魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第十八話 『また勝てなかった』

 球磨川が仕掛けた螺子を一箇所だけ破壊した達也たち一行は、他の螺子を七草会長達に任せて車に乗り込み、急いで廃工場へと向かっていた。

 

「そろそろ着くぞ。あれがアジトだ」

 

 少し時間が経つと、十文字が運転しながら言う。

 門を通過し、アジトへと着いた達也たちは全員が車から降りた。

 そして、達也が眉間に皺を寄せて言う。

 

「…何か妙です」

 

「…どうした?」

 

 達也の言葉に十文字が反応する。

 

「あまりにも静か過ぎます。それに…先ほども門が開いていました。待ち構えているとしても、流石におかしいでしょう」

 

「…確かにな」

 

 次にレオが言う。

 

「なぁ…やっぱり逃げたんじゃないか?」

 

「分からない。だが、警戒はしておくべきだな」

 

 達也は顎に手を当てて呟く。

 

「何か…あったようだな。お前たちは待っていたほうが良い」

 

 十文字はほのか達、女性陣に向けて言う。

 しかし、彼女達は首を振った。

 彼女達の決心した目に十文字はため息をつく。

 

「わかった。だが、危険だと判断したらすぐに逃げることだ。何よりも命を最優先にしろ」

 

「「「はい」」」

 

 全員の準備が終わったところで彼らは工場への入口へと向かう。

 そして、少し歩くと入口への扉の前に着いた。

 

「開けるぞ」

 

 十文字が率先して、扉を開ける。

 すると…

 

「……な…なんだこれは……!?」

 

 十文字は目に入った光景に言葉を失った。

 

「どうしました?十文字会頭?……なっ!?」

 

 達也もまた言葉を失う。

 

「……!お前達は来るな!!」

 

 達也は後ろを向いて叫ぶも、もう遅い。

 

「ヒッ……!」

 

 彼らの目に映ったのは、武器を携えたテロリストではなく、テロリスト達が無数の螺子によって貫かれ、磔にされている…血に塗れた惨たらしい光景であった。

 

「うっ…オエッ…」

 

「な、なんですか…これ…?」

 

「……………」

 

 エリカはあまりに凄惨な光景に吐き気を催してしまう。

 ほのかや雫も顔を青くしていた。

 それもそうだろう。いくら、名門の学校に通っているとしても、所詮は一高校生。こんな状況に精神をやられない方が異常なのだ。

 

「…お兄様」

 

「……これは…」

 

 達也と深雪はこんな異常な状況の中、できる限り冷静さを保ち、分析をしようとしていた。

 そして二人は見覚えのある螺子から一人の男が思い浮かぶ。

 

「…まさか、仲間割れでもしたってのか…?」

 

 桐原が口に手を当てながら呟く。

 彼の言葉に達也が「違う」と指摘しようとした時、奥の方から声が聞こえた。

 

『いや、仲間割れじゃこうはならないね』

  

 この惨状には似つかわしくない陽気な声が響く。しかし、達也たちにはその声が酷く陰惨なものにしか聞こえなかった。

 

『テロリスト達、全員が同じように串刺しにされている』『仲間割れだろうと、みんな同じ武器で、同じタイミングで刺し殺すなんて不可能だ』

『これは明らかに第三者の仕業に違いない』

『一体どういう目的があって、こんな面白半分の惨状を演出したのかはさっぱりわからないけれどーー』

 

 奥の方から男が現れる。白い制服が血によって染まり、片手に螺子、もう片手に螺子山にされた司一を引きずりながら……

 レオはそれを見て、目を見開きながら言う。

 

「お前は…まさか…!?」

 

 達也は唇を噛み締める。自分の予想通りだったことと、こんな惨劇を生み出したのが一人の生徒であることに戦慄しながら…。

 

『おおっと!』『勘違いしないでおくれ』

『僕が来た時には、もうこうなっていたんだよ』

 

 男は螺子の筵と化していた司一だった肉塊を雑に投げ捨てる。

 それは身体だけに留まらず、眼球や額、あらゆる部位に螺子が刺さった無惨な姿と化していた。

 もはやあの端正な顔は見る影もない。

 ほのかは死体の潰れた顔が視界に入り、「ヒッ!?」と悲鳴を上げる。

 

『だから』

 

 

『僕は悪くない』

 

 空気が過負荷(マイナス)に汚染されていく。

 身体中にヘドロがまとわりつくように…。

 誰もがその空気に圧倒され、身を震わせ、顔を青白くし、まともに声が出ない中、達也だけが必死に声を振り絞った…。

 

