最終的に闇堕ち霊夢と戦う話   作:カザナミ

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本当に痛いんだってば

 

 

「うぅ…辛み…」

 

咲夜「この後にもまだやることがあるのだから早く済ませなさい」

 

「わ、分かってます…」

 

咲夜「…お嬢様がお呼びみたい。私が戻ってくる前に、せめて窓くらいは終わらせておいて頂戴」

 

「…はい」

 

「ぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛身体…いってぇ…」

 

 

紅魔館での生活が二日目になった朝、今までに体験したことがないような酷い筋肉痛に襲われた。

 

どこか一ヵ所だけとかそんなレベルではなく、全身の筋肉が満遍なく被害に遭っている。

 

少しでも体を動かそうとすると千切れそうになっているゴムみたいにギチギチと動きを阻害する。

 

そんな状態であるにも関わらず、咲夜さんに容赦なく家事を叩き込まれている。

 

ただでさえあまりの痛みと永続性で歩き回るだけでも泣きそうだ。

 

 

「つか、どうやって上の方まで掃除したら良いんだろ…」

 

 

咲夜さんに終わらせておけと指示されていたとある一室の窓は軽く私の身長を越えている。

 

近くに脚立でもあれば良いんだけど…

 

 

月下「よぉシスター!元気かなぁ?」

 

「こ、この野郎…誰のせいでこうなってると…」

 

月下「イヒヒ!元気そうで何よりだ!」

 

「痛…笑えないよ…」

 

 

窓の掃除をどうしようかと考えている私の所に、昨日と同じく礼服を身に付けた少年が笑顔で訪れる。

 

ただ、こいつは私が今現在悩まされている筋肉痛の元凶だ。

 

月下に騙されて地下に入れられた私に対し、本当に死にかねない危険なゲームを強要してきた。生還できたのは、奇跡としか言いようがない。

 

 

「ああ、そうだ月下さん。脚立どこにあるか分かりませんか?」

 

月下「脚立?そんなもん何に使うんだよ」

 

「いや、咲夜さんに窓付近の掃除を言い付けられて」

 

月下「んー?………あ、そうか。シスターは飛べないんだったな」

 

 

月下がようやく思い至ったと納得したように声をあげる。

 

というのも、私の知っている限り幻想郷で一定の強さがあるものは、殆んどが空を飛ぶことが出来るというらしい。

 

人里近くで生活していた未来では、空中で行われる弾幕勝負を何度か見たことがある。ここの住人も、例外ではないらしい。

 

 

月下「全く…そういう時は頭を使え。飛べないなら、跳んで掃除をすりゃいいんだよ」

 

「?」

 

月下「まぁ見てな」

 

 

そう言うとどこからか洗浄スプレーと布巾を用意する。

 

トッ…と静かに窓の頂点まで跳躍した月下はそこから掃除作業を行い、重力によって落ちながらあっという間に終わらせてしまった。

 

 

月下「な?簡単だろ?さぁ、シスターもやってみな」

 

「無理言わないで下さい」

 

 

残念ながら普通の人間には身長を越えるような跳躍力はないし、落下途中に掃除が出来るような手際もあるわけない。

 

空を飛べない事への対抗策としてこれは出来るやろ?みたいな顔してんじゃねぇ。

 

 

「んくく………やっぱり無理だよ…」

 

月下「おいおい、そんな調子で大丈夫か?明日からは家事に加えて、シスターの鍛練も同時にやるんだぜ?死ぬじゃねー?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!?鍛練!?何で私がそんなことしなきゃいけないの!?」

 

月下「はぁ?限られた期間とはいえ、お前はお嬢の下に付くんだぞ?情けないまま他の奴と顔を会わせたら、お嬢の評判に傷が付くやろが」

 

月下「安心しろよシスタぁ。お前が一週間持ち堪えられたら、幻想郷のどこに行っても生活出来るようになってる筈だぜ」

 

 

