魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第二十五話 代表入りを祝して

 ある日、達也たちE組は体育の授業を受けていた。

 彼らがしているのは【レッグボールコート】というフットサルから派生した非魔法系スポーツである。反発力の高い壁や天井を利用した多角的にバウンドするボールのコースを読んだり、ゴールを決めることを楽しみとする競技だ。

 

「オラオラ!どきやがれ!」

 

 レオがドリブルしながら突っこむ。

 彼の筋肉質な肉体による突撃は他の生徒を怯ませていた。

 

「達也!!」

 

 レオが達也へとパスを出す。

 

「…………」

 

 勢いのあるパスを難なく受け取った達也はその視野と冷静な判断力でゴールまでの最短手順を導き出そうとする。

 すると、ゴールに向かって走る一人の生徒がいることに気がついた。

 

「(あそこか…)」

 

 達也は生徒に向けて壁を経由した鋭いパスを送る。

 彼はそれをあらかじめ読んでいたように難なく受け取ると、そのままゴールを決めた。

 達也はそんな彼を観察する。

 

「(読みが鋭い……それに見かけよりも身体が動く……)」

 

 あの達也をして認めるスペックの高さ。

 それは別のところでも明かされていた。

 

「(吉田(よしだ)幹比古(みきひこ)か……。二科生ながら学科試験では学年三位……)」

 

 そう幹比古は達也と深雪に続いて学科試験では三位という好成績を収めていた。

 そして達也はそんな彼の名字と出自にも注目する。

 

「(そして…あの()()()()の名門、吉田家の直系……。爪を隠した鷹か…。思わぬところに潜んでいたな……)」

 

 達也は球磨川という特大の爆弾に気を取られていたものの、身近に別の逸材がいたことに警戒する。

 達也が幹比古を観察している間も試合は続いていた。

 

「よっしゃ!もういっちょ決めてやれ!!」

 

 レオが幹比古にパスを出す。

 幹比古は頷くとボールを蹴って駆け上がり、シュートを撃った。

 

「うぉぉぉぉぉ!!もう決めさせるかぁぁ!!」

 

 ゴールキーパーは叫ぶことで自らを鼓舞し、シュートされたボールに噛み付くように飛び出す。

 その執念は身を結び、何とか手が触れることでボールの軌道がずれ、ポストに当たって弾かれた

 その時…

 

「あ…」

 

 誰かははわからないが、何かに気がついたように呟く。

 ボールを目で追ったレオは突然叫んだ。

 

「球磨川!危ねぇ!!」

 

『え?』

 

 弾かれたボールの直線上には『ゼーハー…ゼーハー…』と息切れして動けない球磨川。

 レオの声に気がついた彼は顔を上げる。すると……

 

『へぶしっ!!?』

 

 ボールは球磨川の顔面へと激突し、頬を殴り飛ばされられたように顔を歪ませて倒れ込んだ。

 それを見たレオが慌てて駆け寄る。

 

「おい!大丈夫か!?球磨川!」

 

 球磨川にボールが当たったのと同時にブザーが鳴った。

 球磨川は目を回しながら、ぐったりしている。

 とっても後味が悪くなったものの達也たちのチームの勝利で終わった。

 

 

「…ご、ごめん……大丈夫か…?」

 

 試合後、幹比古が球磨川に謝る。

 球磨川は頬をタオルで巻いた保冷剤で冷やしている。

 

『大丈夫なわけないでしょ』

『頭がシェイクになると思ったぜ』

 

「ほ…本当にごめん……」

 

 球磨川の言葉にシュンッと俯く。

 それを見たレオが慌てるように言った。

 

「そう責めないでやれよ球磨川…。あれは完全な事故だぜ?」

 

 レオがそう言うと球磨川はため息を吐きながら言う。

 

『……それもそうだね』『確かに吉田くんは悪くない』

 

 球磨川はそう言うと決意を込めた目で言う。

 

『仕方ない』

『この痛みの恨みは吉田くんと関係なさそうな誰かに何かして晴らすことにするよ!』

 

「ただの八つ当たりじゃねぇか!!」

 

 レオのツッコミに球磨川はヘラヘラ笑い指を振った。

 

『わかってないねぇ』

『やられたらやり返す。やられてなくてもやり返す』

『知らないやつには憂さ晴らし、知ってるやつには八つ当たり』

『それこそが人生を楽しむコツだよ?レオちゃん』

 

