魔法科高校の劣等生〜魔法世界に這い寄りし過負荷〜   作:味噌漬け

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やっべぇ。やらかしたかも。


第八話 『それでいいんだよ』

『へぇー』『お昼休みにそんなことがあったんだ』

『大変だったね。』

 

 入学式の後日の昼過ぎ、昼食休憩を終えた球磨川とエリカ達は授業前に話していた。

 エリカは不機嫌そうな顔で話す。

 

「ええ。そうよ。全く…一科生ってだけで、何であんなに偉そうなのかしら。」

 

 事の発端は昼休みに起きた。

 達也達が昼食をとっている最中のことである。途中でやって来た深雪が達也達と昼食を食べようとすると、深雪と同じA組の彼女に想いを寄せる森崎駿という男子生徒を筆頭とする生徒達が、彼女と昼食を食べるために達也達にウィードであることを理由に席を譲るように迫ったのだ。

 もちろん、エリカ達は反発するも森崎達はエリカ達を見下しているためか話にならない。

 結局、達也が席を立つ事で丸く収まったのだが、エリカ達の心には鬱憤が溜まっていた。

 

「あーもう!今、思い出してもムカつく!レオもそう思わない?」

 

 エリカが筋肉質で大柄な少年に話しかける。

 レオ…西城レオンハルトは頷いた。

 

「確かにな。つーか、達也も立たなくて良かったんじゃないか?」

 

 レオがそう言うと、達也は困った顔で反論する。

 

「騒ぎになるのも不味いからな。丸く収まるなら、それが良いだろう。」

 

 達也はそう言うも、エリカが不満気に口を開いた。

 

「達也君が良くても、深雪が可哀想よ。深雪は達也君と食べたかっただろうし…。」

 

 球磨川はそんなエリカに同調する。

 

『確かにね。』『そういえば、その取り巻きのリーダー兼深雪ちゃんのストーカーって誰なんだろう?』

 

 球磨川が尋ねるとエリカが笑う。

 

「あはは!一科生をストーカー扱いね!確かにストーカーだわ。」

 

 ストーカーという単語を聞いた達也は僅かながら眉間に皺を寄せていた。

 

「(…もしも、あの中に深雪のストーカーがいる可能性があるのなら…俺が……。)」

 

 シスコンと言われる司波達也。流石に妹にストーカーがいる可能性は看過できないようだ。

 エリカは一通り笑うと球磨川の質問に答える。

 

「…確か、森崎って言われてたわね。」

 

『森崎?』『へぇ……。』

 

 球磨川はニヤリと口角を歪める。

 それは元の時代でも見せてきた、悪いことを企んでいる顔だった。

 

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと帰ると言ってるでしょう!!一緒に帰りたかったらついてきてくればいいんです!!」

 

 放課後、校門前に美月の声が響く。

 何故、彼女が怒っているのかと言うと、授業が終わった後、球磨川を探すほのかと雫を混じえた達也達が、どこかに消えた球磨川を待つ意味も込めて校門の前にいると、合流しようとした深雪にくっついて来た昼休みに絡んできた生徒達が再び難癖をつけ始めてきたのだ。

 そこには森崎の姿もある。

 他の取り巻き達は美月の正論にめちゃくちゃな内容で反論した。

 

「でも昼もあまり喋れなかったし、何より二科生には分からない話もあるんだ!」

 

「そうよ!親睦を深めるためにも司波くんには悪いけど、どこかによっていこうよ。」

 

 美月も言われっぱなしではない。

 

「そんなの貴方達の勝手な都合じゃないですか!!なんの権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」

 

 一科生とニ科生の争いが勃発している中、肝心の深雪はというと…

 

「(引き裂くってそんな……美月ったら何を勘違いしているのかしら?)」

 

 顔を赤くさせていた。そんな彼女に達也は話しかける。

 

「どうした深雪?」

 

「いえ!なんでもありません!!美月ったら何を勘違いしているのでしょうね?」

 

 深雪は顔を赤くしながら、モジモジする。達也は深雪の反応に困惑していた。

 

「深雪……なぜお前が焦る?」

 

「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」

 

「そして何故に疑問系?」

 

 彼らについての口喧嘩なのにも関わらず、司波兄妹はほのぼのと話している。

 この場は妙な混沌に包まれていた。

 そして、リーダーである森崎がついに出てくる。

 

「さっきから黙って聞いていれば、何でウィード如きが僕達ブルームにたてつくんだ?」

 

 森崎は得意気に話し続ける。

 

