魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第十三話 『抹殺すれば良いんだよ』

 第二体育館で起きた騒ぎから一週間後、授業を終えた達也は考え込んでいた。 

 

「(……球磨川禊に、壬生先輩とブランシュの繋がりの可能性か…。考えなければならないことが多いな…。)」

 

 達也は前日に壬生との話し合いにおいて、壬生の言動から感じ取れる風紀委員に対する反感や、七草真由美の話から、影から風紀委員会に対する印象操作をしている集団がいると推察。そこから、反魔法国際政治団体【ブランシュ】の存在を嗅ぎ取った。

 ブランシュとは魔法能力による社会差別根絶を訴えている団体である。その組織はそれ相応の規模をほこり、下部組織として若年層中心の【エガリテ】と呼ばれる組織があり、達也はそれこそが風紀委員会の印象操作をしている可能性が高いと考えていた。

 しかし、それだけならまだしも、達也は球磨川への警戒もしなければならない。

 悩みの種は尽きないようである。

 

『あれ?達也ちゃん』『何か疲れた顔してるけど大丈夫かい?』

 

 そんな中、悩みの種(球磨川)が話しかける。

 

「…球磨川か。いや、大丈夫だ。」

 

『ふーん。』

 

 達也以外のクラスメイトから避けられてもなお呑気にしている球磨川を見て達也は考える。

 

「(…こいつに聞かれるわけにはいかないな。……いや、球磨川とブランシュが繋がっている可能性もなくはないか……。)」

 

 達也は球磨川とブランシュが繋がっている可能性を考える。

 しかし、すぐに考えを改めた。

 

「(…いや、流石に根拠が乏しい……。それに、球磨川はエガリテの目印であるトリコロールのリストバンドを身につけていない。だが、これから先どうなるかもわからない。警戒しておくに越したことはないな。)」

 

 そう考えている中、突然、教室内に爆音が鳴った。

 

[全校生徒の皆さん!僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!]

 

「…!?」

 

『……?』

 

「えっ…うるさっ!なに?」

 

「どうしたんだ?」

 

 突然鳴った爆音に球磨川や教室にいる他の生徒達も戸惑っている。

 そして、それを皮切りに放送は続く。

 

[魔法教育は実力主義!それを否定するつもりは僕達もありません!!]

[しかし校内の差別は魔法科実習以外にも及んでいます!例えば魔法競技系のクラブに割り当てられている予算はそうでないクラブよりも、はるかに優遇されています!]

[僕達は魔法師を目指して魔法を目指す者です!しかし同時に僕達は高校生です!魔法だけが僕達の全てではありません!]

[僕達はこの差別撤廃について生徒会と部活連に対し対等な条件における交渉を要求します!]

 

 あまりに大音量の放送に他のクラスメイト達は混乱する一方である。

 そんな中、球磨川は…

 

『へぇ……』

 

 三日月の如く、口角を歪めていた。

 

 

 放送室の前、そこには第一校のトップクラスの猛者である【三巨頭】のうちの二人、渡辺摩利率いる風紀委員会と十文字克人がいた。

 立てこもり犯はマスターキーを盗み、放送室を占拠しているようだ。

 この騒動についてどう対処するか、強引に鎮圧しようとする摩利と話し合いで決めようとする十文字に分かれている。

 そんな中、達也が壬生とコンタクトを取った。

 

「ーー壬生先輩の安全は保証します。ですので、開けてもらえませんか?…はい、わかりました。それでは。」

 

 達也は通信端末を閉じると摩利に視線を向ける。

 

「委員長。今すぐに中にいる奴らを拘束する態勢を整えるべきだと思います。」

 

「君は、さっき自由を保障するという趣旨の発言をしていたと思うのだが?」

 

 摩利の質問に達也は微笑する。

 

「俺が自由を保障したのは壬生先輩だけです。」

 

 その言葉に他の面々はポカーンと呆ける。

 その後、拘束態勢を敷いてしばらく待機していると、放送室の扉の鍵が開く。

 その瞬間を見計らい、風紀委員達が突入した!

