これは僕がまだ小学校だったころの思い出。体が小さく気が弱かった僕はなかなか友達を作れなかった。でも、そんなぼくにも一人だけ友達がいた。とても優しくて、暖かい顔で笑う女の子の友達。その子は一枚のカードを僕にくれた、そして僕にこう言ったんだ。
「イメージするんだよ。誰にも負けない強い自分をイメージするの、そうすればきっといつかそのイメージに追いて、新しい自分に生まれ変われるから・・・。」
それからその子は遠くに引っ越し会えなくてしまった。でも、その思い出はずっと僕の中に残っている。そんな僕は今…。
「ユウユちゃん!かわいい~!!」
「ユウユちゃん!次はこれ、これを着てみて!ね、いいでしょう?」
「う、うう…。」
姉の趣味に付き合わされて、女装をさせられていた。
僕が困っているにも関わらず、姉たちは次に僕に何をさせるかで盛り上がってる。本当は女装なんてしたくない、今すぐにでもやめてと言いたい。けど、気が弱い僕はなかなか言い出せないでいた。
(ど、どうして…。)
「ねえ、ユウユちゃん。」
「え、ええ!?」
姉が、女物の下着を持って近づいてくる。ま、まさかそれを着せようっていうの?
僕の嫌な予感を裏付けるかのように姉は近づいてきた。
「大丈夫、絶対に似合うから…。」
「も、もう…、」
「さあ、さあ、さあ…。」
怖いくらいの満面の笑顔で近づいてきた姉に、僕の我慢はとうとう限界を迎えてしまった。たまらなくなった僕は…。
「もう嫌だああああああ!!」
女装した姿のまま家を飛び出してしまった。
(どうしてたった一言なのに、僕は…、嫌だと言えないんだ…。)
あの頃からずいぶんと時間がたったけど、僕はまだ、新しい自分に生まれ変われそうになかった。
ー
「はあ…。」
考えなしに家を出た僕はゆく当てもなく、困り果てたまま公園のベンチに座っていた。
そして、あの子にもらった思い出のカードを見つめている。
「強い自分をイメージ…。やっぱり僕にはできそうにないなあ…。はあ~。」
あの時の言葉を思い出す。でも、僕は実の姉にすら言いたいことを言えず、逃げてばかり。強い自分をイメージすることも、新しい自分に生まれ変わることもできずにいた。
今もこうして、女装したまま…。
「って、ああ!しまった!」
今更ながら女装したままだったことに気付き、とても恥ずかしくなる。幸い、周りから変な目では見られていない(それはそれで複雑だが)。早くどこかで着替えてしまいたい。
だが、そう考えているときは決まって面倒なことに巻き込まれるもので。
「あれ、君可愛いね~」
いきなり、勘違いをしたチャラついた格好をした男に絡まれてしまった。
「ねえねえ、暇?カラオケ行こ?カラオケ」
「え、えっと、あの」
「いいじゃん、いこいこ」
男に手をつかまれて連れていかれそうになる。それなのにまた僕は何も言い出せなくなってしまう。
(どうしよう…。)
しかし、そんな僕に対して意外なところから助け舟が出された。
「やめなよ。困ってるじゃない、その子。」
男の背後から、女性の声かする。男は僕から手を放すと声のほうを振り返る。するとそこにいたのはお嬢様学園の制服を着た、女性がいた。きれいな顔立ちに凛とした表情のその女の人は、毅然とした態度で男に向かい合う。その姿は遠めから見ても美しく、男は気に入ったのかへらへらしながら、その人に歩き始めた。
「へえ、いい、君もかわいいじゃん。マジいいじゃん、君も、カラオケ行こ。ね?」
そういって男はその女の人の肩に手を置いた。すると女の人の顔がみるみる怒りで歪んでいく。
「その手を放せ、この!」
女の人は手に持っていたカバンで男の頬を殴りつけた。
「ぐほお!?」
「変態!!」
さらにその男の股間を思いっきり蹴り上げる。
「あ、あがあっ!!」
「さ、いこ」
「え、あっ…。」
悶絶した男をしり目に女の人は、僕の手を引いて走り出した。その時、僕もこの人も気付いてなかった。男の人を殴りつけたときに、大事なものがカバンから零れ落ちていたことに…。
その後、遠くまで走ってきた僕たち。
「ありがとうございました。そ、その…。」
「いいんだよ、ああいうチャラい男、私大嫌いだからさ。でも君可愛いからさ、ちゃんとはっきりノーって言わなきゃだめだよ。」
「そ、そうですよね…、はあ~。」
