芸術家提督ー英雄列伝   作:後世の歴史家(自称)

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お久しぶりです。大分時間が空いてしまいました。

前回に引き続き大本営での話になります。



第六話 季節外れの門出

大本営 講堂

 

 

デザインこそシンプルだが金の掛かり方がわかる室内には、一目で威張っているとわかる人物が数人、高級士官らしき人物とその秘書艦達であろう艦娘が数十人集まっていた。渡邉大佐と護衛の那珂もその一部である。

全員正装だった。

 

「過日、沖ノ鳥島において勇戦し敵に対し大打撃を与えながら、帰還叶わず散った、大洗艦隊司令 東雲中将を二階級特進、元帥とする。総員、東雲元帥に敬礼」

 

死者に対して送られるのが黙祷ではなく、敬礼と賛辞である事が軍社会におけるある種の異常性を示しているだろう。さらに勇壮な軍歌まで流れ出したとあれば、死をも戦意高揚のプロパガンダに使おうとする思惑は明らかだ。

 

以後海軍のお偉方からの"ありがたい"スピーチが延々続き、小一時間は経っただろうか。ようやく話題が移った。

 

「先の沖ノ鳥島海戦において、負傷した司令官と損傷激しい艦娘を援護し、さらに敵艦隊に有効な打撃を与えたことを評し、よって貴官に勲章を授ける。元帥 第14代作戦本部長 近藤隼雄」

 

今度もあの軍歌である。一体人類の精神はこの百数十年でどれほど進歩したのだろうか。

 

本来ならば敗北と記録されるべき海戦の多くが実態とは異なる発表をされてきた。特に民間に対する発表はかつて同様「大本営発表」と呼ばれている。”国民を無用な混乱を与えないため”として行われる発表によりかの大戦よりも戦争の実態を国民が知ることは困難になっている。さらに、国民の中で進んで知ろうとする者は稀だ。これらは政府の”国民教育”の成果だろう。

生まれたままの人間は、まだ国民の定義には当てはまらないのだから…

 

 

その後ようやく艦隊司令長官室に呼び出された大佐は、辞令を受け取る。

 

当時艦隊司令部から辞令が発せられることは既に異例の事態だったが、さらに異例だったのは一度に新たな司令官が4人も誕生することだった。

 

「戦力の大幅増強を目指して4個艦隊を新設することになった。そのうちの三河湾泊地を貴官の所属とする。在職司令官に負けない艦隊を育て上げ、お国のため宿敵撃滅に全力を尽くすよう」

 

「…小官の全力をもって職務に精励いたします」

 

 

(お国のため…ねぇ。かの大戦から百数十年。再び同じ言葉を使う我々に先達は何を思うだろうか)

 

 

「新泊地創設の準備は作戦本部の富山少将が行なっている。また今回は通常の初期艦に代わり複数隻の高練度艦を用意している。貴官自身の運営構想に従って選んでくれたまえ」

 

「ご配慮に感謝いたします」

 

「国民と我々が期待するところは大きい。是非とも頑張ってくれたまえ」

 

 

ーーー

 

 

富山少将 執務室

 

 

「やあ、遅かったな。泊地の準備はお前さんで最後だ。しかし面白いな。こうして見ていると、作戦本部がどんな序列を作りたがっているかがよくわかる。まず初めに来たのは作戦本部所属だったプー太郎2人だ。こんな事でもなけりゃ指揮する事はないだろうな。次いで民間採用1人。こいつについてはまだ情報がない。最後がお前だ。作戦本部の連中はどうしても艦隊に手駒が欲しいらしいな。」

 

「派閥争いを前線に持ち込まないで貰いたいものですね。ところで少将、司令長官から初期艦が変わると聞いていますが」

 

「そうだ。大洗泊地を再建するにあたり元所属全艦を本営に移し、新提督に配分するそうだ。ついでに言うと、呉の士官学校が来月横須賀に移転する。これも作戦本部の影響力アップを狙ってだな。それに伴い教導艦からも一部参加させることも決まった。近来ない措置だな」

 

「随分と大袈裟ですね」

 

「陸軍が民衆を煽っている。沖縄を失った海軍は今何をしている、とね。お陰で"上"が焦っている。座り心地の良い椅子から下ろされたら困るからな」

「まあバカどものことはどうでもいい。ここの一覧から7、8隻選べ。」

 

