魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
球磨川がやらかした校門前…そこに一人の女性の声が響く。
「全員!そこを動かないで!」
球磨川を除く達也達が声がした方を見ると、そこには生徒会長である七草真由美と風紀委員長である渡辺摩利がいた。
「七草生徒会長!渡辺風紀委員長!」
突然、この学園における三巨頭と言われる内の二人が現れ驚いたのか、それとも球磨川の過負荷から解放された安心感からかA組の一人が声を上げる。
しかし、達也は生徒たちがざわめく中、一人思考していた。
「(…まずいな………。)」
達也は目立たない程度に周りを見渡す。
そこには、もはや興味なさげに螺子を弄びながら突っ立っている球磨川や、生徒会長達が現れ少しだけ落ち着いた森崎、そして、雫に慰められているほのかがいる。
それに周りには他にも下校しようとする生徒がいるのだ。
他の生徒達が通報したのだろう。
その証拠に真由美と摩利の目線は球磨川と森崎に向いていた。
しかし、真由美は一度、球磨川達から目を外すとCADを持っている一年生に向け厳かに告げた。
「自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に…犯罪です。なので、ここであった騒動について詳しく話を聞かせてほしいのだけれど…。」
真由美の言葉にA組の生徒の顔が蒼白になる。
さらに真由美の放つ並の魔法師を遥かに超える後光の如く輝くサイオン光が彼女の威厳を示していた。
そして、真由美の隣にいる摩利が口を開く。
「君達は……1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きます。ついて来なさい。」
彼女の持つCADはすでに展開され、少しでも妙な動きや発言をすれば面倒なことになる。
下手すれば退学にまで発展するだろう。
それだけは回避しなくてはならない。
様々な選択肢が思い浮かぶ中、達也は一つの選択肢を選ぶ。
「すみません、悪ふざけが過ぎました。」
達也は摩利に一礼し、そう言うと彼女は眉を軽くひそめる。
「悪ふざけ?」
「はい。これからのお互いの研鑽と親睦を深めるために互いの特技を披露していました。特に森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりでした。」
達也が選んだ道とはこの事件を無かったことにすることであった。
摩利はさらに眉をひそめる。
「では、互いにCADを構えていたことは?」
「それは友人の球磨川が独自に開発した螺子を用いた戦い方を披露してくれたからですね。球磨川も気合いを入れすぎたのか、そのパフォーマンスは圧巻で悲鳴すら上がりました。他の一科生もその迫力に思わず起動したのでしょうね。」
嘘はついていない。
螺子なんて武器にする奴は球磨川ぐらいしかいないから、独自に開発したのはあながち間違いではない。
パフォーマンスというには、いささか過激過ぎるが。
「私には君の友人達が、迎撃しようとしている様に見えた訳だが……それでも悪ふざけと主張するのかね?」
「迎撃といっても誰も魔法は使用していませんし、
球磨川の大嘘憑きは魔法ではなくスキルであるため、これも嘘ではない。
達也は球磨川の力がスキルであることは知らないのだが。
森崎が攻撃してしまってはいるが、もはやそれは球磨川の諸行により、良くも悪くも皆の脳内から消し飛んでいた。そのため、ツッコミを入れる人はいない。
少々無理のある言い訳だが、摩利はどうやら言い訳の内容よりも、達也が言った「攻撃性のある魔法を誰も使おうとはしていない」…という部分に興味を持ったようだ。
「ほぅ……私には君の言葉がこう聞こえるぞ?
