芸術家提督ー英雄列伝 作:後世の歴史家(自称)
今年もゆっくりと書き進めていこうと思います。道楽に、とやっていますが、暖かくお付き合いください。
大本営 通路
「大佐ー。那珂ちゃん、アキハバラ?に行ってみたいなー☆この後ダメ?」
「自称敏腕 富山少将の設定した顔合わせがあるからな。その後でも良いのなら、になるな。しかし今は殆ど何もないぞ?本土空襲以来再建が進まず、"ヲタク達の夢の跡"を変質者が徘徊しているだけだ。アイドルの勉強にはならないんじゃないかな」
「それでもいいのっ!那珂ちゃんは、アイドルなんだから☆」
「やれやれ、武装憲兵を同行させた方がいいかな」
これらは317会議室まで、彼の元に配属となる艦娘を訪ねる道中の会話である。会見ののち、2人は秋葉原を訪ねたようだが…荒れ果てた国土と同様に、帰還した那珂の瞳には光が無かったという…。
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大本営 317会議室
「お入りください」
ノック、応答、扉を開けるという何の変哲もない社交儀礼を行った大佐の前には、弧状に座るあきつ丸、間宮、大淀、明石、鳳翔の姿がある。
間宮以外の4人から「お久しぶりです(であります)」と言われた大佐は、虚空を仰いだ。那珂は笑顔で固まっている。
この一言で彼は、”自称敏腕少将”のしたり顔が浮かんだのである。
かろうじて言葉を捻り出して一言
「お久しぶり、これからよろしく」
那珂の目が点になった瞬間である。
「大佐、どーゆーこと!?みんな知ってるの?」
「私も今知った。先輩暇人かよ」
那珂の問いと大佐の答えがいまいち噛み合っていないが、それだけ驚いたのであろう。
那珂が五人組に問う対象を変えている間に、彼は受話器を取って”先輩”を呼び出す。
「後方部門、富山少将執務室」
「先輩、暇人ですか?」
「申し訳ないが名乗ってもらえるかな?悪口が得意な後輩に心当たりが多過ぎて見当がつかん」
「閣下に泊地手配をして頂いております。新任の渡邉大佐です」
「知っとるよ。あまり怒るな。ちょっとしたジョークだ。まあ口の悪い後輩が多いのは事実だがね」
「少将閣下?あまり後輩をいじめてはいけませんよ?」
この時渡邉の耳には香取と思しき女性の叱る声が届いた。静かになるまで待つこと十数秒。ようやく少将の声が聞こえ出した。
「で、半年早いクリスマスプレゼントは気に入ってもらえたかな?」
「ええ、驚きました。真夏にクリスマスプレゼントとは、先輩は南半球の方でしたか?見知った顔ばかりだったのでびっくりです。珍しく良いプレゼントを頂きました。わざわざ探し出したんですか?相変わらず”わるだくみ”には余念の無い暇人だとわかり一安心です。今後心置きなく仕事をお願いできますね。お楽しみ中にすみませんでした。ではまた」
「なあ、おいまt…」
返事を待たずに受話器を置いた大佐が振り返ると、6人がこちらを向いている。
頭を掻きながら一言
「あー、えー…今回新たな泊地、三河湾泊地を任されることになった渡邉大佐です。あらためて、以後よろしく…」
新しい部下達の笑顔は生暖かかった。
ーーー
大本営のお偉方がどんなに暇していようと、あるいは椅子取りゲームに興じようと、仕事に追われているのが後方部門である。
自称敏腕 富山少将もその中核として漏れなく多忙であった。
「真に偉大なのは彼女さんの方さ。教練上がりの事務能力は伊達じゃない。あんな先輩は支えて頂いていることをいずれかの神に毎日五回ずつ感謝するべきだね」
とは某後輩クンの発言である。たまたま通りがかった香取女史に満面の笑みで睨まれていたが…
やれ資源をよこせ、ネジが足らん等々、少将相手に色々と”丁寧に注文をつける”輩は少なくないが、彼女が愛用の教鞭を片手に
「あらぁ、ほほう?」
…と口にすれば、三言目を発するまでに退散してしまうのである。
事実、少将の円滑な業務は、近頃”龍田よりも怒らせてはいけない”とまで言われるようになった香取女史によって守られているのであった。
後方部門の業務量は継続して右肩上がりである。これが作戦の成功と制圧海域の増加によるものであれば、どれほどの充実感を伴うだろうか。しかしながら現実はその逆で、本土とその周辺海域のみをかろうじて確保しているに過ぎない。
昨年秋、大湊に栄転するまで10年以上の長きに渡って単冠湾泊地に在り、北方海域を守り続けた散田提督。単冠湾泊地の後任は僅か2ヶ月足らずで全域を失い戦死。
そして今年の4月、沖縄本島とその周辺海域までもが敵艦隊の手に落ちた。特に沖縄本島は南部を中心に陸上型が要塞化するなど、反抗作戦の難易度は上がる一方である。
海軍全体で調達に力をあげている資源であればまだしも、昨今の制海権喪失に伴う民需用資源の確保はますます厳しさを増している。
もはや供給の維持は、後方部門単体での解決が不可能な段階に至っていた。
事態を抜本的解決に導くと思われた新泊地創設だが、渡邉大佐の三河湾以外が佐伯湾、岩国、境であると知れると落胆するものが続いた。新3泊地は瀬戸内と日本海にあり、太平洋の制海権拡大には寄与しにくい場所だからである。
現状の改善が見込まれないにも関わらず業務量ばかりが増える。上層部の政治ゲームの1番の被害者は後方部門であったかもしれない。
ーーー
富山少将 執務室
この日の晩遅く、富山少将の執務室には人影が二つあった。どうやら公には御法度である”執務室での飲酒”を敢行するようだ。今は希少な”本場”のワインなどどこで手に入れたのだろうか。
2人はグラスを片手に言葉を交わす。
「後輩さんの泊地、もうすぐ出来上がるそうですね」
「急ぎだったので、取り敢えず必要最低限は揃った、という段階だな。あとはあいつが自由に増改築すればいいさ。しかし周りがアホウだからすぐに栄転するんじゃないかな?しかし妖精さん達もさすが、仕事が早い。上の連中がこの1%でも仕事ができればなあ」
「妖精さんと比べるのは酷ですよ。仕事をする、とは何かがわかっておられませんもの」
「私もそう言われぬよう気をつけよう」
「閣下はすでに十分過ぎるほど働いておられますわ」
「これはこれは教官殿にお褒めいただけるとは光栄です。…しかしあいつもついに艦隊司令か…卒業から僅か二ヶ月半、あいつもかなり大変だな。これからはさらに大変になるだろうが…」
「うふふ、そうですね。私たちもできることを続けてゆきましょう。…では、後輩さんの…」
「…あいつの、季節外れの門出に」
「「乾杯…」」
話がまとまらない…
次回閑話(解説回)を挟んで続きを書こうと思います。そろそろ(自称)本題の外伝編も作りたいと思っています。
今回もお読みいただきありがとうございました。