宿毛湾泊地の本舎となる建物は、鎮守府庁舎を一回り小さくした感じの木造一階建ての建物。
鎮守府庁舎を一回り小さくしたとは言え駆逐艦娘二人と提督一人の計三人には十分過ぎるほど大きい。
なので、提督を含め宿毛湾泊地に所属する三人は宿毛湾泊地本舎の隣にある倉庫を改築した住居用の建物に住んでいる。
倉庫を改築したとは言え、倉庫のような外観が残っている所は少なく、知らない人から見ると普通に一軒家だ。
いつも通りの平穏な昼下り、提督はたいして多くない書類仕事を終わらせてベランダの方に目を向ける。
ベランダの先には少し緩やかな下り坂があり、その先には桟橋、その奥に青い海で成り立つ宿毛湾がみえる。
「綺麗な水平線ですねぇ〜。」
菊月はお昼のワイドショーを見て、深雪は以前、「吹雪や他の駆逐艦達にみせるんだ〜」と言いながらやっていたマジックの練習をしている。
当然、誰も提督の言葉に返事はしない。
そのまま、ボーっと外を眺めていると重大な事を思い出す。
「あ、洗濯物を干していませんでした。」
提督は急いで洗濯機の所へ向かう。
そこには、完全に沈黙した洗濯機が立ちはだかる。
急いで洗濯物を取り出し、外にある物干し竿へと向かう。
本日は、よく言う雲一つない快晴だ。
現在時刻は午後一時を回ったところ、こんなにも天気が良ければ日が沈む頃には乾いているだろう。
「司令官、私も手伝おうか?」
菊月か親切に声をかけてくれる。
「いえ、大丈夫ですよ、午前中の訓練で疲れてるでしょうし。」
「いや、そんな事はない。たかが約3時間、駆逐艦2隻で艦隊運動をしただけだ。こんなもので疲れていては艦娘の名が廃ってしまう。」
そんな事を言いながら菊月は洗濯物干しを手伝ってくれる。
「菊月さんは優しいですね。」
「嬉しい事を言ってくれるな司令官。だが、私よりも優しい艦娘などたくさんいる。さっきの台詞はそんな艦娘達にとっていた方がいいぞ。」
菊月かっこいい。
だが、そんな菊月であるが、優しいと言った時に一瞬だけ頬を隠す様にうつむいたのには、私は気づいていた。
「もう、暖かくなって来ましたね。」
私は洗濯物を干しながらそんな事を呟いた。
季節はもう、春を過ぎて梅雨前である。
沖縄では梅雨に入ったと言う予報が出ていた。
いよいよ、梅雨が到来し夏がやってくる。
ふと、隣を見ると菊月が一所懸命物干し竿へと手を伸ばし、洗濯物を干してくれている。
その菊月の姿を見ていると、ある事に気がつく。
「あ、菊月さん、もうそろそろ、夏服に変えます?長袖では、もう暑いでしょう。」
菊月を含め、睦月型駆逐艦娘は基本、長袖の制服を着ているため夏は暑くてしょうがないのだ。
「もう、そんな季節か。そう言われるとなんだか暑くなってきたな。」
菊月は自分の袖を見る。
今日はものすごく良い快晴。こんな日に長袖な暑いだろう。
「何ならもう、今から夏服に着替えてきます?一昨日くらいに洗濯してありますからもう、着れるはずですよ。」
「そうか、すまない。では、洗濯物を干し終わったら、着替えてくる。」
菊月は優しい。「今すぐ」ではなく「洗濯物を干し終わったら」である。
そんな洗濯物干しも長い時間かかるのではなく、ものの数分で終わり、菊月は夏服に着替えにいった。