魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
勝負することになった球磨川とほのかは達也たちの案内により、九重八雲がいる九重寺へと足を運んでいた。
そして、彼らは主である九重の案内の下、木々に囲まれた人気のない場所へと向かう。
その道中にて達也と深雪は九重に頭を下げる。
「すみません、先生。しかも先生の忠告を無視して…ここをお借りすることになってしまいまして…」
「いや、良いんだよ。君達が選んだことだ。文句は言わないさ。それに僕も球磨川君には興味あったしね」
苦笑しながら言う九重にほのかが礼を言う。
「今日はありがとうございます」
「大丈夫さ。君のこともある程度聞いている。頑張ってくれたまえ」
「はい!!」
九重からの激励にほのかは大きく返事をして勝負の場へと向かう。
目の前には球磨川がのんびりと周りを見ていた。
『ふーん』『どこで戦うのかと思ったら、こんなところがあったんだ』
球磨川の言葉に九重が返す。
「ああ。ここなら人目を気にせずに勝負できるだろう。球磨川禊くん」
『そうですね』『ここならどんな目に遭わせても問題なさそうだ』
サラッと物騒なことを言う球磨川。
そんな彼とほのかを深雪は不安そうに見ている。
「……お兄様、ほのかは大丈夫でしょうか?」
「…確かに球磨川は危険だ。だが、光井さんも相当な準備をしてきているだろう。恐らく、
「えっ!?」
達也の言葉に深雪は驚く。
一見、無敵に見える大嘘憑きへの対策…それは何なのだろうか。
「それに万が一…光井さんの身に何かが起きると思ったら俺が止める」
「お兄様……」
ほのかと球磨川をじっと見つめる達也。
そして、その傍で雫もまた親友を見守っていた。
「(……ほのかは頑張った。後は…想いを届けるだけ)」
この勝負はただ倒せば良いと言うものではない。
ほのかは如何に自分の気持ちを伝えることができるか…それが重要である。
そのために逃げ場のない勝負という形で向き合った。後は伝えるだけ…。
雫は祈る…。健気な親友の想いが伝わるように…。そして…球磨川がその想いを受け取ってくれるように……。
「さて…今回は僕が審判を務めるよ。この中で一番中立だろうからね」
審判は九重八雲。
球磨川とほのかが準備を終えたのを確認すると、彼は次にルールについて説明する。
「まず、ルールを説明するね。相手を死や存在そのものを脅かすこと若しくは回復不能な障害を与えるような魔法及び能力は禁止。勝敗だけど敗北を認めた方が負けね。あと、合図があるまでCAD及び能力の発動は禁止。わかったかい?」
つまり球磨川は大嘘憑きによる、ほのか自身の存在や魔法能力の抹消は出来ないということである。
言ってしまえば最強の脅迫手段がなくなったのだ。
ほのかはほのかで攻撃手段が限られる。
『良いですよ』
「わかりました」
二人が了承すると、九重は腕を振り上げる。
「それじゃあ始めるよ」
九重がそう言うとほのかと球磨川は頷いた。
「それではよーい…はjーー」
九重が開始の合図を言いかけ、ほのかもそれを聞いて身構えようとする。
しかし…その瞬間……ほのかに螺子が襲った。
「……!!?」
「えっ!!?」
ほのかの目の前に数本の螺子が飛んでくる。
螺子は躊躇いなくほのかの身体へと向かった。
見ていた深雪も突然のことに声を出して驚く。
「キャッ…!!?」
数本の螺子によって吹っ飛ばされるほのか。
その光景を見た深雪は声を荒げた。
「球磨川君!!あなた…何を…!!!」
深雪の抗議に対して球磨川はヘラヘラ笑う。
『おいおい深雪ちゃん』
『ちゃんとルールは聞くべきだぜ?』
『開始の合図まで能力は使っちゃいけないとは言われても…攻撃しちゃいけないなんてルールはないよ』
球磨川の言葉に深雪が彼を強く睨みつける。
「………!!なんて卑怯な…」
『それが
罵声を浴びつつ…
汚名を背負って…
自己嫌悪に浸りながらでも勝ちを狙う。
それこそが球磨川禊である。
『安心しなよ』『致命傷は狙ってないから』
『まぁ重傷で動けないかもしれないけどね』
「……ほのか!!大丈夫!?」
深雪は球磨川を嫌悪しつつも、ほのかに必死に声をかける。
球磨川はそんな深雪を見てヘラヘラ笑っていた。
しかし、その笑みが少し崩れることになる。
「球磨川くん…どこ見てるの?」
『…!』
『へぇ…』『防いだんだ…』
攻撃が当たったと思いきや、ほのかは寸前で携帯していた警棒や制服を使って防御していた。
