魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第十七話 混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)

 達也達が打倒ブランシュの計画を立てている頃、球磨川はとある廃工場に訪れていた。

 彼が中に入ると、武器を持つ兵士たちと眼鏡をかけた青年が腕を広げて出迎える。

 

「てっきり司波達也が現れると思っていたが意外だね。ようこそ、僕のアジトへ」

 

『君がここの親玉かい?』

 

「如何にも。僕がブランシュの日本支部リーダー…。司一だ」

 

『そうなんだ!』

『僕の名前は球磨川禊』

『よろしくね!』

 

 武器を構えた兵士に囲まれながらもヘラヘラと笑う球磨川に司一もまた微笑する。

 

「ふっ…この状況でも笑っていられるとはね。余程の自信があるのかな…」

 

 そして司一は球磨川に手を差し出す。

 

「どうだい。君も僕らの仲間にならないか?」

 

『仲間かい?』

 

「ああ。そうだ。君のことは聞いているよ。物体、怪我、あらゆるものを直すことができる魔法。素晴らしい!!何故、君ほどの才能を持つものが二科生(ウィード)などと言われ蔑まならくてはならないのだろう。こちらに来たまえ。僕らなら君の才能を認めてあげられる。僕らと共にこんな差別的な世界を変えようではないか!!」

 

 司一の熱弁に球磨川は目を細め、不気味な笑みを浮かべると、大きな拍手をする。

 

『うん!素晴らしい理念だ』

『僕としてもあんな学校、どうなろうが興味ないし』

『喜んで、君の仲間になるよ』

 

 球磨川の返事に司一が満足そうに頷くと、球磨川が尋ねた。

 

『それで、君達はこれからどうするつもりだい?』

『多分、これから学校側の人達が潰しにここに来るよ。多分、色々わんさか連れてきてさ』

 

 球磨川の言葉に司一は顎に手を当てる。

 

「ふむ。こちらとしても相当な量の兵士と物資を消耗している。迎撃したいところではあるが、君という才能が仲間に入ったんだ。ここは退くのが賢明かな。目的のデータが手に入らなかったのは残念だがね」

 

 司一はここで退くという決断にでる。

 しかし、球磨川はそんな彼の言葉に目を鋭くした。

 

『ふーん』

『それじゃあ、学校に捕まった仲間達はどうするんだい?』

 

 球磨川の言葉に司一はわざとらしく残念がる。

 しかしその顔は僅かながら笑みを浮かべていた。

 

「残念だが仕方ない。革命に犠牲はつきものだ。彼らだって理解してくれるさ。それに、君のような才能ある者とは違って、あのような無才などいても意味がないのだからな」

 

 司一は嘲笑ともいえる笑みを浮かべて言う。

 そして、それを聴いた球磨川は三日月の如く口を歪ませた。

 

『へぇ…』『あぁ…そう…』

『なら、僕は悪くない』

 

「……?」

 

 球磨川の言葉に司一は首を傾げる。

 しかし次の瞬間、顔のすぐ側に何かが過ぎ去っていった。

 

「ぐぼぁっ!?」

 

「な!?」

 

 突然の悲鳴に驚いた司一は振り返る。

 すると、そこには腹や胸に螺子が刺さり、血みどろで倒れた兵士の姿があった。

 

「「貴様!!」」

 

 球磨川の諸行に兵士達の殺気が騒立つ。

 そして、球磨川は螺子を弄び、目を細めながら言った。

 

『…思った通り期待外れだ』

 

「何だと…?」

 

『残念だよ。司一』

『君自身が劣勢でも敵陣にまで突撃して玉砕する…そんなやられ役(マイナス)なら良かった』

『君が本当に弱者のためを思い、魔法という強大な力を前に力も持たずとも戦おうする…そんな愚か者(マイナス)なら良かった』

『君が強者と戦う術を持たない…そんな弱者(マイナス)なら良かった』

 

「…な、何を言っている……?」

 

 球磨川がゆらりと歩き出す。

 彼の豹変に司一達は戸惑うばかりだ。

 

『君がそんなマイナスなら僕だって喜んで味方になっていただろうね』

『でも、違う』

 

 球磨川から過負荷が漏れ出す。

 球磨川から放たれる異様なプレッシャーに司一達は冷や汗をかき、身体を震わせる。

 

『お前はマイナスなんかじゃない。弱者(マイナス)を食い物にして、富や名声(プラス)を得ようとする…ただのエリート(プラス)だ』

『僕はね』『そういう奴が心の底から大嫌いなんだよ』

 