「球磨川……禊……!」

 

『やぁ!久しぶりだね!達也ちゃん…』

 

 

 

 

『僕だよ』

 

 

『あれ?』『さっき会ったばっかだっけ?』

『まぁ、どうでもいいか』

 

 球磨川は血に塗れながらヘラヘラと笑う。

 達也は眉間にシワを寄せながら話しかけた。

 

「……球磨川…ここで何をしている?」

 

『君達こそ、なんでここに?』

『みんなでカラオケにでも行くつもりだったのかな?』

『それなら、僕も連れてってよ!』

 

 球磨川は下校中に偶々出会った友人のように振る舞う。

 その姿は人懐っこい友達のようであった……。血まみれの姿でなければ………

 

「う…嘘だよね…?こんなことしてないよね?ひ、ひ…人殺しなんて……」

 

 ほのかは顔を蒼白させ、身体を震わせながら言う。

 彼女は信じたくなかった。自分を助けてくれた存在が大量殺人を犯すなど……。

 しかし、その願いは容易く打ち砕かれる。

 

『人殺し?』『酷いなぁ…ほのかちゃんは』

『人を犯罪者みたいに言うなよ』

『僕はただ螺子伏せただけさ』

『彼らの夢を』『志を』『希望をね』

 

「…………!!!」

 

 その言葉にほのかはようやく現実を突きつけられる。

 ほのかの耳には「自分がやった」としか聞こえなかった。

 彼女はショックのあまり口を閉ざす。

 

「球磨川、そこで大人しくしてもらうぞ」

 

 達也は球磨川を睨みながらCADを向ける。

 

『あれ?』

『なんでそんなの向けるんだい?』

『僕、何か悪いことしたかなぁ…?』

 

 白々しく言う球磨川に達也は冷徹に答える。

 

「……この惨状を見て、よくそんなことが言えるな」

 

 球磨川の周りはまさしく死屍累々…。

 目を開け、助けを求めるが如く手を伸ばして死んだ者。絶望した表情のまま磔にされた者。顔すらも潰されて原型も留めずに殺された者が散在する…血と糞尿の臭いが撒き散らされる地獄絵図…。

 そんな地獄の中でさえ、球磨川はヘラヘラと笑った。

 その笑みに達也達は不気味に思う。

 

『だ〜か〜ら』

『僕は悪くないって』『それに惨状って何のことだい?』

 

「なんだと?実際に死体がそこに……!?」

 

 球磨川は手を振ると、一瞬にして螺子も血も傷も戦いの全ての痕跡が消えて無くなる。

 ただの骸だったテロリスト達は怪我も何もなくなり、スヤスヤと気絶していた。

 達也は血に汚れる球磨川の制服が元に戻る瞬間を見て目を見開いく。

 

「…何度も見ているが、一体何をした?回復魔法…ではないだろう?」

 

 達也の疑問に球磨川は人差し指を立てて答える。

 

『Exactly』『流石、達也ちゃん。良いところついてるぜ』

『そうだね』『そろそろネタバラシといこうか』

 

 そして球磨川は続ける。

 

『これが僕の過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)だよ』

現実(すべて)虚構(なかったこと)にする、この世で最も取り返しのつかないスキルさ』

 

「……そんな魔法が…」

 

「な、なによそれ…信じられない…」

 

『おおっと!』『そんな魔法(プラス)と一緒にされても困るよ』

『そんな良いものじゃないからね』

 

 レオとエリカは大嘘憑きに慄く。

 その危険性に顔を青くしていた。

 それとは対照的に達也は冷静だった。

 

『あれ?意外に冷静だね』

『もっと驚くと思ったけど』

 

 球磨川の言葉に達也が答える。

 

「…むしろ、これで合点がいった。森崎の時の自傷も、放送室の時もそれで無かったことにしたってことか」

 

『ふーん』

『そう言えるなんて、君も意外に過負荷(こっち)側だったりするのかな』

 

「そんなこと…どうでも良いよ……」

 

 球磨川の呑気な声にほのかが口を挟む。

 その声には明らかに戸惑い…そして悲しみがあった。

 

「ほのか…?」

 

 雫はほのかの変化に戸惑う。

 しかし、ほのかは雫をスルーして球磨川に向けて言った。

 

「何で…こんなことできるの?無かったことに出来る?無かったことにしたからって球磨川くんが殺した事実は変わらないんだよ……?」

 