 

「風紀委員だ!」

 

「CADの不正使用で逮捕する!!」

 

 占拠していた複数の生徒を風紀委員が捕縛する。

 その状況に呆気を取られた壬生は達也に向け声を荒げながら迫った。

 

「司波くん!あたし達を騙したのね!!」

 

 その言葉に達也は冷静に言い返す。

 

「騙してなんかいませんよ。壬生先輩の安全は保障しました。」

 

「そんなの屁理屈じゃない!!」

 

 食ってかかる壬生を十文字が止めようとする。

 結局のところ、壬生達が起こした反乱は直ぐに鎮圧されてしまった。

 他の風紀委員も安堵しているようである。

 しかし、突然、自分達しかいないはずの放送室に最低な声が響いた。

 

『全くだぜ。達也ちゃん。』

『君にはガッカリしたよ。』『ガールフレンドを騙し打ちなんて、最低なやつがやることだぜ?』

 

 そして…放送室にいる全員に悪寒が襲う。

 

「……!?総員!伏せろ!!」

 

 摩利が叫んだ次の瞬間、放送室に無数の螺子が襲った。

 

「ぐはっ!」

 

「なんだっ!?」

 

 螺子は生徒達を拘束している風紀委員達を一斉に磔にする。

 壬生に至っては何が起きているのかがわかっていない。

 何とか回避出来たのは、達也と十文字、摩利の三名のみであった。

 

「…!これはどういうことだ。」

 

 十文字が磔にされた風紀委員を見て困惑する。

 達也は彼らを見て、摩利に向かって言った。

 

「…大丈夫です。気絶しているだけみたいですね。ただ、この螺子を抜くことは難しそうですが。」

 

 そして、達也は目の前に現れた球磨川を睨みつける。

 

「…球磨川、何のつもりだ?」

 

 扉を閉めた球磨川はその鋭い眼光を諸共せず、ヘラヘラ笑った。

 

『何って、前に言ったはずだよ。』

『僕はいつだって壬生先輩(弱い子)の味方だってね。』

『彼女達を襲う人達を螺子伏せようとしただけだよ。』

『これは人助けだ。』

『だから、僕は悪くない。』

 

「……」

 

 達也は球磨川を睨む。

 そんな中、摩利が球磨川に向け口を開いた。

 

「これは風紀委員会に対する執務妨害、および生徒への暴行だ。大人しくしてもらうぞ。」

 

『嫌だって言ったら?』

 

「…あたし達三人を相手に勝ち目があると思っているのか?」

 

 球磨川が相対するのは、この学校における【三巨頭】と呼ばれる強者のうち二人、そして生徒会からも実力を認められた猛者である達也の計三人。

 どうあがいても勝てるわけがない。

 しかし、球磨川はそれでも笑う。

 彼はいつだって自分が不利な中戦ってきた。勝ち目がない?最初から負けている?そんなもの球磨川にとってはいつも通りだろう。

 

『…………』

 

 不敵に笑みを浮かべながら立つ球磨川。

 壬生はそんな球磨川に向け、困惑の表情を向ける。

 

「何で…?こんなことを…?」

 

 壬生はメチャクチャになった放送室、螺子によって磔にされた風紀委員達を見て青ざめる。 

 壬生はここまでする気はなかったのだ。あくまでも、平等な立場での交渉がしたかっただけ。

 しかし、球磨川はそんな彼女に向けて朗らかに笑う。

 

『何でって…』『これは君達が望んだことでしょ?』

 

「あたし達は…こんなこと望んでいない!」

 

 壬生は声を荒げるも、球磨川はサラリと答える。

 

『どうかな?』『君達の目的はあくまでも平等な学校でしょ?』

『それなら交渉なんかより、よっぽど簡単で手っ取り早い方法があるよ。』

 

 球磨川の言葉に摩利が興味深げに聞く。

 

「ほう。…それなら、その方法について聞きたいところだな。」

 

 球磨川は笑顔で答える。

 

『簡単だよ。』

『わざわざ交渉なんかするよりも』

『生徒会、部活連、風紀委員会、その全ての役員たちを抹殺すれば良いのさ。』

 

「なっ……!」

 

 そのあまりにも狂った考えにその場にいる者全員が戦慄する。

 

『後はそれらを乗っ取っちゃえば、学校を支配できる。』

『そのまま優秀な人達も全部潰せば、残るのは劣等生と愚か者だ。』

『そうすればなーんにも考えない本当の実力主義になるだろうね。』

『なんせバカしかいないから。バカは生きるためには手段を選ばない。』

『下の下を争い、蹴落とし合う素晴らしい世界の完成だ。』

『良かったね。壬生先輩。』『それで悲願達成だよ。』

『非魔法、魔法関係ない多様性を認めた平等で完全な実力主義の世界。』

『大丈夫、そんな世界でもきっと楽しいさ。』

 

「あたしは…そんなの…の、望んで…」

 

