魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
放送室占拠事件から後日の放課後、討論会当日…。
達也は風紀委員として警戒しながらも真由美と同盟の代表者との討論を聞いていた。
「一科生の比率が大きな魔法競技系のクラブは二科生の比率が高い非魔法競技系のクラブより明らかに予算が明らかに多い!これは一科生の優遇が課外活動においてもまかり通っている証です!」
「それは各部の実績を反映した部分が大きいからです。魔法系のクラブであっても全国大会で優秀な成績を収めていれば魔法競技系クラブにも見劣りしない予算が割り当てられています」
しかし、流れは完全に真由美のものだ。当然である。具体性のない意見ばかりの同盟側と具体的な事例に基づき、理路整然と答える真由美とでは説得力がまるで違う。
「…意外ですね」
「…どうした?」
達也の呟きに摩利が反応する。
「壬生先輩がいません。それに、さっきから同盟側は球磨川が言ったことについて話していませんし…何か妙です。」
「確かにな。前の球磨川君の話は悔しいが正論だ。それを持ち出さないのは確かに妙だ。それに、会場には放送室占拠のメンバーが見当たらない」
「つまり、実力行使の部隊が控えているかもしれないということですね。」
「…警戒はしておくべきだろう」
摩利の言葉に達也は頷く。
「そういえば球磨川は?」
「お前も知っているだろうが、彼は自宅謹慎だ。同盟側のメンバーでないことは壬生への聴取でわかっているがな。それでも、彼を参加させるわけにはいかない。討論なんて生優しいものではなくなる」
「…そうですね」
「一応、他に見回りさせている風紀委員には球磨川を見たら私に連絡するように伝えてある。おそらく問題ないだろう」
摩利が心配する通り、球磨川が討論会に参加したらとんでもないことになるだろう。
それこそ学校の秩序そのものが崩壊しかねない。
…そして、討論会は最終局面へと向かった。
「…
真由美の声が体育館に静かに響き渡る。
「学校も生徒会も…禁止している差別的な言葉ですが、残念ながらほとんどの生徒が使用しています」
その言葉に生徒達が騒ぎ出す。
「…しかし、そのような差別の風潮が続いているのは、私達生徒会の責任もあります。」
目を瞑り、胸に手を当て粛々と話す。真由美。
どの生徒も聞き入っていた。
「ある生徒が私に言いました。『この学校の生徒会は差別を正当化しなければ、支持を得ることができない歪んだもの』…だと。私はその言葉に反論することができませんでした。…私自身が薄々感じていたことだからです」
それを聞いた摩利は不思議に思う。
「…真由美、どういうつもりだ?」
摩利の疑問を他所に真由美は話し続ける。
「実際、ブルーム、ウィードと発言しても罰則を受けるケースは少ない。それは私達の不徳と致すところです。ですが、それと同時に二科生もまた己をウィードと蔑み、諦めている…そのような悲しい風潮があることも確かです」
真由美の言葉に観客席から「ふざけるな!」や「それは二科生への責任転嫁だ!!」など声が上がる。
「しかし!その意識の壁が問題なのです!!」
真由美は負けずに言葉を紡ぐ。
「私は生徒会長として、この意識の壁を解消したいと様々な案を考えてきました。しかし、それが表面的なものであってはならない。逆差別を生み出すものでもあってはならないのです!」
真由美の演説に再び聞き入る生徒達。
「一科生も二科生も、当校にとっては一人一人が大切な生徒です。皆さんに有意義な学校生活を送っていただくためにも、私達は根本的な改革をしなければなりません」
生徒達は耳を傾ける。
「そのために…私達は生徒会に根付く悪しき差別的な制度を改革するつもりです。現在の制度では、生徒会長以外の役員は一科生から指名することになっています。この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です」
そして真由美は体育館に響くほどの大きな声で言う。
「私はこの規則を退任時の総会で撤廃することを生徒会長としての最後の仕事とするつもりです。私達、生徒会は差別意識の解消のために声を上げ続けます。勿論、ウィードと蔑むような発言への取り締まりは更に強化していく所存です。今は実現することが難しくとも声を上げ続けることこそが重要。そして…それ以外のことでも、出来る限りの改善策に取り組んでいくつもりです。次の世代に歪んだ生徒会など言わせないような…そんな差別意識のない学校を目指すために!」