ちゃんと話さないといけないことがたくさんあるのに、やっぱり僕はちゃんと話せないでいた。せめて、誤解を解かないといけないとわかっているのに、うまく言葉が出てこない。
そんな僕を見かねたのか女の人のほうから先に声をかけてきた。
「う、うう。」
「そういえば、名前言ってなかったね。私は大倉メグミ、あなたは?」
「こ、近導ユウユです。」
「ユウユちゃん、か…。何か訳ありみたいだね。」
そうして、メグミさんは少し考えてから僕にこんなことを言った。
「私この後チームの仲間たちとに遊びに行く予定なんだけど、もしよかったら、一緒に行かない?」
「チーム?いいんですか?」
どうせ行く当てなんてないし、当分家に帰ろうだなんて思えない。それならメグミさんと一緒に行くのもいいと思った。でも、何も話していない僕の都合に巻き込んでしまってもいいのだろうか?彼女とそのチームの人たちの迷惑になるんじゃないだろうか。
でも、心配ないよとメグミさんは笑った。
「いいんだよ、困ったときはお互い様。困ったときには助け合う。それが私たちのモットーなんだ。それに女の子だもん、いろいろあるもんね。たまにはパーッと遊ばないと。」
「え、あの、僕は…。」
「さあ、そうと決まれば、いこ!」
結局僕は、自分が男だと言い出せないまま、メグミさんについていくことになってしまった。
「へへへ、新パック奮発して1箱買っちまったぜ!」
その時、僕たちがチャラい男を撃退していたあの公園に、上機嫌な赤毛の大男が来ていた。
「さて、今日はこいつの開封式を…。ん?」
その男は公園の茂みにデッキケースが落ちているのを見つけると、それを拾い上げて、中身を確認した。
「こいつは…、メグミのデッキじゃねえか!」
中にあった見覚えのあるカードたちを見て大きくため息をつく男。
「何やってんだあいつ…、全くしょうがねえな。早めに行って渡してやるか…。」
そして、男もぼくたちと同じ場所へと歩き出した。
ーー
「チームが集まっている場所って、本当にここなんですか?」
僕とメグミさんが来ていたのは、廃墟になった遊園地の入口だった。すっかり廃れてしまっているそこはとてもじゃないがみんながきたがるような遊び場には見えない。
「そうだよね。私も初めて来たときは驚いちゃってさ。でも、中は結構綺麗にしてるんだよ。」
「あの、チームってここで一体何をしているんですか?」
今更ながら怖くなってきた僕は、メグミさんにそんなことを聞いてみる。
だが、応えようとするメグミさんの言葉は、聞き覚えのある声ですぐに遮られてしまう。
「ああ、私たちは」
「兄貴!あいつらです!あの女どもです!!」
声の先にいたのは、さっき僕たちに絡んできたチャラい男と、兄貴と呼ばれた銀髪の男。
兄貴と呼ばれた男は腕組をしたまま、こちらに歩いてくる。
「こいつの話を聞いてまさかとは思ったが、まさか本当にチームブラックアウトの大倉メグミだったとはな。」
「へえ、わかってて来たんだ。」
大柄な男ににらまれてもメグミさんはひるまない。それどころか不敵に笑って見せた。
「それで、わざわざこの大倉メグミに会いに来て、どうするつもりなの?」
そう、尋ねるメグミに対して男は懐からカードデッキを取り出した。
「いつもなら、こいつが受けた分と同じだけ痛い目を見てもらうんだがな。ヴァンガードファイターとなれば話は別だ。ファイトテーブルも同然あるんだろ?なら、この俺とファイトしてもらおう。」
「そう来ると思ったわ。当然、受けて立…!?」
メグミさんも自分のデッキを取り出そうと思ったのだろう。カバンに手を入れる、しかし、デッキはなかなか出てこない。そして、焦ったようにカバンを漁る。
「メグミさん?」
「ない!私のデッキがないの!ちゃんとカバンに入れて…」
メグミさんは思い出す、逆上して男をカバンで殴りつけたことを。
「まさか、あの時!」
「なんだ、デッキがねえのか?ならやはり痛い目にあってもらうしかねえな」
そうして男はメグミさんの手をつかんだ。
「いや!離して!」
「おら!おとなしくしろ!」
その光景を見ていた僕は、恐怖で少し後ずさりをしてしまう。自分の恩人がピンチなのに、また、何も言い出せないままだ。
(だめだ、メグミさんが困っているんだ、助けなきゃ、何か言わなきゃ!)