彼女の周りには螺子がぼろぼろと落ちている。
「球磨川くんのことだからね…。これくらいすると思ってたよ。でも…決めたから…球磨川くんを受け入れるって…」
『やれやれ…』『奇襲されても、そんなこと言えるなんて…君は本当に愚かだね…』
ほのかは球磨川の攻撃を非難することも肯定することもなく球磨川に向けて笑みを浮かべる。
そして球磨川もまた、やれやれと言いつつもヘラヘラ笑っていた。
◇
勝負は仕切り直すような形となった。
球磨川は九重から次はないと忠告を受ける。
そして九重が再び腕を上げ、振り下ろした。
「始め!!」
九重の合図と共にほのかはCADを起動する。
球磨川もまた螺子を取り出して身構えた。
そんな彼らの姿を深雪と達也は見守っている。
「……ほのかはどうするつもりなんでしょうか?大嘘憑きの対策って…」
深雪の疑問に達也が腕を組みながら答える。
「球磨川の能力は確かに恐ろしいが、攻略法がないわけじゃない」
達也は続ける。
「思い返すと球磨川が能力を発動しようとしてた時、必ず対象を見ていた。それはつまり使う時は必ず対象を認識しなければならない…ということだ」
例えば森崎の時の自傷は痛みを認識している。放送室の時もなかったことにする際は必ず対象を目で追っていた。
つまり、外部に関しては基本的に目で認識しなければならないということである。
「そして球磨川はエリカに蹴飛ばされた時に傷や痛みを、瞬時になかったことにしてなかった。つまり気絶している場合は能力を発動できない…」
深雪はエリカに蹴飛ばされたという事実が少し気になったものの、それを無視して言う。
「つまり、一撃で気絶させることが大嘘憑きの攻略法…」
達也は頷く。
「確かにそうだが…そう簡単な話じゃない…。だが…やり方次第で可能だ」
達也はそう言って視線をほのかに向ける。
深雪もそれに追従した。
「いくよ!球磨川くん!」
ほのかはそう言って起動したCADを着けた腕を伸ばす。
すると、突撃する球磨川に眩いばかりの閃光が襲った。
『うわっ!!?』
ほのかが使った魔法は【閃光魔法】と呼ばれるものである。
彼女が得意とする魔法の一つだ。
言ってしまえばただの目眩しだが、今の球磨川には有効だ。
球磨川は突然のことに混乱している。
「そして…!」
ほのかは大急ぎで次の魔法の準備に入る。
球磨川が怯んでいる隙に…強烈な一撃を撃ち込むために。
「(……一瞬だけでも怯んでくれれば…!)」
そしてほのかは出来る限り早く別の魔法を発動させる。
すると球磨川の頭部に向けて空気の弾を放った。
ほのかが放ったのは空気の圧縮弾である【エア・ブリット】
そこまで威力は高くないものの、まともにヒットすれば気絶にまでは持っていけるだろう。
一見、閃光魔法は無駄なように思えるが、球磨川からすれば閃光魔法を無かったことにしようとすれば、その隙にエア・ブリットが当たり、対処しなければ認識できず攻撃を無かったことに出来ないという二段構えの戦法だ。
『甘ぇよ』
しかし……エア・ブリットが球磨川に当たりそうになった瞬間、球磨川は紙一重で避ける。
「……!」
避けた球磨川は目をゴシゴシすると、ほのかに向けてヘラヘラ笑う。
『目眩しすれば避けれないと思ったかい?』
『大嘘憑きが無いと戦えないと思ったかい?』
『君の
『頭に向けて魔法を撃ち込むくらい僕でも読めるぜ』
「………!!」
実際には割とギリギリだったのだが…球磨川はそれを態度には
『でも、結構眩しいんだね』
『天津飯の太陽拳を喰らった気分…ってこんな感じなのかな?』
『……さて、これでお終い?』
「………」
球磨川は挑発的な笑みでほのかを見る。
彼女はそんな彼を真っ直ぐに見ると警棒を取り出して両手で構えた。
『次は接近戦かい?』
『エリカちゃん辺りから習ったのかな?』
「やぁぁぁぁぁ!」
突撃するほのか、そしてその攻撃を螺子で受け止める球磨川…。
交差する螺子と警棒…。
互いに弾き合う鋭い音が辺りに響いた。
『ふぅん。結構重いね…』
ほのかは実を言うと剣の類は習っていない。
そのためその太刀筋に法則性のない完全な喧嘩殺法である。
しかし、その法則性の無さが逆に球磨川には効果的だった。
「…凄いですね。ほのかがあんな風に戦うなんて……」
「そうだな。俺も意外だ」
達也たちが会話していると雫が口を開く。
「…この三日間を考えると当然」
「ほのかは…エリカ達と何をしてたの?」
