魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
第二十四話 眠り姫現る
ブランシュによって起きた騒動から約三ヶ月後の七月。
ある日、達也はE組の友人達と学校にある休憩スペースでお茶を飲んでいた。
「達也君、ホント凄いね!理論式で一位なんて!!」
「そうですね。私達としても誇らしいです」
エリカが興奮しながら言い、美月がそれに同調する。
そうこの日は期末試験の結果発表である。
これはネットで公開され、こう書かれていた。
【総合成績優秀者】
一位 司波深雪(1-A)
二位 光井ほのか(1-A)
三位 北山雫(1-A)
【実技試験成績優秀者】
一位 司波深雪(1-A)
二位 北山雫(1-A)
三位 光井ほのか(1-A)
【理論試験成績優秀者】
一位 司波達也(1-E)
二位 司波深雪(1-A)
三位 吉田幹比古(1-E)
これを見ればわかる通り、理論のみであるならトップスリーに二科生が入るという…前代未聞の大番狂わせが起きてしまったのだ。
「でも、大丈夫だったのか?さっき呼び出し受けてただろ?」
レオが達也に向けて言う。
そう先程、達也は生徒指導室に呼び出されていたのだ。
レオの言葉に達也は苦笑して言う。
「実技試験のことで訊問を受けていたんだ。手を抜いたんじゃないかってな…」
達也がそう言うとエリカが不機嫌そうに言う。
「何それ?わざと点を取ってもなんのメリットもないじゃない」
そして、美月が口を挟む。
「でも、先生の気持ちもわかる気がします」
「どうして?」
美月の言葉にエリカは聞き返す。
「いくら理論と実技が別物でも限度がありますからね」
「でも、達也君が手抜きなんて考えられないわよ」
二人の話が活発化しているとレオがそれを遮るように言う。
「それはそれとして誤解が解けて良かったじゃねぇか」
レオの言葉に達也は頷く。
「あぁ…一応な」
次に美月が達也に話しかける。
「そういえば深雪やほのか達はどうしたんですか?」
「深雪なら生徒会で大忙しだ。九校戦も近いからな。ほのか達は……すまない。俺も知らない」
達也がそう言うと、エリカがその疑問に答える。
「あぁ。なんか連絡あったわよ。球磨川君を捕まえてから行くって」
「球磨川?そういやアイツも呼び出し受けてたな。達也は会ったのか?」
レオの言葉に達也は言う。
「いや。俺は生徒指導室だが、アイツの場合は職員室だからな……。会ってはいない」
「呼び出されるって何があったんだろうね?よほど点数が低かったのかな?」
エリカは首を傾げる。
そんな時、彼らの元に三人組が歩いてきた。
『イテテ』
『そんな引っ張んないでよ。ほのかちゃん』
「いーや!!ミソギくんが逃げたりしたら大変だからね!」
「………」
球磨川の腕を引っ張るほのかと、痛がる球磨川。そしてそんな彼らを雫が暖かく見守っていた。
彼らに気がついたエリカは手を振る。
「あ!来た来た。おーい!こっちこっち!」
ほのかも急ぎ足で向かう。
球磨川を思いっきり引っ張りながら。
「あ!ごめんね。遅くなっちゃって」
『痛い…痛いって!』
「あ、ごめん」
彼女達はテーブルにつくと、ほのかは球磨川の腕を離す。
球磨川は掴まれた腕を撫でると、ヘラヘラ笑いながら言う。
『やれやれ』『ほのかちゃんは、そんなに僕と一緒に居たかったのかい?』
『それならハグでもなんでもしてあげるのにさ』
その言葉にほのかは顔を赤くする。
「そ…そんなわけないでしょ!ミソギくんが逃げようとするからじゃない!!私、ミソギくんが呼び出されて心配だったんだからね!」
『おいおい』『人のせいにするなよ』
『僕は悪くない』
『あんな腕を組んで、仁王立ちしてたら僕じゃなくても引いちゃうぜ』
「仁王立ちって……そんなことしてないよ!」
『いーや』『してたね』
『気づいていなかったのかい?』
『あの時、周りの生徒がほのかちゃんをドン引きしてた目で見てたことを』
『あの目はそうだね…山登りに行ったら熊に遭遇した時みたいな感じだったぜ』
その言葉にほのかは驚く。
「えっ!?うそっ!私、そんな目で見られてたの!?そんなことないよね!?」
ほのかは雫に視線を向ける。
「…………」
雫はじぃーっとほのかを見ると、ぷいっとそっぽを向いた。
「雫ー!!」
親友のあまりな対応にほのかは思わず嘆く。
そして雫はそんな彼女に一言だけ言う。
「ほのか、周り見てる」
「えっ?……あっ!」
