魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第三十一話 暴走

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 侵入者との戦いが終わった次の日のまだ暗い明け方。

 幹比古はホテル前の公園にて、一人で鍛錬を行っていた。

 

「……くそっ!!」

 

 彼は額に汗を掻きながら、滅多に言わない悪態を吐く。

 昨日、プライドが傷つけられた結果、彼は眠ることが出来なかったらしい。そのため、今の彼は荒れに荒れている。

 彼の脳内には前日の球磨川の言葉が巡っていた。

 

(『結局のところ、君はこう言いたいんでしょ?』『「自分が弱いのは、上手くいかないのは過去が原因だ。だから僕は悪くない」ってさ』)

 

「(違う……)」

 

 彼は一旦、落ち着くために目を閉じて瞑想するも、頭の中にいる球磨川が邪魔をする。

 幹比古の目に映る球磨川はヘラヘラと幹比古を嘲笑していた。

 

(『ここで即答できないあたり、君の悩みはその程度なんだろうね』)

 

「(…うるさい……!)」

 

 幹比古は頭をぶんぶん振り回し、球磨川の幻影を振り払おうとする。

 しかし、それでもなお球磨川の幻影は囁き続けた。

 

(『君はただ言い訳が欲しいんだよ』『失敗した時の言い訳がさ』『だから君はありもしない、たらればにみっともなく縋ってる』『答えられないのも、それがなくなるからでしょ?』)

 

「黙れぇぇぇっ!!」

 

 乱暴に振り上げられる呪符。

 脳裏に映る球磨川の幻影を打ち消そうと魔法を発動しかけるも…理性がそれを抑えた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 顔を赤くしながらも、呪符を持った腕を下ろす幹比古。

 呪符の感触が昨日の夜に起きた出来事を思い出させる。

 

「(僕は…何も出来なかった…。それどころか…!!)」

 

 幹比古は助けるつもりが助けられた。自身の油断のせいで…。

 しかも幹比古を救ったのは劣等生かつ問題児として有名な球磨川である。

 球磨川の弱さはクラスでも知れ渡っている。実技はCADすら起動するのでやっと。学力も相当低い。そんな彼に助けられたこと自体が幹比古のプライドを傷つけていた。

 

「(僕は…僕は…!)」

 

 頭を抱え、己の弱みに苦悩する幹比古。

 今まで目を逸らしてきたことが、今になって返ってきたことで彼の頭はパンクしていた。

 

[あきゃきゃっ!面白いものみーっけ!]

 

 突如、公園に響く女の子の声…。

 その声に幹比古は頭を上げる。

 

「誰だ!?」

 

 聞き覚えのない声に幹比古は驚く。

 しかし、そんな彼に構わず女の子の話は続いた。

 

[とっても苦しそうだけど、何を隠してるのかなー?気になるなぁ…?そのドス黒い感情♪]

 

「………っ!?僕は…!」

 

 女の子の声は可愛らしいものの、幹比古の耳にはおぞましく不快なものにしか聞こえなかった。

 

[アンタの憎しみ…恨み…嫉み…僻み…。ぜーんぶ見てた]

 

「……ふざけるな。僕はそんなこと…」

 

 無視すれば良い。それはわかっているはずなのに、なぜか無視が出来ない。

 いや、しようとすればするほど、幹比古の心がざわついていくのだ。

 

[あきゃきゃっ!あたしにはわかってる。アンタのドス黒い感情が…。人を…運命を恨む想いが…]

 

「…!」

 

 運命…。その言葉に幹比古は自身の過去を思い出す。

 かつて彼は吉田家の神童と謳われ、期待されていた。しかし運命の悪戯か、【星降ろしの儀】と呼ばれる儀式に失敗。その影響か、上手く魔法を使うことが出来なくなってしまった。

 もしも、その事故さえなければ彼は間違いなく一科生として入学していただろう。さらに、この九校戦にも間違いなく出場できた。

 幹比古にはそれだけの才覚があった。

 しかし、その才覚は事故によって無くしてしまう。

 その喪失感と未練、嫉妬は自身の過去に対する憎しみとして残っていた。

 

[気になるなぁ…。アンタは何を…誰を憎んでるのかなぁ…? ねぇ……]

 

 そのおぞましい声はどんどんと幹比古の身体をまとわりついていく。

 その声を聞くたびに幹比古の中のドス黒い何かが湧き出していた。

 

「うっ!?」

 