「わかりました。では、大洗より五十鈴、由良、白露、時雨、村雨、夕立。教導艦から飛鷹、隼鷹。以上を。しかし小型艦ばかりですね」

 

「大型戦艦・空母の類はプー太郎が、巡洋艦は民間採用が持っていったな。新鋭駆逐も売り切れだ。誰に戦果を上げさせたくないか、一目でわかるな」

「ちなみに、俺からの選別に五隻用意している。まあお前さんなら気にいるだろう。クックック…317会議室に1500に集まるように連絡してある。顔合わせだけでもしておけ」

 

「私だけ配分が多いと問題が起きませんか?主に上の連中に」

 

「なに、心配いらん。他の奴らは今の表からきっちり12隻選ばした。”特務艦はいらん”そうでな、問題ない」

 

「はあ、了解いたしました」

 

 

ーーー

 

 

317会議室

 

あまり広くは無い室内には、簡単な給湯設備、いくつかの長机、イスが配置されている。

その一角には、鳳翔、明石、大淀、間宮、あきつ丸の5人が会話を弾ませている。

 

「急に異動、という辞令を受け取りましたがなんでしょうね」

 

「間宮さん、新しい泊地を作るようです。なんでも四つも一度に作るとか…」

 

「一度に四つも…そのような余裕があったのですね。私は厨房ばかりであまり噂話程度しか聞けませんからわかりませんでしたわ。ところで、今度の渡邉…大佐。皆さんはご存知ですか?」

 

 

「ククク…誠に面白い方ですなあ。この陸軍艦艇に海賊というあだ名がつけられるくらいであります。模擬演習で大佐と組んだのは一度きりでありますが、いやあお陰様で楽しめたでありますよ」

 

揚陸艦あきつ丸。呉にいた教導艦である。対地ではなく、艦対艦演習で渡邉艦隊の旗艦を務めた。彼女と陸戦隊は渡邉の指揮のもと、相手艦隊の半数を前代未聞の移乗攻撃によって無力化した。陸軍艦艇にも関わらず”海賊”という異名で恐れられた存在である。

 

 

「さぞかし相手さんは腹が立ったでしょうね。ああ、私は…もうすぐ三ヶ月前の沖縄戦ですかねー。あの時はまだ渡邉少佐だったんですよ。”どうせ全部持ってけ無いんだから使ってしまえ”とか言って装備?武器?作りましたよ。無茶な注文も多かったけど、いやー資材いっぱい使えて楽しかったなー」

 

工作艦明石。元泊泊地の所属である。沖縄撤退戦において当時新人研修を始めたばかりだった渡邉少佐の指揮に従った。渡邉が発案し、明石が作り上げた装備は北上する深海棲艦の足止めに絶大な威力を発揮した様である。

 

 

「明石…次の任地でそのようなこと、私が許しませんからね。私は…そうですね、ひと月ほど前の  震災の時でしょうか。私はあまり大きく関わったことはないです。大本営からの救援部隊の一つに大佐がいました」

 

軽巡洋艦大淀。大本営にて待機中。一ヶ月前、富山・新潟付近が震源と推定される地震被害に遭う。艦隊機能が麻痺する中、混乱する提督を無視して艦隊を指揮、被害の復旧と機に乗じてくる敵艦隊の迎撃を行った。

この後別の泊地で偶然不正を摘発。命令外の行動と、大本営にとっての”不都合な事実”を知ったために艦隊を外されていた。

 

 

「それは大変でしたね。ですが、さすが大淀さん、と思いますよ。そうですね、私も明石さんと同じ沖縄です。あのとき渡邉少佐に指揮をお願いしました。”陸軍を乗せるから艦載機は地上発進で管制してくれ”などと言われてしまって…陸軍の皆さんと共によく帰還できた、と今でも思います」

 

軽空母鳳翔。元泊泊地所属。深海棲艦の大攻勢に対して積極的な迎撃を主張した提督や研修生には選ばれず、他の旧式艦と共に待機していた。当時まだ沖縄本島に取り残されていた陸軍将兵を収容し、撤退に成功。渡邉の名が初めて世に知られた戦闘で旗艦を務めた。

 

 

「皆さん、もうすぐ1500ですね。そろそろお見えになる頃でしょうか。お茶を入れてきますね」

 

 

 

こうして後に海軍の中核たる渡邉提督の”初期艦

勢”が決定したのであった

 




今回もお読みいただきありがとうございました。
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