『何言ってるんだい?』

『僕は殺してないって言ってるでしょ』

『まぁ、もし本当に僕が殺したとしても』

()()()()()()()()()()()()()()()にしてるんだから、僕は結局殺してない』

『だから、僕は悪くない』

 

「だからって……。球磨川くんはいつだってそうだよ。一人でどこかにいっちゃって…平気で人を傷つけて…。なんでそんな簡単に傷つけられるの…?球磨川くんだって…危険だったのかもしれないんだよ?」

 

「ほのか……」

 

 ほのかはへたり込み、泣き崩れながら言う。

 雫はそんな彼女を背中をさする。

 

『…大嘘憑きがあるしね』

『もし僕が死んでも、人を殺しても無かったことにできるんだから大丈夫だよ』

 

「……!!」

 

 球磨川の回答に、ほのかは慟哭する。

 

「球磨川くんは…人の命を…人生を!なんだと思ってるの!?」

 

 悲しい叫び…。それはほのかが誰よりも球磨川を心配してたが故の言葉だった。

 そして…彼女自身が球磨川を止めることができず、見放そうとした罪悪感もあるのかもしれない。

 そんな心からの叫びに対し、球磨川は…

 

『別にどうとも思ってないけど』

 

「……え?」

 

 あっさりと答えた。

 

『あー』『もしかして、君って人生に何か意味とか目的とかあると思ってる性質(たち)かい?』

『全く、的外れも良いところだよ』

『そんなのは創作物(フィクション)にしか存在しないんだぜ?』

 

 そして球磨川は続ける。

 

『だって、人は無意味に生まれて』

『無関係に生きて』

『無価値に死ぬに決まってるんだから…』

『だから命の価値とか、人生の意味とか…そんなのは考えるだけ無駄なのさ』 

 

「「「……………」」」

 

 球磨川の言葉に皆は言葉を失う。

 ほとんど同年代だというのに……球磨川はどんな人生を送れば、こんな冷え切った虚無的な人生観になるのか…。

 強さとか弱さとか、性格が良いや悪いなどではない。もはや生きる世界が違う。

 

『それにこいつらはテロリストだぜ?』

『正直、殺されたって文句言えないやつらだよね』

 

「だから…何をしても良いって言うの?」

 

 ほのかの言葉に球磨川が答える。

 

『おいおい』

『こいつらは学校を破壊して、壬生先輩達を洗脳するっていう酷いことをしたんだよ?』

『それならこっちだって酷いことしても良いよね』

『「目には目を、歯には歯を」ってやつさ』

 

「…………」

 

 ほのかはもう何も言えなくなる。

 確かに犯罪者に容赦をするべきではない。それは彼女にだってわかっている。だが、無かったことにできるからって何でもしていいかと言えば別の話だ。

 そして球磨川は自ら乗り込んで殺戮を犯した。しかも磔にし、顔を潰すという猟奇的な殺し方をしている。さらに、それに対して何も感じていない。

 球磨川はブランシュなど霞むレベルの異常者…ほのかにはそうとしか思えなかった。

 その事実に力が抜ける。

 そんな後輩を守るかのように十文字が前に立った。

 

「それで…これからお前はどうするつもりだ?何を企んでいる?」

 

 十文字に対し、球磨川はヘラヘラと笑う。

 そして彼は達也達に向けて歩きだした。

 

『企んでなんかいませんよ』

『うーん』『これからどうするか?…か』

『そうだ!』『皆こうして集まったわけだしさ』

『これから、お茶でもしに行こうよ』

『前にほのかちゃんに連れていってもらったお店とかどうかな?』

『迷惑かけちゃったみたいだしね。今日は僕が奢るよ』

 

 ゆらりと過負荷を放ち、大きく腕を広げて、明るく振る舞いながら歩いて近づいてくる。

 あのような惨劇を生み出し、皆の心を折ってもなお何事もなかったかのように遊びに誘える神経が彼らには理解出来なかった。

 球磨川の朗らかな笑みが今はいっそう恐ろしい。

 放たれる過負荷に空気が…視界が螺子曲がる。

 全てを消してしまう力…そして球磨川の狂った精神性。

 ほのかにはもはや彼が核兵器のような自分も周りも消しとばす危険物にしか見えない。

 そして、その恐怖に……彼女の精神はとうとう限界を迎えた。

 

「…い…いや…」

 

 ほのかはもう球磨川の過負荷に耐えきれない。

 足がすくみ、震えだす。

 次の言葉は精一杯の防衛本能だったのかもしれない。

 

