魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
先程の事故の後、無事に懇親会の会場へと着いた深雪と達也。
彼らは他の生徒から離れ、二人きりで話していた。
「お兄様…その話は本当ですか…?」
「あぁ…本当だ…。あの車には…
達也が神妙な顔つきで言うと、深雪は戸惑いの表情を見せる。
「つまり…ただの事故だったということですか?でも…」
深雪が納得いかないのも当然だ。
深雪や十文字達の手により大事には至らなかったが、タイミング的にも第一校の九校戦出場を邪魔するためにしか思えなかった。
「…確かに魔法は使われてはなかった……。だが…気になる部分はある」
「気になる部分ですか?」
「ああ。車の中を少し覗いたんだがな。事故が原因とは思えないような引っ掻き傷や血の跡が見つかった。まるで、車内で
「つまり…車ではなく、運転手に何かが仕掛けられていた…?」
深雪の言葉に達也は頷く。
「…その可能性は高い。それが魔法によるものなのか、薬物によるものなのかは…まだわからないけどな…」
いずれにしても相当な苦しみだったのだろう。
遺体を見ることが出来れば、何かわかるだろうが今の状況では出来なかった。
「「………」」
一体何者の仕業なのか…。
二人の間の空気が重くなる。
すると、そんな彼らを呼ぶ声が聞こえた。
「あっ!深雪〜!達也くん!」
「「!」」
ほのかである。
「みんな待ってるよ〜!そろそろ懇親会が始まるって!」
二人の懸念を他所に元気に振る舞うほのかを見て、彼らは毒気が抜かれる。
深雪はそんな彼女に向けて口を開いた。
「わかった。今すぐ行くね」
深雪がそう言うと達也と共にほのかの元へと歩く。
しかし、その顔は晴れなかった。
◇
懇親会の参加者は選手だけでも三百人を悠に超える。
そのため使われる会場もそれ相応に豪華かつ広い宴会場で行われるのだ。
この輝く装飾と相当な数の参加者を見て、達也と深雪は珍しくも圧倒される。
「わあ…!本当に全国の魔法科高校生がここに集結しているんですね」
「いよいよ明後日、九校戦が開幕するということだな……」
そんな二人の元に見知った顔が現れる。
「お飲み物はいかがですか〜?」
「「!」」
二人は飲み物を運んできた給仕係に驚く。
「エリカ!?なんであなたが…?」
彼らの元に現れたのはメイド服を着たエリカであった。
「バイトよバイト。コネってやつかな」
「コネ?」
そうエリカは千葉家の娘。十師属を含む二十八の家系に次ぐ位の家柄、【百家本流】の一つというれっきとした
今回、彼女はそのコネを活かしアルバイトという形として懇親会もとい豪華ホテルへの侵入を果たしていた。
「さすが千葉家!だから軍用施設も使えるのね」
エリカの説明を聞いた深雪は感心する。
「まぁ色眼鏡で見られるのは好きじゃないけど、コネは利用しなきゃ損だしね」
エリカは続ける。
「それに…美月やレオ、ミキも来てるわよ」
「あいつらも来てるのか…」
達也が返答すると、深雪が首を傾げる。
「「ミキ」ですか?」
「あっ!深雪は知らないんだっけ?じゃあ、折角だし呼んでくるね」
エリカはそう言うと、人混みの中を歩いて行った。
すると、置いてけぼりにされた彼らの元にほのかと雫が現れる。
「深雪!達也くん!」
「雫、ほのか!」
彼女達に気がついた深雪はキョロキョロと見渡す。
「他の一年のみんなは?」
「あっち」
深雪の疑問に雫は指を差して示す。
その先には達也たちを気まずそうに見ている、森崎を始めとした他の一科生の面々がいた。
それを見たほのかは苦笑いする。
「深雪と仲良くなりたいんだろうけど…前にミソギくんがやらかしちゃったし、達也くんもいるから近づきにくいんだろうね」
というか球磨川にメンタルフルボッコにされても言い寄ろうとする一科生の面々は尊敬に値するだろう。
流石はエリートといったところか。
「特に球磨川はいつ這い出るかわからない。そりゃ怖いよ」
「ちょっと!雫、そんなミソギくんを虫みたいに!」
ほのかは抗議するも、雫の言ってることは割と的確である。
「……」
雫とほのかのやり取りを見た達也はため息を吐く。
すると深雪に視線を向けた。
「深雪、みんなの元へ行っておいで」
「ですが、お兄様……」
「また後でな」