真由美がそれを最後にお辞儀する。
すると、会場にいる生徒達から拍手喝采が起きた。
それは討論会の結果を決める瞬間でもある。
同盟のメンバーも納得せざるを得ないのか全員目を瞑り、悔しそうに下を向いていた。
「…さすがだな。真由美」
「そうですね」
達也も摩利も拍手をする。
真由美は球磨川から指摘されたマイナスを受け入れ、プラスへと変換した。
これは生粋のプラスである真由美だからこその芸当だろう。
このまま平和的に終わるかと思ったのも束の間……突如、会場に爆音が鳴り響いた。
「きゃあ!」
「何の音!?」
会場はパニック状態に陥いる。
校舎の窓ガラスは割れ、黒煙が立ちのぼる。
会場がパニックになる中、遂にエガリテの構成員と思わしき生徒達が動き出した。
それに気付いた摩利が通信端末で風紀委員達に命令する。
「総員!取り押さえろ!!」
命令と共に風紀委員達は動き出す。
達也は床に叩き伏せ、他の風紀委員もエガリテの構成員達を押さえ込む。
すると、突然体育館の中に何かが投げ入れられる。すると、それは地面に転がり煙を吹き出し始めた。
「ガス弾!?」
皆が唖然とする中、生徒会副会長である服部刑部がいち早く対応する。
「煙を吸い込まないように!」
彼は魔法を発動し、ガス弾を外へと放り出した。
達也はその手際に感嘆する。
「(気体の収束と移動の魔法か。あの一瞬で煙ごとガス弾を隔離するとは。流石だな)」
安堵したのも束の間、次は武装した集団が侵入してきた。
テロリストは銃を生徒達に向ける。
「好きにさせるか!!」
それに反応した摩利は魔法を発動し、テロリスト達を制圧する。
「(MIDフィールド…。ガスマスク内の密閉空間を窒素で満たしたのか)」
テロリスト達が苦しみながら倒れると、風紀委員達が確保に向かう。
そして、摩利の声が響いた。
「なに!?そっちにも侵入者だと!?」
他の場所にも大量の侵入者が入り込んでおり、既に教師や生徒達との争いが勃発していた。
通信先からは何か爆発音も聞こえる。
「……委員長。自分は爆発のあったと思われる実技棟の方へ向かいます」
「わかった。気をつけろよ」
達也は事態解決のため動き出した。
◇
体育館襲撃のほんの少し前、ほのかと雫は入部したSSボード・バイアスロン部にて活動の準備していた。
ほのかは一見集中しているように見えるも、その顔はどこか顔色が悪い。
まるで何かから逃げているかような没頭ぶりだ。
「…ほのか、大丈夫?」
心配した雫が話しかける。
ほのかは親友に心配かけないよう、元気そうに振る舞う。
「うん!大丈夫だよ」
しかし、彼女の様子が変なことは親友たる雫に見抜けないわけがない。
ほのかは最近ようやく調子が戻ってきたのにも関わらず、再び様子がおかしくなっていた。
雫は何度もはぐらかされたものの、もう我慢できない。
「…球磨川のことで何かあった」
「…!」
球磨川というワードを聞いた瞬間、ほのかの動きが止まる。
その顔は青く染まっていた。
「…やっぱり」
「うん…雫には隠し切れないね。…でも、本当に大丈夫。多分、もう球磨川くんと関わることはないと思うから…」
前日の球磨川との会話でほのかは球磨川との心の距離感の遠さ…価値観の違いを思い知った。
関わってはいけない…そう思わせるには十分なほどに。
「それでいいの?ほのかは」
雫は無表情ながらほのかに言う。
「良いの。球磨川くんだって私みたいな子に付き纏われるのも嫌だろうしさ」
「球磨川のことはどうでもいい。ほのかはどうなの?」
雫はもとより球磨川のことをそこまで快くは思っていない。
しかし、親友が心の中で泣いているのを黙って見過ごす気にはなれない。
「私は……」
ほのかはそこで言い淀む。
そして雫は畳み掛けるように言った。
「…確かに球磨川は危険。でも、ほのかが心の底から笑ったのも球磨川がいたから」
「……」
「球磨川といるほのかは間違いなく楽しそうだった」
「それは…そうだけど…!」
「ほのか達に何かあったのかは知らない。でも、ほのかは球磨川にもっと言いたいことがあると思う」
「私は…球磨川くんと………」
ほのかは雫の言葉に葛藤する。
確かに球磨川は不気味であり最低だ。でも…そんな彼に救われ、楽しく過ごすことができたのも事実なのである。
自分は球磨川とどうしたいのか、どんな関係になりたいのか…。
ほのかは悩み出す。
しかし…そんな乙女が悩んでいる最中、突如轟音が鳴り響いた。
「キャっ!?」
「何があったの?」
轟音と共に強い風が吹く。
部長は周りの部員を落ち着かせるように呼びかけると、通信端末で調べ始めた。
