魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第十四話 少女は思い知る

 放送室の騒動が終わったA組の教室、ほのかは帰宅のために準備をしていた。

 その時、雫がほのかに話しかける。

 

「ほのか、ちょっと待ってて」

 

「うん!」

 

 ほのかは今ではそれなりに元気を取り戻している。

 …しかし、彼女から球磨川の話題が出ることはない。

 ほのかが雫の準備を待っていると、同じA組の男子の話し声が聞こえた。

 

「おいおい聞いたか?さっきの放送室のやつ」

 

「放送室?まだなんかあるのか?」

 

「(放送室?さっきの事件かな?)」

 

 ほのかは不思議と二人の話を聞き入ってしまう。

 

「なんでも、有志同盟を助けようとした生徒がいるんだって。んで、生徒会や風紀委員会に喧嘩売ったって話だ。」

 

「なんだよ。それ…命知らずな奴だな」

 

「(放送室…?有志同盟を助ける…?確か司波くん、風紀委員会だったよね…)」

 

 ほのかの心の中に嫌なものが溜まっていく。

 嫌な予感とでも言うのだろうか。自分にモヤモヤしたものが纏わりついていく。

 

「それで、そんな馬鹿はどんなやつだよ?」

 

「うーんと確か…ヘラヘラ笑ってる例の気持ち悪いE組のやつだって話だ」

 

「はー。二科生のくせに生意気なやつだな。そんなやつ退学にしちまえばいいのに」

 

「それが、なんか色々あって短期間の謹慎になるらしい」

 

 あれだけやらかした球磨川の罰が重く無いのは、ほとんどの証拠を無かったことにしてしまったからである。

 しかし生徒会側としては球磨川を押さえておきたかったため、風紀委員会の二度の執務妨害ということで何とか短期間の謹慎ということにしたのだ。

 

「へー。それは罪が軽いこって…。……光井さん!?」

 

「(…ヘラヘラ?E組?もしかして……!!?)」

 

 自分の嫌な予感が当たってしまったからなのか、ほのかは額に汗をかく。

 ほのかは球磨川と話をしなければならない。そんな使命感のまま教室を脱兎の如く出て行った。

 その勢いに周りにいる生徒達も驚く。

 

「ほのか?」

 

 雫は突然いなくなったほのかに困惑する。

 廊下を見てみても、ほのかの姿は見えなかった。

 

 

「球磨川くん!!」

 

 ほのかは球磨川の下駄箱に靴がないことから外にいることを確認にする。

 さらに、ほのかは球磨川が本当に事件を起こしたのなら、聴取や呼び出しで、まだ遠くに行ってないだろうと推測。

 探し回っていると、ようやく誰もいない学校の敷地の隅でジャンプを読んでいる球磨川の姿を発見した。

 球磨川はほのかの呼びかけに気が付いたのか、振り向いてヘラヘラと笑っている。

 ほのかが球磨川の顔を見ると森崎との事件のことを思い出し、力が抜けそうになってしまうも、それでも彼女は踏ん張った。

 

『あれ?』『ほのかちゃん?』

『どうしたの?』

 

 のほほんとしている球磨川にほのかが尋ねる。

 

「球磨川くん…聞いたよ。なんであんなことを…?」

 

『あんなこと?』『あんなことってなんだい?』

 

「放送室の事件のことだよ!」

 

『放送室?』『あぁ。あのことか』

 

「な、なんでそんなことをしたの?球磨川くんだって、ただじゃ済まなかったのかもしれないんだよ!!」

 

 必死で声を荒げるほのかとは反対に球磨川は呑気そうに答える。

 

『なんでって?』

『そんなの、僕は壬生先輩の味方をするって決めたからに決まってるでしょ。』

 

「なんで?司波くんや深雪じゃなくて、何でその人の味方をするの?」

 

『うーん』

『何でかって言われたら…』

『僕はいつだって弱い子の味方をするって決めているからかな』

 

「でも!だからって…!あの人達の主張がどんなものか知っているの!?」

 

『知ってるよ』

『でも、その主張の何処が悪いんだい?』

 

「何処って…。だって、この学校には差別に負けずに頑張ってる人もいるんだよ?ちゃんと努力して、結果出してる人だっているの!自分が言いたいことを認めてもらいたいんだったら、努力して実績を出さないと…」

 

 ほのかは必死で球磨川をプラスの道へ矯正しようとする。

 しかし…その球磨川はそんなほのかの言葉を聞いて………

 

『(…やっぱり君はプラスでしかないんだね……)』

 