 球磨川の目は先程までのヘラヘラした笑顔からは想像がつかないほど顔を歪ませ、不快感を露わにする。

 彼が思い出すのは、自身の弱さと罪に苦しむ壬生の姿…。

 彼女もまた司一により利用されるだけ利用され捨てられた。

 球磨川はいつでも愚かな弱者の味方。そんな球磨川が弱者を踏み台に成り上がろうとするという…舐め腐ったマイナスへの侮辱を…冒涜を…許すわけがない。

 

「ふっ…なるほど。やはり、仲間になるとは嘘だったか。だが、君は一人で僕達を相手取る気なのか?正義の味方にでもなったつもりか!!」

 

『そんな正義感(プラス)じゃないよ』

『これはただの八つ当たりさ』

『僕は今、とってもムシャクシャしてるんでね』

 

 球磨川は螺子を司一に向ける。

 しかし、彼は螺子を向けられてもなお、余裕な顔をしていた。

 

「……まぁ良い。逆らうのなら、こうすれば良いだけの話なのだからな!!」

 

 司一はそう言うと眼鏡を外し、髪をかき上げて球磨川に向けて大声を出す。

 

「さぁ!我が同士になるが良い!!」

 

『……うっ!?』

 

 その時、司一から放たれた怪しげな信号が球磨川を包み込む。

 意識干渉型系統外魔法【邪眼(イビルアイ)】…催眠効果のあるパターンの光信号を相手の網膜に投写する光波振動系魔法。言ってしまえば、催眠術である。

 この魔法により壬生達は洗脳された。

 その魔法を受けた球磨川は螺子を手放し、力が抜けたかのように首が下に傾く。

 そんな球磨川の姿を見た司一は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

『………』

 

「ふはは!第一校の生徒といえども僕の催眠に逃れられるわけがない!!」

 

 司一はそう言って高笑いする。

 球磨川も目が虚になり、生気がなくなっている。

 

「さて…まずは……」

 

 司一は何か球磨川に命令を下そうとする…しかし、その瞬間、彼の肩に何かがめり込んだ。

 

「……は?」

 

 司一は肩の鈍い痛みに目を向ける。

 すると、そこには螺子が刺さり、血が流れる自身の肩が映った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 筋肉が螺子切れ、神経が壊される。

 螺子はナイフと違い、その螺旋状の溝により複雑な形状となっている。

 そんなものが回転して身体に螺子込まれれば、ナイフや銃弾よりも、より複雑に身体を破壊するだろう。

 その激痛に耐えきれず、司一は悲鳴を上げた。

 

「(な、何故だ…。こいつはさっきまで螺子すら持っていなかった…。投げる素振りも見せなかった…。なのに…なのに、なんで僕の肩に螺子が刺さるんだ…!!そもそもーー)」

 

司一は肩を押さえながら、必死に声を上げる。

 

「何故だ!!貴様には僕の魔法が効いていないのか!!?」

 

 歯を食いしばり、目を血走らせながら吠える司一に球磨川は先程の虚な表情から一転、狂気的な笑みを浮かべる。

 

『いや、効いてるよ』

『君のスキル…いや魔法は恐ろしいものだ』

『君の能力なら女の子のパンツだって見放題だろうね』

『今の僕には君が百年くらい連れ添った仲間にすら見えるぜ』

 

 洗脳という凶悪な能力の残念な使い方を嬉々として語る球磨川。

 司一は球磨川のふざけた答えに歯軋りして声を荒げる。

 

「ふざけるな!!ならば何故、貴様は僕に攻撃できる!!?」

 

 球磨川は司一の質問に対し、人差し指を立てて答える。

 

『確かに君の能力は素晴らしい』

『でも、それには重大な弱点がある』

 

 そして球磨川は続ける。

 

『それは、洗脳であって操作ではないってことだ』

『誘導は出来ても強制はできない』

 

 これが須木奈佐木(すきなさき)(さき)操作令状(エラーメッセージプレート)のような、ほぼ強制的に操作する能力なら別だっただろう。

 しかし催眠術は思い込ませることは出来ても、完全に支配するわけではない。

 まぁ…司一の洗脳をまともに喰らえば、普通は抗えるようなものではないのだが…。

 しかし、球磨川は普通ではない。

 そして彼は螺子を携えて言う。

 

