遊戯王 ―― strayeD girls ――   作:James Baldwin

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 いきなり違うデッキを使うことになる主人公がいるらしい。
 ちなみに、読者キャラは次回くらいからゾロゾロ出てくると思います。序盤は世界観の説明や肉付け回が主なので。


カードショップ・Players

 入学式から早一週間近くが経った日曜日。

 白袮は少し早めのブランチ(朝昼兼ねたご飯)を食べると、近くでデュエルモンスターズの店舗大会があるからと言って出掛けていった。特に予定も無くそれを見送った黒江は、リビングのソファーに座って何となしに自らのデッキを眺めているのであった。

 

「……どうしたものかしら」

 

 黒江はどのようにして姉から押し付けられた課題と試練を回避しようか考えていた。

 正直な話、彼女にはそれらが無理難題に思えて仕方が無かったのだ。というか、そもそもデュエルモンスターズを続けていられる気がしなかった。

 後、最近顔を合わせる度にデュエルモンスターズ部に勧誘してくる進藤織奈が煩わしいのでそれもどうにかしなければならなかった。

 

『────諦めて、お姉ちゃんや白袮ちゃんが悲しんでも良いの?』

 

「そんなわけないでしょ」

 

 あーでもこうでもないと、無言でカードを眺めながら思考を回していると、誰もいないはずのリビングに鈴の音のような可憐な声が響いた。

 

 黒江は嫌そうな顔をしながらソファー越しに振り向く。

 

「貴女は出てこないでって言ったわよね?」

 

『えー、カードの中(・・・・・)って狭いし動けないしで嫌なんだけど』

 

 そこにふよふよと浮かんで居たのは、可愛らしいフリルが配われたドレスに身を包んだ少女。

 その正体は、黒江のデッキにおけるキーカードである【De:Monstar-サナ】のカードの精霊(・・)だ。

 

 黒江自身、いるだろうとは思っていた。

 だが、それと同時に黒江は彼女には出てきて欲しく無かったのだ。

 何故なら、人型のモンスターは灰都の【ガーリー・フェアリー アミティ】のようなタイプと違ってしっかりとした自我を持ち、ちゃんと自分の思ったことを発言する。つまり、うるさいのだ。

 

 というか、彼女だけでなく【De:Monstar】系統のモンスターには全員出てきて欲しくない。

 なんというべきか、違うゲームの用語で言えばSAN値が削られるような思いをするのである。比較的マシそうな羊の【De:Monstar-アリエス】でさえ、その宇宙柄の体毛を直視出来なかった程だ。

 

「白袮の前で出てこないのだけは褒めてあげるけれど、それならせめて、もう少し出てくる頻度を抑えてくれないかしら?」

 

『ええー、精霊虐待反対! 精霊にも人権を! 精霊保護省に訴え出てやる!』

 

 この程度が虐待なものか。そもそも、精霊保護省とはなんなのか。

 黒江は喧しくなった彼女に辟易としながらカードをテーブルに置いた。

 

 彼女は、初めて【De:Monstar】デッキを使って天元寺旭飛とデュエルした日の夜、妙な夢を見た後から時折こうして出現するようになった。

 

 それだけなら黒江自身デュエルモンスターズの精霊という存在に慣れているだけあってまだ良かったのだが、問題はその頻度である。

 灰都の使う【ガーリー】デッキのモンスターはこちらが呼ばなければ、多くとも一ヶ月に一回程度しか自発的に出てくることは無い。多くとも、である。それに対して、このサナは必ず一日に一回以上、周りに黒江以外が居なければずっとカードから出ていることもざらにある。

 これはおかしい。そう思って姉に相談しても、姉は「懐かれているんだよ! カードでもお友達ができてよかったね!」と嬉しそうに言った。違う、そうじゃない。

 

 何にせよ、ただでさえ頭の痛くなるような問題が山積みなのに、さらにこの煩い精霊が付き纏ってくるのだ。

 

「……はぁ。ちょっと出掛けるわ」

 

『どこ行くの?』

 

「どこだって良いでしょ」

 

 黒江はさっさと支度をすると、サナから逃げるようにして我が家を後にした。

 

 

 □

 

 

「お、黒江!」

 

「天元寺先輩?」

 

 行く宛てもなく街を歩いていると、唐突に声を掛けられる。

 知っている声に振り返れば、そこに居たのは私服姿の天元寺旭飛。白シャツに黒のジャケット、ジーパンというカジュアルな格好だが、綺麗な顔立ちや高身長も相まって普段のスケバンはなりを潜め、麗人という言葉がよく似合う装いである。その腰元にはデッキの姿。

