魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
それから三日後…。日の出よりも前の時刻…。
東京都のとある港…にて球磨川禊は海を目の前にして風を感じていた。
『いやー』『よく潮の匂いとかいうけどさ』
『嗅ぐと塩の匂いじゃないよね』
『むしろ、生臭くすら感じるぜ』
『…そうは思わないかい?達也ちゃん?』
球磨川は後ろを振り向かずに言う。
彼の後ろには達也と深雪が歩いて来た。
「……生臭く感じるのはわからなくもないが、そもそも潮の匂いはプランクトンが原因だ。塩じゃないぞ」
『へー』『そうなんだ』
『初めて知ったよ』
「これくらい一般教養だろ…」
半ば呆れながら言う達也とのほほんと会話する球磨川。
そんな二人を深雪は不安そうに見ていた。
「…なんで、学校に来なくなったんですか?」
深雪が恐る恐る球磨川に尋ねる。
わずかながらも彼を怖がっているのかもしれない。
球磨川は彼らの方に振り向き、ヘラヘラ笑う。
『学校かい?』『それは君たちが一番よく知ってるはずだよ』
「?」
心当たりは無いのか達也たちは顔を見合わせる。
そして次は球磨川が口を開いた。
『それで、何でわざわざこんなところまで来たのさ』
『正直言って、君達は僕なんかと二度と会いたくないかなーって思ってたんだけど』
「……俺は一応、お前の監視役だからな」
達也の言葉に球磨川は大袈裟にリアクションをする。
『え!?な、なんだってー!』
『だ…騙していたのかい?』
『酷いよ!』
「…お前、絶対最初から気づいていただろ」
球磨川のわざとらしい驚き方に達也はため息をつく。
そして切り替えるように口を開いた。
「……お前には聞きたいことがあってな」
『…なんだい?』『僕も忙しいし、話があるなら手短に頼むぜ』
『僕、気が変わりやすいしさ』
一応、話を聞く気がある球磨川に深雪はホッとする。
そして、達也が真剣な目で話し始める。
「…
いきなりの確信を突くような質問。
球磨川はそれに対してヘラヘラ笑いながら答えた。
『
『駄目で』『愚かで』『馬鹿で』『愚図で』『どうしようもない』
『才能を持たない弱者』
『それが僕たち
「……」
そのあまりにも酷い自己否定に深雪は何も言えなくなる。
達也も相当謙遜はするが、ここまでは言わなかった。
しかも、球磨川は冗談ではなく本気で言っているのだと今なら分かる。
「
『いるんじゃないかい?』
『どんな時代でも、そういう奴は必ずいるさ』
『僕みたいにね』
答えているようで答えになっていない。
達也は更に深く切り込もうと思ったものの球磨川が欠伸しているのを見て、これ以上、話す気がないことを悟る。
仕方ないとばかりに別の話題を振る。
「…
『マイナスは所詮、生き方だからね』
『力…なんてプラスな言い方はやめてほしいかな』
『
またしてもはぐらかされる。
球磨川のふざけた回答に深雪は痺れを切らしたのか口を挟む。
「球磨川くん!!ちゃんと答えt……お兄様?」
球磨川に向けて話す深雪に達也が手を伸ばして制する。
彼女はそんな達也を見て困惑した。
「すまないな深雪…。だが、球磨川はこうなったら意地でも言わないだろう。…ここまでの話だけでも充分に収穫はあったさ。でも、ありがとう。俺のために…」
「お兄様……」
頭を撫でながら言う達也に深雪は頬を赤らませた。
そんな異様な雰囲気の二人を見た球磨川は首を傾げながら呟く。
『…僕は一体何を見せられているのかな?』
ここにレオやエリカがいたら同感だと頷いただろう。
しかし、その二人はいない。
そして、球磨川は達也に尋ねる。
『それで、まだ何かあるのかい?』
『もしかして、情報を吐いた僕を消すつもりなのかな?』
『君は僕のこと随分警戒してたもんね』
「……それもアリかもしれないな。お前は危険すぎる…」
達也はそう言ってホルスターにあるCADを握る。
球磨川もそれに合わせて螺子を取り出した。
一触即発の雰囲気…。しかし、達也がCADから手を離した。
「…だが今回、お前の相手は俺じゃない」
『…?』
達也の言葉に球磨川は首を傾げた。
すると達也が後ろへと視線を向ける。
その先には二つの人影があった。
「…どうやら、来たみたいだな」
人影は球磨川の方に向けて歩いている。
うっすらと見えた、一人は身体中に包帯や絆創膏を貼り、ボロボロになりながら制服を纏う見るも無残な姿をしていた。
