魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第三十三話 九校戦前日

「ん…んぅ……。あ、あれ…私…」

 

 目を開くと、見慣れない天井が目に映る。

 どのくらい寝ていたのだろうか、ほのかは起き上がると重い瞼を手で擦った。

 

「「ほのか!!」」

 

「ひゃっ!!?」

 

 いきなりの大声にほのかは跳び上がる。

 声がした方を向くと、そこには心配そうにほのかを見つめる深雪と雫がいた。

 

「ほ…ほのか、大丈夫? 頭とか…背中とか痛くないですか?」

 

「調子はどう?」

 

「う…うん。大丈夫だよ」

 

 ほのかが答えると深雪は「良かったぁ…」と安堵の表情を浮かべた。

 雫もホッとした様子を見せる。

 そんな彼女らを他所にほのかは周囲を見渡した。

 

「ここは……?」

 

「あっ…うん…。ここは…病院よ」

 

「びょ…病院?」

 

 ほのかは首を傾げる。

 そうここは会場の最も近くにある裾野基地の病院。

 彼女は何故ここにいるのか、自身に何があったか思い出そうと額に手を添えた。

 

「(えーと…私……)」

 

 ほのかが思い出せるのは、朝に起きがけの白湯を飲んだこと、着替えた後にストレッチしたこと。そして、そのままランニングしている最中に…

 

「そうだ…。美月は…? 美月は大丈夫!?」

 

 ほのかは深雪の顔に迫るように言う。

 深雪は一瞬だけ驚くも、すぐに気まずそうに俯いた。

 

「美月はーー」

 

 そして深雪と雫は別のベッドへと視線を移す。

 そこには、まさに死んだように安らかな顔で眠る美月がいた。

 

「えっ……」

 

 ほのかは今の美月の姿を見て、顔を蒼白とさせる。

 そして深雪は再び俯きながら話し始めた。

 

「美月も…ほのかも…怪我も異常もなかったのですが…。美月は…おそらく心因性の何かが原因じゃないかってお医者様が……」

 

「心因性……ってまさか……」

 

 ほのかの脳裏に浮かび上がるのは、狂いに狂った美月の同級生の姿。

 深雪はほのかの様子から察したのか、説明し始めた。

 

「ええ…。吉田さんが暴れた後、偶々その場にいた球磨川君とエリカが取り押さえたそうです。おそらく…美月はその時に何か…ショックなものを……」

 

「(美月……ごめんなさい…)」

 

 深雪の説明にほのかは美月に対し、心の中で謝罪する。

 自分が気絶してしまったために、美月に対して余計な負担をかけてしまったことに申し訳なさを感じていた。

 

「(エリカも…ミソギくんも巻き込んじゃったし……)」

 

 次にほのかを襲うのは二人の友人を巻き込んだことに対する罪悪感。

 それによる胸が締め付けられる感覚に襲われる。

 深雪は説明することに夢中だからか、そんなほのかの様子の変化に気が付かずに話し続けた。

 

「とは言っても、私もエリカから聞いただけですし…」

 

「…そこまで詳しいことは聞いてない」

 

 そして深雪は出来る限り明るめに振る舞う。

 

「で…でも!身体に異常はないから、二、三日で目覚めるだろうってお医者様が言っていましたよ。多分…球磨川君が治したんでしょうけどね」

 

 それを聞いて、ほのかは少しばかり安堵する。

 そして彼女は別の気になることについて聞くことにした。

 

「そうだ…ミソギくんは?エリカも…今、どこにいるの?」

 

「球磨川君は…わかりません。どこかに行ってしまいました」

 

 深雪の言葉にほのかは「そう…」と俯いた。

 

「後、エリカは………」

 

 そう言って、深雪は病室のドアへと視線を移した。

 

 

 ほのか達とは別の病室、そこにはベッドに眠る一人の少年と、側で椅子に座りながら見守るエリカがいた。

 

「ミキ……」

 

 あの戦いの後、球磨川はほのか達の怪我や戦いの痕跡を無かったことにし、黙ってその場を去ってしまった。

 エリカは呼び止めたものの、球磨川はヘラヘラとした笑みを向けてそのままいなくなったのだ。

 残されたエリカはバイトの上司や病院に連絡、三人を搬送してもらった上で自身も病院へと向かったのである。

 

「(あたしが…少しでもあんたと向き合ってたら、こんなこと起きなかったのかな…?)」

 