そうは思えないけどな…まぁ、初日からいきなり殺しにかかられるのはここぐらいだろうし、生活だけなら出来るようになるのかも。

 

 

「思ったんだけど、月下さんってレミリア…お嬢様の事、どう思ってるの?吸血鬼なのに、随分入れ込んでるみたいだし」

 

月下「当たり前だろ。入れ込むもなにも、お嬢一筋だぜ!もうお嬢しか勝たん!」

 

「そ、そうなん?」

 

月下「お前はお嬢を見て何も感じなかったのか?幼く愛らしい様子の残りながらも紅魔館を治める当主としての威厳ある双貌…吸血鬼という上位種族ながら部下への思慮も深く、お嬢への良い行いは必ず評価してくれる安心と信頼できる人生を捧げるべき唯一にして無二の存在。それがお嬢なんだよ!」

 

「お前レミリアの事になると早口になるね」

 

月下「お嬢!( ゚∀゚)o彡゜お嬢!( ゚∀゚)o彡゜」

 

咲夜「今戻ったわ。あなた、窓のお掃除は終わっ…た…」

 

「あ、咲夜さん。すみません、今脚立を探そうと…ひぃ!?」

 

 

お嬢様との用事が済んだんだろう。戻ってきた咲夜は私と月下がいる所を見た瞬間、露骨に嫌そうな険の浮かび上がった表情になった。

 

その様子に気圧されて一歩後ずさった私と特に気にした様子もない月下。咲夜は一度窓枠へと足を進め、縁を指でなぞる。

 

 

咲夜「…月下、その子に手を貸したわね?」

 

月下「あ?そうだよそれがどうした?」

 

咲夜「お嬢様からは使えるようにしろとのお言葉よ。それに反するつもり?」

 

月下「窓掃除がそんなに大事か?時間の無駄遣いでお嬢の命令に逆らおうとしてんのはどっちだ、おぉん?」

 

咲夜「あなたは順序というものがまるで分かってないみたいね?流石、普通の人間である彼女を初日で殺しかけた人の言葉には説得力がありますわ」

 

月下「ハッ!口先だけはペリカンみてぇにでかくなったみてぇだな駄メイドさんよぉ。お前が役立たずだった時にやらかした後始末をしてたのは誰だ?ん?」

 

咲夜「一々昔の事を持ち出さなければ反論出来ないだなんて、いつまで経っても精神が成長してないのね?だからペド野郎なのよ」

 

月下「F⚪⚪k…」

 

 

この人達なんで急にいがみ合い始めたの…?掃除のやり方なんてどうだって良いじゃんか…

 

 

「あの、次からは前もって脚立とか足場を用意しておきます。だから、その…」

 

月下「じゃあこうだ。シスター、この場合俺とサクヤどっちが正しいと思う?」

 

「ふぁ!?いや、私!?」

 

咲夜「そうよ。私と月下、どちらがあなたに合うのか」

 

 

どっちも合わねぇよ!!

 

…だなんて、口が裂けても言えないよなぁ…

 

レミリアも、もう少しマシな人事を考えた方が良いと思うんだけどな。いざという時に、内部崩壊するでしょこれ。

 

 

「ちょっと、咲夜と月下~?また喧嘩してるの?」

 

 

咲夜と月下の二人への返答に困っていた所に、眠たそうな声が掛けられる。

 

とても仲裁に入れるような雰囲気では無かったけど、お構い無しにこちらへと歩いてくる姿がある。

 

身長は私よりも低く、とても綺麗な金髪をサイドにまとめているレミリアと同じ位の幼女だった。

 

 

月下 咲夜「失礼しました、妹様」

  

「あー、そんなの良いって。たまたま通りかかっただけだしさー…ん?」

 

「な、何…」

 

「あなた、知ってる。昨日、月下に遊ばれてた女の人だわ」

 

 

幼女が来た瞬間、月下と咲夜の二人が大人しくなったのにも驚いたが、その幼女は私を見ると近付いてきて顔を覗き込んできた。

 