 心の底からガッカリしていた。

 球磨川は心の何処かで期待していたのかもしれない。

 球磨川を…いや過負荷の価値観を認めてもらうことを。

 しかし、結局相容れることはない。

 ほのかの言葉は正しい。

 だが、それを言う相手が間違っている。

 球磨川は絶対的なマイナスだ。そんな理想論は引くほど聞いてきた。

 結局、マイナスにプラスをかけようとも、絶対的なマイナスにほんの少しのプラスを足そうとも…マイナスがプラスに変わることはない。

 

『……確かにね』

『でもね、ほのかちゃん』

『君はとても残酷なことを言ってるのに気づいていないのかな?』

 

「え?」

 

 ほのかは球磨川の様子の変化に戸惑う。

 球磨川はヘラヘラ笑いながらも…冷徹に、淡々と言う。

 

『そうだね』『君の言ってることは間違ってないよ』

『正しすぎるくらいさ』

『でもね』『その努力とやらは、ほとんどの人がやってるんだよ』

『もちろん、有志同盟…だっけ?その人達だってね』

『でも、その努力が実ることは無かった』

『君にわかるのかな?』『その苦しみが』

 

「わ、私だって!それくらい……」

 

『いいや』『わからないだろうね』

『だから、そんなこと言えるんだ』

『君は気づいていないのかな?』『君が言ったことを要約しちゃえば、負け犬は天才に支配されるしかない存在だって言ってることにね』

 

 球磨川の言葉にほのかは声を荒げる。

 

「私は…そんなこと言ってない!」

 

『言ってるよ』

『それって一生懸命努力しても、努力なんかしなくても成功しなきゃ認めてもらえないってことだよね?』

『どれだけ頑張ったとしても、実績のようなものを出しても、才能の無い人が才能溢れる人を越すことなんて出来ない』

『そんなんじゃあ、成功することなんて出来ないよね』

『結局、才能のない人は才能のある奴に踏み躙られるだけ』

『当然だ。同じように努力したら才能のある奴が勝つに決まってるんだから』

 

「そ…それは…」

 

 ほのかは息を呑む。

 結局のところ、ほのかも才能のあるプラスだ。だからこそ理解できるわけがない。

 必死に努力したところで報われず、結局最後には少しでも才能の上の人間に優に超えられる苦しみを、悔しさを…痛みを……。

 

『君が言っていることはね』

『才能の無い成功出来ない奴は、ただ黙って才能溢れて成功できる人達を下から見ていれば良いっていう』

『森崎くんが言ってたことと同じなんだよ』

 

「私はそんなことを……」

 

 ほのかは思い出す。

 前に森崎と言い争っていたことを。

 あの時は森崎の…才能に鼻をかけた差別的発言に腹が立った。

 だが、彼女もまた森崎と同じ差別する側の人間なのかと、自分に対して疑心暗鬼になってしまう。

 

『一応、もう一度聞くよ』

『努力しても実らなかった人達が、何で叫んじゃいけないんだい?』

『才能や運…そんなものに恵まれなかった人は、恵まれた人をただ羨むことしかしちゃいけないのかな?』

 

「………」

 

 ほのかはヘタリと座り込む。

 彼女の心は、ほとんど折れかけていた。

 自分の常識も何もかも、目の前の男には通じない。

 だが、それでもほのかは必死に食らいつこうとする。

 

「…それなら…魔法じゃなくて別の道を探せばーー」

 

『それは成功した奴の理屈だよ。』

『成功するから…才能があるから…努力への価値観が違うから固執しないんだ』

『才能の無い奴が、必死に努力した時間に固執する理由がわからない』

『いや、もしくは諦めもあるかな?』

『君は才能の無くて成功しないやつは努力しても無駄だから諦めろって言うんだね』

『どちらにせよ、君達みたいな才能のある奴の理屈を才能の無い奴に押し付けるなよ』

 

「だからって……放送室を占拠するのは別だよ」

 

『そうだね。それは愚かだね。』

『それくらい我慢の限界だったってことなんじゃないかな?』

『まぁ、壬生先輩を見ると別の理由もありそうだけど……僕の知ったこっちゃないしね』

『確かに、自分の努力が実らなかったからって外に何かを求めるのは甘いことだ』

『でも、僕はそんな甘くて愚かな人たちの味方なんだよ』

 

「…良いの……?球磨川くんはそれで…。司波くん達にも嫌われちゃうのかもしれないんだよ?」

 

