魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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第七話 劣等生(プラス)劣等生(マイナス)

「………。」

 

 生徒会長、七草真由美がお辞儀すると、拍手喝采が湧く。

 球磨川はそんな彼女を観察していた。

 

『(…まさにお嬢様(プラス)って感じだね。)』『(やっぱり、めだかちゃんみたいな子はいないかぁ。)』

 

 球磨川は内心ガッカリする。

 元の時代における、球磨川の最大の(プラス)にして愛しい女性の一人、黒神めだか。

 彼女と球磨川はまさに表裏一体の関係性であった。

 球磨川が負完全とすら呼ばれた男であるのなら、黒神めだかはまさに完全と呼ぶに相応しい女性といえる。

 球磨川はそんな彼女の気を引きたいがあまり、箱庭学園に転校し様々な事件を起こすも、最終的に球磨川は敗北し和解したのだ。めだかがいたからこそ、今の球磨川がいるし、めだかも様々な場面で彼に支えられてきた。二人はいわば陰と陽である。

 

「続いて新入生答辞。新入生総代、司波深雪。」

 

 司会の男が言うと、壇上に深雪が上がる。

 彼女は一礼すると、慎ましく答辞を話し始めた。

 

「穏やかな日差しがそそぎ、鮮やかな…」

 

 球磨川は彼女に興味を持つ。

 

『(へぇ…。典型的な特別(スペシャル)エリート(プラス)かと思ったけど…)』

『(あの子…何か隠してるね。面白い。)』

 

 弱点を見抜く球磨川の目は深雪が心の中に溜めている不満や諦念、怒り…といったマイナスを把握していた。

 それだけじゃない。それが何かはわからないが、彼女が何か秘密を抱えていることも見抜く。

 しばらくして答辞を終えた深雪は深く一礼して壇上から降りた。

 

『(それにしても、安心院さんは)』『(僕をこんな所に入学させて何が目的なんだろう。)』

 

 入学式に飽きた球磨川は、暇つぶしに安心院の思惑について考える。

 本来ならジャンプを読みたいところだが、ほのかに没収されてしまった。

 そんなほのかは深雪の答辞を聞いたからか頬を赤くしていた。

 

『(…まぁ、安心院さんが何考えてるか知らないけど)』『(僕は僕の好きにするかな。)』

 

 彼は何ものにも囚われず、何も思い通りにならない男、球磨川禊。

 そんな彼は眠気により欠伸をしていた。

 

 

『どうやら、別クラスみたいだね。』

 

「うーん。そうみたいだね。」

 

「……」

 

 球磨川達は窓口でIDカードを受け取っていた。

 球磨川はE組で、ほのかたちはA組だ。

 

『これからどうしようか。』

 

「別のクラスだしね。」

 

 球磨川の質問にほのかが返事をする。

 すると、球磨川は人懐っこい笑みで口を開いた。

 

『そうだ!』『僕、クラスメイトの人達に挨拶してくるよ。』

『これから、共に学ぶ仲間なんだからね!』

 

 本音なのかそうではないのかはわからないが、球磨川がそう言うとほのか達も同調する。

 

「そうだね。雫、私たちもそうしようか。」

 

「……」

 

 雫は無言ながらも頷く。

 それを確認したほのかは球磨川に詰め寄る。

 

「いい?球磨川くん。絶対に問題起こさないでね!」

 

 球磨川は急に詰め寄ってきた彼女に若干引きながら話す。

 

『わかってるよ。』『信用してよ。』『僕を』

 

「さっきも問題起こしたばかりじゃない!」

 

 ほのかがそう言うと球磨川はヘラヘラ笑う。

 

『あれは、向こうからやってきたことだぜ。』『僕は悪くない。』

『それにほのかちゃんには言われたくないぜ。』

 

 実際、ほのかはほのかでトラブルに巻き込まれている。

 

「…たしかに、ほのかだけには言われたくないかも。」

 

「雫!?」

 

 思わぬところからの伏兵に、ほのかの心は傷ついた。

 

 

「ねぇー君!同じE組でしょ?」

 

