魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜 作:味噌漬け
「な…なによ…これ…?」
エリカはバイトの始まりの時刻を過ぎても来ない美月達を探していた。
しかし、そんな彼女の目に映ったのは砕かれた木片や、螺子が散乱している無惨な光景であった。
『アグッ!!』
そんな中、球磨川は雷球をその身に浴び、倒れ込む。
それを見たエリカは大慌てで駆け寄った。
「球磨川君!?大丈夫!!?」
しかし、その足は立ち止まる。
それもそうである。彼女の目の前には凶悪な形相をした幹比古がいたのだから…。
「な、なんでミキが……?」
あまりの出来事にエリカは呆然となる。
だが、当の幹比古はエリカのことなど眼中に無かった。
「クmaがワァァァァ!!」
倒れ伏す球磨川を睨みつけながら、幹比古は叫び続けていた。
「Naんデ!ボクがaんな目に遭ワなきゃイケなかtuたんだ!」
幹比古の叫びが続く。
「ボくhaヒッ死に努ryoくした!デモ、ゼンブ台naしにされた!あんなziコで!」
「台無し…?事故…?まさか…」
エリカは幹比古の言葉に心当たりがあるのか、顔に両手を当てる。
「アレカら!ミンナが変わっta!ボkuを哀れんで…ケイ別して!フザケルナ!!」
「ち…違うわ!!アンタは勘違いして…」
エリカはそう言い聞かせようとするも、幹比古には届かなかった。
「そnなボクが幸せ者!!?ナニもshiラナいクセに!!アァァァァァ!!!」
激昂し、目を血走らせながら何枚かの呪符を投げつける幹比古。
その呪符は小さく発火し球磨川の方向へと飛んで行く。
そしてそれは…球磨川の近くにいたエリカにも必然的に襲いかかった。
「(あたしの方に…!?)」
思わぬ攻撃にエリカは警棒を取り出そうとするも、バイト中で持ってきていないことを思い出す。
避ける暇もなく、腕を交差して身を守ろうとすると、突然目の前の火球が鳳仙花の如く弾け飛んだ。
「えっ…?」
目の前の出来事にエリカは目を丸くする。
地面に視線を移すと、そこには焦げた呪符と螺子が落ちていた。
『無駄だよ』『エリカちゃん』
『今のミキちゃんには誰の声も届かないぜ』
「く…球磨川くん…」
呪符を撃ち落としたのは球磨川だった。
『ほんと参っちゃうね』『あー見えて、意外と冷静だし』
『まぁ、僕を殺すために手段を選ばないって意味だけど』
球磨川はそう言いながらグラリと立ち上がる。
まるで腐った肉のように濁った色をした火傷の跡が痛々しい。
彼は手でズボンの土を落とすと、
「こ、殺すって…。球磨川君、またミキに何かしたの…?」
『おいおい』『「また」ってなんだよ』
『なんでもかんでも僕のせいにされたらさぁ』
『流石に傷つくぜ?』『まぁ、とっくに傷だらけだけどね』
球磨川がヘラヘラと笑いながらジトっとした目でエリカを見ると、彼女は目を逸らす。
「ご、ごめん…」
正直、球磨川が何かしたのだろうと確信はしている。
しかし、何も証拠がないのに球磨川を責めるのはエリカの良心が痛んだ。
両者に気まずい空気が流れると、それを壊すかのように火球が飛んできた。
『っ!!』
それを球磨川は間一髪で避ける。
「ニガスかァァァァァ!!」
幹比古がそう叫ぶと突然、避けた球磨川の踏み込んだ足の地面が割れる。
『うわっと!』
割れた地面に足が嵌まり、動けなくなる球磨川。
すると、それを予期したかのように頭上から落雷が降り注ぐ。
「危ない!!」
エリカがそう叫ぶがもう遅い。
落雷は球磨川の頭を貫き、一瞬にしてその肌を焼き尽くした。
『かっ…』
「球磨川くん!!」
球磨川の全身が黒く染まる。
幹比古が使う魔法の殆どは殺傷力の低いものだ。しかし、貧弱中の貧弱。雑魚と言ったら魚に悪く、空気抵抗よりも無抵抗とすら呼ばれた虚弱体質の球磨川にはそんなものは関係ない。
誰がどう見ても瀕死の状態であるが、エリカが瞬きする暇もなく、その傷は消え去った。
『あーもう、レアにウェルダン』『気分はステーキのようだよ』
『まぁ食べたことなんてないけどさぁ』
再び
しかしその直後、幹比古の放つ雷球が襲いかかった。
「くタバReeeぇぇぇ!!!」
『何言ってるかわからないよ』
球磨川は螺子を投げつけ相殺すると、すぐに幹比古の足元へと向かって回転する螺子を突き刺した。
すると高速回転により削られ、撒き散らかされた土が幹比古の目に入る。
「グッ!! あグ!?」
目潰しされ、苦しむ幹比古。その隙に球磨川は螺子を投げつける
しかし…螺子が当たる寸前、幹比古は無理矢理身体を捻り紙一重で躱した。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛イ゛ィ゛!!!!」