『それはそれで仕方ないね』

『嫌われるのには慣れてるし』

『向こうが勝手に嫌うんだから、僕は悪くない』

 

「………」

 

 もはやほのかの心は完全に折れていた。

 目の前にいるマイナスには自分の言葉なんて通じない。

 自分が信じてきた理想を壊されてしまう。

 自分の世界が破壊されてしまう。塗り替えられてしまう。

 ほのかの中にマイナス思考やネガティヴ思考が流れ出す。自分自身が変えられそうになる恐怖に支配されてしまう。

 でも…ほのかはそれでも話しかける。ここで引けば、球磨川が自分の手に届かない何処かに行ってしまうのではないかと…そんな気がしたからだ。

 

「…なんで球磨川くんはそんな風にいられるの?なんで、友達に嫌われるかもしれないのに、呑気でいられるの?傷つくことが怖くないの?学校のみんなを敵に回すかもしれないのに…なんでそんなに笑っていられるの…?私には…私には無理だよ…」

 

 ほのかの言葉に球磨川は彼女の側を通りながら言う。

 

『受け入れることだよ。』『ほのかちゃん』

『不条理を』『理不尽を』『嘘泣きを』『言い訳を』『いかがわしさを』『インチキを』『堕落を』『混雑を』『偽善を』『偽悪を』『不幸せを』『不都合を』『冤罪を』『流れ弾を』『見苦しさを』『みっともなさを』『風評を』『密告を』『嫉妬を』『格差を』『裏切りを』『虐待を』『巻き添えを』『二次被害を』

 

 

『愛しい恋人のように受け入れることだ』

 

 

『そうすればきっと』

『僕みたいになれるよ』

 

 そう言って球磨川は去って行った。

 ほのかはもはや呼び止める気力すら湧かない。

 彼女はただ黙って、去って行く球磨川の背中を見続けることしか出来なかった。

 

 

 その日の夜、達也と深雪は師匠である九重八雲の元へと向かっていた。

 ある二人の生徒を調べるためである。

 二人が階段を上がると、一人の坊主が座禅を組んでいた。

 坊主は二人に気付くと声をかける。

 

「やあ、こんばんわ。達也くんに、深雪くん」

 

 二人はお辞儀をする。

 

「それにしても見事だね。君達兄妹の霊気は。眩いばかりに輝いて尽きることのない深雪くんの霊気と、一滴も無駄にこぼしていない達也くんの霊気。そして二人をつなぐ……」

 

「先生」

 

 九重の言葉を達也が遮る。

 そして九重は苦笑しながらも謝った。

 

「おっとすまない。これは禁句だったな」

 

「いえ、こちらこそ失礼を」

 

「ところで僕に聞きたいこととは?」

 

「第一高校二年の司甲(つかさきのえ)という生徒について何か知ってらっしゃいませんか?」

 

「風間大尉経緯で藤林のお嬢さんに頼んだ方が早そうだが?」

 

「…叔母がいい顔をしませんので」

 

「なるほど。君達も大変だね。じゃあ僕の知っていることを話そうか」

 

 達也が調べている司甲とは、壬生が所属する剣道部の主将であり、エガリテのメンバーである。

 八雲は顎に手を添え、説明をし始めた。

 

「司甲は旧姓・鴨野甲といい、彼の家は陰陽師の流れを汲む一族、加茂氏の傍系にあたる。目は一種の先祖返りをしていて霊子に敏感だ。少なくとも、達也くんのクラスメイトほどではないけどね」

 

「…………」

 

 その時、達也は美月の姿を思い浮かんでいた。

 

「先生、俺が司甲について調査を依頼することが分かっていたんですか?」

 

「いいや?元から彼のことは知っていたよ。僕は坊主だけど、それ以前に忍だ。縁が結ばれた場所で問題になりそうな人物のことは一通り調べておくことにしているんだよ」

 

「俺達のことも…ですか?」

 

「調べようとしたけどねぇ、そのときは分からなかった。君達に対する情報操作は完璧だ。さすがだね」

 

 二人の間に気まずい空気が流れる。すると、深雪がそれを断ち切るように話を切り出した。

 

「それで先生!司先輩とブランシュの関係は?」

 

「…母親の再婚相手の連れ子。つまり、義理の兄である司一(つかさはじめ)という男が実はブランシュの日本支部リーダーを務めている。表も裏も仕切っている本当のリーダーだよ」

 

「「……!」」

 

 二人は意外な事実に息を呑む。

 

「(…やはり、明日の検討会は用心すべきだな)」

 

