魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第四話 少女との出会い

「それじゃあ、気をつけて帰るんだよ。」

  

「…は…はい。」

 

 同じ制服をまとった大人達は少女にそう言って帰る。

 どうやら、彼らはこの時代における警察組織のようだ。

 

「はぁ…。」

 

 少女はあまりのショックで膝の力が抜け、地面に座り込んでしまう。

 貞操の危機や球磨川の過負荷による精神的ショックだけではなく、自分が話したことの殆どがマトモに取り扱われなかったためである。

 それもそうだろう。何故なら、球磨川が警察が本格的に捜査し始める前に、不良達の死も螺子も何もかも無かったことにしたからだ。

 そのために、少女の意見は恐怖による錯乱として扱われてしまった。

 しかし、少女が本当に怯えている点や、スキンヘッドや一部の不良が執行猶予付きで尚且つ、別の犯罪の容疑があったこともあり、彼らは取り押さえられたのである。

 ちなみに球磨川はかなり怪しまれたが、CADなどの凶器の類を持っていなかったこと、少女がスキンヘッドから自分を守ろうとしてくれたことを話したおかげで一応解放された。

 もはや、彼女の中では一連の出来事は、実は夢だったのではないか…と。半ば現実逃避じみた妄想をするくらい消耗していた。

 そんな時、彼女のところに球磨川がゆっくりと近づく。

 

「ひっ…!?」

 

 今や彼女の中で球磨川は得体の知れない危険人物として扱われていた。

 実際には、その評価は間違っていない。

 少女は球磨川に何かされるのではないか…と身構える。

 しかし、球磨川はそんな彼女を前に座り込んで、優しげな笑顔を見せた。

 

『大丈夫だったかい?』『君が無事で本当に良かったよ。』

 

「え?」

 

 予想に反した出来事に少女は驚きのあまり頷いてしまう。

 

「は…はい。」

 

 少女は呆気に取られる。

 球磨川はそんな彼女を気にせずに話し続けた。

 

『僕の名前は球磨川禊。』『気軽にミソギちゃんって呼んでね。』

 

 少女はもはや訳がわからない。

 先程までの凶悪な過負荷は身を隠し、目の前にいるのは少し胡散臭いものの、自分を心配してくれる一人の男の子だった。

 

「そ…その…ほのか…。光井(みつい)ほのかです。」

 

『ほのかちゃんね!よろしくね!!』

 

 いきなりの下の名前呼びで、ほのかは頬を熱くする。

 球磨川は彼女に手を差し出すと、ほのかは少しだけ安心したのか手を受け取って立ち上がった。

 すると、球磨川は突然、大粒の涙を流す。

 

「え!?大丈夫ですか?」

 

 いきなりの出来事に、ほのかは球磨川を心配する。

 そんな球磨川はヘラヘラと笑いつつも、涙を拭いながら答えた。

 

『いきなり泣いたりしてごめんね。』

『僕、女の子に手を握ってもらったことなんて、ほとんどなかったからさ。』

『君みたいな可愛い女の子に手を取ってもらえたことが、とても嬉しかったんだ。』

 

「か…可愛い…!?」

 

 ほのかは突然の褒め言葉に更に頬を赤くする。

 実を言うと、球磨川の顔自体は童顔ながらもかなり整っている。

 その顔から作られる柔和な笑顔に関してだけは意外に可愛いと評判だ。

 彼はその笑顔で様々な人を落として…いや堕としてきた。

 そんな笑顔で尚且つ、異性からの褒め言葉…。先程の下の名前呼びも含めて、それらのトリプルパンチは目の前の純粋少女には効果テキメンだった。

 

『あぁ…。なんて幸運なんだろう!』

『僕はもしかしたら、君に会うために、この時代(ここ)に来たのかもしれない!!』

 

 球磨川のオーバーリアクションに、ほのかは苦笑いする。

 彼女の中で球磨川の人物像は危険人物から、少し怖いけど意外に優しく?て面白い人となっていた。

 彼女は球磨川に頭を下げる。

 

「その…ありがとうございます。お礼をしたいのですが…友人との…」

 