深雪は残念そうにするも、気を遣っている達也に何も言えなくなる。
「雫、ほのかもまた後でな」
達也がそう言うと深雪達は仕方ないと別れる。
そうして深雪と達也は一旦、別行動となった。
◇
達也と別れた深雪達は三人で会話を楽しんでいた。
その最中、赤い制服を着た三人の女子生徒が来る。
その中の中心人物である金髪の美少女が深雪に話しかけた。
「さ……さぞかし名家の御出身とお見受けするわ。私は第三高校一年、一色愛梨。そして同じく十七夜栞、四十九院沓子よ」
一色愛梨。彼女もまた師補十八家に連ねる一色家のエリートである。
一色は辿々しく自己紹介すると、深雪もまた丁寧に口を開いた。
「第一高校一年、司波深雪です」
「司波……?」
一色は「司波」という名字について脳内で検索する。
しかし、彼女の脳内リストにはそのような家名は存在しない。
つまり、名家でもなんでもないと判断した目の前の娘を前に一色は先程の辿々しさから一転、見下すように言い放った。
「あらぁ、
「……!」
「……」
あからさまに見下した発言に深雪は返答に困る。
側にいる雫も友人が馬鹿にされ、良い気持ちではない。
しかし懇親会という手前、選手である以上、トラブルを起こすのは望ましくない。そのため、雫は怒りかけたほのかを止めに入っていた。
『ふーん』『流石はエリートだね』
『そんな即行で咬ませ犬扱いされるベタなモブキャラみたいなセリフを吐けるなんて』
『君のその面の厚さと小者っぷりは尊敬しちゃうぜ』
「「!!」」
パーティー会場に男の声が響いた瞬間、その場にいる者たちは全員悪寒を感じ取った。
その声の主、球磨川は「トコトコ」と足音を出しながら深雪たちに近づいていく。
その姿は異様に不気味で気持ち悪い。
「球磨川君!?」
「球磨川…?」
「ミソギくん!?」
突然、現れた球磨川に深雪達は驚く。
一色もまた得体の知れない存在に慄いていた。
「(な…なによ…。こいつ……?この私が寒気…?こんなやつに怯えているとでも言うの…?)」
一色が無意識に腕を見ると、鳥肌が立っているのがわかる。
しかし、そこはエリート中のエリートである一色。
いかにも貧弱な目の前の男に怯えていることを認めるなどプライドが許さない。
「…そこの貴方…。今、何て言ったのかしら?」
一色は鋭い目つきで球磨川を睨む。
並大抵の男ならこの視線だけで怯ませることができるほどのプレッシャーを放っていた。
しかし、目の前の男には通じない。
『あれ?聞こえなかったのかい?』
『流石はエリート様だ』『都合の良い耳をしてるぜ』
『いや、咬ませ犬は難聴で鈍感なのがデフォだ』
『そう考えると、まさに君は最近のジャンプでも見ない咬ませ犬中の咬ませ犬』
『良かったね!その時点でこの辺にいる名も無きモブキャラよりはマシな待遇だよ!』
「……小者…モブキャラ……咬ませ犬ですってぇぇぇ」
愛梨は球磨川の言葉に顔を茹で蛸の如く真っ赤にする。
やっすい煽りではあるのだが、一色を刺激するには十分だった。
「愛梨、落ち着いて!」
「ここで挑発に乗るのは相手の思う壺じゃぞ!」
キレている愛梨を他の二人が何とか止めようとする。
その甲斐あって、愛梨は一旦落ち着きを取り戻した。
「…ふぅ。貴方、言ってくれるじゃない。この一色家の娘たる私にそんな言葉を吐けるなんてね。度胸だけは認めてあげるわ」
『な、なんだってー!!』
『あ、あの一色家かい!!?』
球磨川は両手を上げ、大きな声を上げて驚く。
一色は自分の家名を強調することで、目の前にいる不躾な男に身の程というものを教えようとしていた。
彼女は自分の目論みが成功したと思い笑みを浮かべる。
しかし…
『で、一色家って何?』『美味しいの?』
球磨川の空気をぶっ壊す発言に、周りにいる者達は「ズコッ!」と音を立てるが如くずっこけた。深雪も一色も、例外なく腰が砕ける。シンクロナイズドスイミングのような見事なコケっぷりであった。
「貴方ぁ…バカにしてるのかしらぁ……?」
一色は体勢を整えながら、球磨川を睨みつける。
しかし、球磨川はというとヘラヘラ笑いながら口を開いた。
『おいおい』『別に馬鹿になんてしてないぜ?』
『むしろ褒めてるじゃないか』
『なんでそんな機嫌が悪いんだい?』
『わけがわからないよ』
某白い生物みたいな発音で煽る球磨川。