ほのかが周りを確認すると、他の生徒達がほのか達を見てくすくすと笑っていた。
ほのかはあまりにも恥ずかしくなると、シュンッと縮こまる。
そんな彼女達を見て、美月が吹き出した。
「ふふっ!ほのか達は相変わらずですね!」
「うっ…うぅ……」
美月の言葉は今ではほのかを追い込むに過ぎない。
ほのかは恥ずかしさのあまり、頭から煙が吹き出しかけていた。
『全く』『ほのかちゃんは落ち着きがないから』
「ミソギくんのせいでしょ!!」
球磨川がやれやれと手を振りながら言う。
ほのかはそんな彼を見ながらツッコんだ。
そんな二人を周りは微笑ましく見ている。
球磨川は今でも周りから敬遠されているものの、ほのかや雫を間に挟むことでエリカ達との仲は多少改善されていた。
「そういえば先生に呼び出されてたみたいだけど、何かあったの?成績絡み?」
エリカの言葉にレオも追従するように言う。
「そんなに酷かったのか?」
『んー?』『別に』
『大したことじゃないよ』
『ただどっちも最下位だっただけさ』
「「はぁ!?」」
球磨川はサックリと言ったが、そう我らが球磨川の成績はと言うと実技も記述も共に最下位という、とんでもない成績を収めていた。
実技が下手な達也ですら霞むレベルの低得点である。
「お前……よくそんな余裕でいられるな…。先生からも呼び出されたんだろ?」
達也は呆れながら言う。
『大丈夫だよ』『先生も少し話をしたら納得したのか』
『ゲッソリしながら解放してくれたからね』
「それ…絶対大丈夫じゃないですよ…」
美月は球磨川の犠牲となった先生を憐れむ。
そしてほのかが球磨川に言った。
「ミソギくん悪知恵だけは働くのに…なんで、そんな成績になるのかな…。ミソギくんならもっと取れるでしょ?」
あの決闘以降、球磨川に対して遠慮が無くなってきたほのか。
球磨川はそんな彼女に『チッチッチ…』と指を振って言う。
『それは過大評価だぜ』『ほのかちゃん』
『僕みたいな奴がテストで良い点数を取れるわけないじゃないか』
「開き直らないでよ。どうせ、勉強せずにジャンプばっか読んでたんでしょ…」
ほのかの言葉に球磨川は『ふっ』と不敵に笑う。
『何を言ってるんだい?ほのかちゃん』
『腐っても僕は
『授業は見逃してもジャンプを見逃さないのは当たり前さ』
「ジャンプはともかく授業くらいは聞きなさい!このままじゃ卒業できないよ!」
『……めんどくさい…』
「めんどくさいじゃないの!!」
まるで親子のように押し問答をする球磨川とほのか。
ついに痺れを切らしたのか、ほのかはピクピクと震えながら立ち上がった。
彼女は球磨川を鋭い目つきで睨みつける。
「ミソギくん…これから勉強会するよ…。放課後もみっちりするからね。絶対に逃さないから」
『おおぅ…』『こんなに嬉しくない「絶対に逃さない」は初めてだぜ』
『僕がそんなことに付き合うと思うのかい?」
「ミソギくんの気持ちなんてどうでもいいよ。あなたが付き合うんじゃなくて、私がどこまでもあなたに付き合っていくだけだからね……。どこに逃げても……一緒だよ……?」
「ほ…ほのか……?」
『…君…段々と
ほのかのヤンデレ染みた言葉に、エリカや球磨川を含めた皆が戸惑う。
「ミソギくん…覚悟してね?」
ほのかがニコリと可愛らしい笑顔を球磨川に向ける。
しかし、その笑みは可愛くも背後から鬼のようなオーラを発していた。
『…………!!』
「あっ、逃げた」
球磨川はほのかが本気なことに気づくと、「やってられるか」と言わんばかりに脱兎の如く逃げ去っていく。
雫はそれを見て呆れながら呟いた。
「待ちなさい!!」
ほのかもまた球磨川を追いかける。
その光景に残された皆は顔を見合わせた。
少しすると、息切れした球磨川の襟を掴みながらニコニコするほのかが戻ってきた。
そんな彼女に彼らはドン引きする。
球磨川もまた『また勝てなかった…』と呟いたとか。
◇
場所は打って変わり、生徒会室。
そこには副会長や書記といった生徒会メンバーではなく、風紀委員長である渡辺摩利や部活連会頭の十文字克人、そして生徒会長…七草真由美という、この学園における三巨頭が集まっていた。
「さて……九校戦の選手の方も決まりましたね。十文字君、ありがとう」
九校戦…正式名称【全国魔法科高校親善魔法競技大会】
毎年夏に開催される全国にある九つの魔法科高校から代表の生徒を集め、学校同士で競い合う魔法の競技大会である。