そして、昨日のクソゲーの件で私の事を知っていたようだ。その事を理解すると一頻りケラケラと笑った後、スカートの裾を持ち上げておじきをする。

 

 

フラン「初めまして、私はフランドールと言うの」

 

「は、はい!初めまして!私は、昨日からここで働くようにレミリア…様から言われてます」

 

フラン「…だろうね。ねぇねぇ!お姉さん、良かったら私と遊びましょうよ!丁度暇だったんだよね~」

 

「かわいい…じゃなかった。えっと、今は…」

 

咲夜「妹様。申し訳ありませんが、現在仕事中でして」

 

フラン「えぇぇ!?やだやだやだ!?二人ばっかりお姉さんと遊んでてずるいわ!」

 

「いや、別に遊んでる訳ではないんだけどね…」

 

月下「お嬢のお言葉ですので…どうかご理解を」

 

フラン「………ふーん。だったら、咲夜か月下。仕事教えるのに二人も要らないでしょ?どっちか、私と遊んでよ。それとも…」

 

フラン「全員一緒に、遊ぶ?」

 

 

な、何だろう。急に全身の血液が冷えきったと錯覚するような悪寒が走った。

 

丁度それは駄々を捏ねていたフランちゃんが、冷静に反論をした瞬間だったような気がする。

 

この悪寒の正体はフランちゃん?いや、それはないか。

 

 

月下「hahaha…ご冗談が過ぎますよ。妹様…」

 

「少し位は良いんじゃ…」

 

咲夜「!(ジッ)」

 

月下(コクッ…)

 

咲夜「いえ、駄目よ。あなた、まだやることも一通りやってないでしょう。さっさと来なさい。早く!」

 

「いだだ!?待って咲夜さん、痛い!痛いです!?引っ張らないで!?」

 

月下「方針の論争はまた今度だな…妹様。そんなに元気があるのでしたら、やり残したお稽古の続き出来ますよね?」

 

フラン「つまんないからやりたくない~!壊さないからお姉さんと遊ばせてよ~!」

 

月下「後にしてください後に!ご飯後に遊ぶ時間を取って貰いますから」

 

フラン「また後で!?いっつも月下と咲夜はそうじゃん!後でするから後で良いでしょとかさぁ!いつもいつもいつも!!」

 

月下「それは、もう許して欲しいとしか言えません!でも嘘は言いません、なぁサクヤ!」

 

咲夜「勿論ですわ。我々はお嬢様と妹様に嘘など付きません。分かって下さいませ」

 

「ごめんねフランちゃん。私の仕事が終わったら、一緒に遊ぼうね」

 

フラン「うん♪じゃ、また後でねお姉さん!」

 

 

途中、癇癪を起こしてそうだったフランちゃんだけど、最後にはこっちに笑いかけながら走り去っていった。

 

可愛い女の子だったけど、どういう経緯で紅魔館に居るんだろう?

 

 

月下「はぁ…何とかなったか。シスターよぉ、あまり『遊ぶ』なんて安請け合いするなよ?」

 

「?何で?」

 

月下「何ででも、だ。…取り敢えずあれだ。本当に遊ぶ事にして妹様には満足してもらう方向で」

 

咲夜「妹様がそれで大人しくしてくれるかしら」

 

月下「それをどうにかするのが俺らだろ。一応、なんか新しいゲームないかちょっと見てくる」

 

咲夜「ん。ついでに買い出しをしてきて頂戴。はい、これ」

 

月下「yeah」

 

「…」

 

咲夜「何よ?」

 

「いや…そうやってお互い協力出来るなら、いがみ合う必要ないのにって思ってた」

 

月下「シスターって、なんか急にズケズケ言うときあるよな」

 

 

そんな踏み込んで言ってはないと思うんだけどな…

 

まぁでも、仕事終わった後に遊べる時間があるなら少しは気持ち程度楽にはなりそうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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