 

「先輩は今日もデュエルかしら?」

 

「おう。ちょっと近場のデュエル大会にな。お前は……デッキも無いし違うみてえだけど、なんか用事か?」

 

「ええ、まあ、そんなところよ」

 

 きっとデュエルを挑まれるに違いないから、デッキを持ってこなくてよかった。

 黒江の中でのデュエリスト像は、基本的にジャンキーである。身内なら挨拶代わりにデュエル、違くとも場合によっては会・即・デュエルな空気感がある。

 

「何時からの大会に出るのかしら?」

 

「あ? 一時からのヤツだな。あと三十分もすれば始まるだろうよ」

 

「一時からの……もしかしたら、私の妹と戦うことになるかもしれないわね」

 

 白袮もまた一時からの大会に出ると言っていた。旭飛と何回か戦ったことがあるという白袮の弁から、恐らくは二人が出没する店舗は似通っているのだろう。ならば、彼女が白袮と同じ大会に出る可能性は高いと踏んだ。

 

「妹がいんのか?」

 

「ええ、白髪に赤い目の子よ。貴女と戦ったことがあるって言ってたわ」

 

「白髪に赤目の……あー! DWC春チャンプの妹か! アイツの【教導(ドラグマ)】は強えから覚えてるぜ」

 

 そういう認識なのね、と姉の偉大さを思い知ったのも束の間、そこで旭飛が得心が行ったという風に頷いているのに気がつく。

 

「なるほどなぁ。アイツの姉ってことは、お前も春チャンプの妹ってわけだ。道理で初心者のくせにアタシに勝てたんだな」

 

「まあ、姉さんや白袮は確かに強いけど、私は路傍の石未満よ。だから、私が強いなんて思うのはやめて」

 

「流石に路傍の石未満は言い過ぎじゃねえか?」

 

 強いなんて思われたら、これから先、また彼女にデュエルを挑まれるかもしれない。それだけは避けたい一心で姉妹を持ち上げて、自分を卑下し始める黒江であった。

 

「っし、着いたぜ」

 

「え?」

 

「お前も妹を応援しに来たんだろ?」

 

 いつの間にか黒江が辿り着いていたのは、中規模なカードショップ『Players』の店前であった。

 

 黒江は騙された気分になった。

 

 

 □

 

 

 店内は繁盛していた。もう少し閑散としたものを想像していた黒江であったが、これには顔に出さずとも内心で驚く。

 もっとも、それに驚くのはデュエルモンスターズに関して何も知らない黒江くらいのものだろうが。

 

 この時代におけるカードショップとは、ゲームショップや本屋を兼ねていた頃とは違い、デュエルモンスターズのみを扱っている店がほとんどだ。

 公式から販売されている五枚150Cのパックや、50C均一でカード単体を取り扱っている。また、下のレアリティなら一枚50Cであるところを、シークレットレアやプリズマティックシークレットレアといった高レアリティ故に中には1万や10万Cを超える高値で取引されるカードも展示、販売されている。

 どうせ効果は同じで50Cで買えるのだから態々そんなに高価な物を買わなくてもと黒江は思うのだが、白袮曰く、コレクターやお金に余裕があって自分のデッキを特別なものにしたいデュエリストにとっては一定以上の需要があるものらしい。

 

「あ、黒姉! それに、天元寺旭飛!」

 

 店に入るなり、カードのストレージを物色していた白袮が二人に気がついて声を上げる。

 

「おい、お前。アタシは一応先輩だぞ?」

 

「ふーんだ。黒姉の初めてを奪った天元寺旭飛なんて尊敬に値しないよ!」

 

「ちょっと、白袮?」

 

 白袮の爆弾発言に店内が凍り付く。

 いつもは無表情無感動な黒江であっても、これには若干、本当に若干であるが顔を赤らめざるをえない。

 流石に今の発言は先輩に対しても失礼だったなと、妹の代わりに謝ろうと旭飛の方を見遣って黒江は固まった。

 

「お、おままま……!? なんてこと言いやがるんだ!? ア、アタシが黒江の初めてだなんてそんなななな!?」

 

 あー、この人、こういう話は苦手なんだな。

 黒江は旭飛の初さが一周回ってとても可愛く見えた。

 

「妹がごめんなさい、天元寺先輩」

 

「……わ、悪い。アタシも取り乱し過ぎた」

 