『僕は「僕」の操縦が苦手でね』

『ちゃんと動かせた試しがない』

『誘導された方向とは別の方へ行ったり…』

『好きな女の子の顔の皮を剥がしたり…』

 

「な…何を言っている…?皮…?」

 

 球磨川の猟奇的な言葉に司一は顔を青くする。

 

『そして…』

『今の君のような(うい)しくて(あい)らしくて(いと)しい人は……』

 

 球磨川は顔を影の如く暗くし、三日月のような笑みを浮かべて言う。

 

『とっても……(台無しに)したくなっちゃうんだ…』

 

「ヒッ……」

 

 洗脳のせいなのかタガの外れた球磨川の言葉に司一は顔を更に蒼白させ、身を震わせる。

 

「(…な、何なんだコイツは…!?く…くく…狂ってる…!!!)」

 

 数多くの人間を洗脳し、利用しては捨ててきた外道の司一をして「狂っている」と言わしめる存在…。

 それこそが【混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)】…球磨川禊。

 もはや、恐怖によって逆に心が支配された司一は恐怖から逃れようと大声で叫んだ。

 

「お前ら!何をやっている!!アンティナイトを使え!!コイツを殺せぇぇぇぇぇ!!!」

 

「「「!!!」」」

 

 球磨川から放たれる過負荷に圧倒されていた兵士達は司一の号令に我に返る。

 一部の兵士がポケットの中から何やら石のようなものを取り出して球磨川に向けてかざした。

 すると、鉱石が輝きだす。

 

『…何だい?』『それ?』

 

「これはアンティナイトという魔法を封じる鉱石だ!!これで魔法は使えまい!!」

 

 司一は勝ちを確信した余裕か、アドレナリンのせいなのか肩を押さえるのを止めて笑みを浮かべる。

 そして、兵士達は球磨川に向けて銃を乱射した。

 

『………!!』

 

 ズガガガァン!!!と銃声が響き渡る。 

 マズルフラッシュが薄暗い部屋の内を照らし出す。

 球磨川は悲鳴も上げる暇もなく、銃から放たれる無数の銃弾によって蹂躙される。

 そして…火薬の匂いと血の鉄の匂いが広がり…煙が払われると、そこには血塗れでもはや顔の原型も留めず、グチャグチャにされた球磨川の死体だけが残されていた。

 司一は警戒しながら確認しようと、少しだけ前に出る。

 そして、見るも無惨な状態となった球磨川の姿に…司一は安心したのか安堵の息を吐いた。

 

「はぁ…。は…ははは…。貴様如きが僕に逆らうから悪いんだ…。死ねば、せっかくの回復魔法も意味はあるまい!!ふはははは!はははははははは!!!!」

 

 司一は額に手を当て高笑いする。

 それは自身を縛り付けていた何かから解放されたかのような喜びだった。

 しかし……

 

『へー』『何をそんなに笑っているんだい?』

『僕にも教えてほしいな』

 

「ははははははは……は?」

 

 司一の耳に入る最低な声。

 見るとそこには…無惨な死体ではなく元気にヘラヘラと笑う球磨川禊の姿があった。

 

「な、何故…何で死んでいない!!?」

 

『いいや』『死んだよ。君達が殺したんじゃないか』

『痛みとか感じる暇もないくらい瞬殺だったぜ』

 

 球磨川はそう言って、ヘラヘラ笑いながら司一の元へ近づく。

 司一は怯え、無意識に後ろに下がりながら声を上げた。

 

「な…なら、もう一度やれば…!お前ら!!もっとやってしまえ!!」

 

 しかし、何も反応がない。

 

「な、何で撃たないんだ?撃てよ!撃て!!」

 

 それでも反応がない。

 流石に不審に思ったのか、司一は後ろを振り向く。

 するとそこには……

 

「なっ…」

 

 螺子を打ち込まれ、血塗れになりながら床や壁に磔にされた…哀れで無惨な兵士達の姿があった。

 あまりにも衝撃的な光景に言葉を失う。

 

『ごめんね』『とっくに螺子伏せたよ』

『で、君はこの人たちに何をさせたかったんだい?』

 

「(な、何なんだコイツは…!一体何をしたんだ…!!?)」

 

 もはや司一は訳がわからなくなっている。

 球磨川は螺子を投げた素振りを見せない。

 それなのに十何人もの兵士達が一瞬で磔にされた…。

 まるで時間そのものが飛ばされたかのように。

 

