最初の悲劇は突然起きた。それは、幻想郷の守護をしていた博麗の巫女の死亡だ。
博麗の巫女というのは幻想郷という神秘が未だに存在している土地を管理している一人らしい。
多くは無いが幻想郷には人間もいくらか住んでいる。ただ、人間以外にも妖怪、神様等が現存している。
この妖怪や神様といった連中は人間に味方している訳じゃない。たまに『異変』といった行動を起こす可能性がある。
この異変を収めるのが博麗の巫女の役割だ。それ以外の奴が解決した時もあったけど。
その幻想郷にとって大事な役割を担っていた彼女は死んだ。何でも、病死だったそうだ。
そして、その約三ヶ月後…
幻想郷守護者だった博麗霊夢は、幻想郷を滅ぼす者として甦った。
誰が言い始めたか、噂があったんだ。死んだはずの博麗の巫女を見かけたと。
その真偽を確かめる為に何人かが調査に向かうが帰還せず、幻想郷での生活の仕方を教えてくれた私の知り合いも、二度と帰って来なかった。
帰還者が居ないので真相が確かめられず、かといってこれ以上人員を減らすわけにもいかないと上白沢が愚痴を溢す位には困りきっていたそんなある日。
死亡した筈の博麗霊夢が姿を現し、幻想郷のパワーバランスを作っている妖怪や神様何かの居座る場所を片っ端から攻撃し始めた。
彼女の関わった戦いは全て悲惨で、復活した霊夢に対抗するべくパワーバランスを作っていた有力者が連合を組んで戦いを挑んだ。
しかし、霊夢を倒すには及ばなかった。
私は幻想郷に来た時と帰るかどうか聞かれた時しか会ったことが無いから本当の博麗霊夢を知っている訳じゃない。
けど、少なくとも幻想郷に対して攻撃するような人だとは思わなかったし、彼女を知っている人だって同じような評価をしている。
だが、現実として博麗霊夢は幻想郷の敵になったし、止められる存在はもう居ない。残された人間や力の弱い妖怪は身を隠しながら霊夢に怯える日々を過ごしていた。
私もその中の一人。ただ私には、ある条件下でのみ使える他の誰にもない唯一の『能力』がある。
過去への記憶継承。物品や体の成長等は送れないけど、私にはこの先に悲劇が待ち受けている事を知れる。
始まりの悲劇…それさえ未然に防ぐ事が出来れば、絶望の未来を変えられるだろう。
決死の覚悟で過去へと送り出してくれた魔理沙と早苗の行動を無駄にしてはいけない。
絶対、絶対にだ…
・・・
「………んん」
「……んぅ?ここ、は」
目が覚めてからまず最初に映ったのは、すぐ真横に広がる地面。
どうやら地面に倒れていたらしい。若干朦朧とする意識を保ち、ゆっくりと地に足を着ける。
「…戻って、これたのね」
記憶を過去に送っているだけだから戻って来たというのはおかしいかも知れないけど、自然と口から溢れた。
木漏れ日が射し込む温かい森林。未来にはもう存在していない光景が、私が好きになった幻想郷を思い出させてくれる。
「取り敢えず…ここ、何処だろ」
さて、絶望の未来を変えるために過去の自分に記憶を送る事は成功した。
少しでも早く未来の悲劇を防ぐ為の行動をしたいんだけど、自分が幻想郷の何処にいるかが分からない。
一度は間違いなく訪れた場所なのは間違いないんだけど…
「グルルルル…」
「………ああ、そうだった。完全に思い出したよ!」
「ガァァァァァ!!」
それはかなり遠い日の事象。けど、私にとっては昨日の事のように思い出せてしまう出来事。
私の世界を変えてしまったその日。幻想郷に迷い込んだ時に、私を殺そうとした妖獣の声だった。
何が起きるのか分かっていた私はすぐにある場所へと駆け出す。
後ろを見なくても知っている。妖獣達は私を追いかけてきている事。
そして、人間の足では逃げ切れない事も分かっている。少しずつ、着実に妖獣の息遣いが近づく。
「…残念ね。ここまで来れたら、私は助かるの」
私のすぐ後ろまで追い掛けてきていた妖獣が悲鳴を上げ、私から距離を開ける。
その原因は直上から降ってきた弾幕に命中したからだ。そして、私と妖獣の間に一人の人間が降りてくる。
「…往ね」
その言葉を理解できたのか、はたまた理解できなくとも敵わないと本能で理解したのか、妖獣達は森の奥へ姿を消して行く。
「こんな所でうろつく奴が居るなんてね。悪いこと言わないから、もう近付かない方が良いわよ」
「…」
「無視?それとも喋れないくらい驚いてんの?」
妖獣から助けて貰ったのは事実なので、本当ならお礼の一つでも言うべきなのだろう。
でも、私の目の前に現れたこの人を前にして、とてもじゃないがそんな気にはなれない。
紅と白の対比が目立つ巫女服に身を包んだ均整の取れた少女。それは…
霊夢「何あんた、もしかして本当に喋れなかったりするわけ?」
いずれ幻想郷を滅ぼし、絶望の未来を呼び込む元凶になった少女。博麗霊夢だったんだから。