 バツが悪そうに目を逸らす旭飛。

 黒江の中での旭飛の印象は、スケバンだけど見た目に反してまともな先輩から、なんか可愛い先輩にランクアップした。もしかしたらランクダウンかもしれない。

 

 入口で茶番を繰り広げるのもアレだった為、デュエルスペースの一角にあるテーブルデュエル用のテーブルに場所を移した三人。少し離れた区画ではこの後の大会に向けてかリアル・ソリッド・ビジョンを用いるデュエルスペースでデュエルを行っているデュエリストの姿も見受けられる。

 購入したカードをあーでもないこうでもないと広げて思案する白袮を他所に、旭飛は口を開く。

 

「時々こうして来ると、将来有望そうなヤツとか、全く知らねえ強いヤツがいてよ。お前の妹もそんな感じだった」

 

「そうなの。やっぱり白袮は強かったかしら?」

 

「おう。最初は【ガーリー】デッキを使ってたが、春チャンプと戦ってるみたいな気迫だったぜ」

 

 恐らく、その頃は灰都に憧れて魔法少女チックなコスプレに身を纏っていた頃だ。その時の話をすると白袮は怒るので口に出さないが、やはりデッキも姉と同じ【ガーリー】を使っていた。

 

「でもまあ、今の【教導】の方がコイツには合ってると思うぜ」

 

「でも、天元寺旭飛の方が今はまだ私より強いよ。決勝で当たったらいっつも負けちゃうし」

 

「お前のEX潰し戦術もめちゃくちゃ厄介だけど、アタシと【悪姫】の方がまだ上手だな。あとフルネームで呼ぶな」

 

「まあ、天元寺旭飛よりも黒姉の方が強いけどね」

 

 どうやら白袮からの旭飛の呼び方はフルネームで固定らしい。

 それよりも、黒江には聞き捨てならない言葉があった。

 もしも今の文言をこの場にいるデュエリスト達に聞かれたら、天元寺旭飛を討ったルーキーとしてデュエルを挑まれると思ったからだ。

 

「だから、私なんて節分の豆のカス以下よ。デュエリストとしてもちあげるのはやめて」

 

「もー。黒姉、変に自分を下げ過ぎだよ。もっと誇って良いのに」

 

「そうだぞ。多少油断していたとはいえ、アタシに勝ったんだからな」

 

「ちょっと、二人ともそこまでにして」

 

 黒江は気が気でなかった。

 そして、案の定、黒江が恐れていた事態が怒る。

 

「誰が旭飛に勝ったって?」

 

「あ、姐さん」

 

「店長さん!」

 

「おー、白袮ちゃんは今日も可愛いねえ!」

 

 盛り上がる黒江達の間に割り込むようにして、新たな人物が現れる。

 旭飛からは姐さん、そして白袮からは店長と呼ばれたその人物は、どこか気が強そうな三十路過ぎくらいの女性であった。

 彼女はワシワシと白袮の頭を撫でると、黒江の方を胡乱げに見た。

 

「それで? アンタがウチの看板娘の旭飛に勝ったってのかい?」

 

「……いえ、あれはマグレであって」

 

「旭飛とのデュエルでまぐれ勝ちなんて出来るやつはそうそういないよ。それはアンタの実力さね」

 

 なんとなく旭飛に似ている性格の持ち主であることは分かった。

 

 分かったが、それと同時に黒江の脳裏で警鐘が鳴り響く。

 度々齎される姉からの理不尽的な注文の数々、黒江はそれらをこなして行く内に嫌な予感に敏感になっていた。ちなみに、回避率はゼロパーセントである。

 

「そうだとしても」

 

「なら話は早いね。アンタ、今日の大会に出な。登録しておくから」

 

「……」

 

 黒江は絶句した。

 またしても回避できなかった。それも、姉どころか今日が初対面の人物に対してである。

 

「アンタ、名前は?」

 

「……遊佐黒江よ」

 

「なんだい、白袮ちゃんの姉なら初めからそう言いな。じゃあ黒江、期待してるよ」

 

 黒江は去り行く店長の背中を見ながら、そう言えばデッキを持ってきていないことに気が付く。

 デュエルにはもちろんデッキが必要だが、無いものは無い。これなら回避出来るかもしれない。一筋の光を見出した矢先、

 

「黒姉、デッキを持ってきて無いみたいだから、このデッキを貸してあげるね」

 

「……白袮」

 

 それは他ならぬ妹によって掻き消される。

 渡されたデッキを見ながら、黒江は悲嘆に昏れるのであった。

 

 

 To be continued.

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