そう思っているはずなのに、言葉が出てこない。
(やっぱり、僕じゃダメなのかな。言いたいことを何も言えないまま、僕はダメなままなのかな?)
そんなとき、僕の脳裏に浮かんだのはあの子にもらったあの言葉だった。
『イメージするんだよ。誰にも負けない強い自分をイメージするの、そうすればきっといつかそのイメージに追いて』
「や、…。」
『新しい自分に生まれ変われるから・・・。』
「やめろ!!」
「あん?」
「っ!ユウユ、あ、あなた…。」
気付いたら僕は、姉に無理やりかぶせられたウィッグを脱ぎ捨てて力の限り叫んでいた。
振り返る男とメグミさん。ずっと僕を女だと思っていたメグミさんは驚きの表情を浮かべている。
でも、そんなことはどうでもいい、メグミさんを助けないと。そう思って、なけなしの勇気を振り絞って今までにないくらい大きな声を出して叫んだ。カバンの中に入れてあった、ずっと使ってなかったデッキを取り出して…。
「そ、その人に手を出すなら、ぼっ、僕が相手だ!」
「なんだ、お前もファイターだったのか」
「い、いや、ファイトしたことはないけど、い、いつかやってみたくて、デッキだけは持ってて、その…。」
「はあ、初心者かよ!?」
肝心なところで尻すぼみした僕をチャラついた男が笑う。
「いいか!ここにいるカツジさんはなあ!能登の国じゃそれはそれは名の知れたファイターなんだよ!お前みたいな初心者が勝てるわけねえだろ!」
「やかましいぞ!」
「は、はい!すみません兄貴!」
大声で子分を制するカツジ。だが、考えは子分とかわらないらしく、もう一度僕に尋ねてくる。
「だが、こいつのいう通り、お前みたいな初心者が俺様に勝てるとは思えねえ、それでもやるのか?しっぽを巻いて逃げるならお前だけは見逃してやってもいいんだが…。」
「だめだよユウユちゃん!いや、ユウユくん!あなただけでも逃げて!」
でも僕は決してその提案は飲まない。勝てないかもしれないけど、ここで逃げたらきっと一生後悔する。
(絶対に逃げない!僕のことを助けて、理由も聞かずに受け入れたメグミさんを見捨てたりなんかしない!僕は弱いままで終わりたくない、ここで新しい自分に生まれ変わるんだ!)
