魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
ブランシュによる騒動が解決してから一週間が過ぎた。
学校はまだ完全に直っていないものの、何事も無かったかのように生徒達は登校している。
壬生達は洗脳されていたとしてお咎めは無しとなった。
問題視されていた差別意識も、生徒会と風紀委員会の働きかけにより、学科システム自体の見直しやウィードやブルームといった差別的発言の取り締まりの強化などによって薄まりつつある。さらに、差別意識のキッカケだった制服に関しても、デザインの統一を検討する旨を学校側へ提出するとのことだ。
この時点で壬生達の活動は決して無駄では無かっただろう。
しかし、
「……そ…その…く、球磨川くんは……?」
昼休み、ほのかはE組の教室の近くの廊下に足を運んでいた。
しかし、その足取りは重い。顔色も少し悪い。
彼女はたまたまいたエリカと話している。
「…彼なら今日もいないわよ」
球磨川という言葉が出た瞬間、教室や廊下にいる生徒達は一斉に目を逸らした。
そう…球磨川はここ最近、学校に来ていない。退学説などが流れており、更には壬生達を利用してテロリストに学校を襲わせたのは球磨川ではないか…という噂まであるほどだ。それについては壬生達が全力でフォローしたため、すぐに鎮火はしたのだが。
「そう…」
ほのかは俯きながら答える。
その様子を見たエリカはため息をついた。
「ねぇ。アイツのことは忘れた方が良いわよ。関わったらロクな目に遭わないって」
「でも…私、酷いこと言ったし…」
「そんなのはアイツの自業自得でしょ。…それに連絡も何もないんでしょ?」
「…そうだね……。ありがとう…エリカ」
エリカはそう言うとすぐに教室に戻った。
ほのかも来た道を戻ろうとする。
すると見覚えのある人物が目の前にいた。
その人物はほのかに気がつくと話しかける。
「あ…確か…光井…さんだっけ?」
「あなたは…壬生先輩…」
そう…その人物とは壬生である。
挨拶し合うと、気まずい雰囲気になる。
少しそのままでいると、壬生が口を開いた。
「その…お昼ご飯食べた?せっかくだから中庭のベンチで一緒に食べない?」
「え?あ…はい。喜んで…」
壬生の誘いにほのかは乗る。
そして二人は中庭に着いて、ご飯を黙々と食べ始めた。
静寂とした雰囲気の中、突然壬生が話し始める。
「あたし…球磨川くんと話をしたの」
「えっ?」
突然の話にほのかは驚く。
「ごめんね。千葉さんとの話聞こえちゃってさ」
「そ、そうですか…。それで、球磨川くんとはどんな話を?」
「…『友達になろうよ』。そう言われたわ」
「と、友達…ですか?」
壬生の言葉にほのかは首を傾げる。
ほのかの中で球磨川はいつだって独断専行で、一人が好きだと思っていたからだ。
「うん。まぁ…断ったけどね」
「それは…どうして?」
ほのかが尋ねると壬生は真剣な目をしながらも苦笑して話す。
「あたしと球磨川君…目指すものが違うからかな」
「目指すもの…ですか?」
「うん。あたしが選んだのは努力で才能を打ち倒す道…。でも、そこに彼はいない。友達になったとしてもいつか必ず仲違いする。でも、あたしは球磨川くんと戦いたくない。だから…断ったの。恩知らずなのはわかっているけどね」
ほのかは壬生はイマイチ何を言っているのかわからない。
そして壬生は話題を切り替えるように話す。
「多分さ、彼は誰よりも優しいんだと思う。それも冷たすぎるくらいに……」
「え?」
ほのかは一概に信じることが出来なかった。
あんな惨劇を生み出した球磨川が優しいとは思うことができなかったのである。
そんな疑問の表情を浮かべる彼女に壬生は微笑む。
「…彼は愚かだったあたしの味方でいてくれた。生徒会と敵対してまでね。彼は言ってたわ。『弱い子の味方』だって。思い返すと…彼はいつだって弱くて愚かな人のために戦ってたんだと思う』
「…でも!!球磨川くんは人を…あんな風に…傷つけて…!」
「…確かに…やり方はアレだけどね。それでも彼は弱者を守るためなら自分よりも遙かに強い人達であったとしても逃げずに戦っていたわ」
「それは……本当に…守るためなんですか?あの時の球磨川くんは…人を…殺すのを楽しんでるように見えました……」
ほのかは廃工場の光景を思い出す。
あの血に塗れた惨劇の中でもヘラヘラと笑う球磨川…。
その姿がくっきりと脳裏に思い浮かぶ。
