魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
球磨川は大刀洗に連れられ、とあるレストランにいた。
どうやら大刀洗はここではVIPのような扱いになっており、貸切で尚且つ専用のベッドまで与えられている。
大刀洗は寝っ転がり、球磨川はテーブルについて相対していた。
「ど〜ぞ〜!今日は私がおごるから〜〜。球磨川くんって甘いもの好きじゃなかったっけ〜?」
『……それは後にするよ』
『それよりも』『なんで君が
球磨川は警戒しながら大刀洗に言う。
そう彼女は球磨川と同じ約八十五年前の時代にいた人物である。
彼女は箱庭学園の選挙管理委員会委員長であり、その手腕は誰もが認めるほどで球磨川ですら押さえ込まれたほどの才覚を持っていた。
しかし、今の彼女は球磨川が最後に会った時よりは少しだけ大人びているが、それでも若すぎる…。
「ん〜?あれ〜?球磨川くん知らないっけ〜?」
『?』
大刀洗の言葉に球磨川は首を傾げる。
すると彼女は説明し始めた。
「私、卒業して直ぐにね冷凍睡眠装置を作ったんだ〜」
『冷凍睡眠装置?』
「簡単に言うと〜コールドスリープってやつだよ〜」
コールドスリープとは人体を超低温で保存し将来に蘇らせることである。
見方を変えればある種のタイムマシンとも言えるだろう。
しかしこんなあっさりと言えるほど簡単に作れるものではない。
それをいとも容易く作ったと言えることから、彼女の異質さがわかる。
『…つまり、君はその中に入っていた…ってことだね』
『寝ることが好きな君らしいぜ』
球磨川が若干呆れながら言う。
そんな彼の言葉に大刀洗は笑いながら答えた。
「あはは〜〜。せいか〜い。でも、寝過ぎちゃったからか今はそんなに眠たくないんだ〜〜。寝たいのにね〜〜」
『それは気の毒だね』
『僕が意識を無かったことにしようか?』
『そうすれば寝れると思うよ』『まぁ、いつ起きれるかはわからないけどさ』
球磨川の物騒な提案に大刀洗は平然と断る。
「ん〜遠慮しておくよ〜。一応、頼まれたことあるしね〜〜」
『…?』『頼まれたことかい?』
「うん。君にも無関係じゃない話だから言っておくね〜」
大刀洗は続ける、
「私ね〜。九校戦開催競技参加団体管理課長ってやつに就任したんだ〜〜。いわゆる参加者を整理したり〜不正参加者がいないかチェックするお仕事ね〜〜」
『ふーん…』『ご苦労様』
『でも、僕は九校戦なんて出ないし興味ないかな』
球磨川はそっけなく言う。
しかし、大刀洗はそんな彼に微笑みながら話し続けた。
「言ったでしょ〜〜。君にも無関係じゃ無いって」
『何の話だい?』
「実を言うとね〜。九校戦ってとっても大規模な大会だから手が足りないんだよね〜」
九校戦はこの魔法が中心となるこの時代では、あらゆる点で重視される大会だ。
規模もそれなりに多く、人員も必要となる。
「だから〜。今年は参加高校から雑用のボランティアを募ることになったんだけど〜。球磨川くんには〜それに参加してもらいま〜す」
『え?』
『行くわけないじゃん。そんなの』
即行で断る球磨川。
しかし、それを予想していたのか大刀洗は一枚の紙を出して、球磨川に差し出す。
「そう言うと思ってたよ〜。でも、それは無理なんだ〜〜」
『……?』
球磨川は紙を受け取ると読み始める。
すると、驚愕の表情を浮かべた。
『っ!?』
そこには球磨川禊を当校の九校戦におけるボランティア委員として了承すると書かれていた。
しっかりと生徒会のハンコが押されている。
『おいおい』『たかがボランティアでここまでするかよ……』
「ざんね〜ん。たかがボランティアといえど、一応九校戦の末端中の末端の役員として扱われるから、ある意味学校の代表みたいな感じになるんだよね〜。だから、学校側の了承がいるんだよ〜。こんなこと進んでしたいと思う人は少ないけどね〜」
『……僕の意思は無視かい?』
「無視だね〜〜。でも〜球磨川くんのことだから暇でしょ〜?」
『…そうだね。ここまでされたら仕方ない…と言うとでも思ったかよ』
そう言って球磨川は螺子を大刀洗の眼前へと突きつける。