「嫌だわ…。そんな歪んだ人生の楽しみ方…絶対に嫌だわ……」

 

『それは残念』

 

 ヘラヘラ笑う球磨川とウンザリした表情で話すレオ。

 こんな二人の掛け合いを見た幹比古は唖然とする。

 そして彼は達也に話しかけた。

 

「えっと…司波…?」

 

「…達也で良い。どうした吉田?」

 

 そっけない態度ではあるものの、球磨川のカオスさに当てられた幹比古にとってはある意味安心感を与えていた。

 

「じゃあ僕も幹比古で良いよ。あんまり名字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」

 

 どんな事情があるのか、名字で呼ばれることを嫌う幹比古。

 達也はそれに対し、何も聞かず頷く。

 

「わかった。それで…なんだ?」

 

「あぁ…うん。球磨川っていつもあんな感じなのか…?悪い噂しか聞かないからな……」

 

 球磨川の悪い噂は今ではだいぶ落ち着いたものの、それでも今もなお彼を避ける人は多い。 

 幹比古はそこまで噂を信じる性格ではないのだが、球磨川が放つ過負荷が会話するのを躊躇わせていた。

 

「(…さて、なんて言ったらいいのか……)」

 

 球磨川について正直に(悪く)言うのは簡単だが、流石に本人の前では言いにくい。かといって良く言えば、いつか球磨川の餌食になるのは目に見えている。

 

「あれ?珍しい組み合わせじゃん」

 

 達也が悩んでいると、そこにエリカと美月が現れる。

 彼らがエリカの声に気がつくと視線を向けた。

 

「「なっ……!!?」」

 

『……!』

 

 エリカを見た男性陣は一斉に驚く。

 それもそうだ今のエリカは半袖とブルマーという太ももが露出した恰好をしており、更に体育による汗の照りが色っぽさを醸し出す。それはもう扇情的な姿をしていた。

 それを見た幹比古が顔を赤らめながら慌てたように口を開く。

 

「エ…エリカっ!なんて恰好をしているんだ!!?」

 

 幹比古の言葉にエリカは何ともないように返す。

 

「何って……伝統的な体操服よ?」

 

「伝統!?」

 

「ブルマーっていうの。知らない?」

 

 エリカがそう言うと我らがスケベ魔人球磨川が話し始める。

 

『おいおい』『ブルマーっていえば、今ではエロ本とかコスプレぐらいでしか見なくなった僕ら学生にとって生きた化石じゃないか……』

『いや、似合ってはいるんだ。むしろ似合いすぎて…エロさがもはや歩く18禁レベル』

『これはミソギポイントが高いぜ』

 

「なっ!?」

 

 ミソギポイントという謎のポイントをつけられた挙句、歩くエロ本みたいな評価を受けたエリカは顔を赤くする。

 そして次にレオが口を開いた。

 

「そうだ。思い出した。ブルマーって確か、昔のモラル崩壊時代に女子中高生が小遣い稼ぎのために売ったっていう……」

 

『…部活の勧誘の時もそうだけど…エリカちゃんって扇情的な恰好するのが好きだよね』

『意外にむっつりスケベだったりするのかな?』

 

 レオの言葉と球磨川のむっつりスケベ認定…。

 それらにより羞恥心がマックスになったエリカは顔をさらに真っ赤になった。

 我慢の限界となったエリカは大きな声で叫ぶ。

 

「バカァァァァァ!!サイッテェェェェ!!」

 

『ゲフッ!?』

 

 エリカから放たれた鋭い蹴りが球磨川の頬へとヒットする。

 

『な…なんで僕だけ…?』

 

 完全に自業自得である。

 球磨川はボールが当たった箇所と同じ部分を蹴られたことでのたうち回っていた。

 美月はそんな球磨川をゴミを見るような目で一瞥すると、そのまま放置して涙目なエリカに言う。

 

「エリカちゃん……。やっぱりスパッツにした方が良いよ」

 

「うぅっ…。球磨川君はおろかミキも変な目で見てたし…スパッツに戻そうかな…」

 

「ミキ?ミキって?」

 

 聞き慣れない単語に美月は首を傾げる。

 すると突然、幹比古が声を荒げた。

 

「エリカ!そんな女みたいな名前で呼ぶな!!」

 

 突然、声を荒げる幹比古に周りは驚く。

 そんな親しげな二人の関係性が気になったレオが言う。

 