「良いかい?この高校は実力主義。つまり成績優秀者である僕達ブルームと君達ウィードは実力に大きな差があるってことだ。ようは存在価値自体が僕達の方が上なんだよ。」

 

 そして、彼は次にほのかと雫の方へ顔を向ける。

 

「君たちもだよ。光井さんと北山さん。よくウィードなんかと一緒にいれるね?君達がそんな行動を取っていると僕達ブルームの品格が落ちるんだよ。やめてくれないかな?」

 

 ほのかは声を荒げ反論する。

 

「ふ…ふざけないでください!友達と一緒にいることの何が悪いんですか!?」

 

「………」

 

 雫も無言ながらも、その目は確かに怒りを帯びていた。

 そこにさらに、美月が加勢する。

 

「ほのかさん達まで責めるなんて最低ですね…。それにブルームとかウィードとか色々言ってますけど……同じ新入生なのに……今の時点で貴方達がどれだけ優れているというんですか!?」

 

「ふん!ブルームとウィードを同格にするな。僕達ブルームこそが絶対的に優れているんだからね。お前達ウィードは僕達ブルームに黙って従っていれば良い!」

 

 森崎はそう言って銃型のCADを構えた。

 それに反応したレオとエリカが身構える。

 そして達也も「これは不味いな」と争いを止めようとしたその時…!

 

『ふーん。』『折角友達と帰ろうと来てみれば…』

『ブルームこそが絶対的に優れている?』『ウィードは黙って従っていれば良い?』

『そんな悪口言われたら、流石の僕だって黙っていられないぜ。』

 

「……!?」

 

 誰が驚いたのかは分からない。

 森崎なんかよりも最低な声が響いた瞬間、エリカ達と森崎達の間を無数の螺子が横切るようにぶっ刺さった。

 

「誰だ!?」

 

 森崎が吠える。

 すると、突然目の前に黒髪の男が現れた。

 

「球磨川くん!」

 

「球磨川!?」

 

 球磨川禊は螺子を弄びながら一科生(エリート)達と相対する。

 

 

 球磨川が現れた瞬間、達也が感じたことは困惑と警戒だった。

 

「(…気配が一切なかった……どういうことだ。)」

 

 螺子を武器にすることまでは良い。武器など所詮は人によって変わる。極論、米袋だろうが殴れば人を怪我させることくらいはできる。だが、球磨川の気配の無さに関しては異常だ。影が薄いとかそんなレベルではない。達也ですら感じとることができない…まるで最初から気配という概念自体が無かったかのようだ。

 

「お前は……?」

 

 森崎がCADを構えながら警戒していると、球磨川はヘラヘラ笑いながら口を開く。

 

『やぁ!森崎くん。』『僕の名前は球磨川禊。』

『君達が大嫌いなただの劣等生(マイナス)だよ。』

 

「マイナス…だと…?」

 

「(マイナス…?)」

 

 球磨川の言葉に皮肉にも森崎と達也が同じ反応をする。

 そして、森崎は球磨川に向け嘲笑する。

 

「つまりお前も所詮はウィードということか。螺子だか何だか知らないが、そんなもので僕の…森崎一門が誇るクイックドローに勝てると思うのか?」

 

『さあね。』『でも僕達、過負荷(マイナス)は勝てる確率が1%でも残っている限り、諦めたりしないんだよ。』

 

 球磨川が螺子を構え、森崎が右手に構えたCADをいつでも発動できるようにしている。

 この緊迫した状態の中、球磨川は何と…

 

『なーんてね♪』

 

 螺子を地面にぶん投げた。

 

「…?なんのつもりだ?」

 

 森崎は球磨川の行動に困惑する。

 達也達も取り巻き達も同じようだった。

 

「球磨川君…何のつもりなんでしょう?」

 

「…わからない。」

 

 深雪と達也が話し合う。

 あれだけ戦う気を出していた球磨川が武器を捨てた。 

 行動がチグハグで訳がわからない。

 その球磨川は森崎に向け、ヘラヘラ笑いながら話しかける。

 

『森崎くん。』『よく考えたら、僕達が争う理由なんてないと思うんだよね。』

 

「はぁ?」

 

 森崎が反応するが、球磨川はスルーして話し続ける。

 

『だって』『僕達は同じ学び舎で学ぶ仲間だぜ!』

『そんな僕達が差別なんかで争うことはないと思うんだ。』

『僕達はもっと仲良くなれるはずだよ!』

 

 森崎は球磨川の理想論じみた発言に唖然とする。

 それは他の面子も同じだった。

 しかし、達也だけは…

 