「こ、来ないで!!」

 

 恐怖のあまり思わず出てしまった拒絶の言葉……。

 それを聞いた球磨川は立ち止まる。

 

「……あっ」

 

 ほのかは自分が言ってしまったことに気がつくと、慌て出す。

 

「ち、違うの…!球磨川くん…これは……」

 

 誤魔化そうとしてももう遅い。

 しかし…球磨川は……今までで一番の優しい笑みを浮かべていた。

 

『……そう、それで良いんだよ。ほのかちゃん』

『………君達みたいな幸せ者(プラス)に…僕みたいな不幸者(マイナス)は似合わない』

 

「え……?」

 

 最後の方は小声だったため、ほのかは聞き取ることが出来なかった。

 球磨川はほのか…そして他の皆の横を通り、工場から出て行く。

 ほのかが最後に見たのは張り付いたような笑みの…その奥に見える球磨川の哀しげで寂しげな瞳だった。

 

 

 その日の夜…壬生は洗脳の影響の検査とエリカとの戦いで負った傷の治療のために入院していた。

 

「………」

 

 彼女は今、本を読んでいる。

 錯乱からだいぶ落ち着いたらしい。

 その時、病室のドアが開いた。

 

『やぁ』『壬生先輩』

『お見舞いにきたよ』

 

「…球磨川くん……」

 

 病室に球磨川が入ってきた。

 

『それでどうだい?』

『体調の方は?』

 

「うん。大丈夫。洗脳のせいかな…まだ頭が重いけど怪我も治りそうだし、五月中には退院できると思う」

 

『そう?それなら良かった』

 

 球磨川がそう言うと部屋に静寂が訪れる。

 壬生は前とは違い、落ち着いて球磨川と話すことができるようになっていた。

 そして、壬生が口を開く。

 

「……何か話があるんでしょ?」

 

 壬生の言葉に球磨川は額に手を当ててヘラヘラ笑う。

 

『そうだね』『まぁ…そんな重い話でもないさ』

『一応、保健室でのお誘いの返事を聞こうと思ってね』

 

 保健室にて球磨川が壬生に友達にならないかと誘った件である。

 摩利や他の人の介入により、返事を聞くことができなかった。

 

「………」

 

 壬生はしばらく俯く。

 そして、頭を上げると毅然とした表情で口を開いた。

 

「ごめんなさい。断らせてもらうわ」

 

『…一応、理由を聞いても良いかい?」

 

 球磨川の質問に壬生は静かに語る。

 

「…あたしは…ずっと嫉妬してた……。渡辺先輩や桐原くん…。どれだけ努力を積み重ねても結局、剣道じゃ剣術には勝てない…。魔法の才能がなきゃ勝てない現実が嫌いだった」

 

 壬生は話し続ける。

 

「だから…あたしはこんな現実が嫌で、魔法自体を否定しようとした。差別とか…正義とか…元からどうでも良かったんだと思う。ただ、この悔しさから逃げたかっただけ。洗脳なんて無くても…あたしは多分、同じようにしてた」

 

『………』

 

「君や司波くん…そして、今回の件でようやく気がついたの。あたしはただ逃げていただけだって。自分の気持ちからね……。あたしはもう自分の気持ちを誤魔化したくない」

 

 そして壬生は天井を見上げて言う。

 

「あたしは勝ちたい。自分の努力で…非魔法(剣道)魔法(剣術)を超えられることを証明するために……!」

 

 壬生はそして覚悟を込めた目で球磨川を見る。

 

「あたしは絶対に逃げないわ。自分の罪からも気持ちからも…!だからごめんなさい。君の誘いには乗れないの」

 

 壬生がそう言うと、球磨川は静かに言う。

 

『……結局、前と変わらないじゃないか』

 

 球磨川の言葉に壬生は自嘲する。

 

「そうね。変わらないわ。でも、人生ってそんなものだと、あたしは思うわよ」

 

『でも、わかっているのかい?』

『君が選ぶ道は茨の道なんてものじゃないぜ』

『ある人外(ひと)が言ってたんだよ』

『「世の中は能力がある奴が勝つ」ってね。僕もそれが真理だと思う』

『はっきり言って、君がやろうとしてることは無謀でしかない』

『君がそんな無茶をする必要はないんじゃないかなぁ?』

 