 ほのかが話している時、球磨川は彼女の顔に近づき、食い気味に割り込んだ。

 

『え!?』『お礼かい!?』

 

 ほのかは顔を赤くして、彼の顔から目を逸らす。

 

「え…えぇ…。私に出来ることならなんでも…。でも、友人との約束もあるので…」

 

 球磨川は彼女の言葉の「出来ることならなんでも」の部分だけ聞き取る。

 ほのかも本当に愚かである。煩悩のままに生きる球磨川に「出来ることならなんでも」と言うことは、もはや「何でもして良いよ」と言ってるのに他ならないというのに…。

 

『(つまり、何でもして良いってことだよね?)』『(それなら、あーんなことやこーんなこと…)』『(いや、今の僕のトレンドのスカートつまみもありだよね!!)』

 

「…?」

 

 煩悩に溺れた球磨川を前に、ほのかは首を傾げる。

 彼女は知るよしもない。不良集団とは別の意味で貞操の危機に陥ろうとしていることを…。

 

『それなら、スカーr…』

 

「………ほのか!」

 

 少女の貞操に過負荷の魔の手が忍び寄ったとき、彼女の背の方向から別の勇者(少女)が現れた。

 

(しずく)!」

 

 どうやら、ほのかの知り合いらしい。

 雫と呼ばれた少女はほのかに近づくと、安心したように息をつく。

 

「無事で良かった。」

 

 顔は無表情だが、心の底から喜んでいるのことがわかる。

 雫はほのかの無事を確認すると、球磨川を睨みつけた。

 

「…あなたは?」

 

 少し険悪な雰囲気になる。

 どうやら、雫は球磨川が何かしたのではないかと疑っているようだ。

 ほのかは球磨川を庇うように話す。

 

「大丈夫だよ!さっき、この人に助けてもらったの!」

 

「…そうなの?」

 

 球磨川はまだ疑う雫に向かってヘラヘラ笑う。

 

『はじめまして!雫ちゃん!』『僕の名前は球磨川禊!』

『裸エプロン先輩でも、ミソギちゃんでも、好きな呼び方しちゃっていいぜ!』

 

「…この人危ない。」

 

 雫は至極真っ当な評価を出して、ほのかを連れ出そうとする。

 その時、雫は内心で、心の底から球磨川を警戒していた。

 

「(…胡散臭い。)」

 

 雫は球磨川の言葉がまるでAIロボットのような、取ってつけた無機質なものに聞こえた。

 雫がほのかの腕を掴むと、ほのかは慌てて弁明した。

 

「ちょ…ちょっと…!この人、何処かおかしいだけで悪い人じゃないから大丈夫だよ!」

 

 ほのかはほのかで散々な言い方だが、実際間違ってはいない。

 悪人ではなく、過負荷(マイナス)なのだが…。

 気を取り直し、ほのかは口を開く。

 

「あーうん…それでね。お礼したいなって思っていたんだけど…」

 

 ほのかが続きを言おうとした時、球磨川が割り込む。

 

『ほのかちゃんがスカートつまみしてくれるって言ってくれたんだよね!!』

『いや〜楽しみ!』

 

 その言葉にほのかは顔から煙を上げる。

 スカートつまみの全容はわからないが、卑猥なことだけはわかった。

 

「ス…スカート…つ、つまみ…!?」

 

「ほのか…」

 

「いや、違うから!私、そんなこと言ってないからね!!」

 

 雫はほのかをドン引きした目で見る。

 意外にノリが良いのだろうか。

 ほのかは顔を真っ赤にしながら否定した。

 

『おいおい』『約束は守らなきゃダメだぜ?』

『先生に習わなかったのかい?』

 

「いや、そんな約束してないからね!?それに、今、厚着だからスカートとか履いてないし!」

 

『え?』『あ、ホントだ。』

 

 球磨川は気にしていなかったが、今の季節は冬である。

 そのため、二人の少女は冬服を着ていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 ツッコミしすぎたせいか、息を切らすほのか。

 球磨川はそんな彼女に声をかける。

 