「(…なんだ?この違和感は?球磨川の言葉、一つ一つが正しいはずなのに嘘のように聞こえる…。)」

 

 球磨川は正しいことを言っている。それは間違いない。

 しかし、達也にはそれがどうしてもおかしく見えた。

 まるで、言葉と行動が矛盾しているような…。そんな違和感。

 達也は球磨川から発される違和感に囚われる。

 

『だから、仲直りしようよ。』

『さ!仲直りの握手だ!』

 

 球磨川はそう言って左手を差し出す。

 

「(…ふん。誰が貴様などと握手などするものか。)」

 

 森崎は球磨川と握手などするつもりはなかった。

 そのため、余った左手で球磨川の左手を払い除けようとすると、彼は感じた…いや感じ取ってしまった…。

 

「………!?」

 

 わざとなのか事故なのか…それは分からない。しかし、森崎は確かに自分のCADの引き金を引いてしまったのだ。

 

『…ガハッ!?』

 

「……!」

 

 球磨川の胸に魔法が当たり、彼が吹っ飛んで宙を舞う。

 そして、達也が何とか反応し、球磨川が地面に激突することだけは防いだ。

 

「あ…ああ…」

 

 森崎は自分がやってしまったことに震える。

 脅かすだけのつもりだった…。放つつもりはなかった。しかし、現実は球磨川に当ててしまった。

 しかも、自らの意思ではなく、感じた恐怖に対する防衛のために咄嗟に引いてしまったのだ。

 森崎一門とはボディーガードを生業とする名門である。 

 そして、ボディーガードに必要とされるのは肉体と頭脳…何よりも危険察知能力だ。

 森崎駿もその例外ではなく、厳しい訓練を受け、さらに自らもボディーガードとして活動していた。しかし…だからこそ感じたのだ。球磨川の持つ危険性…恐ろしく、おぞましい危険性(マイナス)に…。

 

「球磨川くん!」

 

「球磨川!!」

 

 球磨川が撃たれたことに、ほのかやレオといった友人達が駆け寄る。

 森崎の取り巻き達は森崎を責めるような目で見ていた。

 

「森崎君…ヤバいでしょこれ。」

 

「森崎…なんてことを…」

 

 校内において、自衛以外の魔法による対人攻撃は禁止されている。

 しかも、ウィードとはいえ友好を示した無抵抗の相手に魔法を放ったのだ。

 それ相応に処罰が下されるだろう。

 

「ぼ…僕はそんなつもりじゃ…」

 

 勿論、それは森崎にだって分かっている。

 だからこそ、事の危険性に身を震わせていた。

 

「森崎!お前!」

 

 レオが森崎を睨みつける。

 彼が駆け寄ろうとすると、突然…

 

『痛いよぉ…。』『何するんだい…森崎くん?』

 

 球磨川が涙を流し、痛みによる苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる。

 糸が切れたマリオネットのように…。

 それを見た森崎は震える。

 

「ひっ…!?」

 

『無抵抗の相手に気に食わないからって』『魔法を当てるんだね。』

『森崎一門ってそんな差別的で暴力的な一族なんだね。』

 

 球磨川から過負荷が溢れ出す。

 ゆらりゆらりと森崎に近づいていく。

 

「ち…ちが…!」

 

「…く、球磨川?」

 

 森崎は震えて動けない。

 他の取り巻きも友人も球磨川の変貌についていけない。

 

『それともなんだい?』『君がただ気に食わない奴に魔法をぶつける』

『暴力的で』『野蛮で』『差別的で』『無責任な人ってことなのかな?』

 

「そ…それは…」

 

 責めるように染みるように嬲るように球磨川は森崎を攻めていく。

 森崎は反論したいが、球磨川の過負荷に圧倒され口に出せない。

 球磨川が森崎の元に着くと…

 

『でも、それで良いんだよ。』

 

 先程までの責めるような口調から一転、優しく諭すように笑みを見せる。

 

「え?」

 

 森崎は困惑を隠しきれない。

 球磨川はそんな彼に囁いた。

 

『自分より下のやつは見下し続ける。』

『そいつが歯向かってきたら、気に食わないと憂さ晴らしする。』

『力で全部支配下に置こうとする』

『そんな暴力的で』『差別的で』『野蛮な』

『何も考えない無責任な名門の面汚し…』

『それが君なんだから!』『掛け替えの無い個性なんだから!』『自分らしさを誇りに思おう!』

『君は君のままで良いんだよ。』

 

「ひっ……!」

 