 彼女が思い出すのは暴走した幹比古がぶち撒けた心の闇。

 彼が言った「みんな」とは恐らく自分のことも入っているのだろうと推測していた。

 学校でもこちらの方からもっと関わっていれば、こんな悲劇は起きなかったのではないか…そんなことを考える。

 エリカが深刻な表情で悩んでいると、病室の扉が開く音がした。

 

「幹比古の様子はどうだ?」

 

 扉を開けたのはレオだった。

 

「レオ……」

 

 エリカは一瞬だけレオの方を向くも、直ぐに俯き出し首を振った。

 レオは「そうか…」とだけ言って、椅子に腰を下ろす。

 

「悪いわね…。バイトの仕事代わってもらっちゃって…」

 

「良いってことよ。そりゃ朝からあんなことが起きりゃ仕方ねーって」

 

 ()()()()()…そうは言うものの、レオはそこまで詳しい事情は知らない。

 幹比古が原因不明の何かにより暴走。美月とほのかが巻き込まれた後、球磨川とエリカが幹比古を止めようとした結果、幹比古が重傷を負った。そのくらいである。レオに至ってはバイトを代わってほしい旨を含めて、メールで知ったくらいだ。

 幹比古の心の闇についてエリカは友人達には言っていない。これはエリカ自身がまだ整理出来ていないことが原因である。 

 

「もう昼もとっくに過ぎてるぜ? お前も少し休んでこいよ。幹比古は俺が見てるからさ」

 

 「どうせずっと看病してたんだろ?」と付け加えつつ、レオは心配そうに言う。

 まだ事件が発生してから半日くらいしか経ってはいないが、エリカはレオが危惧するほど憔悴していた。

 

「………ごめん」

 

 エリカは首を振る。レオが心配してくれているのはわかっているが、それでも彼女はこの場から離れたくなかった。

 エリカの様子にレオはため息を吐きたくなる。普段、口喧嘩ばかりしているせいか、このようにしおらしくなっている彼女にどう接すればいいのかわからなくなっているのだ。

 

「…そうだ! ほのかが目を覚ましたぜ。さっき、病室に行ってきたんだ」

 

 そう言うと、エリカの目に少しだけ光が戻る。

 

「そ…そうなの? じゃ…じゃあ、美月は…?」

 

「うっ……」

 

 エリカの期待を込めた目にレオは元気づけたいがあまり、安易に言ってしまったことを後悔する。

 声を詰まらせたレオの様子にエリカは察したのか、「そう…」とだけ呟いた。

 

「…でも、ほのかが目を覚ましてくれて良かったわ……」

 

 エリカはほっとしながら、小声で言う。

 その顔を見たレオも安堵の表情を浮かべた。

 すると、レオはまだ会っていない関係者がいることを思い出す。

 

「そういや、球磨川はどうしたんだ? 達也もいないし…。ほのかの病室にもいなかったから、ここにいるもんだと思ってたんだけどよ」

 

「球磨川くんは知らないわ…。達也くんはさっき来てたけど、何か気になる事があるって言って公園の方に向かったわよ」

 

「そうなのか…。一体、何があったんだろうな?」

 

 レオの素朴な疑問にエリカも頷く。

 そしてエリカは幹比古に視線を移した。

 

「(あの時…あんたの身に何があったの…?)」

 

 そう問いただしたいエリカ。しかし、当の本人は深い眠りについていた。

 

 

 一方その頃、達也はというと早朝の事件の調査のために公園にいた。

 本来ならば、エンジニアである達也は大忙しであるのだが、七草会長の許可を得て少しの時間だけではあるものの調査を進めていたのだ。

 しかし、成果は芳しく無い。

 

「…やはり見つからないか……」

 

 球磨川が事件に関わる痕跡を無かったことにしたせいか、証拠らしい証拠は一切見つからなかった。さらに、それなりに人の往来のある公園である。足跡は残ってはいるものの、どれが怪しいかまでは分からない。

 だが、証拠を残せば第一校は九校戦の出場停止もあり得る。そのため、球磨川を責めることも難しい。

 

「(…監視カメラから調べるしかないか…)」

 

 監視カメラをハッキングすれば、下手人を絞ることくらいは出来るだろう。

 だが、球磨川が監視カメラの映像を対処していないとは思えない。さらに達也たちが泊まっているのは仮にも軍用施設である。それ相応にセキュリティも厳しいだろう。万が一バレてしまえば第一校の立場が危うい。だから、あまり使いたく無い手ではある。

