魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第三話 愚かで弱い子のために…

「いい加減にしてください!」

 

 ある商店街から、さらに遠くに行った人気のない路地裏、一人の少女の声がこだまする。

 少女は目がパッチリと可愛らしい顔をしており、茶色の長髪を二つのヘアゴムで纏めていた。

 彼女は今、数人の男達に囲まれている。

 

「おいおい、君ぃ…。俺たちに着いてきたのは、そういうことなんでしょ?」

 

 一人の太った男が下卑な笑みを浮かべ、少女に近づいて行く。

 少女は震えながらも懸命に声を上げた。

 

「私はただ…神社までの道を知りたかっただけです!騙したのは貴方じゃないですか!!」

 

 しかし、残念なことに震える羊の悲鳴など、狼にとっては食欲をそそるスパイスでしかない。

 男達は震える彼女を見て、盛大に笑った。

 

「ひゃはは!震えちゃって可愛いねー!」

 

「強気になっちゃって〜!大丈夫大丈夫。その震えも直ぐに快感に変えてやるからさ。」

 

「それにしても愚かだね〜。俺らみたいな奴らにノコノコ着いてくるなんて、食べてくれって言ってるようなもんでしょ?」

 

 男の一人が少女に手を伸ばす。

 少女の心は恐怖に満ち、身体を自分の腕で抱きしめていた。

 

「(やだ…誰か…助けて…。)」

 

 少女が心の中で助けを求める…その時…!!

 

『なるほど確かに…。』

『見ず知らずの他人を信じようなんて…。』

『全くもって愚かだね。』

 

 

『でも…。その愚かさ…嫌いじゃあないぜ。』

 

 路地裏に最低な声が響く。

 

「え?」

 

 少女が戸惑いの声を上げた時、男達に数本の螺子が襲い掛かった。

 

「ぐえっ!」

 

「ぐはぁ…!!」

 

 数人が服やら何やらを螺子でぶっ刺され、壁に磔にされる。

 何とか難を逃れた男達は、もはや少女には目をくれず、螺子が飛んできた方を向いていた。

 

「おい!誰だ!?」

 

 男が吠える。

 

『おおっと!勘違いしないでおくれ。』『僕はたまたま通りかかっただけなんだ。』

『決して!』『君たちに螺子を投げたり、螺子伏せようとなんてしてないんだぜ?』 

 

 男はコツコツと音を立てながら、少女の方に歩いて行く。

 螺子なんて投げてない…。そう言いつつも、彼は両手にそれぞれ巨大な螺子を弄びながら…。

 

『だから、僕は悪くない。』

 

 その男…球磨川禊は愚か者の少女を守るため、不良集団の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

 球磨川が通りかかったのは、本当に偶然である。

 彼はジャンプを探して、コンビニやら書店やらハシゴしていたのだ。

 しかし、一向に見つかる気配がない。

 そんなこんなでジャンプを探していたら、いつの間にか人気のない路地裏近辺に着いてしまったのだ。

 そして、彼は見かけてしまう。少女と不良集団のいざこざを。

 ぶっちゃけ、球磨川には他人の喧嘩を仲裁するような倫理も、人徳を重視した生き方はしていない。そのため、普段は喧嘩を見ても通報も何もしないのだ。

 しかし彼にも、とある信念がある。

 それは争いが起こった時は、善悪問わず弱くて愚かな方の味方をするということだ。

 会話から少女が男達に絡まれる愚か者の弱者と認定。

 認定した以上、彼が彼女を放っておく理由はない。

 

「テメェ…一体何のつもりだ?」

 

 スキンヘッドの男が球磨川に問う。

 当の球磨川はヘラヘラと笑いながら答えた。

 

『おいおい。さっき言ったでしょ?』『僕は通りかかっただけで、螺子も何も投げてないってさ。』

『その頭には髪はおろか、脳みそまで無いのかよ。』

 

 スキンヘッドはその言葉に顔を赤くする。

 

「なんだとオラァ!!テメェが持ってる螺子(それ)はなんなんだ!?」

 

 球磨川はスキンヘッドの言葉を聞くと、大きく手振りをする。

 

『ん?螺子がなんだい?』『そんなもの、僕は持ってないぜ?』

 

「なんだと!?実際に持ってるだろ…ん…?どういうことだ?」

 

 スキンヘッドは思わず二度見する。

 さっきまで球磨川が握っていた鈍く光る螺子がいつの間にか無くなっていたのだ。

 まるで、無かったことになったように…。 

 しかし、そんなことでスキンヘッドの怒りは収まらない。

 