 もはや森崎は訳がわからない。魔法で攻撃され、痛みに苦しみ、撃った自分を責めていた人の言葉だとは思えない。

 気持ち悪い…気色悪い…気味が悪い。

 球磨川の一挙一動。彼が発する言葉…。

 球磨川から溢れ出す過負荷…すべてが自分の身体が拒否する。話したく無い。触りたく無い。見たくも無い。

 もはや、森崎の心は殆ど折れかけていた…。しかし…球磨川は止まらない。

 

『でも、どうせ憂さ晴らしするなら…』

 

 球磨川は地面に置いた螺子を拾う。

 そして自分の胸元にまで近づけた。

 

「……球磨川!!」

 

「球磨川くん!!」

 

 誰もが球磨川の過負荷に圧倒される中、達也と、ギリギリで復活したほのかが球磨川がやろうとしていることを止めようとする。

 …だが、間に合わなかった。

 

『こうしなきゃ』

 

 球磨川はヘラヘラと笑いながらそう言うと…自分の胸に螺子をぶっ刺した。

 

「え?」

 

 森崎が呆けた声をだす。

 グシャグシャと骨が砕ける音…。グチュっと筋肉と内臓が潰れる音…。ブシャァ!と球磨川の胸から血液が吹き出す音…それらが響き渡る。

 そして、森崎の顔に赤く、生暖かい液体がかかった時、ようやく森崎は事態を把握する。

 そして、一人の女子生徒の悲鳴が響き渡った。

 

「キャァァァ!!」

 

「ヒッ…ヒェ…」

 

 森崎はもはや呼吸することしか出来ない。

 その場にいる人間の全員の顔が死体の如く青冷めていた。

 そんな中、達也は歯を噛み締める。

 

「(…間に合わなかった……。)」

 

 しかし、達也を責めることはできない。

 誰もが球磨川の過負荷に動けないでいる中、まともに動ける時点で異常なのだ。

 しかも、自分の胸を自分で貫くなんて所業を誰が思いつくだろうか…。

 

『あはは!ジョークだよ。ミソギジョーク!!』

『ショータイトルは大嘘憑き(オールフィクション)ってところかな?』

 

 辺りが騒然としている中、球磨川の陽気な声が聞こえる。

 

「え…?」

 

 誰がその声を発したのかはわからないが、疑問に思うのも仕方ない。

 なにせ…先程まで重傷だった球磨川の傷が…完全に消えていたからだ。

 まさしく()()()()()()()()()()()

 

「(オールフィクションだと…?そんな魔法見たことも聞いたこともない。)」

 

 達也だけは球磨川の復活の原理を考察しようとするも分からない。

 当然だ。球磨川の大嘘憑きはスキルであって魔法ではないのだから。

 しかも、あの血の匂いは偽物ではなく本物だ。それを達也は誰よりも知っている。

 だからこそ、分からない。何故、球磨川の傷が一瞬にして治ったのかが。

 

『どうかな?』『僕なりに考えた場を和ませるショーだよ!』

『面白かったかい?』

 

 球磨川が陽気に話していると、顔を青くし震える深雪が話しかける。

 

「く…球磨川君…。傷は…?」

 

『傷?何のことだい?』

 

 球磨川はのほほんと言葉を返す。

 しかし…その後、ニヤリと三日月の如く口角を歪ませ、再び森崎の方へと向いた。

 

『でも』『ウケなかったのなら仕方ない。』

『折角だし、リベンジしちゃおっか…?』

 

 カタカタと震える森崎…。

 それを見ながら球磨川は螺子を持ち、再び自分の胸に突き刺そうとした時…

 

「球磨川くん…もうやめてぇ!!」

 

 球磨川の背中を抱いて、泣きながら震える一人の少女の悲痛な叫びが轟いた。

 

『…!?ほのかちゃん?』

 

 球磨川も驚く。

 ほのかは震えながら…泣きながら球磨川に訴えた。

 

「お願い…もうやめて…。お願い…。」

 

 その涙で顔を腫らし、目が充血した、そんな悲痛な顔を見た球磨川はため息を吐く。

 

『……そんな顔で見ないでよ。ほのかちゃん。』

 

 彼はそう言って螺子を下ろした。

 球磨川の過負荷が収まり、辺りが騒然としている中、二人の人物が現れる。

 

「全員!そこを動かないで!!」

 

 そこに現れたのは生徒会長である七草真由美と風紀委員長である渡辺摩利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっべ…やりすぎちゃったかも…。
それに文章を読むと球磨川が最初から森崎と握手する気なんてないことが分かるし…。これ修復不可能じゃね?続きどうしよう?
今回は読んでいただきありがとうございました…。続き何とか書けるように頑張ります。

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