遊戯王 ―― strayeD girls ――   作:James Baldwin

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 サブタイトル考えるのが一番難しいまでありますね。というか、そろそろマジで採用表作らないと……。


デュエル部の現状

「ええー! 黒姉、デュエルモンスターズやったの!?」

 

「……そんなに驚くことかしら?」

 

 夕食を終えた遊佐家のリビングに白袮の驚愕の声が響き渡る。

 

 しかしそれも仕方のないこと。

 白袮にとって黒江は最愛の姉の一人ではあるが、その認識はとにかく無感動な人で、こと姉妹以外に関しては自身含めて全く興味を示さない無味乾燥な人間なのだ。後、恐ろしく友達作りが苦手。

 これまでもそんな彼女にどうにか彼女の楽しみを見つけてあげようと白袮は奮闘してきたが、結果はご察し。その尽くが徒労に終わった。

 何より、これまでデュエルモンスターズをお勧めしてこなかったのは、いくら勧めてもボードゲームやテレビゲーム、アプリゲームなどの類がどうにも彼女の琴線には触れないらしいと白袮が判断していたからであり。デュエルモンスターズもまたそういったゲームと同じように、彼女の心を動かすことはないであろうと考えていた。

 

 そんな姉がデュエルモンスターズを始めた当日になんと他人と一戦交えてきたというのだから、今の白袮は正に晴天の霹靂と言う他ない心境であった。

 

「どんな人と戦ったの?」

 

「えっと……あれは、スケバンというのかしら。【悪姫】っていうデッキを使っていて、とてもアグレッシブな人だったわ」

 

「スケバンで……【悪姫】……?」

 

 その特徴に、白袮は目を丸くした。

 合致する人物に心当たりがあるからだ。

 

「え、もしかして天元寺旭飛と戦ったの……!?」

 

「ええ、多分その人よ。かなり成り行き任せではあったけどね。というか、知っていたのね」

 

「知っていたのねって、天元寺旭飛はここら辺のデュエルモンスターズの店舗大会だといつも一位、二位にいるような凄い人なんだよ! 私も何回か戦ったことあるんだ!」

 

 今度は黒江が目を丸くする番であった。ちなみに姉妹だけあってその顔はよく似ていた。

 

 まさかあの柄の悪いスケバン少女がそんなに凄い人物だとは思わなかったのだ。

 白袮は土日に開催されることの多いデュエルモンスターズの店舗大会にかなりの頻度で出場しているのだが、彼女のことを知ったのもその時だろう。世界は狭い。

 

「それで、それで? どうなったの?」

 

「どうしたのって、勝ったわよ。負けたらあのデッキをくれた父さんと姉さんに申し訳ないし、白袮に格好が付かないもの」

 

「ええ……。で、でも、あの天元寺旭飛に勝つなんて凄いじゃん!」

 

「向こうも本気じゃなかったわよ。それに私のデッキが彼女にとって未知だったというのもあるでしょう」

 

「だとしてもだよ!」

 

 たとえ見知らぬデッキが相手でなおかつ本気でなかったとしても、デュエルモンスターズというカードゲームはそんな理由で初心者が経験者に、それもかなりの実力者として名を馳せている彼女に勝てるほど簡単なゲームでもない。

 実力者によって緻密に練られたデュエルタクティクスとコンボは、初心者相手に接待をしていようとも容易に崩されるようなものではないのだが、引き運やデュエリスト同士の相性の良さというものもこのゲームには確かに存在するので白袮は取り敢えず姉のことを褒めた。

 

 しかし、姉はほとんどルールを知らなかったはずだ。本当によく勝てたなと白袮が内心で再三驚いていた時、黒江が付け足した補足によって白袮は固まった。

 

「とは言っても、私一人の力では間違いなく勝てなかったわ。進藤先輩がシンクロ召喚について教えてくれていなかったら、ね」

 

「え、先輩? く、黒姉に先輩……!?」

 

「何を言っているの、私は昨日から高校一年生になったのよ? 先輩だっているわ。おかしな白袮」

 

「え、だって、え? あんなに人付き合いが下手な黒姉だよ?」

 

「ねえ?」

 

「ていうか、これまで先輩なんて単語、黒姉の口から聞いたことないんだけど。なんなら、友達が出来たって話しすら聞いたことないかも」

 

「本気で怒るわよ?」

 

 早口で捲し立てる妹から、普段自分がどう思われているのかが透けて見えて黒江は少し、いやかなり悲しくなった。

 

 だが、白袮からすればそれだけ衝撃的だったのだ。明日は雪が降るのではないか、それよりも今日はお赤飯を炊かなくてはいけないのでは? などと姉が姉なら妹も妹であると分かるズレた思考をしながらも、その実、白袮はとても喜んでいた。