「そんなことはどうでもいい…。結局のところ、お前しかいないんだからな…。テメェら!!やっちまえ!!」

 

 仲間を呼ぶスキンヘッド。しかし、彼が叫んでも、仲間達は反応しなかった。

 不思議に思った彼が振り向くと、彼の目に映ったのは他の残った仲間も磔にされた光景だった。

 

『あ、ゴメン。』

『あまりにも隙だらけだったからさ。』『先に螺子伏せちゃった。』

 

 あまりの光景にスキンヘッドは言葉を失う。

 しかし、次の瞬間、顔をこれでもかと赤くして怒声を上げた。

 

「テメェェェェェェ!!」

 

 仲間がやられた怒りなのか、スキンヘッドは懐から何やら機械のようなものを取り出し、右腕に装着する。それを操作すると、スキンヘッドの腕が輝き始めた!

 

「あれはCAD!?逃げてください!!」

 

 少女は球磨川に声をかける。

 しかし、球磨川はヘラヘラと笑いながら、螺子を構えた。

 

『悪いけど。』『僕ら過負荷(マイナス)は勝負からは逃げないんだよ。』

 

 そう言いながら、螺子を持って突撃する球磨川。

 彼はスキンヘッドのCADを装着していない方の左腕に螺子を突き刺そうとする。

 彼は弱者であるが故に、弱点を見抜くスペシャリスト。

 腕が光る時点で、光っていない方の腕が弱点になり得るなど、彼が見逃すはずがない。

 

「ふん!」

 

 しかし、スキンヘッドは大きく右腕を振りかぶると、思いっきり振り切る。

 すると、球磨川の螺子がガキョンと音を立て、スナック菓子の如く砕けてしまった。

 彼の左腕が弱点なのは正解だ。しかし、スキンヘッドの速さが球磨川の想像以上だったのである。

 

『…!?』

 

 あまりにもあっさり砕けてしまったせいか、球磨川も驚いてしまう。

 これが、この時代のスキル…いや魔法の力なのか…。

 

「死ねや!クラァッ!!」

 

 スキンヘッドはその勢いのまま、彼の胸に向けて硬化魔法をかけた拳を突き上げる。

 

『グフッ!?』

 

「オラァ!!」

 

 スキンヘッドの拳は球磨川の胸にめり込み、そのまま抉っていく。

 そして、スキンヘッドが拳を振り抜くと球磨川は胸や口から血を吐き出しながら吹っ飛んで行った。

 吹っ飛んだ球磨川は地面に激突し、そのままバウンドして倒れてしまう。 

 吐き出した血も相まって、もはや死んでいるようにしか見えなかった。

 

「キャァァァァァ!!」

 

 少女の悲鳴が路地裏に響く。

 彼女は涙を流しながら。球磨川の元へと走っていった。

 

「大丈夫!?ねぇ!しっかりして!?ねぇ!?」

 

 少女の悲痛な叫びが響き出す。

 しかし、球磨川が目を開けることは無かった。

 

「無駄だ。硬化魔法をかけた拳をマトモに喰らったんだ。よくて意識不明ってところだろうな。」

 

 スキンヘッドが無常にも宣言する。

 

「さて、邪魔者は居なくなったな…。悪く思うなよ?お前がノコノコ着いて来なかったら、コイツがこんな目に遭うことはなかったんだからな。つまり、お前が悪い。」

 

「(私が悪いの…?そうか…私が…馬鹿だったから…彼がこんな目に…。私さえいなければ…。)」

 

 スキンヘッドの言葉によって、少女の心の中に後悔・自責(マイナス)の感情が満ちていく…。

 もはや、少女に抵抗する気力は無くなっていた。

 その様子を見たスキンヘッドは下品な笑みを浮かべ、彼女に近づく。

 

『いや』『全然』『全く君は悪くない。』

 

「なっ!?」 

 

 最低な言葉と共に、彼の方から螺子が飛んでいく。

 スキンヘッドは突然の事態に驚き、右腕はとっさに硬化魔法をかけるものの、左腕に三本ほどの螺子が突き刺さってしまった。

 

「な…なんで、立ち上がれるんだテメェ!!?」

 

「え…。」

 

 スキンヘッドが大声を上げ、少女が呆けた声を出す中、球磨川はヘラヘラと笑みを浮かべながら立ち上がる。

 しかし、その姿には一切の傷もなかった。

 まるで、先程までの戦闘が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼はその笑みと共に言い放つ!