「お、おお落ち着いて聞いてね?今、武装テロリストに襲われているわ!!」
「本当ですか!?」
「こんなこと冗談で言わないわよ!護身のために部活用CADの使用が許可されています。でもあくまで身を守るためだからね。……!?光井さん危ない!!」
「え?」
部長が呼びかけていた時、テロリストと思わしき男がナイフを持って、ほのかの元へと突っ込んでいた。
「(ナイフ…?だ、だめ…足が…動かない。……く、球磨川くん…!!)」
テロリストのナイフが少女の首元に届きそうになる。
しかし…その瞬間、
「ガハッ…!!?」
「(えっ…?)」
螺子のむしろとされたテロリストはそのまま地面へと転がる。
しかし…ほのかの瞬きの間に、その螺子は消えてしまった。
「ほのか大丈夫?」
雫がほのかを心配する。
他の部員達は突然吹き飛ばされたテロリストに困惑を隠しきれない。
そして、ほのかは…
「(もしかして…球磨川くんここにいるの…?)」
思い浮かぶのは、いつだってヘラヘラ笑う男の子。
嫌なはずなのに…関わりたくないと思ったはずなのに……少女の足は勝手に動き始めた。
「球磨川くん!!」
「えっちょっ光井さん!?」
部長が驚く中、ほのかは走り出す。
「……ほのか!」
それを追いかける雫。
「ちょっ……ちょっと二人共まちなさーい!!」
部長の呼びかけるも虚しく、二人は走り出した。
◇
テロリストの制圧に向かった達也と深雪は、その道中、エリカとレオと合流し共に行動していた。
保健室に勤務するカウンセラー、小野遙からテロリストの真の目的は図書館にある魔法科大学の極秘資料と聞いた彼らは図書館へと向かい瞬く間に制圧する。
そして、一人逃げた壬生は待ち構えていたエリカと対決していた。
「(ぐっ!!この娘…強い!!…まさか、名字の千葉って千葉一門のこと…!?)」
壬生は落ちていた脇差しを拾いエリカに打ち込み続ける。
対するエリカもまた警棒型のCADで彼女の攻撃を裁き続けていた。
エリカは剣術の大家…千葉家の娘。壬生にとって相手が悪い。
しかし、エリカはエリカの方で余裕はない。
壬生は純粋に剣道に人生をかけていた。
それから放たれる剣は…それ相応の重みがある。
「攻撃はもう終わりかしら!!」
壬生は連撃し続けるあまり、疲れで動きが鈍ってしまう。
それを見計らい、エリカがCADを起動。
常人では考えられないほどのスピードで突撃した。
「(自己加速術式!?これは渡辺先輩と同じ…!?」
簡単に言えば自身の移動スピードなどを上げる魔法である。
エリカは自身の警棒にスピードと体重を乗せた強烈な剣を壬生に容赦なく打ち込んだ。
「ぐっ!?キャァァ!!」
その威力のある一撃は壬生の刀を弾き飛ばし、胸に強烈な一打を与えた。
それにより、壬生は倒れ込む。
「(結局…剣道は剣術に勝てないの…?あたしの努力は…意味がなかったの…?)」
「…立ちなさい。まだ勝負はついていないわ」
「(あたしは結局………)」
壬生は苦しみながら自身の非力さに苛まれる。
エリカが何か言っているようだが、今の彼女には聞こえない。
「ーーー!?」
エリカが何か言いながら近づいてくる。
しかし、壬生には届かない。
エリカの顔は何か焦っているようにも見える。
その時、突然、倒れていたはずのテロリストが壬生の首を押さえ込んだ。
「え!?な、なんで!!?」
「壬生先輩!!!」
テロリストは壬生の首を腕で締めながら拳銃を突きつける。
テロリストとエリカの間にはそこそこ距離があり、一撃で沈めようとすれば壬生が巻き込まれる可能性もあって、エリカは迂闊に近づけない。
「(…くっ。どうすれば……壬生先輩を助けられるの?)」
「クッ……ハッ……」
首を絞められ、苦しむ表情と共に段々と顔が青くなる壬生。
エリカはその顔を見て、覚悟を決めた。
「(…自己加速して、一瞬で正確にコイツの腕に強烈な一撃を叩き込むしかない……!!)」
エリカはテロリストを注視しながらタイミングを見計らう。
しかし、その瞬間、テロリストの背中に大量の螺子が刺さった。
「ゴホッ!?ガハッ!!?」
「え?」
突然テロリストが血を吐き出して倒れる。
しかし一瞬にして、その傷は消え失せ、そこには気絶するテロリストと咳き込む壬生しかいなかった。
「ど……どういうこと…?」
エリカは突然、起きた出来事に困惑する。
それに対し、壬生は薄くなる意識の中…ある男を思い出していた。
自身をテロリストから助けてくれた螺子を使う後輩を……
「(く…球磨川くん………?)」
壬生はそれを最後に意識を閉ざした。
今回は二話投稿です。
ぶっちゃけ、この話は前座