『大丈夫かい?』『そんな興奮しちゃって?』

 

「球磨川さんのせいでしょ!!?」

 

 ほのかは球磨川のボケに全力でツッコんだ。

 今や、ほのかの中で球磨川は、優しいけど完全に頭の螺子が外れた人と評価を改めていた。

 球磨川はそんな彼女を見て思う。

 

『(まるで喜界島さんみたいな子だな…。)』

 

 かつて、自分の時代にいた生徒会の仲間。敵対したこともあったが、なんだかんだで一番親密だった仲間だったかもしれない。

 球磨川は揶揄い甲斐のあるほのかを喜界島に重ねていた。

 

『まぁ…それはそれとして。』

 

「それとして!?」

 

 球磨川はほのかのツッコミをスルーする。

 

『とりあえず、スカートつまみは後の楽しみで良いや。』

 

 ほのかから「するの確定!?」とツッコミが入った気がするも、球磨川は再びスルーする。

 球磨川はスカートつまみがダメなら、騒動の前に自分が探していたものについて聞くことにした。

 

『僕、元々ジャンプ探して、ここまで来たんだけど…。』

『この辺に、本屋とかないかな?』

 

 そう、元々球磨川は週間少年ジャンプを求めて、この路地裏に着いた。

 球磨川は二人に聞くも、彼女達は顔を合わせ首を傾げる。

 

「そもそも…」

 

「ジャンプって何?」

 

 無常な言葉に流石の球磨川もショックを受ける。

 

『え?』『あのジャンプだぜ?』 

『子供から大人まで、夢と希望を与える…。』『友情・努力・勝利を謳った』

『この世で最も素晴らしい雑誌だよ?』

『それを知らないって…』『え…?』

 

 そう球磨川は熱心なジャンプ読者である。

 自身が所属していた(マイナス)十三組のスローガンにも【温い友情・無駄な努力・虚しい勝利】と掲げているほどだ。

 もはや、球磨川にとってジャンプは人生のバイブル本である。

 卒業式にて高校を卒業してもジャンプは卒業しないと公言した、生粋のジャンプジャンキーだ。

 そんな彼にとってジャンプが無いということは死活問題なのだ。

 しかし、おかしい。元の時代ではジャンプを読んだことは無くても、ジャンプ自体は知らない者がいないと言っても良いくらい浸透している。

 この二人がどれだけお嬢様環境に生きていたとしても名前くらいは知っていてもおかしくないのだが…。

 

『………』

 

 ショックのあまり、声の出ない球磨川。

 二人はそんな彼を見て、困惑する。

 すると、雫は何かを思い出したように端末を開く。

 そして、その画面を球磨川に見せた。

 

「見て」

 

 そこには球磨川にとって恐ろしい事実が書かれていた!!

 

『ジャンプ…廃刊…』

 

 球磨川は力のない声で呟く。

 そう、この時代ではジャンプはとっくの昔に廃刊していたのだ。

 ショックのあまり力が抜けた球磨川はガクッと膝が砕け、四つん這いの体勢になる。

 

「…!?」

 

「球磨川さん!?」

 

 流石の球磨川もここまで絶望したことはないだろう。

 球磨川の顔も今までのヘラヘラした笑みは残しつつも、目は全然笑っていなかった。

 先程までの陽気さから一転、見間違えるように落ち込む球磨川を二人は心配そうに見る。

 

 後に球磨川は振り返る。

 後にも先にも、ここまでタイムスリップの事実を無かったことにしようと思ったことはないと…。

 

『また、勝てなかった……。』

 

 球磨川はそう言ったとか言わなかったとか。




こんばんは味噌漬けです。
今回なコメディ回にしました。何となく苦労人感を感じた、ほのかに強制的にツッコミ役になってもらいましたがどうですかね?それに、今回の話で球磨川先輩感を出せてれば良いのですが…。そこのところ感想をくださると嬉しいです。
ちなみに雫が来た理由ですが、騒動の後に連絡したからです。
雫はまだ球磨川のことを胡散臭い人物として警戒していますが、一応友人を助けてもらった手前、口には出さないようにしています。
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