「き、貴様はな、何をしたんだ!?貴様の魔法は回復系の魔法ではないのか!!?」

 

 そうであって欲しい…そのような願望(プラス)を込めて司一は吠える。

 しかし、当の球磨川は落胆したかのように肩を落とした。

 

『はぁ』『だから君はプラスなんだよ』

『さっき才能とかいってたけどさ」

『回復魔法みたいな才能(プラス)が』

『僕のような過負荷(ねじれ)にあるわけがないだろう』

 

 そして球磨川は続ける。

 

『僕はただ君達の頑張りを』

『僕が君達に殺されたという事実を』

『僕が君達に攻撃した時間を』

()()()()()()()()()だけさ』

 

「な、なかったことにした?何を言っている!!?」

 

 そして球磨川は彼に手を伸ばす。

 

現実(すべて)虚構(なかったこと)にする』

『それが僕の過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)だ』

 

 あまりにも理不尽すぎる能力…。

 それを聞いた司一は唖然とする。

 

「すべてを…なかったことにする?そんな出鱈目な力…あるわけがない!!」

 

 それはあり得ないというより…嘘であってほしいという願望(マイナス)が感じられる言葉だった。

 

『ふぅん』『なら、証拠を見せようか』

『大嘘憑き』

 

「は?」

 

 球磨川はそう言って螺子を地面に突き刺す。

 すると、司一の着けていた腕輪型のCADが跡形もなく消え去った。

 

「な、ない!僕のCADが!!?」

 

 混乱する司一。

 それを見た球磨川は愉快そうに笑顔を浮かべる。

 

『君のCADを無かったことにした』

『それを使って洗脳していたんだろう?』

『反魔法団体のトップが魔法に頼りきりなんて格好つかないぜ』

『良かったね』『これで堂々と反魔法を主張できる』

 

「ヒッ…ヒェ……」

 

 もはや怯えることしかできない。

 

『それじゃあ、次は何を無かったことにしようかな。そうだ。君の眼球なんて良いのかもしれないね』

 

 球磨川がそう言うと彼は恐怖のあまり、転びながら…無様に奥の部屋へと逃げた。

 

『おいおい待てよ』

 

 球磨川も続けて入ると、そこには拳銃を構える司一がいた。

 

『今更、拳銃なんかで僕を倒せるなんて思っているのかい?』

 

 司一はカタカタ震えながら言う。

 

「う、うるさい!ぼ、僕は信じないぞ!!そんな神のような能力(ちから)!!」

 

『神とは大袈裟だね』

『そんな良いもんじゃないって言ってるでしょ』

 

「死ねぇ!!」

 

 司一はそう言って球磨川の額を撃ち抜く。

 球磨川は後頭部から脳漿を噴き出しながら倒れ込む。

 しかし、直ぐに何もなかったかのように歩き出す。

 

「な、何で死なない…!!何で何で何で!!!」

 

 司一は錯乱しながら撃ちまくる。

 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ…。

 もはや子供のように駄々をこねるかのように撃ち続ける。

 ただひたすら撃ち続ける。

 しかし…

 

『全く、いい加減にしてよね』

『僕だって死ぬことだけは嫌なんだ』

 

 球磨川は近づいて来る。

 何事もなかったかのように…

 弾が切れたのか、それとも無かったことにされたのか、拳銃からは弾丸は無くなっていた。

 もはや頼る武器の無い司一は怯えながらへたり込む。

 

「ひっ…ヒッ…わ、わかった。第一校にはもう手を出さないから!ブランシュだって解散する!!だから…い、いの…命だけは助けて…。ぼ…僕が悪かったから…!!」

 

『そうだね』『どれもこれも、君が悪い』

『だから』

『僕が君に何もやったって、何も文句ないよね?』

 

 司一は目の前にいる怪物の放つ過負荷…その恐怖により命乞いしかすることが出来なかった。

 しかし、球磨川禊には届かない。

 彼はヘラヘラと笑い、無情に宣告する。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

『僕は悪くない』

 

 先程とは比べ物にならないほどの悲鳴を上げる司一。

 しかし、その悲鳴も虚しいことに無視され、球磨川は笑顔で近づく。

 司一の視界に映ったのは自身を取り囲む無数の螺子…

 そして、眼前に螺子の先端が映ったのを最後に…彼の意識は消え去った。




球磨川先輩が洗脳されてたか否か…それは読者の皆様の判断に任せます。

今回は読んで頂きありがとうございました。
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