 

「でも、良かったよ。黒姉に趣味ができて」

 

 そんな白袮に、黒江はとても言いにくそうに告げる。

 

「……それなんだけど、やっぱり私にデュエルモンスターズは向いていないと思うの」

 

「え」

 

 表情を二転三転、呆然とする白袮。

 黒江は構うことなく続けた。

 

「私、やれば何でも少しくらいはできるわ。でも、デュエルモンスターズだけはそんな風ではやっていけないと思うの」

 

「黒姉……」

 

 それは、常々黒江が胸に抱いているデュエリストへの考え。

 

 何に対しても不真面目な彼女だからこそ、デュエルモンスターズのことに真剣な彼ら彼女らと同じ土俵に立つことを厭う自己嫌悪。

 アウトドア・アクティビティやゲームなどの趣味ならば良い。だが、デュエルモンスターズだけは違うのだ。

 

 デュエリストはデュエルモンスターズの事となると真剣になり過ぎる嫌いがある。

 

 無論、ただの趣味と割り切っている者だって多い。

 けれども、姉はプロのデュエリスト、そして妹は姉への憧れを終えて自分でその世界へと足を踏み入れている。

 そんな彼女らに囲まれて生きてきた黒江は、デュエルモンスターズをただのカードゲームと割り切ることが出来なくなってしまっていた。そして、彼女はデュエルモンスターズに心から向き合うことができない。

 

 それを今ここにいない灰都も、まだ十二歳の白袮すら薄々気が付いていた。

 

「……そっか。黒姉が一緒にやってくれるなら一番嬉しいけど、無理強いはしないよ」

 

「ええ。ごめんなさい」

 

 黒江は一言謝ると、立ち上がって自分の部屋へと向かった。

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

『黒江、きっと貴女を────』

 

 

 

 その日、黒江は夢を見た。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 翌日。

 黒江が朝食の支度をしていると、彼女の携帯が着信音を鳴らしてその存在を主張した。

 急ぎ確認すれば相手は姉である灰都。

 

「もしもし、姉さん?」

 

『────黒江ちゃん、貴女に試練を与えますっ!』

 

「え」

 

 黒江は朝から頭が痛くなった。

 これは、またいつものアレである。

 黒江にそれを拒否する選択肢はない。

 

『黒江ちゃんの通う高校にデュエルモンスターズ部があったはずだよね?』

 

「え、ええ」

 

 頭に浮かんだのは昨日デュエルをした天元寺旭飛と、黒江のセコンドを担当した進藤織奈の顔。

 昨日はなかなか密度の濃い日だったと他人事のように考えながら、黒江は話の続きを待った。

 

『昔は強かったけど、今は部員が少なくてチームとして大会に出られない挙句、そもそも部としての存続も危ういような弱小チームになってしまっていると聞きました』

 

 黒江の知らない情報が出てきた。

 何やら事情がありそうだとは思っていたが、そんな状態だったのか。

 

『なので!』

 

 もしや……。

 汗が流れるのを自覚しつつ、黒江は灰都の言葉を待った。その心情は死刑執行を待つかの如くである。

 

『この前の宿題に加えて、デュエルモンスターズ部の再興を命じます! 黒江ちゃんならできる! 頑張って! それじゃ!』

 

「……え、あの、姉さん? あれ、聞こえてる?」

 

 一方的な電話は一方的に用件を告げると一方的に切られていた。

 黒江は朝から一日分疲れた気分を味わうのであった。

 

 

 □

 

 

「紫波さん、これはこっちで良いかしら?」

 

「はい、そこにまとめておいてください」

 

 黒江は、茶髪の少女の指示通りに書類を分類した。ツリ目に眼鏡をかけていて、生真面目そうな印象を抱かせる少女だ。

 この桜慈学園は生徒の自主性が尊重されるタイプの指導方針を取っている学園で、生徒活動の自由度は高いがその分、書類なども基本的には生徒が管理するようになっているのである。

 

「ごめんなさい、遊佐さん。仕事を手伝わせてしまって」

 

「構わないわ」

 

 朝から疲れきっていて授業どころでなかった黒江は、いつも以上に無関心無感動無表情その日をやり過ごした。そもそも今朝姉から与えられた(もしくは押し付けられた)試練なるもののせいで頭がいっぱいなのである。

 

 そして放課後、とりあえず今日は帰ろうかと結論に至った時、クラスメイトでありこのクラスの学級委員である少女紫波天音(しばアマネ)に呼び止められて、こうして書類整理を手伝っている今に至る。

 

「あの、遊佐さんには兄弟か姉妹がいるのですか?」

 

「藪から棒ね。ええ、姉と妹がいるわ」

 