その人影は球磨川に向けて口を開く。
「……球磨川くん。……やっと会えたね」
…そこにいたのは雫と…ボロボロとなったほのかだった。
流石の球磨川も困惑する。
『ほのかちゃん…?』『………何で…ここに……?』
その質問に達也が答える。
「その光井さんがお前を探していたからだよ。必死になってな…」
達也は思い返す…。路地裏に響き渡ったほのかの叫びを…。時間は三日前へと遡る。
◇
三日前の放課後、路地裏にて雫を始めとするほのかの友人達、そして壬生や桐原が集まっていた。
「な…なんで、みんなが…?」
その質問にエリカが答える。
「何って…雫が連絡してくれたのよ。ほのかが大慌てで何処かに行ったっきり、家に戻ってこないって…。だから探してたの。…雫があんな焦って連絡するなんて珍しいからね」
「………」
雫はほのかをじっと見つめている。無表情だが心配のあまり、不機嫌になっているのは丸分かりだった。
「えっ…もうこんな時間……。ごめん、雫…」
時間を確認したほのかは雫に頭を下げる。
すると、雫はため息をついて頷いた。
「…今度から連絡して」
「うん。ごめんね」
二人が和解すると、エリカが話しかける。
「それで…何してたの?」
エリカの言葉にほのかはしどろもどろになる。
少しすると覚悟を決めたのか、ほのかは口を開いた。
「私…球磨川くんを探してたの…。彼と…向き合うために……」
「く、球磨川君と?本気なの?ほのか?」
「球磨川とかぁ…マジか…」
エリカとレオは「こいつ正気か?」と言いたげな目で見る。
「でも…アイツがやったこと忘れてない?アイツと関わっても…ロクなことが起きないよ。ほのかだって…タダでは済まないのかもしれないのよ?」
「それでもです!!」
「!?」
エリカの言葉にほのかが声を荒げたからかエリカは驚く。
そして、そんなほのかに深雪が話しかける。
「ほのか…。なんで…そこまでして球磨川君と会いたいの?彼は正直に言って危険です。私達はほのかが危険に巻き込まれるのを黙って見たくはありません。もし良ければ話してくれませんか……?」
深雪の言葉からはほのかへの心配がありありと感じられる。
そしてほのかは…みんなだけじゃない自身にも言い聞かせるように静かに口を開いた。
「…私ね…球磨川くんに謝らなきゃいけないの……」
「…?」
その言葉に皆が首を傾げる。
「私は…球磨川くんが正しくて格好良くて強い…そんなヒーローだと思ってた…。でも、彼は…そんなんじゃ無かった。私は勝手な理想を押し付けて…。それが違うと分かった途端…彼を捨てた…。彼はそんな私のことを友達だって思ってくれてたのに、助けてくれたのに…私は全然彼のことを友達として見てなかったの…」
そしてほのかは続ける。
「球磨川くんは悪ぶってるし、やり方も酷い…。でも、森崎くんの時もブランシュの時でも…彼なりに私達のために考えてくれてたことが…今ならわかる…」
ほのかは皆に説明する。
森崎の時は彼がエリカ達に攻撃しようとした時に割り込むことで彼女達が魔法を使わせないようにした。あのままでは下手すれば全員退学の危険性まであっただろう。更に球磨川は森崎と取り巻き達の心をへし折る事で後に絡ませないようにもした。
放送室の事件でも、最終的には球磨川の言葉は受け入れられ、差別意識は確実に減っている。
ブランシュも汚れ役を引き受け、警察に壬生が強盗未遂で捕まることを防ぎつつ達也たちが手を汚さないようにした。
都合の良い解釈ではあるが…球磨川の行動が誰かのためになっていたのは紛れもなかった。
「ホントに…?でも…信じられない……」
「球磨川が…俺たちを…」
ほのかの説明を聞いたエリカやレオは戸惑う。
他の皆も同様だった。
「…球磨川くんが本当にそこまで考えていたのかはわからない……。彼がしたことが絶対に正しいなんて私も思えない…でも…このままじゃ私は絶対に後悔する……」
そしてほのかは続ける。
彼女の目には涙が溜まっていた。
「私は球磨川くんに謝りたい!ありのままで向き合いたい!今度こそ…ちゃんとした友達になりたいの!!」
ほのかの叫びが路地裏に響く。
球磨川のことを信じられない者、慟哭するほのかを見守る者、腕を組んで考え込む者、そんな兄を心配そうに見る者…反応は様々だった。
「…これは私の我儘です。それに、球磨川くんのことを信じられないのもわかります。でも……私は止める気はありません」
ほのかがそう言って皆を真っ直ぐと見る。