奇声を上げながら腕を振り上げる幹比古。
そのまま球磨川を攻撃するのかと思いきや…急に幹比古の動きが止まった。
「しっかりして!!!ミキ!!」
エリカである。
エリカは幹比古の隙を突き、背後に回って抑え込んだのだ。
「ヴヴaアイ゛ィア゛ァァ゛!!!」
エリカは千葉家の娘として、その肉体は相当鍛え上げられている。
生半可な男が殴りかかっても、簡単に抑え込めるくらいには強い。
だが…いわば今の幹比古は怒りに狂いに狂った状態だ。それによって生まれた馬鹿力は容易くエリカの拘束を解き、彼女を振り払う。
「キャッ!?」
吹き飛ばされたエリカ。
そして解放された幹比古はその溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように叫ぶ。
「そうしてそうしてそうsoてそうして!!Boクのボクのじゃジャ魔を!!なんでなんでなんでボクがぼくがこん…こんなめに!!おまえもおまえもおまえもーー」
『うるさい』
怒り狂った顔で…それでいてどこか苦しむ幹比古の咆哮。
だが、その心の闇を球磨川は一蹴する。すると、幹比古の足元から生えた細枝の如く細くて鋭い貫通力の増した螺子が幹比古へと襲いかかった。
「がはっ!!?」
「ミキ!!」
耐久性自体は低いものの、その分鋭くなった螺子が突き刺さったことで幹比古の口から赤い液体が吐き出る。
それを見たエリカは悲痛な声を上げた。
『もういい黙ってよ』『ミキちゃん』
気軽そうに…ヘラヘラ笑いながら言う球磨川。しかし…その目は冷たく、心底軽蔑していた。
『ここまで苛ついたのは久しぶりだよ』
『お前みたいな
『何よりも腹が立つのは』『そんな
球磨川はそう言って、両手に持った螺子を鋭く伸ばす。
不壊で不快な負快感が球磨川の心を満たす。
そんな球磨川を見たエリカは彼が何をしようとするのかわかったのか、顔を青くしながらもそれを止めようと必死に声を上げた。
「球磨川くん!!も、もうそこまでに…」
『嫌だ』
エリカが呼び止めようとするも、それに構わず、球磨川は幹比古に襲いかかる。
「グ…アグッ…」
螺子の拘束から脱出しようともがく幹比古。
だが、急所こそは外れても腕や片脚、腹に刺さった螺子がそれを許さない。
「球磨川くん!!…っぐ!!?」
エリカが止めようとするが、足を捻ったのか立ち上がれない。
懸命に呼ぶも、彼女の声が球磨川に届くことはなかった。
◇
球磨川がまだ一人で幹比古と戦っている中、美月はというと気絶したほのかを背負い少し離れた木の裏にいた。
「ハァ…ハァ……」
夏とはいえ…まだ涼しい早朝にも関わらず、滲んだ汗が美月の額に浮かび上がる。
「(幹比古君…球磨川君…大丈夫かな…)」
美月はほのかを木陰に寝かせながら、今、戦っているだろう二人を心配する。
特に心配なのは幹比古だ。そこまで長い付き合いではないが、基本的に冷静な幹比古が何も理由なしに人を襲うような人間ではないと彼女は思っている。しかし、現に幹比古が暴れ回っているのも事実だ。
間違いなくこの件には裏がある。しかし幹比古が狂った原因も何もかも分からないのが現状であった。
「(…こ、これから、どうしましょう……)」
まず考えられるのは助けを呼びに行くこと。だが、今は明け方で起きている人は少ないだろうし、何よりもほのかを放置するのは不味い。球磨川の戦況次第では彼女に再び危険が及ぶ。
次に球磨川の加勢に行くこと。これは論外である。CADも何もない美月が加勢に行ったところで足手まといにしかならないのは目に見えている。
最後に幹比古が暴走した原因を探ること。もしも幹比古が魔法で操られたのであれば、近くに
「(…でも………)」
技術職志望の美月の戦闘能力は皆無とも言っていい。
もしも犯人を見つけたとして、その後の対処が難しいだろう。
美月はこれからどう動くべきか考える。
美月は理性的に見えて結構感情的だ…。だから、ここでほのかも球磨川も置いていく選択肢をとることが出来ない。
「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛イ゛ィ゛!!!!」
「っ!!?」
突然林の中に響き渡る叫び声。
それに驚き、美月は声がした方を向く。
「(今のってもしかして……!!)」
間違いなく幹比古の叫び声…そう判断した美月は一度球磨川の様子を見に行く。
彼女は木の陰から覗くと、その光景に驚いた。
「えっ!? エリカちゃん!!?」
彼女が見たのは幹比古によって振り払われ、足を痛めているエリカに螺子で拘束された幹比古に向かって螺子を突き刺そうと飛び掛かる球磨川の姿であった。
