魔を統べる少年と南瓜を裂く鋏   作:マロニー

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プロローグ

「……3人、殺したぜ。

銃のマトに女を二人、野郎を一人…」

 

 

「…くくく…でも…でもな……」

 

 

「…お前ほど殺しちゃいねェよ……!」

 

 

 

…殺せ。

殺せ、殺せ!殺せ!

 

滲むだけ。どこか不自由で漠然とした声がこの日以来。明確ななにかに変わった気がする。いつも夢にしか出てこない『手』が、現実にまで出てきたのもこの時だった。

 

 

夢の中の手。

ああ、そうだ。

誰にも話さないで済むのならば。

この「夢の続き」は絶対に、誰にも知られたく、無い。

 

この夢のこれを、今も殺してる俺の姿を。

なんども、なんども。

 

 

殺せ。殺したくない?

何を今更言ってンだよ。

そんな声が聞こえる。誰の声だ?俺の声だ。

 

 

『……ひっ…』

 

 

びくりと肩が震える。

その声は、俺の声でも、『俺』の声でもない。少佐の声でも、三課のみんなの声でも。

 

小さな女の子の声。ウルスラ?違う。

夢の中でそっちを向いた。

 

 

 

そこには金色の髪の、少女がいる。眼は夜空のように黒く神秘的で、なんだか人間じゃないようにも見えた。

 

 

『…えっと…』

 

 

その女の子は、少しぎこちなくこっちに手を振るった。俺はそれに、何もできないまま固まる。少女の方に向かおうとした瞬間、びくりと少女は驚いてしまった。

 

ああ確かに銃を持ち、血塗れで手に纏わりつかれてる俺に向き直られれば誰だって怖いだろう。少女はそれらを誤魔化すように、少しぎこちない動きでダンスをしていた。だがそれに対して何も反応をしない俺をみて、すすすと途中でやめてしまう。

 

 

『…お邪魔しました…』

 

 

 

待ってくれ。

そう手が伸びたのは反射だったと思う。

何かがおかしい自分の夢に。

もう殺す事しか脳に無い自分に、まだほんの少しだけ少女のような安らぎが残っているのかもしれないという希望に、手を伸ばした。

 

 

『…キャッ…!』

 

 

瞬間、夢見の姿はぐにゃりと姿を歪める。足元から揺らぐような感覚。少女の姿が、馬のような化け物の姿に変わっていく。変化して行くそれに、それでも驚く事はできなかった。どちらかというと、ああ、やっぱりそうなのかという諦めに近い感情が大きかった。

 

 

 

『…怖いよ…!やめて…!』

 

 

化け物の声は、それでも少女のまま。

掴んだ手はそのまま、離れない。他人事のように、他の行動を見かけているかのようにその手を離すことが出来ない。

 

 

『…離して…!』

 

 

ぐお。足の下で静かにその音がなった気がする。

そっちを見る暇も無く、渦みたいに、今の夢がなくなって行く。手がそれに吸い取られていく。身体中が千切られるようにその渦に飲み込まれいくのを感じる。

 

どこかで『俺』の声が、唖然としているようにすら感じた。

殺すことを命ずることすら忘れて、ただ呆然と。

 

 

これは、なんなんだ?

俺はなんの夢を見ているんだ?

殺人に従事している俺の脳みそは、別の方向についにおかしくなってしまったのだろうか。違うんじゃないのか、これは。

 

なんなんだろう。

この、女の子は…

 

 

…片方の手に残るドアノッカーだけが、俺の感覚に残ったまま、夢の中で更に意識を失っていく。

夢の中。無意識の中で、更に意識を失う。

…父さんから聞いたことがある。

そんな風にして、二度と目覚めなかった人がいるってこと。

そのまま、眠るように息をしなくなった人の事を。

 

じゃあ、このまま俺は死ぬのか。

俺はこのまま、死体になっちまうんだろうか。

 

 

 

…嫌だ…

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

軍団、メギド72。そのアジトには今日も、ハルマゲドンを止め、戦う為の有志達が羽を伸ばしつつ、そしてその牙を研いでいる。

 

そしてその憩いの場の一つであるソファーベッドの前に、立ち尽くしている人影が二つある。

 

 

 

「……うぅ…!」

 

 

「…こうやって、ずっと呻いているのよ。

起こした方がいいのかしら?」

 

 

ソファーベッドの上には、金髪の少女が横たわっている。その少女…リリムが、ずっとこの調子であるのだ。

 