僕の目を見て意思をくみ取ったカツジは、僕とのファイトを受け入れた。
「いい目だ。俺もファイターの端くれだ。その挑戦受けてやるよ。女!お前のとこのファイトスペースに案内しな!」
そして、僕たちは遊園地の奥にあるファイトスペースに来た。僕とメグミさん、カツジとチャラ男がファイトテーブルをはさんで向かい合う。
「それじゃ、まずは先行を決めないと」
「待って」
男の話をメグミさんは遮る。
「ユウユ君はまだファイトをしたことがない。だから、私がルールを説明しながらするファイトするわ。説明する都合があるから先行は譲ってもらう。そのくらいいいわよね?」
「いいだろう、そのくらい、ハンデにもならねえよ。」
こうして、メグミさんは僕と一緒にファイトテーブルに立つのだった。
「ごめんなさいメグミさん。勝手なことを言って」
「いえ、もともとはデッキをなくした私が悪いのよ。」
「いや、最初に助けてもらったのは僕のほうです。それに…。」
少し、恥ずかしくなりながらも、もう一つ謝らなければならないことを口にする。
「僕が男だってこと黙ってたから、いや、隠そうとしてたわけじゃないんですけど」
「そうね、まあ、たしかに驚いたけど」
メグミさんは僕に笑顔を向けてくれる。
「さっきのユウユくんは、男らしくてかっこよかったよ」
目の前の綺麗な笑顔を見て、僕の顔は少し赤くなっていた。
「それじゃあ、一緒にやろっか」
「はい。」
こうして、メグミさんに教わりながらの僕の初めてのファイトが始まった。
「まずは、グレード0のカードを一枚選び、ファーストヴァンガードとしてセットする。そして、グレード1から3までのカードをライドデッキとして山札の横に置く」
グレード0とライドデッキにはあらかじめ決めておいたカードをセット。
「そして、山札から5枚引く。ここで一回だけ引き直しができる。手札にトリガーユニットを残さないように引き直しするのがコツだよ」
「はい、それじゃ2枚引き直します」
慣れてきたら戻すカードも慎重に選ぶべきだろうが、今回はメグミさんに言われたとおりに、トリガーユニットと書かれたカードだけを山札に戻した。
「できました。」
「よし、それじゃ、私たちはこれから、はるか遠くにある地球によく似た、惑星クレイに降り立つ。さあ、イメージして」
「イメージ…。」
思い出の言葉と同じ言葉を聞いた僕は自然と自分のイメージの中に入り込んでいった。
地球によく似た惑星の荒野。そこに僕は半透明な姿で立っていた。
すると何もないところからメグミさんの声か届く
「君は今、なんの力も持たないか弱い霊体として、クレイにいる。このままじゃ何もできない。だから、君に力をくれるユニットを呼び出すの。」
そう、最初に選んだファーストヴァンガードが頭に浮かぶ。
「それがヴァンガード、導く者っていう意味だよ。」
「導く者…。」
「君はこれから選んだヴァンガードに憑依、つまり、ライドして、クレイで戦う姿を得る。さあ、イメージして、そのユニットが自分になる姿を」
「おい、もういいかいお二人さん?さっさと始めようぜ。」
カツジに促されて、僕は慌ててファーストヴァンガードに手をかけた。
「わかりました。」
「それじゃいくぜ!」
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
「サンライズエッグ!」
G0 パワー6000
「アンキャニイ・バーニング!」
G0 パワー6000
イメージの世界で、僕の姿は小さなドラゴンの卵に変化する。割れたからの間から相手の姿を見ると、相手の姿もまた、緑色のオーラをまとった悪魔に変化していた。
うまくイメージできたのを見たメグミさんは説明を続ける。
「まずはスタンド&ドロー。と言っても最初のターンだからユニットはスタンドしてるから、ドローだけだね。山札からカードを1枚引いて。」
言われた通りにカードを引く、これで手札は6枚になった。
「次はライドフェイズ、ヴァンガードをより強いユニットに進化させる。手札を一枚捨てることで最初に用意したライドデッキからグレードの一つ高いユニットをヴァンガードに重ねておくんだよ。」
「手札のカードを一枚捨てて、ライド!《焔の巫女リノ》!」
《焔の巫女リノ》
G1 パワー8000
サンライズエッグとして立っている僕を守るように、巫女が降り立った。卵のまま動けない僕の代わりに戦ってくれるようだ。
「次はメインフェイズ。自分のチームにオーダーカードで指令を出したり、手札のユニットを一緒に戦う仲間を呼ぶことができる。ヴァンガード以下のグレードを持つカードを場に出すことができるよ。」