 達也がそう考えると次の話題に取り掛かった。

 

「先生、もう一つだけ良いでしょうか?」

 

「…君が警戒している球磨川禊君のことだね?面白いことがわかったよ」

 

「それは一体……?」

 

「実を言うと彼自身に関わる情報はほとんど無くなっていた。…ところで君は箱庭学園っていう学園を知っているかい?」

 

「聞いたことはあります。名前くらいですが」

 

「私は知りません…」

 

「まぁ…随分、前の学校だからね。国立魔法大学の母体の一つの学園だよ。言ってしまえば、特殊な才能を持つ者達を生徒としてかき集め、完全な人間を作り出そうとしたという学園と銘打った研究機関っていったところかな」

 

「…完全な人間ですか」

 

 達也は目を細くしながら聞く。

 この時代では優秀な魔法師を輩出するために遺伝子の操作まで行われている。

 そのことに思うところがあったようだ。

 深雪が尋ねる。

 

「それで、その箱庭学園と球磨川君にどんな関係が?」

 

「随分と巧妙に隠されていたけど、見つかったんだよ。箱庭学園への転入手続きの書類にね、球磨川禊という名前が。しかも、八十六年ほど前の書類だ。残念ながら写真は見つからなかったけど」

 

「…!それはどういうことですか?」

 

 達也が尋ねるも九重は説明を続ける。

 

「さぁね?そして、もう一つ彼のバッグには不知火一族がいるらしい」

 

「不知火?あの炎のエレメンツを司る家系ですか?確か、あそこは…」

 

 達也がそう言うも九重は首を振る。

 

「君の言う不知火一族じゃないよ。実はもう一つあるんだ。古来よりその特殊な能力を利用し、影武者として時の権力の陰に居座り、それによって絶大な権力を持っていたとされる一族…。それが僕の言う不知火一族だよ」

 

「そんな一族が…」

 

 深雪がそう言うと九重は苦笑する。

 

「まぁ…今じゃ全盛期ほどの権力は持っていないからね。知らないのも無理はない」

 

 九重が言い終えると、次に達也が懸念していることを尋ねる。

 

「…球磨川とブランシュには何か関係はありますか?」

 

「お兄様…それは…」

 

 達也が懸念していることは球磨川がブランシュの一員であること。

 もし、そうなれば完全に敵対することになるだろう。

 自分が戦うだけなら別だが、学校そのものすらめちゃくちゃにされてしまう危険性がある。

 しかし、そんな達也の懸念を裏切り、九重は首を振った。

 

「…いや、球磨川君とブランシュの繋がりはない。おそらく何の関係もないだろうね」

 

「…そうですか」

 

 しかし、それでは益々球磨川が生徒会や風紀委員会を敵に回してまで壬生達の味方をする理由がわからない。

 達也には球磨川の行動原理が分からなかった。

 次に九重が神妙な顔つきで口を開く。

 

「これは僕の勘だけどね…。彼には関わらない方が良い。彼は危険だよ。強いや弱い…善や悪といった固定観念とはまた違う…異常なんて枠組みでは計り知れない何かだ」

 

「「………」」

 

 達也達は九重の本気の目に何も言えなくなる。

 そして九重は元の笑顔に戻って言う。

 

「さて、僕から言えることはここまでだ。今日はもう遅い。二人とも気をつけて帰るんだよ」

 

「はい…どうもありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

 達也達は頭を下げて礼を言うと、家へと帰ろうとする。

 達也はその道中、星空を見上げながら考える。

 

「(…球磨川、本当にお前は一体何者なんだ…?)」

 

 思い浮かぶのは螺子を持ってヘラヘラ笑う同級生。

 球磨川の話では達也や深雪達に手を出す気はないと言っていたが油断は出来ない。

 深雪は恐怖なのか不安なのか、達也の手に自分の手をつける。

 

「(深雪…お前だけは絶対に守る……)」

 

 達也はそう決意して、妹の手を優しく握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 こんにちは味噌漬けです。とうとう箱庭学園の名前が出ました。更に不知火の名前も。これからもめだ箱に関わるワードを出していくつもりなので楽しみにしててください。ちなみに球磨川の情報が残されていたのはミスではなくわざとです。安心院さんからしたら、一方的に球磨川を送りつけておいて、未来の人間には球磨川のことはわからないというのはフェアじゃないと考えたため、ほんの少しだけ資料を残しました。まぁそう簡単に見つかるようにはしてませんが。
 今回は読んで頂きありがとうございました。
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