その顔はヘラヘラ笑いながらも冷たかった。
『僕に隠し事が通じると思ったかい?』
『がっかりしたよ大刀洗さん』『その程度の嘘がバレないとでも?』
一体、どこからどこまでが嘘なのか球磨川は目を細めながら睨んだ。
『きっと七草会長辺りから頼まれたんでしょ?』
『僕を見張るようにさ』『あの人たちは僕のこと嫌いだからねぇ…』
『まっ僕も嫌いだからお互い様だけどさ』
球磨川は続ける。
『でも、それは良いんだ』『僕如きを警戒する彼らの神経質っぷりはどうでもいい』
『問題は君だよ』『君には別の思惑がある』
『違うかい?』
過負荷を全開にしながら追求する球磨川。
空気が螺子曲げられる中、大刀洗はそれに対して何も動じずに言った。
「あはは〜〜!流石は球磨川先輩、目敏いな〜〜。でも〜〜嘘はついてないよ〜〜。時期が来たら自然に分かるってだ〜け〜〜」
大刀洗の意味深な言葉に球磨川は首を傾げる。
すると彼女は球磨川に向けて紙を差し出した。
「そうだ〜せっかくだから、これ見てみて〜」
『……なんだいこれ?』
『選手名簿とかじゃなさそうだけど』
「流石に選手名簿は見せられないよ〜」
『………』
『……へぇ。確かにこれは興味深いね』
球磨川は大刀洗が渡した紙を読んでニヤリと口角を上げると、テーブルに紙を置く。
そして、彼はテーブルに座り天井に向けて顔を上げた。
『なるほどね』『これが君の切り札か』
『確かにこれは行ってみても良いかもしれない…』
球磨川はそう言うと大きくため息を吐いた。
『…全く僕の心をここまで揺さぶるなんてね』
『流石は大刀洗さんだぜ』
『……あーあ。また勝てなかった』
そして球磨川は続ける。
『わかったよ』
『一応、君とは旧知の仲だしね。もう少し、君の嘘に付き合ってあげよう』
『それで良いんだよね?』『大刀洗さん?』
球磨川の言葉に大刀洗は満足気に頷く。
「だから嘘をついた覚えはないよ〜〜。さ〜て〜予定も終わっちゃったしどうする?一緒にゴロゴロする?」
さっきまでの緊張感はどこに行ったのやら、大刀洗はポンポンとベッドを叩く。
まるで球磨川を誘っているようだ。
『…性格の悪さといい、本当に君は変わらないね』『大刀洗さん…』
球磨川は少し呆れながら言う。
しかしその顔はどこか楽し気だった。
こうして互いに腹を探り合う交渉は終わる。
一体、球磨川の興味を引いたものとはなんだったのだろうか。
◇
一方その頃、お祝い会を終えた達也と深雪は家で談笑していた。
「お兄様!楽しかったですね!」
深雪の笑顔を見た達也もまた微笑む。
「…そうだな」
達也が同意すると、深雪は嬉しそうに立ち上がって言う。
「せっかくですし、お茶に致しましょうか。良い茶葉が手に入りましたの。淹れてまいりますね」
深雪はそう言うと台所へと向かっていた。
達也も手伝おうとするも、その時電話が鳴る。
「(…?誰だ?)」
達也が電話に出ると画面に映ったのは国防陸軍
達也は小さい頃より、軍に所属しており風間とはそれ以来の付き合いである。
[久しぶりだな。特尉]
「お久しぶりです。…その呼び方をするということは秘匿回線からですか。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
[まずは事務連絡だ。本日、【サード・アイ】のオーバーホールが完了した。これに合わせてソフトウェアのアップデートと性能テストを行ってほしい]
「分かりました。明朝、出頭します」
[いや、学校を休むほど差し迫っている訳ではないが]
「いえ、次の休みには
達也がそう言うと風間は眉間に皺を寄せて言う。
[…高校に入ったというのに、相変わらず学生らしくない生活を送っているようだな……]
「仕方ありません」
[……そうか。では明朝、いつもの所へ出頭してくれ]
「了解しました」
達也が了承すると、風間は次の話題に移る。
[ところで…… 。聞くところによると特尉、九校戦には君も参加するようだな]
「(…ほんの数時間前の情報をどうやって……)」
達也は風間の耳の速さに驚く。
「……はい」
達也が頷くと、風間が意味深に言う。
[気を付けろよ達也]
「……?」