 

大嘘憑き(オールフィクション)!!』

 

『僕の死を』『なかったことにした!』

 

 そう…それが球磨川のもつ過負荷(スキル)…大嘘憑き…。

 現実(すべて)虚構(なかった)ことにする、取り返しのつかない最低最悪の過負荷(マイナス)…。

 

「無かったことにした…?何言ってやがんだテメェ…?」

 

 もはや、理解できる範囲を超えたのか、スキンヘッドは左腕を押さえながら、戸惑いの表情を見せる。

 普通、魔法師はCADを用いて魔法を使用する。用いなくても、使えないことは無いが、それ相応に集中力と時間がいるのだ。

 先程の球磨川はマトモに硬化魔法を纏った拳を喰らい、血反吐すら吐いている。

 彼にはとてもそれが芝居のようには見えなかった。つまり、球磨川は本来魔法を使うことができるほどの体力や集中力はなかったはずなのである。

 球磨川はそんな彼を見て、ヘラヘラと笑った。

 

『別に理解しなくて良いよ。』『僕ら過負荷(マイナス)何時(どこ)までいっても』

無意味(マイナス)で』

 

 球磨川は螺子を持ってスキンヘッドの方に歩く。

 彼の持つ凶悪な過負荷(マイナス)を撒き散らしながら…。

 

無関係(マイナス)で』

 

 スキンヘッドに突然、全身にとてつもない不快感が襲う。

 まるで耳元で黒板を引っ掻いた音を聞かされるような…。全身にとてつもない量の虫や蛇がまとわりつくような…。口の中に泥水をぶちこまれるような…。そんな生理的に…本能で感じ取ってしまう不快な感情を限界にまで煮詰めたような…。そんなおぞましい感覚…。

 

無価値(マイナス)で』

 

 少女ももはや、彼の過負荷に気圧され、声を出せずにいる。

 

『何より無責任(マイナス)なんだから!!』

 

「や、やめろ…来るな…。」

 

 先程の強気な姿勢から一転、スキンヘッドは球磨川の過負荷に当てられ、心が折れかけていた。

 

『おいおい』『君が殴ったんだぜ?』

『そんな化け物を見るような目で僕を見るなよ。』

『僕は被害者だ。』

 

 この様子を見た人は、もはや誰が元凶なのかわからないだろう。

 しかし、これだけは言える。球磨川禊は決して、女の子を助ける正義のヒーローなんかじゃない。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

 スキンヘッドは自身を守ろうと、再び硬化魔法をかける。

 しかし、その顔は勇ましさや強暴さのある肉食獣のような表情ではない。

 過負荷に当てられ、死なないこと、生きることに必死になった哀れな小動物だった。

 そんな攻撃は球磨川禊には通じない。

 彼は螺子を持って、スキンヘッドに突撃する。

 

『僕は悪くない。』

 

 球磨川の螺子がスキンヘッドの顔へと襲う。

 しかし、その瞬間、路地裏に別の声が響いた。

 

「そこまでだ!!」

 

『ッ!?』

 

「…!?」

 

 突然のことに球磨川もスキンヘッドも驚く。

 その集団は同じ制服を身に纏い、路地裏を包囲した。

 球磨川はふと少女の手に握られている携帯を見て、全てを察する。

 

『(なるほどね。)』『(それで、通報したわけか。)』

 

 タイミングは球磨川とスキンヘッドが最初に戦っていた時なのか。

 いずれにせよ、守ろうとした存在に助けら(邪魔さ)れた以上、スキンヘッドの心は折れているものの、勝った気はしなかった。勝負も中断されてしまったことも含めて、彼の心には虚しさのみが残る。それはつまり…

 

『また、勝てなかった…。』

 

 路地裏が騒がしい中、球磨川の空虚な声が空へと消えた。




 こんばんは味噌漬けです。今日は読んでくださってありがとうございます。何とか頑張って2話投稿しました。流石に一日で2話書くのは辛いですね笑 
 今回は球磨川の初戦闘回になります。球磨川先輩が戦うと、どっちが悪役だかわからなくなりますね笑 
 少しカッコよくしすぎたかなと思う反面、大嘘憑きを紹介するなら、これくらいインパクトがあった方が良いかな?と悩みます。この辺り、どう思うかご感想をくださると嬉しいです。

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