「君は…本当にそうだと思っているの?君だって彼に助けられてきたんじゃないの…?確かに彼は人を人だとは思ってないかもしれない…。それでも…彼は快楽とか利益とか関係なく、人を助けようとする優しさがあるわ」
壬生は続ける。
「放送室の時だって、彼の言ったことが無ければ…ちゃんと討論したとしても、あたし達は生徒会に丸め込まれて終わりだったでしょうね。これ、司波くんから聞いたんだけどね。あの討論会で七草先輩が言ってたことには球磨川くんの意見があったんだって…。あたしも放送室で聞いたけど…あれは
「え…?」
壬生の言葉にほのかは驚く。
討論会で真由美が言っていたことは深雪から粗方聞いている。
そしてそれが今、実施されようとしていることも。
しかし、それが球磨川の意見も採用されているのは知らなかったのだ。
信じることは難しいものの、球磨川の過負荷に触れつつ助けられた
「別にあたしの言うことも、球磨川くんの全部も認めろ…何て言わないわ…。でも、本当に彼がしてきたことは本当に悪いことだけなの?思い返して…君にだって覚えているはずよ。彼が…優しさを持って、誰かを救ってきた事実を……」
じわりと…壬生の言葉がほのかの球磨川への見方に影響を及ぼしていく。
「(……そうだ、球磨川くんはいつだって誰かを助けていた)」
ほのかは思い出す。自分を助けてくれた路地裏の事件、入学式に一科生に絡まれたこと、森崎との一件に、第二体育館での騒動、放送室の占拠…そしてブランシュとの戦い…。
球磨川は常に
「(それに…球磨川くんは壬生先輩達のために戦って、その結果、差別意識も薄まった。でも…球磨川くんは結局、殆どの人に感謝されてない…。彼が…一番、魔法の才能のない人のことを分かっていたのに…)」
ほのかは放送室の事件の後で、球磨川から言われた言葉を思い返す。
彼は…友人や学校を敵に回すことを覚悟した上で、有志連合の味方をしようとした。
だが、そんな彼の想いは一番恩恵を受けているはずの二科生さえ知らず、挙げ句の果てにテロリストを手引きしたのではないかと、あらぬ疑いまでかけられることになった。
球磨川は勉強はできないが頭は回る。彼がそうなることを予想できない訳がない。
しかし…そんな冤罪まで覚悟して、弱者の味方を出来る人間が人を殺すことを楽しめるというのだろうか。
ほのかは自身の思い違いに気付き始める。
「(森崎君の時もよ…。私達は球磨川くんに助けられたのに、その場で「ありがとう」って一言でも言った!?それどころか、私達は彼を避け始めたじゃない!彼は誰かのために戦ってきたのに…何一つとして報われてない…。責めて…嫌って…。誰も…彼の事を見ていなかった)」
森崎の一件で球磨川がやったことは素直に認められない。でも、間違いなく森崎の魔法からエリカやレオを助けたのは球磨川なのだ。しかしその事実に対し、誰か感謝しただろうか…いやしていない。
それに気付いたほのかの目から涙が溢れ始める。
「(私だって同じだ!私はただ彼に自分の理想を押し付けてただけ…。ヒーローで優しくて、強い…そんな理想を…。球磨川くんのことを一切見てなかった…!!それなのに…勝手に失望して…怖がって…拒絶した…)」
ほのかは頭を抱え、泣き崩れる。
「(私は球磨川くんに甘えてただけじゃない…。今までずっと助けてもらってきたのに…それを忘れて……。彼は一人が好きなんじゃない…。彼は最初から言ってた…私のことを友達だって…。それなのに私達は…ううん、私は球磨川くんを一人ぼっちにした…!!)」
ほのかが思い出したのはブランシュのアジトで最後に見た球磨川の瞳…。
それからは間違いなく、悲しさ…そして寂しさが感じられた。
「(私は彼を見なきゃいけなかったんだ!私の
そう球磨川は言っていた…ほのかのことを友達だと。
だが、ほのかは途中から彼を拒絶した。
球磨川のやったことを否定するにしろ肯定するにしろ、ほのかは彼とちゃんと話をするなら、まず球磨川禊という人間を真っ向から向き合わなくてはならなかったのだ。友達として……。
「(何が「来ないで!」よ…。私にそんなこと言う資格なんてない!球磨川くんに説教する資格なんてない!私は…球磨川くんよりもずっ…と…最っ低…!)」
「光井さん!!」
「……!?」
ひたすら自分を追い詰め続けるほのかに壬生が肩を揺すり、大声で呼びかける。
すると、我に返ったのかほのかは腕を解き、壬生を見た。
壬生は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。こうなるなんて思わなかったから……」