「(あ、あのままじゃ!!)」
本来、幹比古は加害者側で、球磨川が美月の味方である。
そう…普通なら球磨川を助けるのが正解なのだ。だが、美月の脳裏に浮かび上がるのは必死に努力する過去の幹比古と、今もなお苦しみ続ける幹比古の姿。それらを知る美月にはとても幹比古の敵になることはできない。
「ダメェェェ!!」
美月はそう叫びながら、幹比古の前へと走り出す。
何故そんなことをしたのかは彼女にも分からない。
しかし、これだけはわかる。このままでは幹比古は…ただ死ぬだけでは済まない…ということを、完膚なきまで壊されるということを…。それだけは防がなくてはいけなかった。
「み…美月!!?」
『美月ちゃん!?』
突然、叫びながら両腕を広げ、幹比古を庇うように立ちはだかった美月にエリカと球磨川は驚く。
このままでは美月もただでは済まないだろう。
この場にいる者が美月を中心に大惨事になるだろうと予測する中…誰もが予想出来ないことが起きた。
「……!?」
幹比古である。あの狂いに狂い、凶悪な形相をしていた幹比古が美月の姿を目にした瞬間…グワッ…と目を見開いたのだ。
「グッ!!? ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ!!!」
幹比古は思い切り腕を振り、螺子をへし折る。そしてその腕で美月を振り払った。
「キャッ!!」
そして…
『………っ!!?』
そして…そのまま自身の刺さっていない片足を踏み込んだかと思いきや…
「み…幹比古君……?」
グシャ…と何かが潰れる音が静かに響き渡る。
突然の幹比古の行動に球磨川はヘラヘラと笑いながらも驚きを隠せていなかった。
『おいおい…ミキちゃんさぁ…』
球磨川の言葉が続かないのも仕方ない。
彼の手には血が滴れた螺子が握られており、視界には血を吐いた幹比古がいたのだから…。
「グッ…ガフッ!」
そう幹比古は自分の胸にワザと螺子を貫かせたのだ。
自分が死ねば誰も傷つくことはない…と言わんばかりに…。
幹比古が思いきり血を吐き出すと、いつの間にか螺子が消えている地面に倒れ込む。
その魂の欠けた虚な目は、美月にへと向けられていた。
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この惨状を見てしまった美月の悲鳴が響き渡る。
幹比古の血に塗れた球磨川はと言うと空を見上げ、笑みを浮かべながらこう呟いた…。『また勝てなかった』と。
◇
幹比古を中心として起きた惨劇…。
その舞台となった林の近くにもう一人の
「あーあ〜っ! 折角面白かったのになぁ。ラストできょーざめしちゃったよ」
映画のレビューのように美少女は語る。
白く清楚なイメージを思わせる制服とは真逆の、金髪とパッチリとした目が印象的だ。
誰がどう見ても美少女と言うだろう…しかし、そんな彼女の纏う雰囲気は普通ではない。
例えるなら…そう、巨大な
「全く! せっかくあのカッコいいクールな顔が良い感じになったのに…。余計なことしちゃって!!」
少女は頬を膨らませながら言う。
彼女が指しているのは幹比古のことであろうか…。
少女は文句を言うと、何か思い出したのか頬を両手で押さえる。
「(で〜も〜…やっぱりあーいう顔はいつ見ても良いねぇ…。あぁ…もう…」
恍惚とした表情を浮かべる少女。
彼女はさらに頬を緩ませ、顔を赤くする。
「快っ…感…」
恋する乙女のように…愛しの恋人との逢瀬を楽しむかのように…少女は言葉を漏らす。
彼女が快感に酔っている最中、ポケットの中にある携帯が震える。
それに気がついた彼女はその場を離れた後、舌打ちして通話に出た。
「なーにー? あたし、今いそがしーんだけど?」
先程までとは一転、不機嫌な声で話す。
その一方で電話の相手も同様に不機嫌だった。
[
怒りを滲ませたその声に心美と呼ばれた少女はため息が吐きたくなる。
心美は嫌々ながらも口を開いた。
「コンビニだよコンビニ。あたしがどこいこーがあたしの勝手でしょーが」
[出かけるときは一言言いなさいっていつも言ってるでしょ! 連絡くらい…]
まるで家族のような掛け合いをする二人。
いつもの会話に心美はうんざりしながら答える。
「あーはいはい。わかったわかった。これから戻るから」
そう言いつつ、心美は電話を切ろうとする。
しかしその直前、相手が一つ質問をした。その口調は真剣で…重々しい。
[心美…あなた
「………」
相手が言う「使う」とは一体なんのことであろうか…。
心美は何ともないように話す。
「ん?いや、使ってねーけど?