 球磨川は優しく…壬生の身を案じるかのように諭す。

 それが過負荷(マイナス)へと導く誘いであると気づかれないように。

 そうして…壬生の決意を…覚悟を解し…心を折って、楽で最低な道へと引き摺り込もうとする。

 

「そんなの関係ないわ。あたしがやる…そう決めたから目指すの」

 

 しかし、壬生は球磨川の甘い誘惑を拒絶する。

 

「それにあたしは一人じゃない。桐原くんのように…あたしの本当の剣を知っている人がいる…それだけでも頑張れるわ。それに……」

 

 壬生は桐原の言葉を聞いていたのだろうか…。微笑みながら言う。

 そして壬生は真っ直ぐ球磨川の目を見た。

 

「君が証明してくれたのよ。魔法なんかなくたって、魔法師と戦えるってことを…。戦わない理由にはならないってことを…ね…」

 

 それは球磨川にとって意外な言葉だった。

 まさか自分を引き合いに出されるとは思いもしなかったからだ。

 そんな壬生の言葉に彼は笑いだした。

 

『ぷっ…あはは!一本取られたよ』

『僕は君を過小評価し過ぎてたみたいだ』

『君は…自分の弱さを押し殺す弱者じゃない。自分の弱さを受け入れて、前に進むことのできるプラスだ!』

 

「ふふっ!何それ」

 

 球磨川につられて壬生は笑う。

 その時、丁度病室の扉が開いた。

 

「…すまん。壬生…こんな時間に…。………っ!?」

 

 入ってきたのは桐原だった。

 最初は気まずそうな顔でいるも、一瞬で驚愕の表情となる。

 彼の目に入ったのは球磨川によって胸に螺子を突き刺された壬生の姿だった。

 

「球磨川ァァァ!!!」

 

『……!』

 

 そして桐原は怒りの形相となると、球磨川を殴り飛ばして、螺子が突き刺さった壬生の元へ急ぐ。

 

「大丈夫か!?壬生!……壬生!!!」

 

 ぐったりしている壬生…。それを見た桐原はさらに顔を赤くする。

 

「球磨川…テメェ…!!」

 

 桐原は球磨川を鋭く睨みつける。

 しかし、ナースコールのボタンが目に入ると、少しだけ冷静さを取り戻した。

 

「くっそ…まずは医者を呼ばねぇと…!その前に応急処置か……!?」

 

 しかし冷静さを取り戻しても、焦っていることには変わらない。

 あたふたしていると桐原の背中を誰かが抱きついた。

 

「落ち着いて!桐原くん!!」

 

「落ち着いていられるか!だって…壬生が…。壬生…?」

 

 そう桐原を止めたのは壬生だった。

 螺子もなくなり、顔色も良くなっている。

 

「な…なんで…?だって、螺子が……」

 

 桐原は目の前の光景に困惑する。

 そして、それは壬生も同じだった。

 

「うん…。でも、逆に調子が良いわ。頭痛もなくなったし!怪我も痛くない!」

 

 壬生が元気そうに言うと、桐原は安堵の息を吐く。

 そして、その後ろで桐原に殴り飛ばされた球磨川が立ち上がった。

 

『…壬生先輩の洗脳と怪我を無かったことにしました』

『これで明日から元気に学校に通えるはずです』

『桐原先輩、彼女のことを大切にしてくださいね』

 

「球磨川くん…」

 

「球磨川…お前……」

 

 桐原は複雑そうな目で球磨川を見るも、球磨川は無視して荒れた病室を大嘘憑きで元通りにすると静かに出て行った。

 そして彼は病室の廊下を歩き、外へと出る。

 

『………』

 

 球磨川にとって第一校が変わろうが、変わるまいがどうでも良かった。

 ブランシュだって潰したのは、ただ気に食わないからである。今では記憶にすらない。

 球磨川が欲しかったのは仲間。元の時代と同じように共に堕ちる過負荷(マイナス)の仲間が欲しかった。

 だから壬生を助け、生徒会に喧嘩を売ってまで彼女を過負荷へと堕とそうとした。

 しかし、それは失敗に終わる。彼女自身の強い決意によって…。

 それはつまり…

 

『…また勝てなかった………』

 

 球磨川の呟きが空虚に消えた。彼の姿も闇夜へと溶け込む。

 

 

 

 次の日、球磨川は学校からその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。当初のプロローグに突入しました。後、数話書いたら入学編は終了です。
この後、球磨川先輩はどうなるのでしょうか?ほのかはこのまま球磨川を拒否したままで良いのでしょうか?この二人がこの先どうなるか楽しみにしててください。
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