「実技は苦手ですが、
摩利は達也の異質さに気がついたのか興味深く観察する。
魔法師は、魔法式についてはどのような効果を持つのか直感的に理解することができる。
だが、
摩利はため息を吐き、CADの起動を解除する。
「……球磨川と言ったかな?君はどうなんだ?」
ここで摩利は球磨川に照準を向けた。
「(……!)」
達也は眉間に皺を寄せ、球磨川を見る。
球磨川は先程、とんでもないことをやらかしたばかりだ。
森崎が先にやったこととはいえ、球磨川が皆に与えた恐怖を考えると森崎がやったことなど可愛いもの。
そして、球磨川は自分には想像できないことを悠にやらかす。
そのため、達也は球磨川が余計なことを言わないか警戒していた。
しかし、その球磨川はもうこの件には興味ないのか、そっけなく答える。
『達也ちゃんが言ったのなら、そうなんじゃないんですかね?』
それはこの事件には何かまだ秘密があると言っているようなものだ。
しかし、球磨川は話す気がないのかジャンプを読み始める。
摩利は追求しようとするも、そこに深雪が一歩踏み出し、深々と頭を下げた。
「兄が申したようにちょっとした行き違いだったのです。お騒がせしてしまい…誠に申し訳ありませんでした。」
「深雪…。」
達也は頭を下げる深雪に寄り添う。
それは兄妹というよりも、熟年の夫婦のような、愛し合う恋人のようにしか見えない。
そんな彼らの様子に摩利は毒気が抜かれたのか、ため息を吐き、真由美に委ねようと視線を向けた。すると真由美は優しい顔で説得する。
「摩利、もういいじゃない。達也君、ただの見学だったのよね?」
「はい。」
真由美の言葉に達也は頷くと、摩利がこほんと咳をして口を開く。
「…会長がこう仰せられているので、今回は不問にします。…以後このようなことがないように全員気をつけるように。」
彼女達が踵を返すと、摩利が何か思い出したかのように振り向く。
「そうだ!君…名前は?」
摩利が達也に尋ねると、彼は答える。
「1ーE…。司波達也です。」
「覚えておこう。」
摩利はそう言って真由美と歩き出す。
そんな彼女達の道中、摩利が真由美に話しかけた。
「…真由美、あれが球磨川禊…。」
「ええ。やはり想像していた通り、彼は危険です。何か対策を講じなければ…。」
真由美は先程、摩利を説得した時のような表情とは真逆の真剣そうな眼差しで言った。
そして、摩利はそんな彼女に話す。
「…こうするしかないかな。」
摩利は真由美に提案すると、真由美は驚いた表情で彼女を見る。
真由美なしばらく苦しそうな表情で悩むと、仕方ないとばかりに頷いた。
◇
その日の夜、達也は自室にて調べ物を行なっていた。
「……球磨川禊。家族はなし。現在はアパートにて一人暮らししている。大分県にある私立安心院中学校を卒業して上京。両親と弟がいたが、全員が病により死亡…か…。」
球磨川禊…彼についてハッキングして調べていた。
しかし、思うように情報が集まらない。
達也は腕を組んで考え込む。
「…なんだこのプロフィールは……?デタラメな箇所が多すぎる。」
まるで取ってつけたかのようなプロフィール。例えば、大分県には私立安心院中学校など存在していない。言ってしまえば身元不明に等しいのだ。
しかし、彼は第一校に入学している。
これは一体、どういうことなのだろうか。
「……マイナス、オールフィクション、螺子…駄目だ。球磨川に関わる情報が一切出てこない。」
あれほどの力だ。古式魔法であるのであれば、秘匿されていても何らかの形で伝承として残っていてもおかしくはない。生まれつきの能力者であるBS魔法師ならば噂くらいあるだろう。しかし、彼に関わる情報は見つからなかったのだ。
まるで、全てが無かったことにされたかのように。
「(これ以上、調べても無駄か。明日、師匠に相談してみるか。)」
達也はパソコンを閉じて、目を閉じ今日、校門前で起きた出来事を思い返す。
「(…球磨川禊。俺が見たこともない、得体の知れない力を操る男……。だが、あいつの恐ろしさはそんな
狂人にして破綻者…それが一番近いのだろうが、それだけでは言い表せない何かが球磨川禊にはある。球磨川の出すあのプレッシャーは七草会長などの強者が出すものとは異質なものだ。少なくとも高校生が出せるものでは無い。
相手を言葉で徹底的に追い詰めたかと思えば、それを受け入れ慰める。自分の身体ですらも平気で傷つけ、それを見せつける残虐さと狂気があるかと思えば、森崎の差別的発言で怒り、レオ達を森崎の魔法から結果的にとはいえ救うという仲間思いな一面もある。
一見、人懐っこいのに、その中身は誰よりも冷たく、温く、鋭く、柔らかい。そんな相反する要素が詰め込んだ矛盾を体現したかのような存在。全てが嘘で塗り固められた不気味な男…それが達也から見た球磨川であった。
達也は机の上に置いてある銃型のCADを手に取る。
「(…どちらにせよ、球磨川は危険人物で間違いない。今でこそ敵対はしてないが…もし、あいつが俺たち兄妹に立ち塞がるのであれば…。俺の全てにかけてでも排除しなければならない。)」
達也は目を細め、心の中で球磨川を危険対象としてマークする。
全ては妹である司波深雪を守るために…。
司波達也と球磨川禊、二人の劣等生が相対する日は何時になるのだろうか。
こんばんは味噌漬けです。とりあえず、球磨川のやらかしを達也が何とかフォローしました。正直、言い訳として苦しいですが、筆者の頭ではこれが限界です。すみません。
今回は読んでくださってありがとうございました。