「えっと、それじゃあ、手札から《焔の巫女ヒメナ》をコールします。」
《焔の巫女ヒメナ》
G1 パワー8000
「それがリアガード、ヴァンガードとともに戦うユニットたちだよ。」
「一緒に戦ってくれる仲間」
来てくれた、ヒメナに目を向けると、優しい表情で会釈をしてくれるヒメナ。頼もしい仲間だ。
「先行は攻撃ができないからメインフェイズが終わればこれでターン終了だね。」
「わかりました。これでターンエンドです。」
ターンの終了を宣言すると、面倒くさそうに待っていたカツジが、やれやれ、と言って動き始めた。
「それじゃ、俺のターンだ。スタンド&ドロー。手札を捨ててライド!《ディープ・ソニッカー》!」
《ディープ・ソニッカー》
G1 パワー8000
「ライドされたアンキャニイ・バーニングのスキルでカードを1枚ドロー、さらにディープソニッカーのスキルでソウルチャージだ!」
「えっ?」
突然の相手の行動に疑問を持つ僕にメグミさんが答えてくれる。
「ユニットには特定条件下で発動するスキルを持ったものがいるの、今のは《アンキャニイ・バーニング》と《ディープ・ソニッカー》が持つスキルが発動したんだよ。」
相手は能登の国で名の知れたファイターだという。きっと、ユニットの持つスキルも熟知したうえで使いこなしてくるだろう。でも、僕はヴァンガードに関しては素人同然で、スキルを把握せずにデッキを組んでしまっている。一部のスキルは生かせないかもしれない。
一抹の不安を抱くも、対戦相手は待ってはくれない。
「さらに《サイクロン・サイクラー》二体を右側とヴァンガードの後ろにコールして、バトルだ!」
《サイクロン・サイクラー》×2
G1 パワー8000
敵の攻撃宣言を受けて、僕は身構える。
「インケーンでヴァンガードにアタック!」
「敵の攻撃は手札のカードをガーディアンサークルにコールすることで防ぐことができるよ。ガーディアンサークルのユニットのパワーはシールドの数値で計算する。こちらのパワーとシールドの数値の合計が相手のパワーを上回ればガード成功だよ。」
「《焔の巫女アルーナ》でガードです!」
《サイクロン・サイクラー》パワー8000
《焔の巫女リノ》パワー8000+《焔の巫女アルーナ》シールド5000
突進で攻撃を仕掛けてきた悪魔。しかし、その足元から突如炎が噴き出した。思わず足を止める悪魔。そして、炎の先には、不思議な踊りで炎を操る巫女がいた。悪魔の攻撃はこうして、リノには届かずに終わる。
「ガードに使ったカードはドロップゾーンに置く。」
「へっ、防いだか。なら、こいつはどうだ?サイクロンサイクラーでブーストしたディープソニッカーでヴァンガードにアタック!」
《ディープ・ソニッカー》パワー8000+《サイクロン・サイクラー》パワー8000
「後列にいるユニットは攻撃には参加できないけど、ブーストを持つグレード1、0のユニットは自分のパワーを前列のユニットに加えることができるんだ。」
続いて、カツジのライドしたディープソニッカーが来た。後列のサイクロンサイクラーから力をもらい攻撃してくる。こちらの手札では、相手の攻撃を防ぐことができない。
「ううっ、ノーガードです。」
「それじゃ、行くぜ。ドライブチェックだ。」
「ヴァンガードの攻撃ではドライブチェックが発生する。山札の上のカードを一枚めくってお互いに確認するの。」
カツジがめくったカードは《バイタル・リーヴァー》、そのカードの右上には"前"というマークがあった。
「ドライブチェックでトリガーが出たら攻撃した側に有利な効果が発動する。今あいつが引いたのはフロントトリガー。あれを引いたら前列のユニット全員にパワー+10000の効果が発動するよ。」
《ディープ・ソニッカー》
パワー16000→パワー26000
さらに勢いをましたディープソニッカーのタックル。それを卵である僕をかばって前にでたリノが受けた。
「ヴァンガードがに攻撃がヒットしたらダメージチェックをするの。山札のカード1枚をめくって確認してからダメージゾーンに置くの。このダメージゾーンにカードが6枚置かれたほうがゲームに敗北するよ。でも、ここでトリガーが出れば、ドライブチェックと同じように効果を使うことができるんだ。」
「…、ダメージチェック」
ダメージチェックで出たカードは《焔の杖僧チョクーシャ》右上には“引”というアイコンがついていた。
「そのカードはドロートリガー。好きなユニットにパワーを+10000、そして、カードを一枚ドローすることができるよ。」