 ほのか達と別れた球磨川は歩いている最中、フレンドリーな赤髪の少女に話しかけられた。

 球磨川はそんな彼女に人懐っこい笑顔で返事をする。

 

『そうだよ。』『僕の名前は球磨川禊』

『君は…?』

 

「私の名前は千葉エリカ。よろしくね!エリカでいいわ。」

 

『よろしくね。エリカちゃん!』

『えーと、そこにいるのは?』

 

 エリカの影には礼儀正しそうな女の子がいた。

 

「柴田美月と言います。よろしくお願いしますね。」

 

『こちらこそ、よろしくね!美月ちゃん!』

『その眼鏡はオシャレ用の伊達メガネかい?』『似合ってるね。』

 

 球磨川がそう言うと、美月は少し俯く。

 

「そ、そうですか。ありがとうございます。」

 

 礼をする彼女に球磨川は目を鋭くして言い放つ。

 

『ふーん……』『眼が悪いのかな?』

 

「…っ!?」

 

 球磨川がそう指摘すると美月は顔を青くしながら驚く。

 何故、わかったの…?そう言いたげな目だ。

 本来なら視力が悪いという意味で捉えられるが、球磨川はその眼鏡が度が入っていないものだと気がついていた。ということは…

 

「球磨川君!女の子にそう迫るものじゃないよ。」

 

 エリカが注意すると、球磨川はヘラヘラ笑う。

 

『それもそうだね。』『ごめんね。美月ちゃん。』

 

「いえ…。」

 

 球磨川は謝るも、美月は恐怖心を抱いていた。

 

「(何、この人…怖い…。)」

 

 美月は霊子放射光過敏症と呼ばれる病を持つ。それは魔法等の現象の際に発生する霊子(プシオン)と呼ばれる粒子の活動によって起きる魔法師にしか見えない光を過剰に視認してしまうのだ。

 それはいわゆるオーラのような形でも見える。しかし、球磨川が一瞬見せたそれは、それとはまた違う恐ろしいものに見えた。

 

「球磨川君って、意外とナンパ好きなの?」

 

『まさか!』『僕ほどの紳士はいないぜ。』

 

 球磨川はドヤ顔で言うものの、エリカは信じていないようだった。

 もう一度言うが、紳士を自称する大半は紳士ではないのである。

 

「…まぁ。良いわ。」

 

 エリカがそう言うと彼らは歩き始めた。

 美月は正直、球磨川から離れたかったが、友達の手前したくはない。

 そのため、彼女もついてきていた。

 

「…あれは。」

 

『ん?知り合いかい?』

 

 少し歩くと、廊下に一人の男子が立っていた。

 司波達也である。

 

「やっほー。」

 

「…!」

 

 エリカが話しかけると達也もこちらに気がついたようだ。

 

「エリカと柴田さん…それと…」

 

「達也君。彼は…」

 

 エリカが紹介しようとすると、球磨川が割りこむ。

 

『僕の名前は球磨川禊!』『えーと…』

 

「司波達也だ。よろしく頼む。」

 

 達也の名前を聞いた球磨川は心の中で司波という名字に注目する。

 

『(ふーん…。司波…ね…。)』

 

『よろしくね!達也ちゃん!』

 

 球磨川はそう言いながら手を差し出す。

 

「達也ちゃん…?」

 

 いきなりのちゃん付けに少し戸惑う達也だが、握手しようと手を近づける。

 すると…何か寒気のようなものを感じた。

 

「(…!?何だ今のは…?)」

 

 達也は基本的に冷静沈着であり、動じることはない。

 そのため恐怖もまず感じないのだが、達也の鋭い観察眼や本能という感情とは別の部分で球磨川のおぞましい本性を感じ取ったようだ。

 

『…?達也ちゃん?』

 

「…いや、何でもない。よろしく頼む。」

 

 改めて握手を交わす球磨川と達也。

 そして、球磨川は悪戯っ子のような笑みを浮かべ達也に向けて囁く。

 

『なんか』『色々』『こそこそやってるみたいだけど…。』

『頑張ってね。』

 

