますか」

 

「うふふ…人の悪い笑みを浮かべてますよ。ほどほどになさってくださいね」

 

「しかしね、明日からは世が少し面白い方向に進みそうなんだ。気合も入ろうものさ」

 

 

ーーー

 

 

台場沖 軽巡那珂

 

 

「申し訳ないね、今日は泊まらせてもらうよ。念のため妖精さん達に警戒直を取らせてくれ」

 

「まっかせてねー☆ でも何かあったの?」

 

「詳しくは言えんがまあ用心しとけ、と言われたのさ。さて、明日は忙しくなりそうだ。長距離移動で疲れたろう。もう休むとしようか」

 

「出撃より楽だから大丈夫だよ☆ 大佐、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ。妖精さん達、何かあったら起こしてくれ」

 

「「りょうかいしましたです。おやすみなさい」」





次回、いよいよ新艦隊始動です。

今回もお読みいただきありがとうございました。
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