「?お前らって知り合いだったのか?」

 

 レオの質問にエリカが答える。

 

「あぁ…。私達、いわゆる幼なじみなのよ」

 

「そうなのか。教室じゃ話してるとこ見たことないから意外だな」

 

「んー。ミキには授業中避けられてるしね。そう思われても仕方ないか」

 

「だから!ミキって呼ぶな!!」

 

 ミキと呼ばれると途端に怒る幹比古。

 そんな彼を見て、いつのまにか復活した球磨川がヘラヘラ笑いながら言う。

 

『信頼感と親近感のある良いあだ名じゃないか』

『そうだ!これからは僕もミキちゃんって呼ぶね』

 

「やめろ!!ますます女の子っぽい!!」

 

 全力で幹比古は反対する。

 二人の会話にエリカは腹を押さえて吹き出した。

 

「あ…ははは!ミ…ミキちゃん……か、可愛い…」

 

「エリカ…笑うな!!」

 

 幹比古が顔を赤くしながら怒ると、エリカは若干笑いながら話す。

 

「で…でも…ミキヒコって呼ぶのも噛みそうだし…。じゃあ!ヒコっていうのは?」

 

「なんでそうなる!」

 

 抗議する幹比古。

 そして球磨川がそんな彼に話しかける。

 

『おいおい』『名字は嫌だ。下の名前はあだ名禁止』

『僕はともかく幼なじみのエリカちゃんくらいには良いんじゃないかい?』

 

「良くない!」

 

 球磨川は声を上げる幹比古をスルーして言う。

 

『そもそもなんで名字で呼ばれるのが嫌いなんだい?』

『一番無難だと思うぜ』

『そんなに名字を嫌うなんて、ご先祖さまが泣いてるよ』

『もしかしてあれかな?実家から見限られて勘当でもされた?』

 

「!!」

 

 誰も触れなかった幹比古の地雷を平然と踏みしめる球磨川。

 そんな彼の言葉に幹比古は歯を噛み締めた。

 流石に見かねたのかエリカが球磨川に言う。

 

「球磨川君!そこまでよ。流石に言い過ぎ」

 

『あれ?冗談のつもりだったけど…』

『案外、当たってた?』

『ごめんね!ミキちゃん』『僕って正直者だからさ!』

『どこまで当たってるかは知らないし、興味もないけど』

『その寛大な心で許してよ!』

 

「球磨川君!!」

 

 エリカの言葉に球磨川はヘラヘラ笑いながら謝る。

 流石のエリカもふざけた態度をした球磨川に怒ろうとするも、その前に幹比古は立ち上がり球磨川を睨んだ。

 

「…君に…僕の何が分かる」

 

「あ!ミキ…!」

 

 悔しそうに歯を噛み締め、小声で言う幹比古。

 彼はそのまま球磨川を睨んでそのまま立ち去って行く。

 一言、小さい声で「…あの事故さえ無ければ……」と呟きながら。

 エリカは彼に一言かけるも、無視して去って行った。

 そんな彼の背中を見たエリカ達の間には気まずい空気が流れる。

 それでも球磨川はいつも通りヘラヘラ笑っていた。

 

 

 学校が終わり夕刻、達也たちはファミレスに来ていた。

 九校戦の代表に選ばれたほのか達のお祝いをするためである。

 

「えーと……それじゃあ!九校戦に参加する深雪と雫にほのか、そしてエンジニアとして代表入りした達也君たちを祝して!かんぱーい!!」

 

「「かんぱ〜い!」」

 

 エリカの音頭と同時に皆はグラスを上げる。

 そして各自が注文した料理を食べ始めた。

 

「にしても凄いな達也は。まさか二科生でエンジニアの代表入りするなんてさ」

 

 もぐもぐとハンバーグを飲み込んだレオが達也に言う。

 そう達也は二科生で初のエンジニアとしての九校戦の代表に選ばれるという快挙を成し遂げたのだ。

 

「…ありがとう。だが、桐原先輩や十文字会頭、そして生徒会の後押しがあってのことさ」

 

「そう謙遜するなって!聞いたぜ?お前、皆の前でCADの調整を披露したんだろ?しかも大好評だったらしいじゃねぇか」

 

 達也の代表入りは当然ながらも一科生から反発が来た。しかし、達也はハイスペックな競技用のCADを難しいマニュアル操作で調整。使用者にも違和感を感じさせない見事な技術を披露したのである。

