遊戯王 ―― strayeD girls ―― 作:James Baldwin
「私はこのままターンエンド」
誰が何と言おうと、黒江にデュエルモンスターズへの興味は存在しなかった。
デュエリストとしての精神、気概もだ。
けれども、今この時、彼女はほんの少しだけこのデュエルに熱を出していた。
「それなら、私のターンね。ドロー、スタンバイ、メイン。手札から永続魔法【Strayed-Diversity】を発動。1ターンに1度、デッキの上から三枚を確認し、その中から【Strayed】カード一枚を墓地に送り、残りをデッキの1番下に戻す。私は【Ca-Strayed】を墓地に送る」
▽
【Strayed-Diversity】
永続魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
①自分メインフェイズに発動できる。デッキの上から3枚をめくり、その中から「Strayed」カード1枚を選んで墓地に送って、残りのカードを好きな順番でデッキの1番下に戻す。このカードを発動するターン、自分は「Strayed」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
「この時、【Strayed-Assemble】の効果。1ターンに1度、【Strayed】モンスターがカードの効果で墓地に送られた時、墓地から【Strayed】モンスターを1体特殊召喚する。私は【Ca-Strayed】を特殊召喚」
これで黒江のモンスターゾーンには攻撃表示の【Tru-Strayed Super Captain】に【Ca-Strayed】と攻撃力0の【Boo-Strayed】、そして守備表示の【Mi-Strayed】が存在し、永続魔法の【Strayed-Assemble】【Strayed-Diversity】が発動した状態だ。
「私は手札から【Fa-Strayed】を通常召喚。墓地から【Strayed-Overcome】を除外し、効果を発動。デッキから……あら? 【Boo-Strayed】は1枚しか無いのかしら……仕方ない。それなら【Ju-Strayed】を手札に加え、デッキからフィールド魔法【Strayed-Multibirth】を発動」
黒江は、あれだけ強力な効果を持った【Boo-Strayed】がデッキに1枚しか存在しないことに違和感を覚える。
これに関しては黒江は知らないのも無理はないことで、【Boo-Strayed】はその強力な効果ゆえにデッキに1枚しか入れることができない制限カードに指定されているのだ。ちなみに、【Co-Strayed】と【Strayed-Assemble】も制限カードに指定されている。
「私は【Strayed-Multibirth】の効果発動。自分フィールドの【Strayed】モンスター2体を墓地に送り、墓地からそのカード以外の【Strayed】モンスターを自分フィールドに特殊召喚する。私は【Mi-Strayed】と【Fa-Strayed】を墓地に送り、墓地から【Ca-Strayed】を特殊召喚」
▽
【Strayed-Multibirth】
フィールド魔法
このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①自分フィールドに存在する「Strayed」モンスター2体を対象にして発動できる。そのモンスターを墓地に送り、墓地から同名カード以外の「Strayed」モンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。
モンスターゾーンに空きが存在しない為、この時、【Strayed】カードの効果によって墓地に送られた【Mi-Strayed】の自身を蘇生する効果を使えるのだが、黒江は使わないようだ。
「【Mi-Strayed】の効果を、使わない?」
「ええ。ここで、私は手札の【Ju-Strayed】の効果を発動。フィールドの【Boo-Strayed】を墓地に送って手札から特殊召喚する」
▽
【
レベル4 地属性 獣戦士族 効果 ATK1500/DEF1500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①このカードが手札・墓地に存在する場合に発動できる。自分フィールドの【Strayed】カード1枚を墓地に送って、このモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で墓地から特殊召喚した場合、このターン、このカードの②の効果は発動できない。
狐らしき耳と尾を生やし、剣と盾を携えた鎧姿の女が現れる。生真面目そうな雰囲気は自分のクラスの学級委員のようだなと大して意味の無いことを考えながら、黒江はさらに効果を発動していく。
「墓地に送られた【Boo-Strayed】の②の効果。このカードが【Strayed】カードの効果で墓地に送られた場合、効果を無効にして自身を特殊召喚する」
▽
【Boo-Strayed】
②このカードが「Strayed」カードの効果によって墓地に送られた場合に発動できる。このカードを自分フィールドに攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードの効果は無効化される。
再度蘇る燃える男。これで黒江の盤面は整った。
「バトルフェイズ。【Tru-Strayed Super Captain】で【波動竜騎士 ドラゴエクィテス】に攻撃。攻撃宣言時、効果発動」
「攻撃力、5100」
黒江のフィールドには【Strayed】カードが7枚。よって【Tru-Strayed Super Captain】の攻撃力は5100まで上昇する。
大袈裟なポーズを取ったピチピチスーツの大男が竜の騎士目掛けて突貫する。
その拳は抵抗する間もなく相手を爆発四散させた。
「っ」
竜見御代・LP6100→4200
これで御代の場に彼女を守るモンスターは存在しなくなった。