 壬生は球磨川が嬉々として語った弱肉弱食のディストピアを想像し顔を青くする。

 球磨川は壬生に柔和な優しい笑顔を向ける。

 しかし壬生はその笑顔に恐怖を感じ、へたりと座り込んだ。

 摩利は球磨川の支離滅裂な思想を聞き、歯を噛みしめながら彼を睨む。

 本来なら球磨川の言葉など一笑に付すだろう。しかし、球磨川はそれをしかねない危うさがある。

 そんな中、十文字は球磨川に尋ねた。

 

「球磨川といったな。お前は本気で差別を無くそうとしているのではないのか?」

 

『うーん』『まぁ正直、僕は差別とかどうでもいいです。』

『はっきり言って、学校が変わろうが変わらなかろうが興味ありません。』

 

 球磨川の答えに摩利が尋ねる。

 

「ならば何故、君はここにいる…?」

 

 摩利からの質問に球磨川は顎に手を当て、ヘラヘラ笑いながら話す。

 

『理由ですか?』『難しいなぁ…。』

『あなたたちにお母さんを殺されたとか?』『実の弟があなた達の関係者に誘拐されたとかー』

『あー!』『恋人が奪われたなんてドラマチックで良いよね。』

『うーん?どれにするか迷うなぁ。』

 

「(……理由も…意味もないのか…)」

 

 球磨川からの返答に唖然とする摩利。

 そして、球磨川は何か思い出したかのように手を叩く。

 

『あー。そういえば思い出しましたよ。』

 

「…?」

 

『蛾ヶ丸ちゃんが昔、言ってたんだ。』

『「偉そうな連中は、誰に何されてもしょうがないんじゃないですか?」ってね。』

『だから…三巨頭(君達)みたいな偉そうな連中…。』

 

 そして球磨川は目を細くして言う。

 

弱者(僕達)に何されても文句言えないでしょ?』

 

 球磨川から過負荷が溢れ出す。

 一挙一動、一言一文字が支離滅裂で気持ち悪い。

 十文字はこんなイカれた生徒がいることに戦慄していた。

 摩利もまた自分の警戒がまだ甘かったことに後悔する。

 まさに戦うという形でも嫌うという形でも関わりたくない存在…。

 そんな中、達也が睨みつける。

 

「球磨川、生徒会…つまり、深雪も対象というわけか…。」

 

 その声には今までにないくらい怒気を含んでおり、殺気も漏れ出している。

 

『んー深雪ちゃん?』『彼女に関しては愚か者っぽいしなぁ…。』

『どうしよう。』

 

「…少なくとも、お前が深雪に手を出す可能性がある限り、お前は俺の敵だ。」

 

 達也はそう言ってCADを握る。

 

『ふーん』『僕と戦うつもりなんだ。』

『一応、友達だし達也ちゃん達に手を出すつもりはなかったんだけどなぁ……。』

『正当防衛だし、しょうがないか…。』

 

 球磨川も螺子を取り出して構えた。

 その顔は少し残念そうにしているようにも見える。

 まさに一触即発の状況…しかし、その時、球磨川の後ろから飛んできた魔法が球磨川の螺子を弾き飛ばした。

 

『……?へぇ…。』

 

 球磨川は後ろを向く。

 

「そこまでです。」

 

 扉がサイオンの光が照らされる。

 扉が開かれた放送室に現れたのは最後の三巨頭の一人、生徒会長…七草真由美だった。

 

 

「球磨川くん。動いても無駄ですよ。あなたが隠している螺子は把握しています。」

 

 真由美は先天的に遠隔視系知覚魔法【マルチスコープ】という異能を持っている。

 そのため、球磨川が隠し持つ螺子も把握していた。

 真由美の言葉を聞いた球磨川は興味深そうに見る。

 

『なるほど。』『さっきの正確な射撃といい、あなたの目は特別なようですね。』

『それがあなたの異常(アブノーマル)か。』

 

異常(アブノーマル)とはよくわかりませんが、特別なのは正解です。」

 

 そして真由美は球磨川を睨みつける。

 

「…よくも学校を…生徒達を傷つけましたね。通り道に仕掛けられていた螺子の壁に遠回りさせられましたが、もう逃しません。」

 

 真由美の怒りに対し、球磨川はヘラヘラ笑う。

 

『僕は悪くない。』

『まぁ、たしかに気持ちはわからないでもないしね。』

『じゃあ、これで解決ってことで。』

 

 球磨川が放送室の中で手をかざす。

 真由美は身構えるも、不思議なことに放送室の壊れた壁も、磔にされた風紀委員の傷も何もかも時間が戻るかの如く直ってしまった。

 