皆が口を閉ざし、しばらく静寂とした空気が続く中、一人が口を開いた。
「…はぁ。わかったわ。でも…私も手伝う!」
「「エリカ……!?」」
まさかのエリカが参加を表明。
それに皆が驚く。
ほのかも戸惑いながらエリカに言う。
「良いの…?エリカ?」
「どーせ、止めたってするんでしょ?なら私も手伝うわよ。それに…確かに球磨川君には借りがあるしね。それにほのか一人じゃ心配だし」
それに追従するように次は美月が話す。
「……怖いですが、ほのかが本気なのはわかりました。お手伝いします」
「二人とも……ありがとう…。でも、これは……」
ほのかは感動しながらも二人の申し出を断ろうとする。
しかし、エリカが口を挟んだ。
「良いから!私達にも手伝わせてよ。ね!みんな?」
エリカはそう言って周りを見る。
すると数人が前へと出てきた。
「……連絡してくれれば、最初から手伝ってた。私も手伝う」
「はぁ…しゃーねぇーな。まぁ、俺だってアイツには一言言ってやりことがあるしな」
「俺は会いたくなんてねぇんだが…。アイツには壬生を治してもらった借りがある…仕方ないか」
「ふふっ!桐原くんは素直じゃないんだから。あたしは当然引き受けるわよ」
雫、レオ、桐原、壬生が参加を表明する。
「お兄様……」
深雪は達也を不安そうな目で見る。
そして、決心したように言った。
「私も…ほのかの力になりたいです。お兄様は…」
深雪の言葉に達也は腕を解いた。
「俺は最初から球磨川を探すつもりだった。聞きたいことがあったしな」
「…お兄様!!」
深雪が嬉しそうな顔をすると、達也も同様に微笑む。
通常運転な二人に周りが微笑ましげに見ている中、ほのかは自身に頼れる友人達がいることに感動し、涙を浮かべながら皆に言う。
「み…みんな……本当にありがとう……ありがとう…ありがとう!」
ほのかは泣きながら皆に感謝をする。
その涙はしばらく続いた。
そして、ほのかが落ち着くとエリカが話しかける。
「それでどうすんの?向き合うって言っても、アイツにがまともに話すなんて思えないんだけど…。多分、のらりくらり躱されるだけよ?」
「それは……」
エリカの言葉にほのかが返そうとすると、レオが割り込む。
「そんなのこうすりゃいいだろ!男を説得するなら、これが一番だ!」
レオは嬉々として自分の案を語る。それにエリカは「本気か…?」とドン引きな目で見ていた。
しかし、達也がフォローする。
「確かにレオの言うことにも一理ある。特に球磨川には有効かもな。後は光井さん次第だが…」
「……やります。球磨川くんと向き合えるなら何でもしたいです」
達也の言葉にほのかが頷いた。
彼女の真剣な目を見た達也はほのかに言う。
「それなら球磨川の捜索は俺と深雪…に任せて、光井さんはエリカ達と一緒にいた方が良い」
ほのかは驚く。
「え?いや、私も球磨川くんを探します!」
達也は首を振った。
「いや、球磨川は一筋縄じゃいかない。それ相応の準備が必要だろう。それに…さっきも言ったが元々俺もあいつを探すつもりだったんだ。任せてくれ」
「司波くん……」
ほのかは申し訳なさそうにしている。
しかし、そんな彼女の肩をエリカが叩いた。
「こーらっ!達也君が言ってるんだから、お言葉に甘えなさいよ!ほのかには私達がみっちり付き合ってあげるから!」
「エリカ…。…わかりました。よろしくお願いします」
ほのかは深々と頭を下げた。
◇
時は戻り、現在、ほのかと球磨川は相対していた。
「球磨川くん……」
そんなほのかは戸惑う球磨川に向けて足を進める。
そして、彼の元に近づくと、突然頭を下げた。
「ごめんなさい!!」
『……!?』
更に戸惑う球磨川にほのかはゆっくりと話し始める。
それには後悔や反省の意思が感じられた。
「球磨川くんは私達のことをずっと助けてくれたのに……。忘れて…あんな酷いことを言っちゃった……」
『…………』
「それに…私は…球磨川くんに変な妄想ばっか押し付けて…。あなたのこと全くわかってなかった…!!球磨川くんは…わ、私達のことを考えてくれてたのに…」
ほのかの目からじわりと涙が滲み出る。
「どんなに詫びたって謝りきれないと思う……。でも……本当にごめんなさい…ごめんなさい」
「私からも謝る。でも…出来れば、ほのかを許してほしい」
涙を浮かべながら謝るほのかに追従して雫もまた頭を下げる。
そんな光景に球磨川は…
『はぁ…』
「……!」
ため息を吐いた。