「いいえ…私が悪いんです…」
そしてほのかは顔を蒼白させ、震えながら壬生に言う。
「わ、私…どうすれば良いんでしょうか…?私は…球磨川くんになんて謝れば…。お…教えてください!お願いします!!」
球磨川は謝罪など求めるような人間ではないのだが…。
自責の念に駆られたほのかには関係ない。
彼女は自身の罪悪感に押しつぶされ、どうすれば良いのかわからなくなっていた。
ほのかは身を震わせ、錯乱し壬生に縋り付く。
「(……あの時のあたしと一緒だ)」
そんなほのかを壬生は保健室の時の自分と重ねて合わせていた。
自責の念に駆られ、思考停止し、近くにいた誰かに縋ろうとした自分。
球磨川はそんな醜い自分を受け入れてくれた…。
壬生は目の前にいる愚かで弱々しい後輩に何を言うべきか考える。
自分のような過ちを犯さないようにするために…
「(なら…あたしは…)」
壬生はほのかに真剣な目で言う。
「それは君が考えなきゃいけないことよ」
「え?」
球磨川が壬生の醜さを受け入れたのなら、彼女がほのかにするべきと考えたのは敢えて突き放すこと。
「…君はまた同じ過ちを繰り返すの?球磨川くんに甘えておいて、また別の人に甘えるの?」
「そ…それは…」
正直、有志連合に甘え、球磨川に縋ろうとした壬生が言えた立場ではない。他の人が聞けば、自分の事を棚に上げておいて何を言っているんだと言うだろう。
しかし、だからこそ言うのだ。目の前の後輩に自分と同じ轍を踏ませないために。
「それに…君は分かっているはずよ。自分が何をしたいのか…」
「え…?そんなの…私…」
混乱するほのかに壬生は静かに言い聞かせる。
「よ〜く落ち着いて思い出して…。君自身が言ったことを…」
「(私が言ったこと……?)」
ほのかは多少混乱しながらも…自分が言ったことを思い返す。
「(……私は……球磨川くんが怖くて…。でも、彼に甘えたのは自分で…。それに気づきもしないで拒絶して…。それが恥ずかしくて、嫌で、苦しくて…つらくて…。自分じゃ結局何も出来なくて……。球磨川くんはそんな私を責めなくて…。守ってくれて…。私は何も彼のことを分かってなくて…。彼と話そうとしたけど、いないことにちょっとだけホッとしてて…。そんな自分が嫌で…、嫌いで。でも、
ほのかは思考の暴流の中、自分がやりたかったことを思い出す。
「そうだ…私は球磨川くんに謝りたい。話がしたい。…今度こそ、彼と向き合いたい!」
球磨川のことを全て肯定するわけではない。
しかし、ほのかが球磨川に身勝手な理想を押し付けていたのは間違いない。彼女は次こそ向き合いたいのだ。正真正銘…球磨川禊という人間と…。
それを聞いた壬生は満足気に言う。
「うん。そう。それが君がやりたいことなのね」
「はい!」
自身の答えを見つけたほのかは頷いた。
◇
「はぁ…はぁ……。どこにもいない」
放課後、ほのかは誰にも事情を話さずに学校を飛び出すと、ひたすら球磨川を探していた。
時間もかなり経ち、辺りは暗くなっている。
「思いつくところ…全部探したけど…。どこにいるの…?球磨川くん…」
本屋や喫茶店、球磨川のアパート…思いつくところは全部探し聞き込みもしたが、一向に見つかる気配がない。
居留守をしている可能性もあるが…球磨川の性格上、あまりしないのではないかとほのかは考えていた。
「…ここには…いる訳ないよね……」
ほのかは球磨川と最初に出会った路地裏にまで来ていた。
「(……別のところ探した方が良いかも…)」
しかし、球磨川はいない。
もう少し探す範囲を広げるべきか考えながら路地裏から去ろうとすると、目の前に集団が現れた。
「…えっ!!?」
ほのかは目の前に現れた人の影に驚く。
彼女は前に不良集団に襲われた。その光景を思い出していた。
前とは違って、護身のために準備はしておいたため、要心しながら身構える。
しかし、その警戒はある意味で裏切られることになった。
「はぁ…やっと見つけた。雫が心配してたよ?ほのか?」
「………ほのか、連絡くらいして」
そこに現れたのは雫とエリカを始めとする、ほのかの友人達だった。
こんにちは味噌漬けです。
実を言うと、この章のキーマンは達也ではなく壬生だったりします。球磨川の最低さと優しさを同時に受けたのはこの人なので。ほのかは良くも悪くも愚か者かつ依存的…つまりチョロいので壬生の言葉は効果的ですね。
個人的にほのかは喜界島さんみたいなチョロさ+阿久根くんみたいな依存性みたいな感じだと思ってます。