 更に達也の力量を知る十文字会頭や服部副会長の支持によってチーム入りが確定することになったのだ。

 

「そうですよ。お兄様!私も…お兄様が代表入りするなんて誇らしいです…!!」

 

「…そうか」

 

 深雪が心底嬉しそう言うと達也も素直に頷いた。

 

「そういえばミソギくんは?連絡はしたはずなんだけどね。せっかくだからみんなで食べたかったのに…」

 

「確かにいない。珍しい」

 

 次にほのかが残念そうに口を開き、雫が頷く。

 そうこの場には何故か球磨川がいない。

 その疑問にエリカが答える。

 

「球磨川君なら一応……誘ったんだけどね。教室から直ぐに出て行っちゃったわよ。『行けない。ごめんね』って珍しく謝ってたわ』

 

「そうなの…?何があったんだろう……?」

 

 二人の会話を聞いた達也は考え込む。

 

「(…確かにあの時の球磨川は様子が変だった。いつもの笑みが消えていたほどに……)」

 

 球磨川はいつもヘラヘラ笑っている。強弱はあるものの基本的に人前で笑顔を崩すことはない。しかし、そんな球磨川がエリカの前で笑みを消すほど事態である。一体何があったのだろうか。

 

「(…調べてみるべきか……)」

 

 達也が球磨川の動向について探るかどうか考えていると、エリカが美月の異変に気がつく。

 

「………」

 

「どうしたの?美月?箸が進んでないけど…」

 

 美月はほうれん草のソテーの皿を前にして固まっている。

 何かを気にしているようだった。

 エリカが話しかけると美月はハッと我に還る。

 

「え?あっ、ごめんなさい。何でもないよ」

 

「…嘘よ。球磨川の名前が出た途端、ボーっとしてた」

 

 美月の言葉にエリカがツッコミを入れる。

 すると、美月は観念したように口を開いた。

 

「エリカちゃんには誤魔化せないね。いやね。幹比古くん大丈夫かなぁ…って思ってたの。球磨川くんの言葉を聞いた途端、様子がおかしくなったから…」

 

「ミキのこと?……そうね」

 

 エリカは頷くと考え込む。

 

「(はぁ…。やっぱり…まだあの事を引きずってるのかな…。それにしても球磨川君…。何で、こうアイツは人の地雷を平然と踏むのよ…。あの後、キツく言っといたけどさぁ…。あーもう!頭が痛くなる……)」

 

「エリカ……?」

 

 難儀な幼なじみと地雷を平気で踏み抜く球磨川。

 二人について悩んでいると、美月が声をかける。

 エリカはそれに気がつくと、首を振った。

 

「ううん!何でもないわ。ミキなら大丈夫よ。絶対にね」

 

 幼なじみへの信頼ゆえか確信を持って言うエリカ。

 その後、お祝い会は楽しく進んだ。

 

 

 

 

 一方そのころ…球磨川はというと。

 帰宅路の道路の真ん中である女性と相対していた。

 

『……色々聞きたいことはあるけどさ』

『まず一つだけ』『一体何のようだい…?』

 

『大刀洗さん』

 

「久しぶりだね〜〜球磨川先輩。あ、いや球磨川くんだっけ〜〜?あはは!今は私が歳上なんておもしろ〜い!」

 

 球磨川はヘラヘラ笑いながらもどこか警戒しながら大刀洗を見る。

 彼女はそんな視線を気にせず、のびのびと話す。

 

「それで何のよう?だったっけ〜?ん〜〜ここで話すのなんだし、場所を変えようか〜〜。私が奢るから安心してね〜〜」

 

『…相変わらずマイペースだね』

『まぁタダ飯にありつけれなかったわけだし』

『遠慮なくご馳走になるよ』

 

 球磨川はそう言うとため息を吐く。

 というか球磨川はほのか達に奢らせるつもりだったのだろうか。

 

「それじゃあ行こうか〜〜!乗って乗って〜〜!」

 

 大刀洗が指を鳴らすと、黒い車が迎えに来る。

 そして球磨川と大刀洗を乗せた黒い車はどこかへと走り去って行った、

 




授業後の話
レオ「つーかさ…顔の怪我、大嘘憑きで治せば良かったんじゃね?」
球磨川『あっ忘れてた』
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