「…!?何ですか…これは…?」

 

 戦いの傷も破損も、全てがなかったことにされる。

 放送室にいる達也もこの光景に戦慄した。

 

「(これは……前に球磨川の胸が治った時と同じ…!?いや、これは治ったというよりも…。いや、まさか…)」

 

 達也は目の前で起きた現象にいくつか仮説を立てる。

 しかし、どの仮説も荒唐無稽なもので、信じることが出来なかった。

 

『これで僕達が争う理由はなくなったね。』

 

 球磨川はヘラヘラ笑いながら、真由美に向けて言う。

 真由美は球磨川を睨みつけながら言う。

 

「あなた…一体何をしたのですか?」

 

『んー。』『そうですねー。』

『今の僕は気分が良いし、教えてあーげないっ!』

 

「………!!」

 

 球磨川の態度に苛つきをかくせない真由美。

 しかし、真由美は心を落ち着かせ、球磨川をスルーして生徒達の安否の確認を行う。

 真由美は他の風紀委員が気絶しているだけと分かると安心して壬生の元へと向かった。

 

「壬生さん。あなたにお伝えしなければならないことがあります。」

 

「え…?七草会長…?」

 

 壬生は完全に起きたことについていくことができていない。

 

「…学校側は今回のあなた達の訴えの判断を生徒会に委ねるそうです。」

 

「え……?」

 

 驚く壬生に七草は話し続ける。

 

「生徒会長である私としても、生徒の不満を無碍にすることはできません…。なので…」

 

 真由美は一呼吸置いて言う。

 

「私達、生徒会は翌日、有志同盟との公開討論会を開くこととしました!」

 

 その言葉に驚く壬生や十文字に摩利。

 真由美は話し続ける。

 

「私は生徒会長として、あなた達と話し合いで決着をつけるつもりです。より良い学校にするために…。」

 

 壬生は思わず聞き入っている。

 それもそうだ。言ってしまえば、ようやく自分達の正義が学校に一意見として認められたのだから…。

 その感動は大きいだろう。

 しかし…そんな中、球磨川はつまらなそうにため息を吐いた。

 

『はぁ…。』『一体、何の提案かと思ったら』

『あなた達の生徒会ってホントに都合の良い組織なんですね。』

 

「何ですって…?」

 

 真由美は再び球磨川を睨む。

 しかし、球磨川は責めるような口振りで話す。

 

『話し合い?』『より良い学校?』

『差別を放置してきた生徒会が言うこととは思えないよ。』

『しかも、こんな制服の発注ミスで済むような問題をさ。』

 

 せっかく良い結末を迎えようとした空気に過負荷が侵食する。

 球磨川の言葉に痛いところを突かれたのか、真由美は歯を噛み締めた。

 

「それは…!」

 

 真由美が言い返そうとするも、球磨川がそれに被せる形で話続ける。

 

『そもそもさ。』

『なんか二科生をウィードと呼んじゃいけませんみたいな校則とかあるけど、罰則受けてるとこ見たことないのはなんでかな?』『討論会なんてするより、そっちが先だよね?』『だって、ルール破ってるんだもん。』

『まぁわかるよ。だって、めんどくさいもんね。』『殆どの生徒を処罰しなきゃいけなくなるし』

『でもさ結局、七草会長の生徒会はそんな差別を正当化しなきゃ支持率得ることが出来ないくらい歪んでるんだよ。』

 

「ち、違います……。」

 

 真由美の声の力が無くなっていく。

 そこに見かねた摩利が言う。

 

「ふざけるな。真由美は差別に向き合っている!だからこそ、司波くんを風紀委員会に入れることを許可したんだ。意識改革のためにな。」

 

『うん。ご立派。』

『でも、そもそもそれって七草会長の提案なのかな?』

『確か風紀委員会と生徒会って別組織だよね?』

『生徒会には推薦権はあっても任命権はない。』

『案外、渡辺先輩辺りが達也ちゃんを入れようって言い出したんじゃないの?』

 

「そ、それは…。」

 

 図星であるためか摩利は言い淀む。

 

『あれ?図星だった?』

『まぁ推薦しただけ、まだマシだけどね。』

『それでも、こんな簡単な話…自分で気が付かない辺り、七草会長がそこまで差別意識解消に意欲的じゃないのがまるわかりだよ。』

 

 そして、球磨川は摩利から目を外し、再び真由美に視線を向ける。

 