そして彼は何か思い付いたような顔をすると、一色に向かって指を差す。
『あー!』『ひょっとして勘違いしてる?』
『全人類が君のことを知っているとか!』『自分こそが最も優れてるとか!』『さ!』
球磨川は続ける。
『うわっ恥っずかしいー』『自意識過剰ー』
『どれだけ自己中な考え方してんの君!』
『自分のことをそーんな重要人物だと思いながら日々生きてるんだ。おもしろーい』
「こ…この言わせておけば……」
「く…球磨川君…そ、そこまでに…」
球磨川からポンポン出る煽りに拳を握りしめる一色。
ぶっちゃけ殴っても許される。というか、同情すらされるだろう。
球磨川の煽りを聞いている他の学校の生徒達も妙に言葉が心に刺さり苛々していた。
深雪も流石に球磨川を止めようとするも、サクッとスルーされる。
『君みたいな如何にもな咬ませ犬は』『深雪ちゃんみたいな主人公の踏み台にしかならないっていうのにねぇ』
球磨川はボソッと呟くと、天井を指差して口を開く。
『でも大丈夫!』『安心して!』
『君達みたいな個性のない』
『その他大勢で』
『もう出番が無さそうな』
『モブキャラのみなさんの遺志は』
『我らが第一高校が継いでみせるから!!』
大会すら始まっていないのに、この言葉。
球磨川の声が会場に響き渡ると、空気が一瞬凍っていく。
そして会場がざわつき、ようやく騒ぎを聞きつけやってきた真由美は真っ青になった顔を両手で抑えて座り込み、それを摩利が肩を叩いて慰める。そして達也は額に手を当てて、ため息を吐いていた。
球磨川に対して敵視の視線が集中するも、球磨川は全く気にしていない。
「あ…あんたねぇ……」
一色は上品な言葉使いを忘れ、球磨川を睨む。
しかし次の瞬間、球磨川の言葉が霞むレベルの出来事が起きた。
「……なぁに…やってんのぉぉぉぉ!!」
『ぎゃふっ!?』
「ほのか!!?」
球磨川に目掛け飛び込んできたほのかが彼に飛び膝蹴りをかます。
深雪は突然のほのかの暴行に目を丸くした。
「なに九校戦の参加者みんなに喧嘩売ってんのよぉぉぉ!もぉぉぉ!!」
そしてほのかは球磨川に馬乗りになり往復ビンタを食らわせる。
周りの生徒達もポカーンとしていた。
『ちょ…ちょっと』『ほのかちゃ…げふっ!!』『ボグッ!?』
ほのかはやめない。
球磨川の顔が腫れてもなお叩き続ける。
「ミソギくんのぉぉぉ…」
そしてほのかは球磨川を襟を掴み、無理やり立たせる。
球磨川との決闘以降、武術を習い身体をビシバシ鍛えてきたほのか。
今の彼女なら火事場の馬鹿力も相まって軽い球磨川くらいなら何とか持ち上げることが出来た。
「お馬鹿ァァァァァ!!!」
『えっ…?』『うそーー』
ほのかは球磨川を持ち上げ、仰け反りになる。
そしてその勢いのまま、球磨川の頭は床へと吸い込まれた。
『プゲラッ!!?』
見事なジャーマンスープレックスを決めたほのか。
球磨川は『ま…また勝てなかった…』と呟いて気絶する。
その鮮やかなKOに選手の中には思わず拍手していたものすらいた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
一連の動きで息を切らすほのか。
そんな彼女に雫がツンツンと指でつつく。
「ほのか、周り見てる」
「ハァ…えっ?あっ!!?」
我に返ったほのかが周りの見渡してみると、自身を囲む視線に気がつく。
そして彼女は気絶している球磨川の傍ら、全力で頭を下げた。
「そ…その。皆さん…ここにいる馬鹿が失礼いたしました!!彼にはしっかりと、よく、全力で説教いたしますのでご容赦ください!!それでは失礼いたします!!」
そしてほのかは球磨川の襟を掴んで会場の外へと出て行く。
その姿にドン引きする九校戦参加者達。
この一連の球磨川に対する暴行を見た参加者達は「第一校ヤベェ…」と言い、ほのかもまた自身の名前も相まって後に【第一校の
こんばんわ味噌漬けです。少し書き溜まったので投稿します。
今回は球磨川が散々煽り散らかした結果、七草生徒会長の胃が大ダメージを受けました。胃薬が必要になるのも時間の問題かもしれません。
話を変えますが、技名やら異名とか考えていると自分のネーミングセンスの無さに呆れ果てるばかりです。こればっかりは仕方ないんですけどね。
今回は読んでいただきありがとうございました。