いわゆるインターハイのようなものでメディアも注目しており、ここで活躍すれ将来が約束されているとすら言われている。
「当然のことだ」
真由美がお礼を言うと、十文字は無愛想に頷く。
「エンジニアはどうするんだ?」
摩利の質問に真由美は悩む。
「うーん…。そこはまだ悩み中。これも重要だしじっくり考えましょう。それよりも問題は……」
そう言って真由美は一枚の紙をテーブルに置く。
それを見た彼らは一斉に頷いた。
「……こいつだな」
「コイツだな」
「こいつですね」
十文字は腕を組んで呟き、摩利も頷く。
真由美も釣られて、普段は言わないような呼び方をした。
「「「(球磨川(くん)をどうするか……!)」」」
学園始まって以来の問題児…。
彼をどうするかについて彼らは悩んでいたのだ。
「……今のところ…球磨川くんはどうなの…?」
真由美が摩利に尋ねる。
摩利は腕を組んで答えた。
「達也からの報告では、ここ三ヶ月間は大人しいそうだ。ブランシュの騒動以来、目立った動きをしていないらしい。普通に友人と過ごしていると聞いている」
それを聞いた真由美は一瞬だけ安心するも、すぐに用心するように眉間に皺を寄せる。
「…でも、油断はできませんね。この九校戦は三連覇がかかった私たちにとって何よりも重要な大会…。でも万が一、問題でも起こされたら……」
もしそんなことになれば球磨川を止められる者がいない以上、言葉では言い表せないほどの厄災となるだろう。
もちろん、第一校の名誉にも関わる。…というか最悪、出場禁止だろう。
「……一応、彼の友人が代表として新人戦に参加することになっている。応援くらいには来るだろう…」
十文字の言葉に真由美は自嘲する。
「でも、我が校の生徒である以上、「来るな…」なんて言えないしね……」
言えたらどれだけ楽か……。
三人は悩むも摩利が口を開く。
「…いっそ、スタッフとして登録するか?それなら私たちの監視下におけるだろう。彼の能力だって役に立つだろうしな」
球磨川の
確かに球磨川の過負荷なら選手の体調問題やらなんやらは一発で解決だろう。
しかし真由美が首を振る。
「……難しいでしょうね。球磨川くんは成績も最下位…そして、謹慎も受けてるわ。それに何よりも…彼の使う能力を説明することは難しい…。下手すれば、学校だけじゃ留まらない大騒ぎになる……」
球磨川の大嘘憑きは学校において三巨頭と達也たちといった一部の生徒のみの秘密となっている。
大嘘憑きの詳細が世に出れば、世界の危機にすら発展するからだ。
そのため、大嘘憑きについて知る達也たちは厳重に口止めされていた。
そんな球磨川の能力はオーバースペックすぎるためにどう引き下げて説明するにしても、混乱するのは必至だろう。
「それならどうするか……」
「………」
彼らは球磨川の処遇について考える。
しかし、一向に答えは出ない。
その時、突然、生徒会室の扉が開いた。
「…!?誰ですか?」
突然のことに驚く真由美…。
しかし、視線を向けても誰もいない。
「………?」
誰もいないことに首を傾げる真由美。
すると、床の方から声が聞こえた。
「あっ…。ごめ〜ん。こっちこっち〜」
「「「………!!?」」」
その姿に皆が驚く。
それもそうだろう。突然、扉が開いたと思えば、そこにいたのは抱き枕を抱いて寝っ転がる、ほぼ同年代であろうツインテールの女性だったのだから…。
彼らが唖然としていると、女性は口を開く。
「突然、ごめんね〜。球磨川先p…いや〜球磨川くんに〜〜ついて話があってね〜」
球磨川について話があるという女性は真由美達は警戒する。
「その前に…あなたはどちら様でしょうか?」
真由美の警戒を他所に女性はのびのびと話す。
「私〜?あれ〜自己紹介がまだだったっけ〜?」
真由美たちは彼女の独特なペースに戸惑う。
そんな彼女達に向けて話し続ける。
「私は〜〜。九校戦の役員の一人〜……
九校戦を間近に控えた第一校に大刀洗切子と名乗る女性が現れる。
しかも、目には【ねたい】と文字があしらわれたアイマスクを着けながら…。
彼女は一体、何が目的なのだろうか…。
こんにちは味噌漬けです。
少し書き溜めが溜まったので、本編更新します。番外編の方は九校戦の執筆が行き詰まったら書いてくつもりです。
ほのかちゃんは球磨川との決闘の結果、ヤンツンデレみたいな感じに変貌しました。微妙に過負荷に傾きかけてるので、案外スキルに目覚めるかも(笑)
今回は読んでいただきありがとうございました。