『結局のところ、君達はアリバイ欲しいだけでしょ?』

『自分達が少数派と話し合ったっていうアリバイをさ。』

『差別と向き合ったっていう一応の事実をさ。』

『それで、後で上部だけの改革案だしてハイ終了。うん。ホントに碌でもない。』

『僕からしたらこんな生徒会と律儀に交渉しようとする壬生先輩も理解できない。』

 

「………」

 

 真由美の顔が青ざめる。

 真由美の怒りが球磨川への嫌悪に…、覚悟が疑心にへと変わっていく。

 自分が薄々と感じていたことを球磨川は容赦なく指摘していった。

 球磨川の言うことは認めることだけはしたくない。しかし、客観的に見れば、自分の行いはそう見えなくもないだろう。

 真由美の誇りや信念が後ろめたさ(マイナス)によって侵食されてゆく。

 真由美の心はまだ折れてはいない。しかし…何を言うべきかさえもわからなかった。

 他の面々も球磨川の有無も言わさない言い方に圧倒される。

 そして球磨川は笑みを浮かべ壬生に手を差し出した。

 壬生はじっと球磨川の手を見ている。

 

『だからさ。壬生先輩。』

『こんな生徒会に期待しちゃいけないぜ。』

『安心して。』『僕は君の味方だ。』

『君のためなら生徒会だって潰しても良い。』

 

「球磨川…くん…」

 

 壬生は球磨川の放つ黒く、ぬるい過負荷にわずかながら惹かれてしまう。

 だが、本能が…良心が壬生をその道に進むことを妨げていた。

 そして、その悪魔の誘いを達也が邪魔をする。

 

「そこまでだ。球磨川。」

 

『達也ちゃん?』

 

 達也は球磨川の腕を掴んだ。

 

「球磨川。確かにお前の言うことにも一理あるかもしれない。」

 

『…?』

 

 球磨川は突然、介入してきた達也に困惑する。

 達也は一呼吸置いて再び口を開いた。

 

「だが、そんな差別を無くそうとしているのも七草会長だ。二科生の落ちこぼれである俺をこの学校で最初に差別せずに見てくれたのは彼女だ。少なくとも、そんな彼女と深雪のいる生徒会が歪んでいるとは思えない。」

 

「達也くん…」

 

 真由美は達也の姿を見つめる。

 すると、次は摩利が彼女に向けて言う。

 

「真由美、大丈夫か?後輩がああ言ってくれるんだ。これ以上、情けない先輩の姿を見せるわけにはいかないな。」

 

 その言葉とともに真由美の顔に生気が戻る。

 達也と摩利のおかげか、今の真由美の目には迷いがない。

 そして、彼女は口を開く。

 

「球磨川君…。貴重なご意見をありがとうございます。」

 

『…?』

 

「確かにあなたの言うことも尤もです。しかし、だからこそ今、私と彼女達…有志同盟がいる時に話し合う必要があるのです。彼女達の叫びも痛みも全校生徒に知ってもらうためにも。私達の志を再認識してもらうためにも。」

 

『叫び…ね。それならとっくにこの件で知れ渡ったと思うけどね。』

 

「少なくとも彼女達はまだ不満足でしょう?ね、壬生さん?」

 

「え…は、はい…。」

 

 壬生は我に返って頷く。

 

「壬生さん。私達は逃げも隠れもしません。あなたが武道を歩む者なら、逃げずに私達と勝負してください。公開討論会という場で…!」

 

 武道という言葉を聞いた壬生は目に火を灯らせる。

 その目は覚悟を決めたものだった。

 

「…わかりました。あたし達は逃げも隠れもしません。」

 

 そして壬生は球磨川に視線を向ける。

 

「球磨川君…君の話は参考になったわ。でも、君がしたことも…前にあたしを弱いと言ったことも認めるわけにはいかない。だから、ごめんなさい。これからもずっと、君の手を借りるつもりはないわ。」

 

 壬生がそう告げると球磨川は小さく呟く。

 

『…それが君の弱さと危うさだと思うけどね。』

 

 そして球磨川は彼女に笑顔を向けた。

 

『そう。壬生先輩がそう言うなら分かったよ。』

『残念だけどね』

『あーあ。また勝てなかった……。』

 

 




こんばんは味噌漬けです。今回は少しだけ球磨川先輩に暴れてもらいました。
大嘘憑きに翻弄される生徒会や風紀委員会、達也を書けて楽しい限りです。
そろそろ、球磨川先輩には達也も関係なしに暴れさせたいなーとも考えています。
ただ、球磨川先輩が再現できているか心配になります。正直、投稿するか迷いましたもん笑
今回は読んで頂きありがとうございました。
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