「そうなんですね。面倒見が良いので、もしかしたらと思ったんです」

 

 黒江は天音の質問に不自然さを覚えながら答える。

 

 何を隠そう、紫波天音はお節介焼きである。

 それはもう生徒の自主性を重んじるこの学園でクラスの為に粉骨砕身の努力をする程度には、他人の世話をするのが好きな少女である。

 

 黒江は高校生活三日目にして孤立していた。元々そのクールビューティな外見ゆえに取っ付き難さがあり、しかも不良の先輩とつるんでいるという噂もまことしやかに囁かれている彼女は、ぼっち街道をスポーツカーにでも乗っているかのようなスピードで爆走していた。

 

 それを危惧したのは他でもない天音だ。

 クラスの雰囲気と、黒江の超然とした存在的には彼女が孤立しようといじめに発展することはないだろうが、だとしても自他共に認めるお節介焼きの天音が何もしないなどということはなく。

 

 要するに、天音は黒江のことをとても気にかけていた。

 

「何かあったら言ってくださいね」

 

「? ええ、ありがとう」

 

 どうにも釈然としない思いを抱えながら、黒江は書類整理を再開した。

 

 

 □

 

 

「それでは、今年度初のデュエルモンスターズ部部内会議を始めます」

 

「はいはい、そういう形式ばったのは良いから始めてくれ」

 

 その頃、桜慈学園デュエル部では、数ヶ月ぶりの部内会議が執り行われていた。

 メンバーは部長である進藤織奈と、休学明けの天元寺旭飛の二人。副部長は欠席、顧問は現状不在。

 

 ホワイトボードにデカデカと提示された議題は『部の存続』。

 簡潔に言えば桜慈学園デュエルモンスターズ部の危機である。

 

「ていうか、なんだよ、織奈。黒江の奴は来てねえのか?」

 

「いや、勧誘しようとしていたら旭飛が飛び込んできたんだろ」

 

 背もたれに寄りかかり、頭の後ろで手を組んで机の上に両足を載せる旭飛はその風貌もあって恐ろしく柄が悪かったが、いつもの事なので織奈は気にしない。

 当然他の部員が居れば話は別だが、今この部に在籍しているのは欠席中の副部長を含めて三人のみ。

 

「アタシはアイツ、気に入ったぜ」

 

「凛星にも話してみたんだけど彼女も賛成らしい。まあ、そもそもオレ達には今すぐにでも解決しなきゃいけない問題があるんだけど」

 

「りえちゃんセンコーには世話になったな……」

 

 りえちゃんセンコーとは、今年から転勤になってしまった元デュエル部の顧問である。ちなみに、センコーとは言っているが、旭飛はりえちゃんセンコーこと本名柏木理恵子(かしわぎリエコ)を普通に先生として尊敬している。

 

 そう。顧問は現状不在というのは、文字通りこのデュエル部に顧問が存在していないということなのである。

 部の存続に必要な部員が五人以上であるのに対して先述の通り現在の部員は三人、顧問は不在。

 その上、旭飛がとある理由から起こした問題によって休学したことで、ただでさえ肩身が狭かったデュエル部は存続の危機に立たされていた。

 

「事情は分かるけど、凛星が口添えしてくれなかったら退学だったかもしれないんだからな?」

 

「わーってるって、もう二度とあんなことはしねえよ。凛星やお前にも迷惑掛けちまったしな」

 

 そういう彼女は心底過去の己を後悔しているらしかった。

 無断での勧誘もあって昨日はかなり気が立っていたようだが、黒江とのデュエルを経て良い方向に向かったらしい。織奈は黒江への感謝が尽きなかった。

 

「それで、どうすんだよ。アテはあるのか?」

 

「あー、まあ、それについては実はもう解決してるんだけどね」

 

「はぁ?」

 

「先生、入ってきてください」

 

 織奈が閉まった扉に向けて呼び掛けると、部費の問題で修復できておらず立て付けの悪いまま放置されている扉がガラガラと音を響かせて開いた。

 

 入ってきたのは、丸眼鏡を掛けたノッポの優男。

 ニコニコとしていてとても温厚だが、悪く言えばとても頼りなさそうに見えた。

 

「誰だよ、そのヒョロっちいヤツ」

 

「ちょ、旭飛っ、いきなり口が悪いって!」

 

「大丈夫だよ、進藤さん」

 

 いきなり噛み付いた旭飛を諌めようとする織奈を止めた青年は、穏やかな笑みを浮かべると口を開く。

 

「私は一条灯護(いちじょうトウゴ)、このデュエル部の新顧問です。よろしくね」

 

 

 デュエル部は今、再起に向けて動き出そうとしていた。

 

 

 To be continued.

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