心美がそう言うと、これ以上追求できないのか心音と呼ばれた相手側は[そう…]とだけ呟く。
「んじゃ、切るわ」
そう言って心美は電話を切る。
電話を降ろした彼女はビキビキと音が鳴るくらいの力で携帯を握りしめていた。
折角の快感を邪魔された彼女は美しさが台無しになるほど凶悪な顔を見せる。
「(チッ! 心音のやつ…。あたしの楽しみの邪魔しやがってぇ……!!)」
そう言って彼女は飛んでいる小さい鳥に向け、石を投げる。
石に驚いた鳥は避けるものの、次の瞬間…突然目を見開き踠き苦しむかのように翼をバタバタはためかせると突然、気を失ったかのように地面へと落ちた。
「あんっの…裏切り者がぁぁ…!!」
心美は力尽きた小鳥を踏みつけ、グジュグジュとすり潰す。
彼女の言動には確かに憎しみがこもっていた。
「アッキャッキャッキャッキャッキャッ!!」
甲高い笑い声を発しながら、鳥をすり潰し続ける心美。
やがて飽きたのか、足を上げるとそこには眼球やら何やらが飛びでているミンチと化した鳥だった肉と血がこびりついていた。
それを見た心美は興奮することも、ましてはグロテスクな姿に吐き気をもようすわけでもなく、無の表情をしていた。
「(あーやっぱり殺すのってつまんねーや。ストレスかいしょーくらいにはなるけどよ)」
鳥には興味が失せたのか、ゴシゴシと靴の裏の汚れを地面に擦り付けて落とす。
仕方ないので、一旦宿に帰ろうとすると…
「っ!!?」
すぐ側にある木に……
「(あきゃきゃ!!おいおいマジかよ)」
見えるわけがない。同じ林といっても、今、彼女がいるのは事件現場からはそれなりに離れた場所だ。それに自身の気配を勘付かれるような間抜けな真似はしない。
だが…殺気にも似た何かが身体に纏わりついているのも確かであった。
「(やっぱり、あの螺子男…)」
思い返すのは幹比古と戦った黒髪の男。
棒で叩いただけで壊れそうな虚弱さに、空気が腐っていくような醜悪さ。
そして何よりも学友の死体を前にして浮かべる笑みはまさに…
「(あたしと同じ…
その笑みはまさに球磨川が浮かべる笑みと同じだった。
こんばんは。味噌漬けです。ようやく敵キャラのおでましですね。一応、彼女の能力はこれまで出てきた話の中で推測できるようにしています。どんな能力なのか考察してみてください。
なんでここまで球磨川が幹比古を毛嫌いするのかと言うと、幹比古の生き方そのものが過負荷に対する嫌味だと思ったからですね。要するに…
幹比古「僕は気にかけてくれる家族や友人もいるし、勉学もできるし、制限がついたとはいえ、それなりに魔法も使えます。それに、そこまで他人に迷惑もかけていません。でも、嫌なことがあったので不幸者です」
過負荷一同「嫌味かコラ」
こんな構図です。球磨川からしたら、幹比古の場合は特別が普通よりの特別になっただけにしか見えないんですよね。しかも特別劣等感の強い球磨川にとって、そんな幹比古から嫉妬されることこそが不快にもほどがあるって感じです。
今回は読んで頂きありがとうございました。