 達也がこれからどうしようか悩んでいると、誰かが声をかけてきた。

 

『あれ?達也ちゃんじゃないか』『何してるんだい?』

 

 球磨川である。

 

「球磨川か…。いや、ただの調べ物だ」

 

『ふーん…調べ物ねぇ』

『まっ頑張ってね』

 

「いや…少し待ってくれ」

 

 球磨川はジトっとした目を達也に向けると、そのまま通り過ぎようとする。

 すると達也が呼び止めた。

 

『…?』『なんだい?』

 

「お前は…朝の騒動の原因に心当たりはあるか?」

 

 球磨川に余計な誤魔化しは意味がないだろうと、達也は率直に聞く。

 まだ球磨川を警戒しているものの、今の達也は少しでも情報が欲しい。当事者である球磨川に聞くのは当然だろう。

 

『朝?』『……あーあのことかぁ』

 

 数時間前の出来事のはずなのに、今思い出したかのような反応に達也は呆れる。だが、そんなのはいつものことなので、言うだけ無駄だと解っている。

 そして、球磨川はというと少しの間、顎に手を当てるとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

『ごめんね』『僕もよくわからないや』

『いきなりだったしねぇ』

 

「…そうか」

 

 球磨川の笑みを見て、何か勘繰る達也。

 しかし、もしも球磨川が何か知っていたとしても話すことはないだろう。

 

『僕はそろそろ行こうかな』

 

 球磨川は達也に背を向けて去ろうとする。

 そしてその瞬間、達也が一つ疑問を投げかけた。

 

「何故、幹比古を助けた?」

 

『え?』

 

 球磨川は立ち止まる。

 達也は別にあのまま助けなかった方が良かったと言っているわけではない。

 だが、球磨川が幹比古のようなエリートが嫌いなのは事実。そんな球磨川が素直に幹比古を助けるとは思えなかったのだ。

 そして球磨川は目を閉じ、笑みを浮かべながら答える。

 

『…やだなぁ、達也ちゃん』

『人を助ける理由なんて』『「気に入らない」からで十分だろ』

 

「………」

 

『僕は教えてあげただけさ』

『不運と不幸の区別もつかない幸せ者(プラス)が』『僕ら過負荷(マイナス)を妬むことが』『どれだけ、過負荷(僕ら)を侮辱しているのかってことをね』

 

 達也は黙ったまま聞いていた。

 

『それじゃ』

『無駄で無意味で無価値な調査頑張ってね』

『応援してるよ』

 

 そして、『じゃあね』と言い残して去って行った。

 

「…相変わらず、支離滅裂な嘘を吐く奴だ」

 

 達也は呆れたように呟く。

 『教えてあげただけ』…そう言う時点で、球磨川と幹比古の間に何かがあったことなど丸わかりだというのに…。

 そして、取り残された達也は腕を組んで立ち止まる。

 望んだ情報自体は手に入らなかったものの、球磨川に対する調査という意味では収穫があった。彼の価値観を理解するつもりはないが、いずれこれが球磨川自身を対策する上で必要になる。達也はそう考えていた。

 

「(…それはそれとして、これからどうすべきか……)」

 

 結局振り出しに戻ってしまったことに困る達也。

 そんな時、達也の耳元でプ〜ンと音が聞こえた。

 

「(なんだ?羽音……?)」

 

 今は夏であるため、蠅や蚊がいるのはおかしくはない。

 だが、今は少しでも手がかりが欲しい。

 そう考えた達也は虫が飛んで行った方向に向かって歩きだす。

 

「(これは…!)」

 

 達也は地面に群がる蠅を見つける。

 彼は腰を下ろすと、詳しく調べるために蠅達を振り払うと同時にその鼻に不快な臭いが纏わりつく。

 そう達也の視線の先にあるのは…すり潰された赤く濁った肉だった。




 こんにちは。最近、架空遊戯王の動画にハマってる味噌漬けです。ああいうの作ってみたいけど、ストーリーはともかく肝心の創作デュエルのハードルが高すぎるのが難点。設定だけなら、いくらでも思い浮かぶのに世知辛い…。
 それはさておき、今回は投稿が遅くなってしまいすみません。何度も推敲した結果ですが、それでももう少し早く書けないのかと自分を戒めたいですね。…まぁ、最近、就活やら卒論で忙しいのもありますが…。それでもエタらないように投稿を続けていく所存なので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
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