 幹比古は胸を押さえて疼くまった。

 まるで何かに抵抗しているかのように冷や汗を掻き、歯を噛み締める。

 

「(なっ…なんだこれは…?ぐっ…あ……!?)」

 

 幹比古の心を何かが蝕んでいく。

 まるで胃の中から何かを吐き出すような苦しみと痛み…。

 そして何故かそのたびに幹比古の脳裏にはヘラヘラと嘲笑する球磨川かチラついていた。

 

[教えてよ♪]

 

 そんな幹比古を木の裏から観察していた金髪の少女…。

 彼女はその言葉を最後に…ヘラリと笑った。

 

 一方その頃、美月はバイトの時刻になっても来ない幹比古を探すため、ホテルの近くの林へと向かっていた。

 

「(幹比古君…大丈夫かな…)」

 

 美月が思い出すのは、昨日の夜に泣きながら走り去る幹比古の姿。

 彼女は球磨川によってメンタルを傷つけられた彼を慰めることもできなかった自分を不甲斐なく感じていた。

 

「(……あの時、私が幹比古君を追いかけていれば…)」

 

 彼女の心の中に後悔の感情が湧いてくる。

 しかし、あの状況で美月が幹比古を追いかけたとしても逆効果だっただろう。

 

「あれ?美月じゃない。おはよ〜う!」

 

 そんな彼女に挨拶するのはほのかであった。

 ほのかは運動中なのか、ジャージに短パンと運動向けの服装をしている。

 美月はその声に気がつくと、無理やり笑顔を作り返事をした。

 

「おはよう。ほのかちゃん。何でここに?」

 

「私?私はランニング中。日課なの」

 

「そうなんですか。明日から本番ですし、無理しないでね」

 

 たわいもない会話をする二人。

 しかし、ほのかは美月の様子が少し変なことに気がついた。

 

「…大丈夫?美月?何か変だけど……?」

 

「え?……いや、大丈夫ですよ?」

 

「うーん…。そう…。何かあったら言ってね!力になるから」

 

 朗らかな笑顔で言うほのか。

 美月はそんな彼女の笑顔に少しだけ気分が落ち着いた。

 しかしそんな中、林の方から何か大声が響く。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「「!?」」

 

 その咆哮に驚く二人。

 

「今のは!?」

 

「行ってみましょう!!」

 

「あっ!美月!!」

 

 嫌な予感から衝動的に美月は走る。

 林の方へと走る美月をほのかが追いかけた。

 

「えっ!!?」

 

 林の中についた美月が衝撃のあまり大きく目を見開いた。

 それもそうである。彼女の目の前にいたのは、探していた吉田幹比古だったのだから。

 しかし、彼の様子は尋常ではない。顔を赤くし、眉間にには皺を寄せ、眼が血走った…いつもの淡麗な顔からは考えられない表情をしていた。

 

「うっ…ぐぐぐ……」

 

 だが突然、胸を抱えて苦しみだした。

 その姿を見て、ほのかは困惑しながら美月に聞く。

 

「美月、こ、この人は…?」

 

「……クラスメイトの吉田幹比古君…。でも…」

 

 今は明らかに様子がおかしい。

 幹比古は美月に気がついたのか、ぶつぶつと話し始める。

 

「う…ち…違う…。だ、ダメだ…。僕ハ…ボクは…!」

 

「幹比古君!」

 

 うめき声を出しながら、幹比古は苦痛に苛まれている。

 呂律も回っておらず、正気ではないのは明らかであった。

 幹比古は必死の思いで理性を保ち、美月に訴えだす。

 

「は…ハやク…二げ…ろ!!!コノまマじゃ…」

 

 幹比古は手を伸ばし、心配して駆け寄ろうとする美月を止めようとする。

 だが、全力で保とうとした彼の理性は限界を迎えようとしていた。

 

「ぐ…!?あぐぐ!ミるn…ソンナmで見るナ見ルナミルナミルナミルナミルナーー」

 

「ひっ!?」

 

 幹比古は顔を押さえ、もがくように身体が暴れ出した。

 その様子に美月は怯えてしまう。

 そして、限界が超えたのか幹比古は天へと向かって叫び出す。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

 完全に狂ってしまった幹比古。

 彼を動かすのが何なのかはわからない。しかし…彼の中にある衝動は我慢の限界を迎え、見境なく呪符を振り翳した。

 

「えっ!?」

 

 幹比古から放たれる光弾

 発動まではラグがあったものの、不意を突かれ、なおかつ幹比古の叫びに腰を抜かした美月は避けることできない。

 