それを聞いたほのかはビクッと震える。
『だから君たちは
『僕が君たちのことを考えてた?助けた?何でそんな風に考えられるかな?』
『僕みたいな
「お、思うよ……。球磨川くんがなんでそんな…悪ぶってるのかは知らないけど……。森崎くんの時も、放送室の時も…ブランシュの時も…球磨川くんが私達のことを考えてくれたことは…今ならわかるもん……」
『………それが本当だとして、君は僕にどうして欲しいんだい?』
『別に許す許さないなんてどうでもいいよ』
『元から怒ってもないし、憎んでもないからね』
そうは言うものの球磨川は冷たい笑みを浮かべている。
ほのかは…そんな彼に怯まず、真剣な眼差しを向けた。
「……出来れば…学校に戻ってきてほしい。お願い!エリカ達も待ってるから!」
友達になってほしい…学校で一緒に楽しく過ごしたい…そんな重い思いを込めて言う。
しかし……球磨川は…
『無理』
バッサリと切り捨てた。
そんな球磨川に深雪が声を荒げる。
「球磨川くん!あなた……!」
しかし、そんな彼女を達也が止めた。
「駄目だ深雪…。これは光井さんの戦いだ…」
「お、お兄様…」
達也に注意され口を閉じた。
しかし、彼女はほのかを心配そうに見ている。
そして当のほのかは球磨川にアッサリ断られたことで俯いていた。
「そ…そうだよね…。今更、何を言ってるんだって感じだよね」
ほのかはぶつぶつと呟いている。
だが、ほのかの目はまだ死んではいない。
「…なら…一つだけお願いがあるの」
『なんだい?』
球磨川が聞き返す。そしてほのかは深呼吸して球磨川に向けて言い放った。
「球磨川くん…私と…勝負して!!」
『え……?』
意外な言葉に流石の球磨川もポカーンとする。
「聞こえなかったの?私と戦ってって言ったの。……私が勝ったら学校に戻ってきて」
ほのかの要求に球磨川は再びヘラヘラと笑う。
『おいおい』『ほのかちゃんにしては珍しいじゃないか』
『わざわざ僕と勝負しようなんてね』
『ボコボコにして、無理矢理にでも連れて行くつもりかい?』
『僕如きなら君でも倒せるって思ってるのかな?』
「そんなつもりはないよ…。私はただ球磨川くんとわかり合いたいだけ…」
球磨川はほのかの言葉を聞いて、呆れたと両手を振る。
『やれやれ』『
『それに戦ってわかり合おうとか…最近のジャンプでも少ない展開だよ』
呆れる球磨川だが、ほのかはそれでも真っ直ぐ球磨川を見る。
無謀かもしれない…でも、彼女はそれでも球磨川と勝負がしたい。言葉のみでは分かり合うことが難しいのなら…勝負の中で球磨川の心に触れたい…そう思ったからだ。
そしてほのかは笑みを浮かべて言う。
「でも、球磨川くんは言ってたよね?『
『……!!』
それはほのかが初めて球磨川と出会ったときに彼が言っていた言葉…。
球磨川…いや過負荷の生き方でもある。
それを引き合いに出された球磨川は笑い出した。
『あはは!なるほどね』
『確かにそうだ!』
『良いよ』『その勝負受けてあげる』
『でも、そうだな…』
『もしも僕が勝ったなら…』
球磨川は口を三日月の如く歪ませ、ほのかを指差して言う。
『明日から君の制服は裸エプロンだ!』
「「……!!?」」
あまりにも卑猥な要求に女性陣は一斉にたじろく。
達也の側で聞いていた深雪も頬を赤らませていた。
「(は…裸エプロン…!?何言ってるの球磨川君…!!あぁ…でもお兄様の前なら…。いや!ほのか!受けちゃダメですよ!そんなの!)」
一瞬、とんでもないことを考えるも、深雪はほのかを止めようとする。
しかし、その前にほのかが口を開いた。
「…………良いよ」
「(ほのかー!!!)」
深雪は全力で心の中でつっこむ。しかし悲しいかな。声に出さなければ彼らには届かない。
『本気かい?』
『今なら引き返せるぜ?』
球磨川が忠告するも、ほのかは球磨川に向けて精一杯の笑みを見せた。
「……私はもう逃げない。あなたからも…自分の弱さからも………」
ほのかと球磨川は互いに笑みを見せ合う。
こうして……ほのかVS球磨川の戦いが成立した。
こんにちは味噌漬けです。
レオが提示した球磨川との向き合い方は題して【男なら殴り合ってわかり合う作戦!】です。
正直、馬鹿らしいですが、球磨川とほのかの関係性に関してはとりあえず決着をつけたかったので無理矢理にでも勝負にしました。勝負なら球磨川は逃げませんしね。
明日も投稿するつもりです。
今回は読んで頂きありがとうございました。