《焔の巫女リノ》
G1 パワー8000→パワー18000
さらにカードを一枚ドローする。しかし、カツジの場にはアタックできるユニットはもういない。
「ターンエンドだ。」
再び、僕にターンが回ってきた。
「ここまでが基本的な流れだよ。ターンごとにヴァンガードにライド、グレードを上げて強くしながら、状況を整えていく。ここまでは理解できたかな?」
「はい。大丈夫です。」
メグミさんの丁寧な説明のおかげでファイトの流れは大体理解することができた。ルールはシンプルで覚えやすく、これなら僕でもすぐに遊べそうだ。
「そう、それじゃあ、ここからあいつに見せてあげよう、あなたの力を!」
「わかりました!スタンド&ドロー!」
僕は再びイメージに戻り、戦いを始めた。
「手札を一枚捨ててライド!《焔の巫女レイユ》!《焔の巫女ヒメナ》を後列に移動して《フレアストライクドラゴン》と《ブレイジングスピアドラゴンをコール》」
《焔の巫女レイユ》
G2 パワー10000
《フレアストライクドラゴン》
G2 パワー10000
《ブレイジングスピアドラゴン》
G2 パワー10000
僕のそばに、リノとはまた違う色の炎をまとった巫女が、両側には勇ましいドラゴンの戦士が並んだ。
「バトル!焔の巫女レイユでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
「ドライブチェック!」
山札の一枚をめくるが出てきたのはノーマルユニット
だがレイユが打ち出した火の玉は、相手のディープソニッカーに見事に命中した。
「ダメージチェック、トリガーはなし。」
「ブレイジングスピアドラゴンでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード!」
さらに攻撃するが相手は防御しない。トリガーは発動せず、再びダメージが入る。
「ヒメナのブースト!行け!フレアストライクドラゴン!」
「ノーガードだ!」
さらにフレアストライクドラゴンの攻撃がヒット。カツジのダメージチェックで再びダメージ。これでダメージは1対3。僕が一歩リードする形になった。
「ターンエンド、よし、これなら!」
「まさか、これなら勝てる、なんて考えているんじゃねえだろうな?」
安堵から、ほっと一息入れる、僕を見たカツジは笑う。
「もうお遊びの時間は終わりだ。お前に見せてやるぜ。ヴァンガードの恐ろしさをな!手札を一枚捨てて、ライド!《エレクトロ・スパルタン》!」
《エレクトロ・スパルタン》
G2 パワー10000
相手の姿が青い電をまとった悪魔に変化する。
「サイクロンサイクラーを後列に下げて、《セルフィッシュ・エングレイヴァー》をコール!」
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》×2
G2 パワー10000
「さらにオーダーカード、《ブラザーズ・ソウル》を発動!その効果によりソウルチャージ2!これでソウルは5枚だ!」
両脇に大蛇を引き連れたサキュバスが現れる。
「サイクロンサイクラーでブーストしたセルフィッシュエングレイヴァーでアタック!この瞬間、サイクロンサイクラーのスキル発動!ダメージゾーンのカードを一枚裏返し、このカードをソウルに入れることで前列のユニットすべてにパワー+5000!」
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》
パワー10000→パワー15000
《エレクトロ・スパルタン》
パワー10000→パワー15000
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》
パワー10000→パワー15000
「前列すべてがパワーアップ!?ノーガード。ダメージチェック。」
トリガーはなし。ダメージが2枚になる。そのうえ、カツジの場にはサイクロンサイクラーがもう一体
「サイクロンサイクラーでブーストしたエレクトロスパルタンでヴァンガードにアタック!ここで再びサイクロンサイクラーのスキルを発動だ!」
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》
パワー15000→パワー20000
《エレクトロ・スパルタン》
パワー15000→パワー20000
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》
