まぁ、ヨシ!
司令官が寝てる。
この泊地ではさほど大したことではない。
なんなら毎日寝てる。
司令官が漁港の人と話しに行ったから、その間に艤装が気になって見に行っただけなんだが。
その間10分もかかってない。
ソファーに座ったままうつむいている司令官の肩を揺する。
反応なし。
「まぁ、いつもの事か」
私はあたりを見渡し、何かやることがないか思い出す。
深雪が寝ている。
これもいつもの事で気にすることはない。
他に考えてみるが特にない。
普段と変わらない昼下り。
この時間帯の私は決まったことをする訳ではない。
訓練することもあれば、昼寝するこもある。
「何をしようか」
軽く考えながら呟く。
完全な自由時間だ。
時間は午後二時六分。
どこの鎮守府、警備府も昼の休憩をとっくに終えて訓練や任務をやっている時間。
また少し考える。
するとある事を思いつき、居間にある固定電話に向かう。
受話器を手に取り、すでに覚えた電話番号を入力する。
プルルルル___『はーい、佐伯湾の
ワンコールで女性が出てきた。
声の主は佐伯湾泊地の司令官 早崎さん。
「宿毛湾泊地、駆逐艦 菊月 だ」
『あ〜、菊月さん久しぶりです。要件は三日月ちゃんですよね、ちょっと待っててください、すぐ呼んで来ますから』
そう言って通話は『保留中です。』と録音された音声が一定間隔で繰り返される。
ある事とは佐伯湾にいる三日月と話すこと。
通話保留になって数分もしないうちに三日月が出てくる。
『もしもしー、佐伯湾泊地の駆逐艦 三日月です』
「私だ。菊月だ」
『菊月ちゃん、今回はどうしたんですか』
「いや…少し、三日月の声が聞きたくなっただけだ。そちらはどうだ、変わりないか」
『はい、変わりはないですよ〜。菊月ちゃんの方も変わりないですか』
「そうか、こちらもたいして変わってない。いつも通り、深雪と司令官は昼寝している」
『ふふっ、普段通りが一番です。あっ!そういえば、週末宿毛湾の方に行くって司令官が言ってました。菊月ちゃんはなにか聞いてないですか?』
少し考える。
聞いてないな。
「いや、聞いてない。後で司令官に聞くとしよう、今は昼寝していて起きる気配がないからな」
『あ、やっぱり聞いてなかったんですね…。そっちの司令官さんも結構テキトーと言うか、自由奔放と言うか…』
三日月が若干呆れたように言う。
それもそうだ、司令官という皆を指揮する立場に居ながらよく晴れた空の下、湾港の涼しい風を受けながら部下の目の前で昼寝しているのだから。
今の司令官がココに着任する前に聞いた話だと、身だしなみや執務、部下への気配り、その他諸々、司令官という役職から見たらとても良く、理想という人物だと聞いていた。
だが、いざ私の上司、司令官として執務にあたっている姿を見ていると少し抜けているところがあると感じる。
「しっかりするところはしっかりしている、だが、自由と言うか自分の思った事を真っ先に行動に移すような人だな、司令官は」
『菊月ちゃん、ちゃんと司令官の事を見てるんですね』
「部下が上司、それも司令官を見ているのは当り前だ、艦娘になる時に叩き込まれただろう。それにここは私と深雪と司令官の3人しかいないからな」
『それもそうですね、でも3人しかいない泊地、菊月ちゃんは寂しくは無いですか?』
「寂しくなんてないさ。同じ駆逐艦の深雪もいるし、近くに呉鎮守府もある」
『私も佐伯湾にいますから、比較的簡単に会えますし』
「ああ、そうだな。 そういえば三日月、話変わるんだが長月と皐月の話を聞いているか?」
それから二人は同じ睦月型の長月と皐月が所属する第十四駆逐隊の話に花を咲かせた。
『今、十四駆はどこにいるんですっけ』
「横須賀鎮守府で編成されたと聞いた、それから転属や解隊の話は聞いてないから横須賀にいるだろう」
『いつか、久しぶりに会いに行ってみたいですね。』
「そうだな、強くなった長月と皐月を見てみたいな」
菊月は話しながら目線を壁にかけてある時計へと向ける。
時刻は午後三時三十二分。
「!?」
『どうしたんですか?菊月ちゃん?』
「い、いや、長らく通話してたから、少し驚いただけだ」
『そう言われれば結構長くお話してましたね。そちらの司令官さんはもう起きてきましたか?』
三日月にそう言われて、司令官の寝ているソファーに目を向ける。
まだ寝ている。
1時間半は経過しているのでもうそろそろ起きてきてもいい頃ではあるものの起きる気配は全くない。
そのまま深雪の方にも目を向ける。
まだ寝てます。
こちらもこちらで起きる気配は皆無。
「昼夜逆転しそうだな」
『まだ起きてなかったんですね…』
「まぁいいさ、もうじき叩き起こそう」
『生活習慣が大きく乱れて艦隊運用に支障がでたら困りますから、起こしてあげた方がいいと思いますね…』
その時、菊月の持つ受話器から『三日月さーん』と三日月を呼ぶ佐伯湾泊地司令官の声が聞こえてくる。
「終わるか、長電話ももうじき頃合いだろう」
『そうですね、今度そっちに行くので楽しみにしててくださいね』
そう言って通話は切れた。