「美月! 危ない!!」

 

「!?」

 

 魔法が当たりかけた瞬間、ほのかが美月を突き飛ばす。

 しかし、その勢いで美月の方へと前進した彼女に魔法が直撃した。

 

「キャァァァ!!」

 

「ほのかちゃんっ!!」

 

 ほのかは吹き飛ばされ、木へと激突する。

 

「ゲホッ」

 

 彼女は息を吐き出すと、そのまま倒れて動かなくなった。

 

「ほのかちゃん…? ほのかちゃん!!」

 

 懸命に呼びかける美月。

 しかし、気を失っているのかほのかが返事をすることが無かった。

 

「(私を庇ったばっかりに…)」

 

 彼女の心の中に罪悪感が蠢く。

 実際、こうなったのは美月が何も考えずに行動したのも原因の一つだ。

 

「(そうだ…。まずは携帯で…!)」

 

 まずは救急車、そして頼れる友人達か。残念なことに今の美月に幹比古を止めるほどの力はない。人を抱えて逃げる筋力もない。それは美月自身が自覚していた。

 幹比古を止めるには頼れる友人達の力が必要になる。

 

「あれ…?ない!!」

 

 ポケットを探る美月。

 しかし、いくら探しても携帯は見つからなかった。

 

「(もしかして…休憩室のロッカーの中?)」

 

 美月は従業員用の休憩室に携帯を置いていったことを思い出す。

 

「(マズイ…ど、どうしよう…)」

 

 側には怪我人、目の前には狂人、そして時間帯的に人はいない。

 まさに絶対絶命である。

 だが、そんなことは今、暴れている幹比古には関係ない。

 

「ボクha!違ウ!シアわせもの!?ぢがウ!!」

 

 もはや支離滅裂で何を言っているのかわからない。

 そして次の瞬間、何かに気がついたのか幹比古は目をカッ!と見開き、別の方向に火炎弾を発射した。

 

「そkoカぁ!!」

 

『うわっ!』

 

 発射された火炎弾は木々の隙間を抜けて飛んでいく。

 その中から誰かが飛び出して来た。

 

『危ない危ない』『ジャンプ読む場所、探してたら』

『えらい目にあったぜ』

 

「球磨川君!?」

 

「クゥマァガァワァ!!!」

 

 突然現れた球磨川に驚く美月と、なぜか親の仇を見るような殺意を向ける幹比古。

 

『全く…一体何が……』

 

 球磨川は辺りを見渡し、倒れ伏すほのかに一瞬だけ目を向けると、すぐに幹比古にヘラヘラした笑みを見せた。

 

『ふーん』『なるほど』『大体、状況はわかったよ』

『反抗期か何かかな?』『ミキちゃん』

『そんな歳になって非行とはね』

『お父さんとお母さんが悲しむぜ?』『これだから幸せ者(プラス)は…』

 

 意味不明な煽りをぶつける球磨川。

 だが、そんな煽りでも幹比古は激昂する。

 

「ふzaケルナ!!ボくはプraSジャなイ!」

 

『いーや、君はただの幸せ者だ』

『お前みたいな幸せ者が不幸者(マイナス)面してるだけで』

『腹が立ってくるよ』

 

 そして球磨川はユラユラと立ち上がる。

 しかし、その濁った目は一切幹比古から離さない。

 その姿は粘着質なスライムの如き不気味さを醸し出す。

 

「うるサイ!ゼンぶお前ノせいだ!!ぼくのコトnaNiも知らないくせニ!!」

 

『おいおい僕に責任転嫁かよ』

『まぁ…でも、そういう被害妄想(マイナス)』『嫌いじゃあないぜ』

 

 そう言いながら球磨川はヘラヘラ笑う。しかし、彼の眼は一切笑っていない。

 それに対して、我を忘れ、怒りの形相になりながら憎しみをぶつける幹比古。

 二人の間には尋常ではないほどの敵意(マイナス)で溢れかえっていた。

 

「消エロ!!」

 

『僕は悪くない』

 

 幹比古は呪符を掲げ、球磨川も同様に螺子を構える。

 この言葉を皮切りに早朝の戦いが始まった。




はい。始まりました球磨川VS幹比古。なんか球磨川が正義の味方感あるけど、球磨川が余計なことを言わなきゃ良かっただけで、結局他の人を巻き込んでる辺りマイナスなんやなって。さて、この戦いはどうなるのか、正体不明の女は誰なのか。次回を楽しみに
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