パワー15000→パワー20000
「パワー20000の攻撃があと2回も!?くっ!《ツインバックラー・ドラゴン》をガーディアンサークルにコール!手札を一枚捨てることで、その攻撃はヒットしません!」
迸る雷撃を放つ悪魔。その攻撃は卵である僕と、それを守る巫女に届く前に大きな盾を持ったドラゴンが防いだ。
「ドライブチェック。ふん…。」
山札の上をめくるカツジ。めくったのはトリガーユニットだ。そこには☆マークのアイコンがあった。
「トリガー!」
「ルールが分かってきたみたいじゃねえか、初心者くんよお…。だが、重要なのはこのトリガーの効果だぜ。」
☆のアイコンを指さしてわざとらしくカードを振って見せつけるカツジ。嬉々としてその効果を宣言した。
「こいつはクリティカルトリガー、ユニット一体のパワーを+10000、さらに与えるダメージを一つ増やすことができる。この効果を受けたユニットのアタックがヒットすればダメージゾーンに一気に二枚のカードが置かれるってことさ。そして、この効果をすべて攻撃していないエングレイヴァーに与える!」
《セルフィッシュ・エングレイヴァー》
パワー20000→パワー30000 ☆1→☆2
トリガーのパワーアップを受けて、力を増していく大蛇とサキュバス。攻撃を受ければただでは済まない。しかし、僕の手札では攻撃をガードできない。
「いけ!セルフィッシュエングレイヴァー!ヴァンガードにアタックだ!!」
卵である僕に迫りくる大蛇、その攻撃をまたしても隣にいた巫女が受ける。大蛇に巻き付かれて締め付けられるレイヤ。苦悶の表情を浮かべる巫女にサキュバスが迫り、追撃をかける。さらに大蛇が拘束を解いてから弱ったレイユをしっぽで殴りつけた。強力な攻撃を受けたレイユは大きく後方に吹き飛ばされてしまった。
「うわあああああああ!!」
その光景を鮮明にイメージしてしまった僕もまた、真後ろに倒れてしまう。倒れる前にメグミさんが支えてくれたため、ことなきを得たが、メグミさんがいなければ僕は頭を地面に打ち付けてしまっていただろう。
「だ、大丈夫?」
「はい、す、すみません。」
「わかったか初心者くん?これがヴァンガードだ。初心者が簡単に入り込めるような世界じゃないんだよ。」
そんな僕の姿を見て、カツジは笑う。
「初心者くん、もう一度だけチャンスをやってもいいぜ。ここで降参してやめるってのならお前だけは見逃してやってもいいぜ。その女だって、別に愛を誓い合った仲でもないんだろ?そこまでしてやる義理はないんじゃないか?ええ?」
僕をからかうように笑うカツジ、心配そうに見つめるメグミ。でも、僕の答えは初めから決まっている。
「…、スタンド&ドロー。」
「ほお…。」
意思表示をするかのようにゲームを続けた。そして、手札から捨てるカードを選んで僕は自分の思いを打ち明ける。
「確かに、僕は弱い人間です。実の姉にこんな格好をさせられても何も言えず、あなたのことだって、ずっと怖くてたまらない。だけど、ここで逃げたら、きっとこれからもずっと、弱いままだ。」
そう、いつまでたっても言いたいことが言えずに、周りに見えるものすべてを怖がっていた。でも、僕はずっと変わりたいと思っていたのも事実だ。強い自分をイメージして、新しい自分に生まれ変わる。思い出のあの子が教えてくれたように。
「僕は!弱いままで終わりたくないんだ!!」
手札のカードを捨てて、ライドデッキの最後の1枚を手に取る。そこにあったのは思い出の少女にもらったあのカードだった。
決意を込めて目を開くと景色が変わる。僕がイメージする惑星クレイの大地。そして一緒に戦ってくれるユニットたちが鮮明に見える。
そして、僕の心臓が強く脈打つのを感じる。リノとレイユが僕に祈りをささげる。その祈りを受けた僕は、衝動のまま、殻を打ち破り、新たな姿を現した。
「目覚めろ!新しい自分!熱き炎とともに生まれ変われ!ライド・ザ・ヴァンガード!!」
卵が割れ、姿を現したのは神々しい炎と光をまとった。大きな翼を持ったドラゴン。世界を照らす希望の光、思い出の少女にもらった希望の光へと、僕の姿は変化していた。
「《天輪聖竜ニルヴァーナ》!!」
《天輪聖竜ニルヴァーナ》
G3 パワー13000
生まれ変わった僕の光が、惑星クレイの大地を照らす。
そんな僕たちのファイトを物陰から見ているひとりの男がいた。
「こいつは・・・!」
その人も僕のイメージに引っ張られるように、同じ惑星クレイの大地を見ていたのだった。
次回 第二話「ようこそ新しいヴァンガードの世界へー後編ー」