夢見の少女、リリムが眠っている。

それ自体は良くある事だ。『夢見の者』としての責務を果たしている時にも眠るし、普段にも良く眠る。彼女は夢の世界が好きだからだ。

 

だから基本いつも、彼女の寝顔は安らかである。のだが、今日は違う。悪夢を見て憂鬱そうな姿は良く見るが、それにしても今日は珍しい。

 

軍団の内の一人、アミーが心配そうに、通りがかった少年に声をかける。その様子を見て、紋紋の少年…この軍団の長、ソロモンはまた心配そうに首を捻る。

 

 

「うーん…出来れば起こしてあげたいんだけど…夢見の何かをしてる所に邪魔をしちゃっても悪いし」

 

「…何より、起こしたらそのまま戻ってこれなくなるとか無いかが不安だな」

 

 

「そうなのよねー…アガリアレプトとかが居れば少しは詳しいかもしれないんだけど」

 

 

「召喚して呼ぶほどでも無いしなあ…」

 

 

 

…少年、ソロモン王の指には、仰々しく大きな指輪が5つ嵌められている。

 

それは、ソロモンの指輪。世を作るフォトンを操り、魔を統べる少年が王であるという証座であり、彼らが身を投じている勝算そのもの。

 

彼はその指輪で、彼の世界の遥けき強者たち、『メギド』を使役するのだ。

 

その指輪があれば、一度彼の召喚に応じたメギドを呼び出すことが出来る。あちら側の許可なども必要だが、距離も状態も殆ど関係なくだ。

 

そのような強力な指輪が、少年の指には嵌っているのだ。

 

 

そう、何をするでもなくに腕を組み悩んでいる時の事だった。

…突如として、そんなソロモンの指輪が、けたたましい光を放ち始めたのは。

 

 

「ッ!?な…なんだ!?

急に指輪が…再召喚…でもない!」

 

 

ソロモンは動転しながら、周りを見渡す。

誰かが再召喚(リジェネレイト)するような兆候でもない。メギド達が何かをする、という事でも無いように感じた。アミーは先ほど用事があると去ってしまった。今ここにいるのは、ソロモンだけだ。

 

 

ソロモンの目が、また驚愕に怯える。

それは、リリムの身体の周りを見て。

 

 

「……なんだ…!?

この、フォトンの量!」

 

 

 

ソロモン達の住まうこの世界、ヴァイガルドが持つ世界のエネルギー、フォトン。

幻獣はそれを求め人々を食い荒らす。そのような、ありふれてありながら貴重なもの。

 

それが今、大量にこの場に現れている。

まるでハンマーを落としたら突然にゴールドオイルが湧き出てきたかのように、あまりにも突飛で、不自然に。

 

 

「!」

 

 

ソロモンがまず危惧したのは、まずフォトンバースト現象。フォトンの過剰摂取による、ヴィータ体の爆散。それを狙ったメギドラルの策略なのではないかと。

 

それだけは、ダメだ。

だからソロモンはその指輪をフォトン溜まりに向ける。少なくとも発散してしまわなくては。どこかに送る。誰かを召喚する。どうする?誰を?考えてる暇はないかもしれない。

 

 

 

(…嫌だ…)

 

 

「…え?」

 

 

(…嫌だ…俺はまだ…死にたくない…!)

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

何の声であるかはわからなかった。

どこからの声かも、不明。

それでもソロモンは、その声を聞いて、ギリと歯を食いしばった。

 

フォトンを集め、形を作り上げていく。

何の形かはわからない。だけれど。

 

 

 

「……来てくれッ!」

 

 

 

どこの、誰に呼びかけたのか。

ソロモン自身にもわからない。

だがそれでも。それだからこそ。

 

 

光が止んだ。

 

 

 

「……なんなの?騒々しいんだけど」

 

 

一連の光と音、それらにアジトに居たメギド達がなんだなんだと顔を見せてくる。

その中でも近しい場所にいたのだろう。ウェパルが一人こちらに、不機嫌を露わに聞きにくる。

 

そしてその不機嫌は、途端に困惑に変わる。

 

 

「……誰?これ」

 

 

ウェパルが指差す先、そこには。

 

 

「うーん…俺も聞きたい、かな」

 

 

「…は?」

 

 

 

……顔に痛々しい傷がいくつも付き、何より、非常に身体の大きい男。

 

傷だらけの、男が横たわっていた。

 

 

 

 

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