「(…こいつ、俺達の秘密に勘づいているのか?いや、ブラフか…。)」

 

 球磨川の言葉に達也は警戒する。

 しかし、そこは冷静沈着な司波達也。おくびにも態度に出さない。

 

「あぁそうだな。これから授業の準備とかやらなければいけないことが多いからな。」

 

 達也の言葉にエリカが食い付いた。

 

「そうね。もう少しで授業だものね。」

 

『…そうだね。』

 

 上手く誤魔化されたことに球磨川は少しつまらなそうな表情になる。

 

「あの、司波君はここで何を…?」

 

 美月が尋ねると達也は答える。

 

「ああ。妹と待ち合わせしているんだ。」

 

「妹…?それって…」

 

 エリカが反応すると、廊下の向こうから長髪の美少女が駆け足でやって来る。

 後ろには生徒会長、七草真由美もついてきていた。

 

「お兄様!お待たせしました。」

 

「(…何故、七草真由美が一緒に…?)」

 

 七草真由美。彼女は十師族とよばれる、この時代の有力者の一族の一つ、七草家の娘である。  

 そんな彼らは数字付き(ナンバーズ)とも呼ばれるエリート中のエリートである。

 達也が深雪が何故、彼女と共にいるのか聞こうとすると、先に深雪が話しかける。

 

「お兄様…そちらの方々は…?」

 

 深雪が嫉妬を込めた冷えた目で達也の後ろにいる女性陣を見る。

 達也はそんな彼女に対して、色んな人に囲まれてストレスが溜まっているのか…?と見当違いな推測をしていた。

 

「ああ…。同じクラスの柴田美月さんと、千葉エリカさん…。そして、」

 

 達也が紹介しようとしているところに球磨川が割り込む。

 

『初めまして!週刊少年ジャンプから入学しました!』『球磨川禊でっす!』

『達也ちゃんの親友やらせてもらってます!』『よろしく仲良くしてください!』

 

「ジャンプ…?親友…?」

 

 聞き覚えのないジャンプという単語、そして球磨川という中々遭遇しないタイプに深雪は戸惑いの表情を見せる。

 達也はふざけている球磨川を嗜める。

 

「さっき会ったばかりだろう。球磨川。」

 

『酷いぜ達也ちゃん。』『人間みんな、宇宙船地球号に乗った親友じゃないか!』

 

 達也と球磨川の会話にエリカは笑う。

 

「あはは!球磨川君って面白いね。」

 

 エリカの笑い声で場が和むと、深雪が改めて一礼する。

 

「司波深雪です。お兄様同様、よろしくお願いしますね。」

 

 深雪の自己紹介にエリカや美月、球磨川も頷いた。

 

「こちらこそ。」

 

「よろしくね!」

 

『よろしく!』

 

 互いに挨拶をし終えると、達也は深雪に話しかける。

 

「…深雪、生徒会の方々との用があるんじゃ…?」

 

 達也がそう言うと真由美は口を開く。

 

「大丈夫です。今日はご挨拶だけですから。先にご予定があるんですもの。また日を改めます。」

 

 真由美の言葉に隣にいた男子生徒が抗議する。

 

「会長!それではこちらの予定が!」

 

 男子生徒が声を荒げるも真由美はスルーする。

 

「それでは、またいずれゆっくりと」

 

 彼女はそう言って後ろへ振り向く。

 司波達也と司波深雪……そして球磨川禊を見つめた後に…。

 生徒会の二人が残した妙な空気、そして司波達也を睨む周囲の視線。

 それらによって場が静かになる。すると、

 

「おーい!球磨川くーん!」

 

「…球磨川。」

 

 球磨川の友人である、ほのかと雫の声がひびいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんにちは味噌漬けです。今回は司波達也と球磨川禊の出会いを書きました。ほんのジャブですが、球磨川は早速つっかかりましたね笑 
しかし、温い球磨川を書いてばかりいると、そろそろ自分の中の球磨川先輩が暴れそうになります。そろそろ、暴走させるかなー。楽しみにしててください。
今回は読んでいただきありがとうございました。

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