達也が少し困惑すると、風間が理由を述べた。
[九校戦の開催地である富士演習場南東エリアにて国際犯罪シンジケートの構成員らしき者が何度も目撃されている。時期的に見て九校戦が狙いだろう]
ブランシュの次は国際犯罪シンジケートである。
九校戦には優秀な魔法師の卵が集まる。そこを叩けば、人材面での被害が大きい。
達也はどんどんと悩みの種が増えていくことにため息が吐きたくなった。
[確か名前は【
「…どうやって正体を特定したのですか?」
流石に仕事が早すぎることに達也は訝しむ。
[壬生に調べさせた]
「壬生……?もしかして、第一高校二年生、壬生紗耶香のお父君ですか?」
[ああ。そうだ]
達也の中で壬生といえば沙耶香のことである。
まさか壬生の父親が軍関係に所属していたことに達也は驚いた。
壬生の父親と達也は壬生の退院時に少しだけ話している。
どうやら自身の仕事にかまけていたせいで心が病んでいたことを気がつかなかったことに、親としての責任を感じていたようだった。
[壬生は退役後、内閣府情報管理局に転籍して、外国犯罪組織を担当している。情報も集まってはいるが奴らの目的は未だ不明だ。それに……]
風間は言葉を濁す。
「どうかしましたか?」
達也が尋ねると、風間は首を振った。
[いや、何でもない。追加情報が入り次第、また連絡しよう]
「…そうですか。お願いします」
達也は気にはなったものの、軍には秘密がつきものである。これ以上、追及するのを辞めにした。
それを最後に彼らの会話が終わる。
風間との連絡を終えた達也は深雪とのお茶を楽しんだ後に、地下室へと向かった。
そこにはパソコンなどの機器が揃っており、高校生の部屋というよりも一企業の研究室といっても過言ではない設備が整っている。
「お兄様?何の御用でしょうか」
達也に呼ばれた深雪は地下室のドアを覗き込む。
すると深雪は異変に気がついた。
そう、達也が浮いていることに…!
「お兄様…これはもしかして…
深雪は驚愕の表情となると、達也は静かに頷く。
すると、彼女は大興奮しながら達也に抱きついた。
「おめでとうございます!!ついに、常駐型重力制御魔法が完成したのですね!!」
心の底から嬉しそうな深雪。
「あの…不可能とされた難問を…!私はお兄様の妹であることを誇りに思います!」
そう飛行術式とは加速や減速、上昇や下降など魔法を行使する上で必要な処理が他の魔法よりも段違いに多い。そのため、人間の処理スピードでは不可能だと思われた。しかし、達也はその部分を機械に委託するというシンプルな手法で実現したのだ。
「ありがとう深雪。早速だけど、深雪にテストしてもらいたいんだが…」
「喜んで!!」
達也の頼み事を、深雪な喜びながら頷く。
深雪は達也からデバイスを受け取ると、早速テストを開始する。
「始めます」
深雪はそう言うとデバイスのボタンを押し、想子サイオンが注がれる。
深雪を魔方陣が包むと、彼女は浮き始めた。
「………っ!!」
深雪は感動のあまり言葉を失う。
人そのものが空を飛ぶ。
それは古代からの人の夢である。飛行機などの機器により空を飛ぶこと自体は成功しているが、それはあくまで人が飛んでるのではなく飛んだ機械に人が乗っているだけ。人が自由自在に飛び回るのは不可能とされてきた。
しかし達也はそんな固定概念を覆したのだ。
「どうだ?気分は悪くないか?」
「だっ…大丈夫です」
達也の言葉に我が返った深雪は慌てて言う。
それほど感動していたのだろう。
「それじゃあ深雪…次は水平移動してくれ」
「はい!」
こうしてテストは進んでいく。
達也は飛び回ることを楽しむ深雪に微笑みながらも、どこか胸騒ぎを覚えていた。
「(…それにしても、風間少佐は何を言いかけたんだ……?)」
先程の電話…風間は間違いなく何かを伝えようとした。
「(考えられるのは…まだ確定していない情報か…国家機密か…。考えすぎかもしれないが、球磨川の異変も関係あるかもしれない……。いずれにせよ、九校戦…無事では済まないのかもしれないな…)」
達也は九校戦で起こり得るだろう事件に悩む。
様子がおかしかった
彼はそれ相応の警戒心を持って九校戦に臨むことを決意した。