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まだ学生だった頃、どこぞの上流階級のパーティーに参加したことがある。
経緯はよく覚えていないが、親父の上司の知り合いのそのまた知り合いの取引先の…まあ、とにかく名家のお嬢様の誕生日のお祝いだったと思う。
何故ほぼ関係ない親父や俺が参加することになったかは、未だによく分からないが…まあ何かしらあったんだろう、多分。
ともかく当時の俺は、自分には一生縁が無いと思われた豪邸の中庭の隅の方で縮こまっていた。
見るからに上流オーラ全開の方々が優雅に歓談する立食パーティーは、ごく普通の一般家庭出身の自分にはなかなか居心地が悪い。
「──おい、そこのおまえ」
可能な限り大人しく気配を消して、早く終わんないかなー、なんて思っていると幼女…もといこのパーティーの主役である幼ウマ娘が目の前に立っていた。
艶やかな鹿毛の長髪に、三日月のような見事な流星。幼い顔立ちは驚くほど整っており、将来はさぞ美人さんに育つことだろう。
「とくべつにこのこーてーのけらいにしてやる!こうえいにおもうがいい!」
背筋をピンと伸ばした堂々とした立ち姿に、アメジストのようなパッチリお目々をこちらに向けてドヤ顔でそう言い放つその様に、小さなライオンみたいだなと何とも間の抜けた考えが頭に浮かぶ。
「じゃあまずはおんぶしろ!そのあとはあっちのテーブルにいくぞ!ジュースとおかしをくれてやる!こーてーはけらいにごほうびをあげないといけないんだ!」
俺の何が彼女の琴線に触れたのかは知らないが、既に家来になるのは確定事項らしい。小さいがとんだ暴君であった。
尤も、相手は遥か彼方の超上流階級である。革命を起こす気にもなれず、気恥ずかしく思いながらも自称皇帝の勅命に従い彼女をおぶる。
小さな皇帝とその家来を見る周囲からの視線は、微笑ましい物を見るような何とも生暖かいものであった。誰か止めてください。
内心の祈りは誰にも届かず、そこからさんざん皇帝を自称する小さなライオンに言われるがままに付き合わされた。ウマ娘とはいえ、やはり子供の体力は凄まじい。
一緒にお菓子やケーキを食べ、屋敷の中を探険し、抱っこにおんぶに肩車…今は俺の膝の上に座り、満足そうにニコニコしながらジュースを飲んでいるところである。
つい、綺麗な髪を優しく撫でると、びっくりしたようにウマ耳がピクリと反応するが、直ぐ嬉しそうにピコピコし始めた。可愛い。
「おい、けらい!おまえはこのこーてーのものだからな!ほかのやつのになるんじゃないぞ!あともっとなでろ!」
こちらを見上げ、満面の笑みでそう言う小さなライオンに、俺は「はいはい…」と返事をしながら頭を撫で続けた。
そんな時間にも終わりが来る。パーティーの締めの挨拶の後、あとは帰るだけとなった時に小さなライオンは盛大にぐずりだした。
「いっちゃダメ!こーてーのけらいだもん!けらいはずっといっしょ!おわかれするのやだぁ…」
アメジストのような瞳に大粒の涙を浮かべて俺の脚にすがり付く。子供とはいえ流石にウマ娘の力で締め上げられると結構痛い。
嗚咽を洩らしヤダヤダと駄々をこねる小さな自称皇帝を抱き上げ、落ち着くまで優しく頭や背中を撫でてやることにした。
疲れて眠った小さなライオンを彼女の執事に引き渡し、親父と共に屋敷を後にした。
結局、別れの挨拶も出来なかったが、あの娘は元気にしているだろうか?
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そんなことを、隣で我が子を抱いてあやす愛する妻の姿を見て思い出した。
慈愛に満ちた眼差しで我が子を見る彼女の美しい鹿毛の長髪を撫でると、驚いたようにウマ耳が小さく反応し、直ぐ嬉しそうにピコピコし始めた。可愛い。
頭を撫でられ、気持ち良さげに目を細める妻をそっと抱き寄せる。
あの小さなライオンの家来は、今はこの皇帝陛下の物になった。
そのことに多少の罪悪感を覚えるが、そもそもあの娘も小さかったし記憶に無いだろう。
そういえば妻も超上流階級の出であるし、顔立ちもあの小さなライオンに似ている気がする。
あの娘やパーティーを開いた名家の名前は忘れてしまったが、もしかしたらシンボリ家に所縁があるのかもしれない。それならそのうち再会することもあるだろう。
スヤスヤと妻の胸で眠る我が子の頬を撫で、上目遣いでこちらに甘える妻と軽い口付けを交わした。互いへの愛を囁いて、見つめ合ってクスクス笑う。
「トレーナー君。私は今、とても幸せだ。以前にも言ったが、君を手離すつもりは毛頭ないのでね。だから──今度こそ“ずっといっしょ”だ」
…………ん?