深雪は雫に尋ねる。すると、雫は無表情ながら話し始めた。
「やったことは単純。棒を持って、私達五人相手にひたすら実戦してた」
「実戦?」
「うん。寝る間も食べる間も惜しんで」
ほのかがやっていたことは本当に単純である。
ただエリカとレオ、壬生と桐原…そして雫を相手に戦っていただけ。
学校を終え、放課後から深夜過ぎまでひたすら殴り合っていた。
エリカや壬生に打ち込まれ、レオに殴られ、桐原に斬られかけてもひたすら戦った。
雫からの攻撃を捌き切れず、吹き飛ばされても戦った。
痛くても…苦しくても…辛くても球磨川と向き合いたい一心で…ほのかは立ち上がった。
「やぁっ!!」
ほのかはひたすら球磨川に打ち込み続ける。
たった三日と言えども、辛い環境下を生き抜く執念は誰にも負けない。
その執着心こそがほのかの
「(……や、やっぱり球磨川くんは手強いや。でも……!)」
身に染みてわかる戦闘経験の差…。
球磨川は負けてもなお戦い続けた経験がある。ほのかにはそう簡単に覆せるものではないだろう。
だが、それでも彼女は諦めない。
ほのかは一旦距離を取り、CADを起動。地面を思いっきり踏み、振動系の魔法で球磨川の足元ごと思いっきり揺らす。
『……!?』『これは達也ちゃんがやってた…!!』
思わぬ攻撃に球磨川はバランスを崩す。
その隙にほのかは思いっきり地面を踏みしめて球磨川へと突撃した。
「やぁぁぁぁぁ!!」
『!!』
『ガッ……!』
思いっきり振り込まれた警棒が球磨川の肩に直撃する。
元からどこを狙っても急所と言われた球磨川。
非力なほのかの攻撃でもかなりのダメージを受ける。
叩き込まれた衝撃とバランスを崩された影響で、球磨川は後ろへと倒れ込んだ。
決着がついたように思えたのも束の間……球磨川はゆらりと立ち上がる。
『あれれ?肩が砕けちゃったのかな?』
『動かないし、なんか痛くも無いや』
『治る兆しかなー?それとも壊死でもし始めたのかなぁ…?』
『まっ、どっちでも似たようなもんかぁ!』
「(……く、球磨川…くん…)」
球磨川がヘラヘラと笑いながら立ち上がる。
打ち込まれた肩がダラリと下がりながら…糸の切れた人形ようにふらふらと立ち上がる。
その様が異様に気持ち悪い。
ほのかは悲痛な顔で球磨川を見て、深雪もまだ口元を手で押さえている。
『まっ!』『こんなパフォーマンスなんていらないんだけどね』
『大嘘憑き』『僕の怪我を無かったことにした』
球磨川は大嘘憑きで一瞬で元に戻る。
そして彼は螺子を携えて、ほのかに突撃した。
『次はこっちの番だぜ』
「…っ!!」
螺子をほのかに向けて勢いよく突き出す。
ほのかは何とか警棒で防いだ。
三日間の修行で得たのは執念のみではない。ひたすら攻撃を打ち込まれ、捌き続けることによって得た、危険に対する反応速度が真骨頂。
所詮は付け焼き刃で長持ちはしないが、訓練明けの今ならまだ機能していた。
だが…それでも限界はある。
『背中がお留守だよ!』
「キャッ!」
何とかほのかは防ぐ。
『次はこっち!』
「……っ!」
しかし反撃の隙すらなく球磨川の攻撃が繰り出される。
『どこも隙だらけだよ!』
肩、腹、膝に右脚など、絶え間なく球磨川の攻撃がほのかを襲う。
ほのかはほのかで全力で防ごうとしているが、元から丁寧な守り方など知らない。
それはつまり、無駄な動きが多くスタミナを消費しやすいということである。
球磨川の連続攻撃は確実にほのかの体力を削っていた。
「うっ!!うぅぅ…」
流石に限界へと近づいていたのか、球磨川の攻撃を捌き切れなくなる。
そして…ついに球磨川の放った螺子のスイングがほのかの腕へと当たった。
「キャァァァァァ!!?」
球磨川の容赦ない攻撃…それはほのかの左腕を捉え殴り飛ばす。
その勢いのまま彼女は地面へと倒れ込んだ。
こんばんは味噌漬けです。今回は一対一のガチンコバトルになりました。赤さんみたいな対決を希望した方はすみません。……流石に状況が違いすぎるので…。
後、エアブリットですが、ほのかが使ったことがないのは知っています。でも、多少の火力のある魔法がないと、色々厳しいので使える…ということにしてください。もし、遠距離攻撃で他に使いやすそうな魔法があればコメントで教えていただけると嬉しいです。
ちなみにエリカ達はほのかの特訓に付き合った結果、疲れで泥のように眠ってます。美月はほのかの特訓のサポートを行ってました。
今回は読んでくださってありがとうございました。明日も投稿します。