黒江は頭を使う面白いデュエルができたことを内心で感謝し、決着を着けんと命を下す。
「私は残ったモンスターでダイレクトアタック」
「くぅっ」
竜見御代・LP4200→0
デュエル・エンドのブザー。
Strayed達の合わせ技が御代を襲い、そのライフを削り切った。
「第一試合、勝者は遊佐黒江! 手に汗握るデュエルを魅せてくれた両者に盛大な拍手を!」
知略と機転が光るデュエルを演じた二人に観衆から盛大な拍手と惜しみない賞賛の声が送られる。
「客観的に見て良いデュエルだったと思うわ。ありがとう」
「……こちらこそ。でも」
「でも?」
言葉を切った御代に黒江は首を傾げる。
「次は負けない。貴女をこの私のライバルとして認める」
「そう。それは光栄ね」
どちらも無表情だが、そこには確かにデュエリストの縁が結ばれていた。恐らく。
「おおっと、波動竜の主から期待のルーキーへのライバル宣言! 熱い展開だ! え、なに? 巻け? 分かりました! それでは五分後に第二試合を開始します!」
□
結果から言えば、黒江は第二試合で旭飛と当たり敗北した。それはもう完膚無きまでに。
そして順当に勝ち上がった旭飛と白袮による決勝戦の行方はと言えば、
「くっそー、負けたぁ」
「えへへ、初めて天元寺旭飛に勝てた……!」
日も暮れた帰り道、項垂れる旭飛と、それとは対照的に喜びを露わにする白袮の姿があった。その横では無表情で歩く黒江と御代の姿。
初手に特殊召喚できないレベル8モンスターが五体という、上級モンスターを多用する【悪姫】デッキでも中々起きない恐ろしい手札事故が起こり、逆に白袮の手札は恐ろしく上振れしていた為、ストレート勝ちを収めたのである。
余談だがどれくらい有り得ない手札事故かと言うと、旭飛のデッキに存在する特殊召喚できるレベル8が四体なのに対して、特殊召喚できないレベル8は五体。つまり、全ての特殊召喚できない上級モンスターを初手で引いたのである。ドローで引いたカードもフィールドに【悪姫】が存在する時に発動できる罠。正真正銘の打つ手なしであった。
白袮曰く姉妹愛の結実とのことであったが、黒江にはどうしてそれで先輩の手札が死ぬのかは理解できなかった。
「黒江の妹は元気」
「そうね。五時間もデュエルしっぱなしだったのに、どうしてあんなに騒げる元気が残っているのかしら」
「デュエルマッスルだよ、黒姉!」
黒江は妹が何を言っているのか理解できなかった。疲れ果てていたゆえに思考を放棄したとも言える。
ちなみに、御代が一行に加わっているのは途中まで帰路が同じだからである。カードショップ・Playersと黒江の自宅との間に存在する桜慈学園の近所に住んでいるらしい。
そして何と驚くことに、彼女は黒江と同級生であった。制服を着ていなければ小学生にも見えかねない織奈の容姿もそうだが、この学園では容姿で判断してはいけないことが多々あるのだと黒江は理解した。可愛い先輩の旭飛然り。
「あ、そうだ。お前ら、明日の放課後デュエル部に集合な」
「お前らって私と黒江のこと?」
「他に誰が居るってんだよ」
「どうしてかしら?」
唐突な切り出しに御代と黒江は戸惑う。
どうしてデュエルモンスターズ部に顔を出さねばならないのだろうか。
「あー、それはー……隠す必要も無えか」
「?」
歯切れ悪そうにしていた旭飛であったが、決心した顔で口を開く。
「今のデュエル部には、お前らの力が必要なんだ。騙されたと思って、一回だけで良いから来てくれねえか?」
「……私は「黒江が行くなら行く」ちょっと、御代」
「あの部は空気が悪いから一人では行きたくない」
拒否しようと口を開きかけたところで、御代がそのようなことを宣う。
黒江はこれは行くと言わなければ駄目なパターンだと悟った。退路は既に塞がれているのである。
「はぁ……仕方ないわね。天元寺先輩の顔を立てて、一度だけ行ってあげるわ」
「悪いな、黒江。じゃあ、明日の放課後だ」
そう言うと、旭飛は一行から別れた。
これは面倒なことになってしまった。黒江は段々と試練から逃れられなくなっているのを自覚するが、今更どうすることも出来ない。
……今日の晩ご飯はどうしようか。
黒江は面倒になって思考を切り替えるのであった。
To be continued.
――今日のキーカード――
【Strayed-Diversity】
永続魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
①自分メインフェイズに発動できる。デッキの上から3枚をめくり、その中から「Strayed」カード1枚を選んで墓地に送って、残りのカードを好きな順番でデッキの1番下に戻す。このカードを発動するターン、自分は「Strayed」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
②墓地の「Strayed」カードを5枚まで選んで発動できる。(同名カードは1枚まで)選んだ枚数によって以下の効果を適用する。この効果を発動するターン、相手が受ける戦闘・効果ダメージは半分になる。
●1枚以上:選んだカードをデッキに戻す。
●3枚以上:デッキから1枚ドローする。
●5枚:デッキから1枚ドローする。
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今日のキーカードはこれね。
【Strayed】デッキにおいてキーカードの多い永続魔法の1枚よ。何かと墓地で効果を使う場合や墓地を参照する場合が多いから、使える場面が多いのが特徴よ。
①の効果で、墓地に送られた際に発動できる効果を持つ【Strayed】カードを墓地に落とすことができれば、そこから展開していくことが出来るわ。
そして②の効果で墓地のカードを5枚戻せれば手札リソースも確保できるわ。そのターンで決着を着け難くなるデメリット効果もあるけれど、手札が少なくなりやすいこのデッキの継戦能力確保手段としてこれ以上無いくらい役立つ一枚ね。
……こんなところかしら。
それなら、また次回の『遊戯王 ―― strayeD girls ――』で会いましょう。